10 魔法の暴走はテンプレだよね
私達水属性の魔法が使える者は、先生と同じウォーターボールを作り出すことになった。
2人1組の計4組に分かれて、1人が実践、もう1人は、きちんとウォーターボールが出来ているか、また、魔法が暴走しそうになっていないかを見ておくらしい。
私のパートナーに選ばれたのは、まさかの、ルドア王子の側近だった。名前はカイル・フレンディット。癖のないサラッとしたかなり白寄りの銀髪に、オレンジの瞳が特徴。当然、今回の授業のパートナーなので、私と同じ水属性の魔法が使える。
「ルドア殿下ではございませんが、よろしく御願い致します」
「え、えぇ。よろしく御願い致しますわ。フレンディット様」
何故だろう。貼り付けたような完璧すぎる笑顔が怖いよフレンディット君。ナチュラルに嫌味を挨拶より先に入れてこなかったか?
ゲームでは、ルドア王子ルートでヒロインのお助け役としてちらっと登場しただけで、彼自身の情報はほぼ未知である。
日本に居た頃の印象は、ゲームでは常に完璧な笑顔でヒロインとルドア王子の仲が上手くいくようとりなし、とても優しく紳士的。二次創作でも色々な女の子とくっつけられる人気者だった。勿論私も大好きでしたよ。カイル×ヒロインや、令嬢×カイルとかね。
でも、実際に会うと怖い。なんだろう、ルドア王子と一緒に居るときには感じない圧を感じる。タリアとサリアと3人で居るときにも感じたことはないから、2人だけで対面すると圧を発する能力でも持っているのだろうか。
カイルから滲み出るような謎の圧力に怯えながらも、どちらが先にウォーターボールを作るか聞かれると、迷うことなく自分から! と、勢いよく返事をしてしまった。カイルは私の勢いに、少し戸惑いつつも了承してくれる。
「では僭越ながら、私から魔法を行使させていただきますわ」
「えぇ、どうぞ」
「ウォ、ウォーターボール」
魔法を使いたいことに変わりは無いが、羞恥心を捨てきれず、尻すぼみになってしまった。そんな私を表すかのように、ウォーターボールは今にもはじけて消えてしまいそうな程不安定で、小刻みに震えている。
初めて魔法を使ったことや、成功したことに対する喜びと、何となく感じるやっちまったーという気持ちの板挟みで、私は素直に喜べない。三十路女にウォーターボールの言葉はキツいです。
あっ、はじけて消えた。
「マーリアノルト様は、少し緊張してしまったのかもしれませんね。……殿下の婚約者として、この程度が出来ないなど如何なものかとは思いますが」
カイルに、苦笑いでフォローの言葉をかけられ、そして後半に、周りに聞こえない程度の声でディスられた。
聞こえてるからなこんにゃろう。
やっぱりこいつは優しくない気がする。誰だよ紳士的とか言ったの。私か。
きっとあれだ、優しさはヒロイン限定とかいうやつなのだろう。
「次は私の番ですね。あまり自信は無いのですが、精一杯努めさせていただきます」
「期待していますわ」
私も中身は三十路である。ニコニコとした笑顔を心掛けて、自信が無いというカイルへ、悪役令嬢である私なりの応援してあげた。えっ? 別の意味に聞こえる? 気のせいじゃないかな。
「ウォーターボール!」
掌を上に向け、1つ深呼吸をしたカイルが真剣な声で叫ぶ。
くっ、流石イケメン。やっぱり様になるな。とか思ったことは内緒だ。
空気中の水分を吸収するかのように、カイルの手に水が集まっていく。
そして出来たウォーターボールはというと。
「まぁ! 完璧ではありませんか! 揺れることの無い完璧な球体……天才ですか!」
カイルの掌の少し上に、完璧な球体となって浮かんでいた。大きさも先生が作り出したものと同じに見える。
私が作ったものとは違い、表面が揺れることのないきれいな曲線。まん丸なボールの出来上がりである。
少し、いや、かなりテンションが上がってしまい、少し褒めすぎたかもしれない。
「えっ、えぇ。ありがとうございます」
驚いた顔をした後で、カイルは戸惑い気味にと礼を述べてきた。
ウォーターボールを作り出したときよりも、数歩分距離があいた気がする。
失礼な、と思ったその時。
「きゃあっ!」
私達の後ろ、人数と属性の希少性の歓迎でペアになり訓練していたミズキ、ルドア王子の方から叫び声が上がった。
振り返ると、ヒロインであるミズキが、あり得ないほど光り輝いている。これは確か、魔法が暴発する前触れだ。
私よりも先に反応していたカイルが、ルドア王子の元まで駆け寄り庇うように前に立った。
先生達も、土の壁や水の壁を作り出したり、光属性の先生も、バリアみたいなものを張って他の生徒に影響が出ないようにしているようだ。ヒロインの魔力が規格外すぎて、先生といえども他の生徒を守りながらでは、下手に手出しが出来ないらしい。
「ミズキさん! 魔力をこれ以上込めないで! 落ち着いて力を抜きなさい!」
その言葉が聞こえているのかいないのか、涙目のミズキは首を振る。
混乱して、力を抜こうとしても上手くいかないのだ。勝手にどこかへ飛んでいきそうな魔力を、自分の中に抑え込もうとするしか出来ない。すると力を込めてしまい、魔力が更に膨れ上がる。悪循環の出来上がりだ。
魔力が発現して1年にも満たない、今まで自ら使おうと思ったことも無いヒロインにとって、簡単にコントロール出来るようなモノではない。
不安で怖くて、どうしようもない。その気持ちが、更に魔力を増幅させる。
何故分かるかって? だって私はこれをゲームで、モノローグとヒロインの心情付きで見たことがあるからだ。
ゲームでは、もしこの時点で、ルドア王子かジーニア先生の好感度が一定以上であれば、どちらかに助けられる。好感度に達していなければ、魔法が暴発する前に気を失い倒れ込むという場面だ。
ここで分岐ルートに突入できれば、早期特典として限定スチルが付いてくるのだが、今はそれどころじゃないよね。
今にも魔法を暴発させそうなヒロインと、他の生徒を守るために手一杯なジーニア先生。ルドア王子はカイルに邪魔され助けに行けない。
これは気絶ルートまっしぐらか。
放っておいても、ゲーム通りなら恐らく私達に怪我人は出ない。
「くっ……全員、自分を守る壁を作れ!」
この台詞が出たということは、後数秒でヒロインが気絶する筈。
そう分かっていたとしても。
「ウォーターボール! ミズキ! 貴女の真上の水球に向かって、全魔力をぶつけなさい! はやく!」
「は、はい!」
日本人のお人好し、というものが出たのだろうか。
本来なら、ジーニア先生かルドア王子がヒロインを助けるためにやったことの真似をする。
要は、魔力を抑え込むのではなく、大雑把でいいから、人が居ない、被害がない方へと指向性を持たせて発散させればいいのだ。
この世界は飛行機とかないしね。真上つまりは空に向かって放つのが1番安全なのだ。……鳥が居たら迷惑したかもしれないけれど。聖属性の魔法だから、当たって怪我をしたとしても、同時に傷が癒えると思うよ。
意識を失えば魔力が自然と霧散するらしいが、怯えた女の子を気絶するまで放っておくことは、どうやら私には出来なかったらしい。
「で、出来ま、し……た……」
何とか体内の魔力を放出し終えたらしいミズキが地面に倒れ伏す。
慌てて駆け寄った先生達により、ミズキは医務室へと運ばれたのであった。




