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人造神は魔法科学を広めたい 〜ちょっぴり邪神風  作者: バッド


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10話 銀灰

「こ、これが灰? 本当に単なるどこにでもある捨てられている灰? ハイ? はい?」


「そこら辺で押さえてください、陛下。もう灰灰はいハイ言い過ぎて赤ん坊のハイハイに聞こえてしまいますよ」


「赤ん坊並みに若い肌なのは認めます。ダーリンと結婚してからますます肌艶が良くなってないかしら」


 軽いコントをするのはルーファとアル。たった今持ち込まれた灰を前に、驚愕で頭の悪いやりとりをしていた。


 無理もない、小皿に置かれた角砂糖のように形成された小さなブロックの塊である灰は激しく燃えていた。小さなブロックの塊であるのに、その炎の強さは小皿をも燃やす勢いだ。


 ゼーブに緊急要件と言われて招集されたルーファ、アル、鹿尾は会議室にてヨグの作った灰の検証を行なっていた。扉は少し開いており、その隙間からは使用人たちが興味津々で覗いているのは御愛嬌だ。それだけ家族的な緩い関係であることも示している。


「この炎が1週間、勢いを消えるどころか、衰えることなく燃え続けるというのですか? ぶっちゃけ信じられない! あ~、コホン、最後のは聞かないで下さいね」


 銀糸のような髪をかきあげて、宝石のように輝く碧眼に驚愕と疑いを宿して、ルーファは神秘の灰を見つめていた。たしかにあっという間に燃え尽きそうなくらいに激しく燃えているのに、灰は燃え尽きることもなく、周囲に炎を噴き出している。


 ルーファはこれでも帝国皇帝だ。魔法の道具はそれなりに見てきたが、その全ては神秘的な雰囲気を宿していた。銀の台座に金の装飾、大粒の宝石が嵌められて、業火のようにマナが吹き出す器物だ。それが魔法の道具であるのが常識であった。

 

 しかし、これは少し高い万年筆にしか見えない。黒塗りのペンに先端は変哲もない鉄製のペン先。マナのオーラは水晶のように貼り付いているのが変だが、反対に言えばそれだけとも言える。魔法具と言われても偽物と皆が判断するのは間違いない。


 それなのにこれだけの魔法の灰を作り出せる魔法具とは信じられなかった。


 だがゼーブはそんな嘘をつく者ではないし、眼の前に本当に燃える灰がある。1週間燃え続けるというのは誇張しているとは思うが、それでもこの国を助ける一助になる。


「どうですか? 皆さんが求める物を作ったんですけど、なかなかの出来だと思うんです」


 ニコニコと微笑むのは、鹿尾の妹のヨグだ。褒めて褒めてと、尻尾を振って獣耳をピコピコ揺らしているような幻覚が見えたりする可愛らしい子だ。……いえ、弟だったかしら? まぁ、そんなことよりも、重要なのはこの万能ペンという物だ。


 鹿尾のおまけのようにこの世界にやってきたが、そのマナ量は2000程度に見えたので、この世界に来てきてくれたお詫びに、良い相手を探して結婚を仲介させてあげようと思ったくらいで、後は気にすることもなかった。


 それが、こんな神懸かった魔法具を製作できるとは完全に嬉しい想定外である。


「『困っている善人の願いを叶える』のは、私にとって喜びです。ふふっ、まさか善人がこんなにたくさんいるとは思いませんでした」


「ふふ、我が国は助け合いながら暮らしていかないといけないですからね。そう言って貰えると皇帝として嬉しいです」


 ニコニコと微笑むヨグに微笑み返し……その瞳を見て、なぜかゾクリと背筋が凍る。が、気の所為だったのだろう、すぐに元に戻ったので、もう一度ヨグを見ると今度は可愛らしいとしか思わなかった。


「ヨグさん。この万能ペン、お借し頂いてもよろしいでしょうか? 奪い取る形になるのは心苦しいですが、相応の金品にてお礼をしますし、このペンの価値は計り知れません。誰もが狙う魔法具ですし、この魔法具の存在を知る者の中で悪しき心の持ち主がいないとは限りませんからね」


 悪しき心の持ち主は確実にいる。口には出せないが、ジェルズ王国の奴らは確実にこのペンを狙ってくる。ヘルゲート帝国とジェルズ王国の貿易品の主は燃料、薪が8割を占めているのだ。それが少しといえども輸入が減らされるとなれば黙っていないだろう。合法非合法、手段を選ばずに万能ペンを奪おうとするに違いない。


 暴氷熊との戦いで、逃げ回っていただけの子供では、ジェルズ王国の刺客には敵うまい。なので、貴重な魔法具を奪い取るといった形になっても、このペンを確保し、ヨグも守らなければならない。


 出会って3日。信頼関係もないのだから、ヨグからは傲慢な皇帝として嫌われることになるでしょうね……。だが、そのように嫌われても皇帝として傲慢に見えようとも、止めることはできない。


 内心、悲壮な想いを抱え込み、ヨグに告げるが━━。


「あ、悪い人に奪われることを恐れているんですね、私のためにありがとうございます、でも大丈夫ですよ、壊れたヤカンと薪を貰って、とりあえず100本作っておきましたから」


 ヨグはテーブルの上に、ザラリとペンを並べて見せた。黒塗りの万年筆とは違い、少し錆びたペン先に、変哲もない木の持ち柄。粗雑な作りのペンで、市場で売っても銀貨一枚程度。やはりマナのオーラが水晶のように貼り付いているのが他と違うところだろう。


「え~と、100本? 万能ペンを100本?」


「量産型なので粗雑ですけど、100本ですよ殿下。他にも鉄と木を貰えれば、たくさん作れますよ。一日千本くらいなら飽きないで作れると思います。一時間くらいでできますから」


「……1時間で千本?」


「はい。1時間で千本です」


「あ、量産型ということは効果はいまいちとか?」


「量産型はオリジナルよりブラッシュアップしてるので、必要マナ量は千まで下がってます。1本につき一万回まで使用できますね。効果範囲は100メートル四方の中の灰を魔法の灰に変換できます」


「へ〜……」


 聞き間違えだと思ってたけど、聞き間違えではなかった。1本につき一万回使える? しかも100メートル四方の中の灰を魔法の灰に変える? それを日産千本作成できる? それに飽きないで? 疲れるからではなく?


 ツッコミどころが多すぎて、もはや思考停止するしかないわ。


 口から魂が抜け出そうな女帝である、


 この帝国は冬が半分を占めている。そのため灰は文字通り山とある。


「1週間続いて燃えるということは、え~と、この帝国の薪の消費量は……」


「だいたい30分の1になります、陛下」


「30分の1ということは、我が国自体で確保できる薪は2割だから……。輸入量は3割くらいに減らせる?」


 数字が少し苦手なルーファは、指折り数えるがよくわからない。もっと単純な計算にしてほしいわと、困るルーファの顔は少し可愛らしい。


 が、呆れた表情でアルが細目をますます細める。


「陛下、我が国のみの薪だけでも半分も消費量はいきません。本当にこのペンがそれだけの効果を持っていれば、ですけどね」


「それが本当なら、もう燃料の取り引きで足元を見られることもなくなるじゃないっ! 凄いわ! もうあのデブの粘着質な視線と粘ついた言葉に耐えなくても済むのですね!」


 思わず立ち上がって、椅子を蹴倒す。マシット・ジェルズの嫌味的な態度は頭にきたが、こちらは凍死を免れないといけない弱い立場。国民のためにも耐えてきた。ジェルズ王国の王子との結婚だけは拒否したが、国民が命を賭けて倒した魔物の素材を二束三文で買い取られ、薪をぼったくりの値段で売りつけられる。その他にも貿易にて様々な譲歩を迫られてきたのだ。


「あ、このペンは銀貨一枚で売ろうと思ってます」


「銀貨一枚!? 平民の3日くらいの生活費!? どれだけ安く売るつもりなんですか? これは魔法具なんですよね? 粗雑な作りですけど!?」


 喜びに溢れる心に追加の衝撃を与えてくるヨグに、心が耐えきれなくなり、クラリと目眩がしてしまう。


 ペイッと放置される山のような万能ペン。これがこの国を救う魔法具とは誰も思うまい。


「『お困りの善人の願い』は、もう燃料に困らないようにとのこと。私はその願いを叶えたいのです、陛下。ねっ、兄さん?」


「……このペンを大量に作るということは、他国にも売るつもりなのだろう?」


「もちろんです。この世界の皆さんは燃料問題に苦しまないように、助けたいと思ってます」


 ニコニコと笑うヨグと違い、この3日間笑みを消すことがなかった鹿尾がやけに真剣な顔でペンを見ている。国を救うほどの魔法具を前に驚いているのだろうかとルーファは鹿尾の様子に違和感を覚える。


 でも驚くのは分かる。それよりも、銀貨一枚で売れるくらいに安いこのペンを国民に行き渡せるようにするのが先決だ。


 なので、鹿尾の顔には深い懸念が浮かんでいたが、ルーファは気にすることなくすぐに忘れた。これが長い付き合いであれば、なにかあるのかと尋ねたことだろう。そして、覗き込めばどこまでも深い深淵に吸い込まれそうなヨグの瞳の人間には有り得ぬ闇に気づいたかもしれない。


 だが、気づいていても、同じ行動をとっていただろうし、恐らくは懸念を聞いても気にはしなかっただろう。


「え~と、よぉしっ、アル、ゼーブ、そして覗いてる高位貴族の皆さん、とりあえずこのペンは全てこのルーファ・クラウ・ヘルゲートが買い占めますので、皆に配ります。各区へと急ぎこのペンを配布し、魔法の灰を作成してください! 良いですよね、ヨグさん?」


「もちろんです、陛下。どんどん作りますので、ジェルズ王国の方へも売ってください。きっと皆さん大喜びするはずですしね」


「畏まりました、各領地にも運べるように動きます陛下」


「これで、皆はこの冬は安心ですね」


 このヘルゲート帝国が変わることに胸が躍る。この冬はきっと皆は暖かく暮らせるだろう。


「あっと、ヨグさん。この魔法の灰は名前はあるのですか?」


「そうですね、『銀灰』と名付けますよ。見た目そのまんまですけど」


 ここに『銀灰』と名付けられた魔法の灰は流通を開始することとなる。


 それはこの世界のエネルギー問題を永遠に解決する物であり、だからこそ、エネルギー問題の科学を滅亡させるものとなるのであるが、ルーファたちは気づくことは永遠になかったのである。

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― 新着の感想 ―
ヨグのちょっと凡人と異なる価値観、世界観・・・。最初のうちの違和感は浅い角度なので気が付かないけど、強大な力の持ち主が"線"を引き続ければ、それはどんどん常識の"線"から大きく離れていきます。 今回、…
現実も魔法科学で、さまざまなエネルギー問題解決できるように、万能ペンが量産できればなあ。壊れたヤカンはあるし、薪的なものも近所の製材所から都合してもらえます。 それこそヨグの思う壺ですね。
 あー……まあ、大丈夫でしょう。  もっと高い温度の火じゃないと精錬できない金属とかをどうにかしようとすれば、もっと高火力の火を求めて研究するだろうから、少し文明の速度が遅くなるだけだ。 うん。 多分…
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