11 目が死んでいたかもしれない
対処が遅かったからか、結局気絶し倒れてしまったミズキが医務室に運ばれた後、この魔法訓練の授業は中止された。当然だと思う。
私はというと、着替え終わったら職員室へ来るように言われて職員室へ向かうと、危険なことはしないよう叱られてしまった。私がもし、先生の立場ならそうするし納得の対応だ。
私が公爵令嬢だからか、そんなに長引くことはなかったのが不幸中の幸いだと思う。それでも1時間目の残りの時間を使われたのだけれど。
「エリエル様、ご無事で何よりでございます」
「エリエル様に危険が及ぶ可能性があったにも関わらず、駆け付けることが出来なかったこと、この身をもってお詫び致します」
うん。申し訳ないけど、重いかな。
エリエルの側近であるサリアとタリアは、授業が終わってから教室に向かうこの道中もずっとこの調子だ。
どうしたものだろうか。
2人を宥めながら歩いていると、教室が見えてくる。
「エリエル、少し良いかな」
教室の扉を開けるとそこにはルドア王子が立っていた。
ルドア王子の側近であるカイルも、にっこりしながらさり気なく教室へ入れないような場所で待っている。悲鳴を呑み込んだ私を誰か褒めて欲しい。
何となく、悪役令嬢の立場としてこの2人に笑顔で近付かれると恐ろしいものを感じるのだけれど。そういう爽やかスマイルはヒロインであるミズキに向けて欲しい。私にはいらない。出来れば王子を見て頬を染めるヒロインとのやり取りを、空気になって見ていたい。
と、そうじゃなかった。
「えぇ。大丈夫ですが、如何なさ」
私の言葉を遮るように鐘が鳴った。2時間目の授業を開始する合図だろう。先程の事件があったせいか、まだ先生は来ていないけれど。
「授業が始まってしまったな。では、この授業が終わった後、昼食でも取りながら、少し話が出来るだろうか」
「も、勿論ですわ」
「ありがとう。では」
王子は笑顔を崩すことなく振り返り、教室の席に着席した。
どういった内容の話なのかを聞きそびれたことに気が付く。
今日はどうやらツイていない。いや、色々ありすぎて疲れているだけなのかも。
とにかく、扉の前でうだうだ考えても意味はない。
サリアとタリアに促され、いつもの後ろの席へと座る。
遅れて入ってきた算術の先生が、挨拶もそこそこに授業を始めた。中学生レベルの内容なので、右から左へと聞き流す。
倒れたヒロインや、この後に待つ王子との対談。そして、未だに分からない私自身の名前……そして、エリエル・マーリアノルトの今までの記憶。
「大丈夫かな……」
私の小さな呟きは窓から入ってきた、まだ冷たさの残る風にさらわれ消えた。




