出会い2(ルーフス視点)
少し内容を改編しました。お話の流れは全く変わりません。 2016 1.29
時は過ぎて、自分たちが何者かを知ったあの日から、四年がたった。
だが、四年前とは何も変わらない。毎日、男がオレ達に食事を運んできて、オレ達にものを教える。大体は言葉か、オレ達の瞳についてだ。そうして役目を終えると、彼は「絶対に小屋から出るなよ」といつもの無表情で言い放ち、外へと消えて行く。
オレ達は『禍の象徴』にも関わらず、何故か生かされていた。けれど、食事は相変わらず少なく、オレ達は歳の割に身体が小さかった。男曰く、獣人は元々、頑丈な身体の造りをしていて、栄養が十分でなくても生き延びることが出来るらしい。だから、お前らにそれ以上の飯を与える気はない、とのことだ。オレと弟は常に空腹の状態だった。
ある晩のことだった。
オレと弟は小屋の隅の床で身を縮めて眠っていた。静かな夜だった。
ーーバタバタ
足音で目が覚めた。その足音は一人、二人のものではなく、恐らく大勢のものだ。そして、それは小屋の外から聞こえるようだった。
(…何か、あったのかな)
オレは眠い頭でそう考えた。
ーーバタバタ
先程から聞こえる足音は更に大きくなっていた。そして、足音の他にも誰かが話すような声も聞こえてきた。オレは段々と不安になった。横で寝ている弟を起こそうかと考えた、その時ーー
バタンッ
突然、小屋のドアが大きな音をたてて開いた。オレは急なことに頭がついていけず、ただ目を大きくするばかりだった。弟も、この大きな音で目を覚ましたようだった。
外の月明かりが小屋の入り口にいる誰かのシルエットを作った。
オレは最初、あの男が入って来たのだと思った。しかし、そのシルエットは、あの男よりも更に大きかった。
暗闇の中、そいつの目が光った。オレは息を飲んだ。
その瞳は、真っ赤だったのだ。
「おい、子供」
地を這うような男の声だった。オレも弟もその声にびくっと身体を震わせた。
「俺と来い。問答無用だ」
男がそう口にすると、男の後ろからたくさんの人がわらわらと出てきて、小屋の中に入って来た。そして、その人たちはオレ達をぐいっと無理やり立たせると、小屋の外へと引っ張った。
オレ達は抵抗したが、お腹が減って力が出ず、たくさんの大人には敵わなかった。
外に出ると、月明かりによって周囲の様子がよく見えた。オレ達の小屋を囲むようにして、たくさんの人が立っていた。
そして、オレ達を引っ張る人も、小屋の周りにいる人も、恐ろしい大男も、皆見たことがないような変な格好をしていた。大男はこちらに近づき、オレと弟の腕を掴んでいる人たちに言った。
「連れていけ」
オレはこのとき、初めて彼の姿をはっきりと見た。
大男の髪は金色で、月明かりに照らされてキラキラと光っていた。顔は彫りが深く、何となく整った顔立ちなのが分かった。
そして、やはり目が赤かった。
「私たちは、役目を全うしたはずです。約束は…守っていただけますよね?」
どこかに連れていかれる際、オレはしわがれた男の声を聞いた気がした。
それからは、あまり覚えていない。
気がついたら、目に布を巻かれて何も見えないようにされ、手首も縄のようなもので拘束された。そして、何かに乗せられたと思ったら無理やり座らされ、身体が常にゆらゆらと揺れる状態を余儀なくされた。
怖かったが、弟が隣にいるようで、何も見えない中で互いに声を掛け、励まし合った。 そして、揺れが無くなったと思ったら誰かに強く腕を引っ張られ立たされ、歩かされる。かと思ったら、また座らされてゆらゆらと何かに揺られる。暫く、これの繰り返しが続いた。
ガタンッ、ガタ
大きな音がした。
オレ達は以前として目隠しをされたままで、どのくらいの時間が経ったのかも、今は昼なのか夜なのかも、周りで何が起きているかも全く分からなかった。唯一分かることは、隣に弟がいることだけだった。
「どうしたんだろうな…」
「…わかんない…よ」
弟の声もオレの声も少し震えていた。視界を奪われ、言いようの無い恐怖がオレ達を襲っていた。
ガタンッ
今度は先程よりも更に大きな音がした。そして、今までずっと続いていた揺れが止まった。
「ーーおーーっ、ーー…るーーーふーー、!」
何か、言い争っているような声が聞こえる。そして、その声は徐々に大きくなるばかりだ。
「兄ちゃん、怖い…」
「……」
オレ達は震えている互いの身体を、目が見えない中で何とか見つけ、寄せ合った。
ドンッ、ガタン、
音が今までで一番近く聞こえた。そう思った途端、ドンッと耳元で爆音がした。そして何かが壊れるようなそんな音がした。
「おいぃ、ここにも何も無しかよ」
それは、少しかすれたような低い声だった。そして、その声を聞いたと同時に誰かがこちらに来るような気配を感じた。
「…ん?なんだ、こりゃ。……ちっ、ただの薄汚ねぇ、ガキじゃねぇか」
「おい、なんかあったのか」
もう一つ、別の声が入って来た。
「良いもんは何もねぇよ。あるのはちっこいガキ二匹だ」
「…まじかよ」
怖い。助けて。心の中でそう思った。何も見えないけれど、自分の目の前に恐ろしい何かがあるのは分かった。
「…ちっ、帝国様が極秘で新大陸から取ってきた『財宝』なんて聞いて来たからここまでしたってのによ…開けてみりゃ、ガリガリのガキとは…ふざけんじゃねぇぞ!」
「落ち着けよ…。頭は確かにあるって言ってたじゃねぇか。…もしかしたら、そこのガキが知ってるとか…」
もう、息が出来ない。怖くて身体中がガタガタと鳴った。隣からも同じ音が聞こえた。
「おいっ」
そう声が聞こえたと思ったら、目の周りに有ったものがすっと取れて、視界が開けた。初めは久しぶりの光で目がチカチカして潰れそうだったが、段々と慣れてきた。そして、辺りを見回すと、自分たちが居たのは、周りが全て木で出来た小屋のようなところだった。しかし、壁などは酷く壊れて外から薄ぼんやりとした光が漏れている。
「おい、ガキ」
オレ達の目の前には男が二人いた。そして、右側にいる髭を生やし、ギョロギョロとした目が印象的な男が話しかけて来た。かすれた声から、初めにここに入って来た人だということが分かった。
「話、聞いてたろ。てめぇら、宝がどこにあるか、知ってんじゃねぇかぁ?」
怖くて、唇が震える。声を出そうとしたけれど、口がパクパクしただけで声は出なかった。弟はオレに身体を寄せて、泣いていた。
ガンッ
「おいっ!何か言わねぇか!こっちはただでさえ苛ついてんのによぉ!」
男は、床に転がっていた木の残骸を足で思い切り蹴飛ばし、叫んだ。弟はとうとう大声で泣きはじめた。
「おいおい、そんなに怒鳴るなよ。ガキ、相当怖がってんじゃねぇか」
もう一人のスラッとした体型の男が言った。
「知らねぇよ!こんな切羽詰まってる時に、ガキのご機嫌伺いなんか出来るか!」
男はそう言うと、ズボンのポケットから小型のナイフを取り出した。
「てめぇら、早く吐かねぇと、これで切り刻むぞ!」
男はオレ達にナイフを突きつけてきた。自分の喉がヒュッ、ヒュッと鳴った。とても、声なんか出せる状態じゃない。隣で泣きじゃくっていた弟が、涙を流しながら嗚咽混じりで答えた。
「ぼ、ぼく達…知らない。知らない人たちに、、連れてかれて来た…だけ……だから、知らない…」
「はぁ!?知らないだと……そんなはず、ねぇだろっ!」
「で、でも…知らない」
弟がそう言うと、男はわなわなと震えだした。そして、凄い形相でこちらを睨んだ。
「…くそっ、、この役立たずがっ」
ーードンッ
その瞬間、弟の身体が飛んだ。オレは訳が分からなかった。
「おいっ!止めろ!何してっ…」
「うるせぇ!これじゃ、俺の腹の虫がおさまんねぇんだ!」
そう言って、男は弟を殴り出した。もう、喉から変な音は出なかったが、何か別のものが身体から込み上げてきている気がした。そして、オレは男に飛び付いた。
「…やめろ!やめろぉ!」
「こんの、クソガキがぁ!俺に立てつくんじゃねぇ!」
ーードガッ
一瞬、目の前が白くなった。そして、頬に痛みを感じたと同時に激しく床に叩きつけられた。
「おい、いい加減にしろっ!そいつ、死んじまいそうじゃねぇか!」
もう一人の男が弟を殴っていた男を後ろから羽交い締めにした。
「放せよ!別に、いいだろ!こんなガキ、一人死んだくらいで大したことねぇさ!」
この人たちは何を言っているんだ。"死"?誰が?何が?
「オレの…弟は…?」
床に丸まって、弟が倒れていた。ぴくぴくと動いているが、たくさん血が出ていた。オレは、男たちが言い争っている中、痛む身体を押さえながら、弟に駆け寄った。
「なぁ…なぁ、大丈夫か?起きれる…?」
「兄ちゃ……痛…い、、お腹…痛……ぃ…よぅ」
弟の身体はズタズタで、特に腹は血で真っ赤になっていた。
(…どうすれば……、どうすれば…)
誰も、誰も助けてはくれない。オレがどうにかしなければ。
「…ここから、逃げよう…。狼になれる…?」
オレが聞くと弟は、こくりとゆっくり頷き、身体を変化させた。それに合わせ、オレも姿を変えた。
どうにかして、弟とこのおぞましい所から出なければ。回らない頭でそう考えたときに、狼の姿の方が動きやすいと思った。
(このまま、、こっそり逃げ出せれば……!)
しかし、それは裏目に出た。
「……なんだ、今の」
「お、狼になったぞ…」
男たちが口を開けてこちらを見ていた。
「ど、どういうことだ…?」
「わ、わかんねぇ……。…だが、これが頭が言ってた『財宝』ってやつかも…」
「こ、これがか?」
「…あぁ。狼になれる人間なんて、普通、いねぇだろ」
良くない方向に話が進んでいるのがなんとなく分かった。きっと、こいつらはオレ達を連れて行く気だ。
自分の身体がガタガタと音を立てた。
早く、早く、逃げなければ。だけど、弟はこんなに大怪我をしてる。逃げきれるだろうか。助かるだろうか。
どうすれば、どうすれば、どうすれば、、
「けど、お前のせいで一匹、使いもんにならなくなっちまったじゃねぇか」
「ちっ、しょうがねぇだろ。むしゃくしゃしてたんだしよぅ。そっちの死にかけの奴は放っておいて、こっちのピンピンしてる方だけ持っていこうぜ」
「…まぁ、仕方ねぇか」
ーープチン
自分の中の何かが切れた気がした。
「お、おい!…見ろよ!こいつの目、ま、真っ赤に光ってやがる!」
「な、なんだ…!?き、気味悪ぃ!こっちを向くんじゃねぇ!!」
こいつらを殺してやる
もう、それ以上考えることができなかった。
気がついたら、自分たちが居たのは、木の小屋のようなところではなく、夕暮れの静かな森の中だった。そして、自分の弟がさっきと変わらず、傷だらけで地面に横たわっていた。
弟の息は、さっきよりも浅くなっていた。以前として血は止まらず、どくどくと彼の身体から出ていくばかりだった。もう、どうしたらいいか分からなかった。
『…兄ちゃ…、ぼく、、大丈…夫…、だよ。きっと…こん…な、怪我……す、ぐ……な…おる、よ』
弟はオレを励ますように言葉を紡いだ。
『だ、から……泣か、、ないで…』
弟は、今にも死んでしまいそうなくらい弱っている。なのに、オレは何もできない。何も。
唯一の、オレの味方。あの暗い小屋の中、ずっと二人きりだった。心にぽっかりと空いた穴を埋めるように、互いに身体を寄せ合った。今までも、そしてこれからもずっと一緒のはずの双子の弟。死にかけている、オレの大切な肉親。
何で、何で、何で…。どうして、オレ達ばっかり…こんな目に。
瞳が赤い、それだけで。
何も、望まなかった。二人でこっそりと外に出たあの日以降、何も望まなかった。
母親の温かい手も、自分の名前も、外に出ることすら、何も。
ただ二人でいられればいい、とそれだけだったのに。それすらも叶わないのか。
オレは涙でぼやけた視界で弟を見つめ、そして、頬を擦り寄せた。弟が死んだらオレも死のう、そう思った。
「っ!あったーー!」
人間の声が聞こえた。また、オレ達に何かするつもりなのか。オレは唸りながら、声のする方に目を凝らした。
「よかったわ、これで任務は完了ね!」
それは、女の声だった。そして、その時オレは見たんだ。
美しい、青い光を
狼のときは『』です。




