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人造神は魔法科学を広めたい 〜ちょっぴり邪神風  作者: バッド


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8話 魔法科学開始!

 パチパチと薪の燃える音が生活棟に静かに広まり、皆はもこもこの毛皮の塊に目が点になっていた。


 なんだろう、この生き物はと誰もが思う中で、ゼーブが気まずそうに咳払いをした音がやけに響く。


「うむ……この者は陛下の王配である鹿尾陛下の……弟? 妹? そういえば聞いておらぬが、家族である。今日は城内を見て回り、苦境にあるヘルゲート帝国を救うアイデアを共に考えてくれるとのことだ」


 ゼーブは皆に紹介するのに、ヨグのことを全く知らないと思いつつも、皆へと説明した。今は共にヘルゲート帝国のことを支えてくれることが大事なのだ。ヨグが皆と仲良くなり、仲間意識を持って、この城で笑顔で暮らしてほしいと思っていた。


 もこもこ


 ズリズリ


 毛皮の塊がスライムのように蠢き、テーブルの下に隠れるので、仲良くなるのは少し難しいかもと思った。


 が、この生活棟に来たのは理由がある。自分の娘もいるからで、彼女は誰とでも仲良くなれる一種の才能を持っているからだ。


「サキ、この子の世話を頼めるか? 異世界に来て、まだ3日目だ。不安なことも大きかろう」


「えっ!? 私がこの塊をお世話すんのっ!? マジなの〜」


 ポニーテールの少女が半眼で毛皮の塊を見て、顔を歪める。少女の名前はサキ・バアル。ヨグと同じく12歳で、いつも元気に溢れていて周囲のムードメーカーともなっている少女だ。


 彼女はこれまで、父親を亡くした子供とか、イタズラばかりする子供ともうまく仲良くなり、皆のグループに溶け込むようにしてきた。なので、父親が頼りにしてきたのは分かるが……。


 今回は初めての遭遇だ。なにせ毛皮の塊である。どんなリアクションをすれば良いか分からない。


 とりあえず、恐る恐るだが、テーブルの下に落ち着いた毛皮の塊をつついてみる。それだけでも勇者の行動である。


「え~と、私の名前はサキ・バアルよっ。貴方の名前はなんと言うの?」


「ヨヨヨヨヨ」


「……」


「ヨヨヨヨヨヨ」


 毛皮の塊は可愛い声で鳴いた。名前を聞いたのに、鳴き声を発するとか、本当にスライムとかではないのと、戸惑ったサキは父親を見るが、困った顔で返されてしまう。そんな困った顔を見せられても、サキもこんな子は人生で初めての遭遇である。


「え~と……ヨヨヨヨヨヨちゃん? このままだと毛皮スライムとか皆に認識されちゃうよ〜?」


「えとえとえと、けけけけ?」


 声は子狐がお腹をすかせたような、憐れみはあるが、可愛い声なので、なんとか顔を出させようとサキは頑張る。


 だがコミュ障の人生をニートに捧げたヨグはそれくらいでは動じなかった。


「ケサランパサランで良いです」


 自己紹介を諦めたのだった。コミュ障のニートは会話を途中で諦めるのはデフォルトなのである。話がぶつ切りになっても、私のことは放っておいてと考えて、気にしないのだ。


「それは幸福をもたらす精霊でしょうがっ! あ~、も〜、もう面倒くさいわっ! とりゃぁー!」


 そして正反対の属性を持つサキには、そんな子は会ったことがなく、無理やりに毛皮を剥ぎ取るのだった。


          ◇


「……」


「……」


「……」


 毛皮を剥ぎとられたヨグを見て皆は一様に黙りこくってしまった。剥ぎとった張本人のサキですら、言葉が出ない。


「え~と、子狐の変化?」


「こここ」


 まともな答えは期待していなかったが予想通り、単語で返答するヨグだが、毛皮の中身は、愛らしいという名前が人化したような子供だったのだ。思わず髪を撫でたくなる保護欲を喚起させる子狐のような小さな子供であった。もしかしたら獣人族かもと耳や尻尾を確認するが、そんなことはなく、普通の子であった。


 とはいえ、容姿は普通ではなく、サキは胸をむずむずさせて、ヨグを抱き上げる。


「うわっ! 軽ぅ! ちゃんとご飯食べてる? まるで重さを感じないんだけど。ほらほら、暖まって、寒くない? あ、毛皮を羽織る?」

  

 あっという間にヨグにメロメロとなったサキは、この子は私が姉として守ると心に誓い薪ストーブの前に、ちょこんと移動させるのであった。さりげなく髪の毛を撫でて、頬をぷにぷにとつついてしまってもいた。


「ありありあり」


「うんうん、これからはお姉ちゃんがお世話してあげるわ。で、父さん、この子の名前は?」


「その子の名前はヨグ・相馬。年齢は知らぬ」


「じゅ、12歳です」


「12歳!? え、それ本当? 子狐ちゃん、8、9歳にしか見えないわよ!?」


 何気なく歳を聞いて驚いた。周りの人々も同じで、ヨグは12歳にしては、小さすぎたのだ。強く抱きしめたら壊れそうな華奢な身体もそうだが、体重は羽のように軽く感じたし、背丈は下手をしたら8歳の子にも負ける。こんな小さな子をこの街で、サキは見たことがなかった。


「ご飯をろくに食べてこなかったの!?」


「たたたた」


「もぉ、ほらほら、もっとストーブのそばに近づいて。そんなに華奢だとすぐに病気で死んじゃうよ? ザント、薪を追加して、なんか食べ物持ってない?」


 プルプル震え始めるヨグを見て、ますます心配となる。基本、ヘルゲート帝国の国民は細身で華奢にも見えるが、それは違う。中身は鋼のように鍛えられていて、中央大陸の人間よりも遥かに身体能力が高い。


 だが、震える子供は全然筋肉がついていなかった。抱き上げた時も痩せていて、それていてぷにぷにだったのだ。しかも歳よりも遥かに若く見えることで、お姉ちゃんとして一気に心配となったサキである。


「へーい、塩漬け肉はあるけど、薪はなぁ……」


 サキの幼馴染のザント・ムーンと言う少年も、このちっこくてか弱い子供を守るのに反対もすることなく、ポケットに入っている干し肉を手渡すが、薪は困った顔となる。


 周りの人々も同様だ。何人も干し肉を手にしてヨグにあげようとしていたが、部屋の隅の薪に手を伸ばす人はいない。


 サキも迂闊なお願いをしてしまったと顔を顰める。冬の薪はこのヘルゲート帝国において貴重なものだ。乾いた薪は海を越えたジェルズ王国からの輸入品がかなり多い。だからこそ、一日に使える薪の量は決まっているし、皆は生活棟に集まり、人の熱気で寒さを誤魔化しているのだから。


 正直、それでも全然寒いが、贅沢を言う人はいなかった。サキだって他国から来たと思われるヨグのためでなければ、薪を追加するつもりはない。


 今も薪ストーブの中で燃えている薪はほんの少し。それが自分たちの惨めさを教えてきて、悲しくなる。


「……これから、薪の輸入が減るかもしれぬ。皆、覚悟していてほしい」


 ゼーブの言葉に、ヨグを見て浮かれていた人々はシンと静まり返る。なぜなのかとは尋ねる者はいない。理由は明白で、ヘルゲート陛下がジェルズ王国から婿をとらなかったからだから。そして婿入りが成ったら、自分たちは魔物狩りのために、奴隷のようにジェルズ王国の婿に扱き使われることも理解していたから反対することもなかった。


「ごめんなさい、子狐ちゃん。私たちにとって薪は大切なの……」


 ヨグの頭を撫でながら、サキは薪ストーブを見る。薪ストーブの中にある数本の薪は今にも燃え尽きようとしていて、もう欠片しかない。全て燃え尽き薪ストーブの余熱も無くなったら、追加で薪を入れる予定だ。


 こんな国に来て、この子は不安に思わないだろうか。薪はこの国以外では簡単に手に入り、死活問題にはならない物資だ。それなのに、この国では城に住む貴族たちでさえ、寒さを耐えながら薪を節約している。


 サキはこれでも高位貴族。様々な情報を勉強してきたし、この国が特殊で他国とは全く違うことを理解している。子狐ちゃんが他国が羨ましいと言われたら、どう答えればよいのか見当もつかなかった。


 重い空気の中で、薪の火の粉が弾ける音だけとなり、誰もがため息を吐くのを我慢する。


「……薪は国民全体に配給されてるのですか?」


「ん? う、うん。そうよ。配給制で平等に配ってるわ。好き勝手に使っているのはジェルズ王国の大使館くらいね。あいつらは自分たち優先で、それこそ一家族が一月に消費する薪を1日で使ったりするの」


「暑すぎるとか、愚痴って外の雪をわざと浴びる奴らもいるんだ。ったく、俺たちに見せつけるためにな」


 サキとザントは王国人のこちらを見下す態度を見て、悔しく口元を歪める。あいつらはどちらが優位かわかっているのだ。


 ボソリと呟くヨグの質問に答えて、あれ、さっきまでは片言だったのにとサキは思い━━。


『お困りですか?』


 突然脳に響くヨグの声に、身体が固められたように動けなくなった。


「こ、これ、な、なに?」


 なんとか震える唇を動かしてサキがヨグを見ようとするが、その顔を見ようとしたが動けない。


『お困りですか?』


「う、うん。お困りだよ。この国では燃料問題は解決しない事柄だし」


 それでも頷くくらいはできる。


『善人の願いは神へと届き、世界の理は変わる。汝らに救いを与えましょう』


 ヨグがすっくと立ち上がると、その横顔がサキの目に入る。その顔は先ほどまでの気弱な顔ではなく、どこか超然としていて、その目はどこか遠くを見つめるようだ。


 そうして、ヨグは右腕を掲げる。その小さな手にはいつの間にか万年筆があり、まるでオーケストラの指揮者のように堂々たる態度で万年筆を振っていく。


「灰よ、世界に残されし灰よ。全ての力を集めて、印を紡ぐ触媒となれ」


 バタン


 薪ストーブの薪を入れる火口の蓋が突然開き、灰がまるで小川が流れるように空中を飛び、ヨグの持つ万年筆の前に浮かぶ。


「老いたる星の残滓、金剛石へと至る石炭、一滴の源泉」


『マナ抽出:星のインク創造』


 朗々と響くヨグの詠唱に聴き入り、サキたちが見つめる中で、大量の灰は凝縮されて漆黒の一滴のインクになった。そのインクの球体を万年筆の先端でちょんと突くと、水を吸い込むスポンジのようにあっさりと吸収した。


 その魔法が発動するマナ量は、サキたちが意識を失ってしまうほど膨大で、その余波だけでも魂が吹き消されるくらいに強烈であり、人々は畏怖を持って見つめる。


「さて、では善人に救いを与えるために、奇跡をお見せしましょう。神の代理人として、救いを与えるものとして」


 誰もが言葉を失うほどに、どこに、誰に対して笑みを浮かべているか分からない瞳を見せて、ヨグは微笑むのであった。

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― 新着の感想 ―
ケサランパサランはヘルゲート帝国でも通じるとは。 とりあえず、ジェルズ王国の大使館燃やして焼き芋焼いて食べていいんじゃないでしょうか。あ、そういう魔法科学じゃない? そりゃまた失礼いたしました。
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