双子と冬
ーーカタ、カタ
仄かに冷たい風が部屋の窓を叩く。空は絶えず流れる薄雲に覆われて、それにふんわりと日の光が滲んでいる。美しく染まった葉がひゅるりひゅるりと音を立てて家の周りを舞う。
眩しげに目を細めて外の風景をアリアは見る。その手には2本の棒が握られており、そこからえんじ色が伸びている。また、白で少し歪に『R』と施されたそれは、アリアの膝の上で落ち着いていた。しばらくするとアリアは窓の外から目を外し、再び自分の手元へと集中した。
「ーー出来た」
アリアはその完成品ーーーマフラーを頭より高く掲げて満足気に微笑んだ。少々不恰好だが初めてだったからこんなものだろう。そう納得してそれを丁寧に畳むと、机の上に置いてあった同じ色をした別のそれと一緒に、引き出しの中の青いブレスレットの隣へと仕舞った。
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ルーフスとウィオラは双子の兄弟だ。
このことは彼らが獣人であると知ってから分かったことだった。
二人とも寸分の狂いもなく全く同じ顔立ちをしており、端正な造りをしているため将来有望である。柔らかい黒髪と小さな身体でシルエットもぴったりと一致し、ソプラノの声もほぼ一緒だ。
唯一違いを挙げるとすれば、目の色くらいであろう。事実、二人の見分けがつくのはアリアだけでアマンダはさっぱり分かっていないらしい。しかし二人は気にした風ではなく、むしろどうでも良いといった感じだった。
ーードタドタドタ、、バンッ
「アリアー!ただいまー!」
「ただいま」
二人はぷっくりとした頬をほんのり朱色にしながら、アリアに満面の笑みを向けた。服にはところどころ枯れ葉がつき、外の匂いが染み付いている。そして、その首にはマフラーが巻かれていた。
「おかえり。二人とも頬っぺたが赤いけど外は寒かった?」
「うん。少し」
「アリア、あっためてー!」
そう言ってウィオラはアリアにぴっとりとくっつき、その腰に腕を回す。ひんやりとしたウィオラの身体に手を伸ばしてぎゅっとする。ウィオラは少しくすぐったそうにしながらクスクスと笑って力を強めた。視線を感じて見ると、ルーフスが不貞腐れたように口を尖らせる。
それはデジャヴ。
「ルーも」
アリアの言葉でルーフスもそれに加わって、それで三人で体温を分け合っていつまでも、いつまでも一緒にーーー
「ーーア、ーアーー、ーリア、ーーアリア!」
「…………へっ?」
「アリア!おはよう!」
「もうすぐご飯、出来るって」
自分の顔を覗き込んでいる二人の顔が目に入る。ほんの少しだけ身体がだるい。窓の外からはオレンジ色の光が射している。
どうやら自分は寝てしまっていたようだった。
「アリアー早く行こーよー」
「お腹減った」
笑いながら私の手を引くウィオラと服の端を引っ張るルーフスはとっても可愛い。目に夕日を反射させ、キラキラと光らせている。本当に素敵だ。
「ちょっと待って」
アリアはそう言って引き出しを開けた。ウィオラたちは「何何ー?」と頭を傾げてアリアを見る。マフラーを取り出すと、白文字をしっかり確認して二人の首に優しく巻いた。
「マフラーだよ、二人に。これからもっと寒くなるからね」
あんまり上手に作れなかったけど、とアリアがおどけて言うと二人は少しだけ目を丸くして固まっていたが、段々顔がゆるゆると崩れていき、そしてアリアに飛び付いた。
「ありがとう!ありがとう、アリア!大好き!!」
「……ありがとう。大事にする」
「うん、どういたしまして」
アリアが頭を撫でると二人は目を細めた。
その後、三人でリビングに行くとちょっと浮かれた二人を見てアマンダが「これなら、見分けがつくねぇ」と言ってにやりとした。
二人のマフラーにはそれぞれ、ルーフスの『R』とウィオラの『V』が編み込まれていた。
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「いつもありがとう。本当に助かるわ」
「そう言ってくださるととっても嬉しいです」
アリアがそう返事をすると女性は「じゃあ、気を付けて帰ってね」とにっこり笑ってゆっくりと家の戸を閉めた。
(…ふぅ、やっと終わったわ)
アリアはアマンダが作ったリストを見ながら、一つ息を吐いた。
アマンダは、この辺りでたった一人の医者だ。よってマルザス村の人々は皆、彼女に身体を診てもらう。しかしアリアの家もといアマンダの診療所は村の外れにあるため、足の悪い老人や重病人は彼女の元に行くことができない。そこで、何ヶ月かに一回のペースで定期的にアマンダ自身が集落へと赴いて彼らの診察をするのだ。
今日はその下準備として、アリアが問診票の回収にあたっている。
(全部集めたし、早く帰ろう)
アリアは太陽を背にして歩き出した。
輝く太陽とは裏腹に冷たい空気が肌を刺す。秋も鳴りを潜めて冬が顔を出してきた今日この頃。首を縮こめながら、アリアは足を早めた。
「アリア!」
帰路を急ぐアリアの視界に、いつも一緒の小さな二つの黒い影が見えた。それが分かっただけで、アリアは自分の頬が緩むのを感じた。そして、さらに歩く速度を上げた。
「おかえり!」
「おかえり」
「ただいま!」
顔がしっかり確認出来るところまで来るとウィオラが一番にアリアの胸に飛び込んで、ルーフスが後から少し照れたように身を寄せた。二人の首にはえんじが巻かれている。
「ありがとう!迎えに来てくれたのね。ちょっとびっくりしちゃった」
「どうってことないよ!ルーフスと迎えに行こうって決めてたんだ!」
そうウィオラが言うと、ルーフスは顔を背ける。頬っぺは真っ赤だった。
ほら、こんなに違う。
アリアは思う。
祖母に二人の見分けがつかないと言われた時から、アリアはそれを至極不思議に感じていた。確かに見た目はとても似ているけれど二人の性格や雰囲気は全く違うのだ。
天真爛漫でいつもニコニコして明るいのがウィオラだ。自分が何を思っているのか、すぐに言動で示し、アリアに引っ付いていることが多い。興味があることには鼻を少しピクピクさせる癖がある。
ルーフスは狼の姿で生活していた時から若干ツンデレなところがある。嬉しいことがあっても時々口をちょっぴり曲げてそっぽを向いたりする。所謂、照れ隠しというやつだ。しかし、最近はそれも段々少なくなってきて、ウィオラのように甘えることが多くなってきた気がする。それはそれですごく嬉しい。
「本当にありがとう、二人とも。とっても嬉しい!」
そう言ってアリアは笑みを溢した。いつの間にか寒さなんて感じなくなって、逆に胸がぽかぽかとする。三人で身体を寄せ合いながら歩く帰り道はとても短くて、だけどキラキラと輝いて。
ほら、こんなに違う。
アリアは思う。
「……アリア…?」
青い瞳の少年は、少女と真っ黒な二つの塊にただただ目を見開くことしか出来ない。




