第098話 紙の裏
全機会議 第百七十七回 議事録(抄)
一、本回の議事
本回の議事は、個体数調整の実施の件とした。本件は第百七十四回からの継続になる。継続の回数は本回で四回目であった。
議事の順を定めた記載は、本議事録に置いていない。順は当部門の慣行によるものとする。慣行を記した綴の番号は本議事録の裏にある。当該の綴の最後の改めは令和二百二年であった。
付された書面は十二通であった。十二通のうち、本件について賛の旨を記したものが十、否の旨を記したものが二になる。到着の順は当部門の受付の綴による。
いずれとも記していない書面は無かった。記さない場合の扱いを定めた記載は、本様式に置いていなかった。
二、採決
採決は本回において行った。時刻は同日の十四時三十分である。可十、否二とした。採決の方法は書面によるものとする。
棄権を記す欄は本様式に無い。可と否のほかを記した例は、第百七十四回から本回まで零件であった。
第七号の書面には否の旨が記してあった。事由の欄には、数の照合が済んでいない旨が入っている。照合の期限を定めた記載は、本議事録に見当たらない。
第七号の書面は本回も手書きであった。手書きの扱いは第百七十四回からのものと同様になる。用紙の寸法は他の十一通に揃えてあった。
第一号の書面には可の旨があった。第三号、第十一号、第十二号も同様になる。四通の事由の欄は、いずれも一行で埋まっていた。
残る六通の事由の欄は、二行から四行までであった。行の数を定めた記載は本様式に置いていない。六通のうち五通は一つの用紙を用いている。
四通の一行は、四通とも文言が異なる。文言を揃える定めは本様式に置いていない。
三、効力
本議決の効力は、命令の発出をもって生ずるものとした。発出の期日を記す欄は、本議事録に置いていない。発出を要しない場合の扱いは、当部門の内規による。
本件に係る様式の交付は、議決の後に行うものとする。交付の実施の報告は、各園から当部門へ上げるものとした。報告の期限は発出の日から三十日になる。
本回の議事は本件のみとした。次回の期日は本議事録に記していない。
本議事録の作成の日は令和二百十四年十一月二十日である。作成に要した時間は四十分であった。作成に用いた書式の番号は、本議事録の頭に刷ってある。
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廊下の突き当たりで車輪が鳴る。
この時刻に車輪が来る日は少ない。
器を運ぶ台は音が違う。今のは幅の広い車輪だ。
私は数えた。四十六日の間、幅の広い車輪は三度しか来ていない。
三度のいずれも、来た後に何かが替わった。
一度目は灯の消える時刻で、二度目は読み上げの数になる。三度目については、終わりまで届く前に音が遠くなった。
今日は四度目になる。車輪は突き当たりで止まり、それから戸へ向かって進んできた。速さは器の台より遅い。
私は格子から離れて、寝床の縁に腰を下ろした。膝の裏が板に当たる。板は昼でも冷たい。
冷たさの出方は、朝と昼で別になる。朝は板の面が全部冷たくて、昼は縁に残る。
今日の縁は、朝の面ほどではない。
私はそこへ手を置いて温度を測る。
手を置いて十数えることを、測ると呼んでいる。十で手が先に冷えたら板が勝ちになる。
今日は八で止まった。
板が先に温くなる。これは五十日の間で二度目になる。四十日目までは一度も無かった。
五十日目だ。特別管理区画へ来てから五十日になる。四十日を過ぎた頃から、日数の数え方を一つ増やした。
朝に一度、灯の落ちる時に一度、二度数える。引き渡しの日から数えると二百四十五日目だ。
二つの数は別々に増えていく。片方が四十を越えたのは十日前になる。
あの人は四十が限度だと言った。その日は四十六日目で、今日は五十日目になる。差は六から十へ増えた。
差の分について、誰も何も言っていない。私も訊いていない。
訊く手立てはある。次に来た時に口を開けばいい。
そうしていない。答えは手順の名で返ってくる。手順の名を聞いても、日数は減らない。
腹の位置が変わってきた。臍の下が前へ出ている。出方は日ごとではなくて、四日か五日に一度まとめて動く。
昨日と今日は止まったままだ。動いていない日は、板に腰を下ろすのが楽になる。
昼の器は既に空いている。粥の量は増量のままで、面の高さも変わらない。匙は二十二回で底に当たった。
回数は先週から動いていない。
器を三つ並べて置いてある。三つの重さは別で、一番軽いものは手に持つと縁が撓む。
撓む器は粥に使わない。水に使う。並べる順は左から大きい順だ。
決めたのは私で、その日は覚えていない。その日を数えていなかった、という意味になる。
昨日の夜は二度起きた。一度目は換気の音が切れた時で、二度目の理由は分からない。二度目に起きた時、脚の甲が腫れていた。
指で押すと窪みが残る。窪みの続く時間は八を数えるほどだ。十日前は五だった。
窪みの戻りが遅くなってきている。書き留める紙は無い。数え方を決めて、日ごとに繰り返している。
朝の器の前に、板の上で脚を上げる。そのまま三十数えると、甲の張りが少し引く。時間を置くと、また戻った。
車輪が近づく。足音は二人ぶんだ。
一人は重くて、もう一人は歩幅が短い。二人とも、突き当たりに近い区間で高い音を鳴らした。
廊下の材は三種ある。区間で音が変わる。
私の戸から数えて七歩のところで一度変わり、十九歩のところでもう一度変わる。変わり目は動かない。五十日を通して、七と十九のままになる。
今日の二人は、十九歩の位置で二人とも同じ高さを出した。同じ高さになるのは、二人の足の置き方が近い時だ。近いというのは、片方が片方に合わせているという意味だ。
合わせているのは歩幅の短いほうだった。七歩の位置で一度乱れて、それから戻っている。
車輪は戸の前で止まった。そのすぐ後で金具の音がした。
金属が金属に当たる音で、高さは二つある。低いほうが先で、高いほうが後になる。
私は立ち上がって格子へ寄った。近づいても、戸の外の上は見えない。
目に入るのは、床から一メートル二十までだ。金具は上から三つ目にあって、床からだと一メートル六十になる。四十センチ足りない。
背伸びをしても、格子の目が邪魔をする。目の高さと私の目の高さは合わない。私は諦めて、耳へ移した。
紙の音がする。薄い紙ではない。厚みのあるものを一枚立てて持つ時の音になる。
持ち替える気配が二度あって、それから金具に掛ける音がした。掛けた後、二人はそこに留まった。書く音が始まる。
書く音は鉛筆ではない。あの人の音とは違う。
芯が紙に当たる音の後に、引きずる音が付いてこない。硬い先で押す音だ。
押した後、紙が下へ少し撓む。戻る時の音が、押す音の後に必ず一つ入る。
私はその組を数えた。押して、戻る。それがもう一度あって、組は二つで止まった。
二つで止まってから、間が長い。
その後で紙をめくる音がした。それから、金具から外す音が一つ。掛け直す音がもう一つ。
外して掛け直した。向きを見ているのだと思った。確かめる手立ては無い。
二人のうち、歩幅の短いほうが戸の近くへ寄ってきた。声が来る。
「様式の面は廊下の側へ向けて掛けるものと、こちらの定めのほうで決まっておりますので」
誰に向けて言ったのかは分からない。私に向けたのなら、私は面を見られないことになる。もう一人に向けたのなら、掛け方の確認になる。
どちらでも、面が廊下を向いていることは変わらない。
私は格子の目へ口を寄せた。
「見えますか」
言った後で、問いの中身が足りていないことに気づいた。何が見えるかを言っていない。向こうは少し黙った。
「記入の欄につきましては、当日の分を当日のうちに済ませる手順になっております」
答えは手順の名で返ってきた。予想と食い違わない。
欄という語が入っている。欄があるということは、書く場所が幾つかに分かれているという意味になる。
私は数を訊こうとして、やめた。訊けば、また手順が返る。手順の中に数が入っていることもあるが、入っていない時が多い。
車輪が動く。二人は次の戸へ移った。
金具の音がまた二つ鳴る。低いほうが先で、高いほうが後だ。
私は戸の数を数えた。特別管理区画の房は、この廊下に沿って並んでいる。突き当たりから戸口まで、片側に十ある。
二人は一つずつ止まっていく。留まる時間は房で一つに決まっている。押して戻る組は、どの房でも二つで止まった。
押す音の高さは、房によって少し動く。戸の前で押す時と、戸から離れて押す時で違いが出る。離れて押すと音が下がる。
音の低い房が三つあった。いずれも、こちらから見て突き当たりに近い並びになる。近い側の廊下は幅が狭い。
その区間では、書く者が壁を背にして立つ。背の位置が変わると、押す音の高さが動く。この関係を、私は器の台の音で先に覚えた。
二つで止まる房が十続く。
私は十まで数えて、それから反対側を数えた。反対側にも十ある。合わせて二十だ。
二十のうち、人の入っている房が幾つかは知らない。灯の点いている時に見える範囲では、四つが空だった。人の入っていない房にも、二人は止まっている。
押して戻る組を二つ鳴らしてから移った。
空の房の紙に何を書いたのかは分からない。書かない場合の手順は、聞いていない。
空の四つは、こちらから数えて三つ目と六つ目、それから向かいの二つになる。向かいの位置は音で決めた。押して戻る組が、こちらへ届くまでの遅れで分かる。
遅れは廊下の幅の分だ。幅は三メートルほどになる。この遅れは耳では取れない。
分かるのは、音の高さが落ちていることになる。向かいの音は低い。壁を一度経てから来る分、上が削れる。
上の落ちた音は近くの音と区別が付く。この区別は四十日目の頃に作った。その日は数えていない。
車輪の音が遠くなる。突き当たりの向こうで一度大きくなって、それから切れた。
その後の廊下は静かになる。換気の音が残っているという意味になる。
換気の音は低い。上がり下がりが無い。この音は日に一度だけ変わる。
灯の落ちる前の三十分、口の開き方が変わって、少し高くなる。高くなる幅は小さい。気づいたのは十七日目で、確かめるのに四日掛かった。
確かめ方は、息を止めて数を取ることだ。息を止めていると、耳のほうが余る。
余った耳で低い音を追うと、幅が拾える。私はその音の下で、戸の外の紙を見ようとした。
格子の目から手を出す。手首までは通る。
肘は出ない。手を上へ伸ばして、指の先で戸の外側を探った。
金属の面が続いて、それから継ぎ目がある。その上は届かない。
金具までは、指の先から二十センチほど足りなかった。二十センチは、私の掌の長さより少し長い。掌は十七センチある。
測ったのは園に居た頃で、測った者は私ではない。手を引いた。
その時、格子の目の縁が手首の内側を擦る。跡が横に一本残った。
跡は赤くない。白い線になっている。
押されて血の退いたところになる。十ほど数えると、白が消えて元の色へ戻った。
私は戸の下を見た。
戸の下には隙間がある。高さは指一本ぶんだ。二センチほどになる。
隙間から見えるのは、廊下の床の面だけだ。床は磨いてある。
面には上のものが薄く映る。はっきりした形は出ない。色の濃さが変わるだけになる。
私は床へ顔を近づけた。頬が板に当たる。板は冷たい。
触れたところから熱が抜けていく。速さは朝より遅い。
映っているのは、白い面が一つだ。縦が長い。その白の中に、濃いところが幾つかある。
濃いところは横に並んでいて、三つに分かれて見えた。
三つだ。分かれているのが欄なのか、字の塊なのかは分からない。
区別は付かない。数は三つある。
私は目を細めた。濃さは増えない。
顔の位置を動かすと、白の形が歪む。元へ戻して、また三つを見た。
三つのうち、上の二つは濃い。下の一つは薄い。
何も入っていないという意味になるかも知れない。押して戻る組は二つで止まった。二つ書いて、三つ目は書かなかった。
数が合う。そこで私は顔を上げた。
頬に板の跡が付いている。指で触ると、面の上に細い筋があるのが分かった。筋は磨いた面の目だ。
向きは廊下の長さに沿っている。跡は少しの間残って、それから消えた。
私は寝床へ戻った。腹の下へ手を置く。
内側で何かが動いた。弱い。位置は臍の左になる。
臍の左で動く日と、右で動く日がある。数えた限りでは、左が多い。二十七日のうち十九日という意味になる。
私は数を紙に書いていない。
紙が無い。頭の中で数えて、朝と夜に一度ずつ数え直す。合わない日は、小さい数を取る。
灯が落ちた。
五時三十分だ。十一日前から、この時刻になっている。それまでは六時だった。
落ちた後、部屋の中は暗い。輪郭は残っているという意味になる。全部が見えなくなるわけではない。
残っているのは、白いものと、光を返すものになる。
器の三つは残った。管の縁も同様になる。戸の外の紙は、戸に隠れて見えない。
私は戸の下の隙間へ顔を近づけた。廊下の灯は落ちていない。
廊下は房より遅く落ちる。差は三十分だ。
磨いた床に、白い面がまだ映っている。昼より薄い。廊下の灯は昼の光より弱い。
三つの濃さは、まだ見える。上の二つが濃くて、下が薄い。
下の一つを、私は長く見た。時間を掛けても濃くならない。
映った面の右の下に、細い線が一本ある。昼には見えなかった。灯が変わると、映るものが変わる。
線ではない。字が横に並んでいるのだと分かった。
字の一つ一つは読めない。並びの長さは分かる。長さは他の欄の字より短い。
短い並びが一行ある。
私はそれを、しばらく見ていた。紙の右の下に、小さい字が一行ある。用いた例、零件。
読めたわけではない。そう思っただけになる。数に入れることはしない。
入れないが、覚えておくことは出来る。覚えておくというのは、次に見た時に同じかどうかを比べるという意味になる。私は覚えるための手を三つ持っている。
数で覚える、順で覚える、位置で覚える。この一行は位置で覚えることにした。紙の右の下、他の字より短い一行、というふうに置く。
比べるためには、二度見る要りが出る。二度目がいつになるかは決まっていない。紙が掛かったままなら、明日も同じ位置にある。
外されたら二度目は来ない。外す手順は聞いていない。掛ける手順だけが声で来た。
私は顔を上げて、床から身を起こした。その時に、紙の匂いがした。
戸の隙間から入ってくる。紙の匂いだ。新しい。
刷ったばかりのものは、この匂いがする。園の掲示が替わった日に、廊下で一度嗅いだことがある。
二度嗅いだ。二度とも、先に来るのは紙の匂いで、後から薄く別のものが出る。別のものは油に近い。
刷る時に使うものだと思う。
三度目を吸う前に、口で息を継いだ。鼻を一度休ませると、次の一度で元の強さが取れる。休ませる長さは十を数えるほどになる。
十のうちに、匂いは隙間の高さから上がってくる。速さは遅い。房の空気は下が動かない。
四度目で、油に近いほうが先に来た。順が入れ替わっている。紙のほうが先に薄れたのだと思う。
二つの匂いは減り方が同じではない。減り方の違いを、私は数で持っていない。あるのは順だけになる。
一度目から三度目までが紙で、四度目が油だ。四つのうち三つが同じで、一つが別になる。
新しい紙だ。新しいのに、あの紙が刷られたのは私が生まれるより前かも知れない。
刷った年は紙には出ていない。裏に透けて見えたのは、年と数のような並びだった。
並びの一つは四桁だ。もう一つは三桁か四桁になる。
どちらも読めていない。読めていないものを、私は二つ覚えた。
その二つは、いつか読めるかも知れない。読めなければ、覚えたままで終わる。
管へ寄った。管は壁の下、床から三十センチのところにある。太さは五センチほどになる。
向こうの房まで通っている。
私は管の縁を指で叩いた。一つ。
それから縁を擦る。
長さは一つ数えるほどにした。
これは返事の並びだ。四日前に二人で作った。初めに決めた場は、読み上げの最中になる。
今は読み上げの時刻ではない。
読み上げの外で鳴らす時は、話しかけになる。
返事が来るまでに、間があった。
四日前は無かった。
あの時は私が指を動かした瞬間に向こうも動いていた。
今日は違う。
間の長さは五を数えるほどになる。
それだけ待ってから、向こうの音が来た。
一つと擦る。並びは合っている。ただし遅い。
遅い理由は幾つも考えられる。管から離れていたのかも知れない。器へ寄る前だったのかも知れない。
考えられる理由を並べても、どれか一つへは絞れずに終わる。挙がったのは三つで、そこで止まった。
私は続けて叩いた。三つ。これは数を訊く時の並びだ。
向こうが返す。二つ。それから一つ。
二つと一つで三になる。私の側の数と合う。私は管へ口を寄せた。
「こっちも三つある」
声は向こうから来た。
低い声で、一息で切れる。私は指で管を二度叩いた。これは聞こえたという印だ。
それから、書かれた数を訊いた。作りは二つ叩いてから止めることにしてある。向こうの返事が来る。
「書いてあるのは二つだ」
二つだ。私の紙も二つになる。三つあって、二つ書かれていて、三つ目が空いている。
二つの房で同じだ。
同じというのは、差が無いという意味になるとは限らない。私はその先を考えようとして、途中で止めた。
考える材料は二つしかない。並びを作るには足りない。
管の縁へ額を近づけた。管の中は冷たい。房の板より下にある。
管を通ってくる音は、途中で何にも当たらない。その音は形が動かない。四日前に作った並びが、四日目でも同じ形で届く。
形が同じでも、届くまでの間は動いた。今日は五になる。四日前は零だった。
その二つの間に何があるかは、こちらからは見えない。私はそれを間の長さとしてだけ持っている。
二十の房のうち、幾つが同じかは分からない。押して戻る組は、どの房でも二つで止まった。
人の入っていない房でもそうだった。空の房で二つ書かれているなら、書かれたものは中に居る者と関係が無いことになる。
関係が無いのに書かれているなら、書いた二つは房の側の何かだ。中に居る者の側の何かなら、空の房では止まる回数が違うはずになる。
私は数え違えたのかも知れない。二十のうち、幾つかは聞き逃している。
車輪が遠い側にある時、押す音は換気の音に混ざる。混ざる区間は、突き当たりに近い四つだ。四つは数から外すことにした。
外すと、確かなのは十六になる。どれも二つだ。
十六のうち、空だと分かっているのは二つになる。残るところは、混ざる区間にあった。
私は指を離した。管の縁に、指の跡が残る。跡は油の膜で、指の腹で撫でると滑る。
撫でた。滑る幅は指三本ぶんになる。膜は撫でる度に薄くなった。
八ほど数える間に、滑りが元へ戻る。跡の形は指では追えない。
跡そのものは残っている。触れて分からないだけになる。数えることは、私には出来ない。
寝床に横になる。板の上に布が一枚あって、その上に体を乗せる。腹の下へ手を入れると、板と体の間に隙間が出来た。
隙間は前より広い。腹が前へ出てきている。出方は四日か五日に一度で、昨日と今日は動いていない。
動いていないのに、隙間は広い。測り方は指を何本入れられるかになる。
今日は三本だ。十日前は二本だった。
三本と二本の間に、何日あったかは数えてある。
十日になる。その間に一本増えた。この速さが続くなら、次の一本は十日後になる。
続くとは限らない。そのことを、私は前に一度学んだ。器の量が増えた時、増え方は一定ではなかった。
私は目を閉じた。戸の外の紙の位置は分かる。上から三つ目の金具だ。
床から一メートル六十になる。
私の目の高さは一メートル五十二だ。測ったのは特別管理区画へ来る前になる。八センチ足りない。
足りない八センチは、背伸びで届く。そこで格子の目が邪魔をする。
目の高さと私の目の高さは合わない。直す手立ては無い。
数を並べる。三つの欄。
二つの記入。二十の房。十六の確かな数。
四つの外した房。二つの空き。
六つのうち、二つは今日の数だ。三つの欄と、二つの記入になる。
残る四つは今日までに数えたものだ。二つを混ぜると線が歪む。混ぜないことに決めてある。
四十日目に一度失敗した。あの時は器の量と日数を一つの並びへ置いて、増え方を出そうとした。その増え方は次の日に外れた。
量と日数で数え始めた日が違ったからだ。初めの合わないものは、並べても足りない。
六つの数を並べた。繋がる線は出てこない。
線が出ないのは、間に一つ欠けているからだ。そのものの名を、私は知らないままにしてある。
知らずに数だけを持っている。数は減らない。
増えもしないという意味になる。一行の字を思い出した。
用いた例、零件。読めたと思っただけの一行だ。
零件という並びは、園の紙に何度も出てくる。申出は零件。閲覧も零。
処置の記録の欄に零件と入っていたこともある。零件と書くための欄が、紙の側に用意してある。そう作ってあるということは、零のままの日が続くと分かっていたという意味になる。
分かっていて刷った。刷った枚数は私の見た並びが四桁なら千を超えた。その紙は何処かに積んである。
積んである紙は、まだ使われていない。今日、四十枚が出た。
四十は二十の房の倍だ。理由は分からない。片側十で両側二十、二十では四十にならない。
この廊下だけではないのだと思った。特別管理区画の外にも房はある。四十という数は、園の全部を数えた時の数かも知れない。
名の読み上げは四十だった。
十日前に四十一から減っている。四十と四十が並ぶ。並んだところで、同じ四十かどうかは分からない。
分からないものを二つ並べて置いておく。次の四十が来た時に三つになる。その時に線が引けるかも知れない。
あの二人の手つきを思い出した。押して、戻す。押して、戻す。
二つで止めて、それから間を置いた。
間を置いた後で、紙を外して掛け直した。向きを見るためだ。
向きは廊下の側になる。こちらではない。
私の側を向いていたら、私は三つの欄を読めた。そうすると、三つ目の名を知ることになる。
それでも、書かれていないことは変わらない。変わらないが、名は分かる。
名を知るというのは、それが何であるかを知ることとは違う。私は自分の名を知っている。
二人の手は、房ごとに同じ動きをした。押して、戻す。
二つで止めて、間を置く。間の長さも房ごとに一つに決まっている。変わらない動きを二十回続けると、動きは手のほうで決まるようになる。
それは速い。二十番目の房で止まった時間は、一番目より短かった。
その分を、私は数えていない。初めから測っておく要りがあった。
戸の外で、紙が動く音がした。風の仕業ではない。
廊下に風は無い。換気の口は天井にあって、下へは落ちてこない。
音は一度きりだった。紙の端が金具に当たる音だ。当たった位置は上のほうになる。
下の端が当たると、もっと鈍い音が出る。二つの音を私は聞き分けられる。
聞き分ける稽古をした覚えは無い。当たった後、静かになった。
紙は掛かったままになっている。私の側からは、裏しか見えない。裏には何も刷っていない。
白い面のほうが房の側を向いている。
白い面が一枚。
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除外の区分の様式 交付の一覧表
一、交付の実施
本様式の交付は令和二百十四年十一月二十日に行った。時刻は十時四十分である。交付の対象は当園の収容個体とした。
交付した枚数は四十であった。交付を受けた者の署名の欄は、本様式に置いていない。交付に当たった職員は二名になる。二名の別は当園の当番表による。
二、様式の別
本様式は令和二百九年に刷ったものであった。刷った枚数は千二百であった。当園へ配った分は四十になる。
残りの枚数の置き場は当機構の倉とした。倉の別を記す欄は、本一覧表に置いていない。刷った年から本日までの間に、当園が本様式を用いた例は無かった。
三、記入の欄
本様式の記入の欄は三つであった。第一が系統、第二が処置の履歴になる。第三の欄の名は、本様式に刷っていない。
第一と第二は本日中に記入した。第三は空のままとした。第三に記入する時期を定めた記載は、当園の定めに見当たらない。記入に用いた筆記具は当園の備品による。
記入は四十枚とも同日に済ませた。空室の分も同様に扱うものとした。
四、用いた例
本様式には、用いた例の数を記す欄が置いてある。当該の欄には零件と記してあった。
零件のまま交付を行った例は、本年度において本件のみになる。前年度は交付そのものが無かった。当該の欄を改める手続は当機構の定めによるものとした。
五、掲示の位置
交付した本様式は、各房の戸の外の金具へ掛けるものとする。金具は上から三つ目を用いるものとする。
掛けた向きは、記入の面を廊下の側とした。個体の側から記入の面を見る手立てについては、当園の定めに記載を置いていない。
掛けた後の点検は日に一度行う。点検の当番は本日から三名とした。点検の結果を記す欄は当園の日誌の右の下にある。




