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人間館 ―絶滅危惧種ヒトの飼育記録―  作者: 智珠
第七章 機構

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第095話 九十六字

野生復帰訓練 実施の申合せ


一、掲示の文言


本申合せに定める掲示の文言は、別紙の様式による。文言の字数は九十六字とした。一字も改めないものとする。


改めた例は当機構に無い。改める場合の手続を定めた記載は、本申合せに置いていない。文言を定めた年は令和二百七年であった。


定めた者を記す欄は、本申合せに置いていない。別紙の様式の裏には、刷った年と枚数のみを記す。


刷った枚数は本年度が二千であった。前年度は二千二百になる。減らした事由は当部門の別の綴へ記すものとした。


文言の三行目は数の行とする。数の出所は当機構の年次の統計によるものとした。三行目の字の大きさは、他の二行より小さいものとする。


小さくする度合いは刷る者の裁量とした。別紙の様式を最後に検めたのは令和二百十一年であった。検めた者の欄は空のままになっていた。


本年度に版を刷り直した回数は一回であった。刷り直した事由の欄には、版の摩耗と記してある。摩耗の度合いを測った記録は当機構に残っていない。


刷り直す前の版は廃棄したものとされている。廃棄の記録は当部門に無かった。


二、掲示の場所


本掲示を掲げる場所は、各区画の廊下の壁とした。一区画につき一枚を限りとする。先に掲げてある掲示との間は、五センチ以上を空けるものとする。


空けられない場合の扱いは当園の判断によるものとした。壁の面から掲示の下の端までの寸法は、当園の裁量による。下の端を他の掲示へ揃える旨の定めは置いていなかった。


特別管理区画については、当該の個体へ写しを一枚渡すものとする。渡す方法を定めた記載は、本申合せに置いていない。渡した旨を記す欄は当園の日誌に置いてある。


渡した写しの回収については、本申合せでは触れていない。回収した例も当園に残っていなかった。写しの折り方は渡す者の裁量による。


三、申し出


応じる者はその旨を申し出るものとする。申し出を受ける者を定めた記載は、本申合せに置いていない。申し出の方法を定めた記載も置いていない。


本年度に申し出のあった例は、当園に無い。前年度も無かった。前々年度に一件あった旨の記載が当園の日誌にあり、当該の日誌の当該の頁は残っていなかった。


頁の欠けた旨を記す欄は、当園の日誌に置いてある。当該の欄は空のままになっていた。欠けた頁の番号は、前後の頁から二百七と二百八と分かる。


掲示を出した回数のみを当園の日誌へ記すものとする。本年度に出した回数は四回であった。応じた者の数を記す欄は、当園の日誌に置いていない。


置く旨の議も当園に残っていない。前年度までに議を求めた園は零であった。求める手続は当部門の内規によるものとした。


本申合せを最後に改めたのは令和二百九年であった。改めた箇所は掲示の場所の条のみになる。改める前の条文は当園の綴に残っていなかった。


──────────────────


 目が覚めた時、灯は白い。五時三十分に点いている。八日前からそうなる。

 私は起きて、床へ足を下ろした。石は昨日と変わらない冷たさになる。

 三十数えると分からなくなる。数え終えてから、器の並びを見る。


 左から粥と粉と汁になる。三つとも昨日の位置にある。動かしたのは私ではない。夜のうちに触った者がいるなら、位置がずれているはずだ。


 ずれていない。粥の高さは指の一本と半分だ。十六日前に増えた分が、そのまま続いている。


 匙を入れて、底を撫でた。輪は今日も残る。輪の径は器の底の半分ほどまで広がる。

 私は輪の外を先に食べる。


 外から食べると、輪が最後まで残る。食べ終えるまでに二十二回運ぶ。

 回数は昨日と揃っている。器を並べ直して、格子の前へ立った。


 廊下で音がする。硬い物を壁へ当てる音だ。一度目と二度目の間が四つ空いている。

 四つのうち、三つ目のところで金の擦れる音が入る。擦れる音は短い。その後に、紙を平らに伸ばす音が続いた。


 伸ばす音は二度ある。一度目より二度目が長い。

 押す力は二度目で強い。私は見る窓の下へ立った。

 窓の縁は目の高さより上にある。

 顎を引くと、廊下の突き当たりの手前までが視野に入る。


 突き当たりの手前の壁に、紙が四枚ある。昨日までは三枚だった。

 四枚目は左の端に付いている。他の三枚との間が空いていて、幅は指の二本ぶんほど取ってある。


 先の三枚は白が落ちている。

 四枚目は白い。差は離れていても出る。字の並びまでは入らない。


 入るのは行の数に限る。四枚目は三つだ。

 先の三枚は行が二つや四つで、三つは四枚目に限る。行の長さも違う。四枚目は上の行が長く、下へ行くほど短い。


 先の三枚は、上の行と下の行の長さが揃っている。刷る時に長さを合わせる紙と、合わせない紙がある。どちらが多いかを、私は数えたことがない。

 私は顎を戻して、格子から手を離した。手の平に格子の跡が二本ついている。跡は消えるまでに十ほど数える。


 消えるところを見ていると、その間は廊下の音が遠い。耳が変わった分になる。音のほうは変わっていない。


 戸の外で足音がした。二人ぶんではない。一人ぶんの間隔で、歩幅が短い。

 止まる位置は戸の正面に当たる。

 鍵の音が三つ入った。外の戸が開く。

 外の戸と内の戸は同時に開かない。二つの間に人が入って、外の戸が閉まってから内の戸が開く。


 その間が今日は長い。数えると十四だった。前は十一で揃っていた。

 三つ延びている。その三つに何があったかは、こちらからは見えない。


 内の戸が開いた。確認の係が入る。

 白い上着の腕の先が、手首より二センチ上で止まっている。折り返した分だ。


 折り返しの縁が硬い。

 そこに糸の色の違う一本が走っている。繕った跡になる。上着の右にあって、左には無い。


 係は箱を床へ置いた。箱の角に数字の札が貼ってある。

 札の数は七だ。来た回を、私は三度とも見ている。数は動いていない。


 七のほかの数を、私は見たことがない。箱の中を開けて示されたことも無い。

 係は蓋を半分ほど開けて、手を入れる。開ける幅は毎回変わらない。

 中の物が見える幅より狭い。こちらに見えるのは出てきた物に限る。


 係は耳の器を出して、私の耳へ当てた。冷たい。当てている間、私は息を止める。

 そうしろと言われたことは無い。


 初めの回に止めた。そのまま続けている。

 器の先は細くて、耳の穴の入口で止まる。奥までは入らない。

 入らない造りだ。奥まで届く器を、私は前の房で見ている。あれは奥まで入って、抜く時に音がした。


 器が鳴った。係が読み上げる。

 三十六度八分になる。この前は三十六度九分だった。


 差は一分だ。

 この差を記す欄があるかどうかを、私は知らない。読み上げの声は低い。そのままで、語尾のところで上がる。


 上がり方は前の回と変わらない。動かない分を、私は数に取らずにおく。声のほうに数は付いてこない。


 係は次に、床の板を出した。板は薄くて、縁が銀になる。縁は角のところで丸い。

 指を当てても切れない造りだ。

 板の上へ乗る。裸足のままだ。板は冷たくない。

 石より温い。乗っている間、足の裏が板の温さを取る。


 取り終えると、板と足の裏の差が消える。それからも、私は動かない。

 体を振ると数が出ない。前に振って、二度乗り直したことがある。


 数字が出るまでに六つ数えた。五十四・六キログラムになる。

 十六日前は五十三・八だった。引くと〇・八の差が出た。


 増えた分は、私が数えたのではない数になる。

 粥と粉の高さが上がった分になる。高さの上がりを、私は指の幅で覚えている。差は半分ぶんだった。


 係は板の数を紙へ書いた。手を動かす音が短い。鉛筆ではない。

 先の細い物で、押しつける音がする。


 押しつける音は二つ続いて、一つ空く。数字を書く手つきだ。三つ書いて、点を打って、また一つ書く。

 私は口を開けた。それから、訊く言葉を選んだ。その間に、係は紙を膝の上へ置き直した。


「私も出られますか」


 係は書く手を止めない。動かしたまま答えた。


「掲示のことは掲示の担当が扱います。こちらの手順は体温と体重の二つになります」


 係は紙を閉じて、箱へ入れた。板も後から収まる。

 順は板が先で、紙が後だ。順が替わったことは一度も無い。


 蓋を閉める音が一つした。閉める時、蓋の縁が箱の縁へ当たって鳴る。

 音は箱の角で高い。真ん中は低い。


 係は立って、内の戸のほうへ向いた。

 それから、上着の下から折った紙を出した。紙は四つに折ってある。筋のところが白い。


 係は紙を戸の下の口へ入れた。口は戸の下にあって、高さは指の一本ぶんになる。入れる時、手の甲がこちらへ出た。

 甲に横の傷が一本ある。

 傷は古い。色が周りより薄い。

 長さは指の二本ぶんほどだ。真ん中のところで少し太くなっている。


 入れ終えて、手は引かれた。内の戸が閉まる。

 その後で、外の戸が開く音がした。今度の間は十一だった。


 入る時と出る時で、間の長さが違う。理由は紙に書いていない。私は紙を拾った。


 折り目のところに指を当てて、開く。

 四つの面が出る。字は上の面にある。裏には無い。


 紙は薄い。透かすと、下の面から字の影が来ない。片面の刷りだ。

 私は紙を鼻の近くへ寄せる。


 匂いは油に近い。刷りの油が立っている。

 字のあるところだけが匂う。余白のところへ鼻を寄せると、匂いが薄い。


 薄くなる境は字の並びの端だ。そこから外は紙の匂いになる。

 房の匂いに近い。乾いている。


 私は息を止めて、もう一度嗅いだ。止めてから嗅ぐと、初めの一息が強い。

 二息目からは濃さが動かない。濃さの落ちる速さを数えると、三つだ。

 最後の一つで、油の匂いは紙の匂いへ混ざる。そこから先は分けて嗅げない。

 私は紙を膝の上へ置いた。膝の上は平らではない。布を折って、その上へ置き直した。


 字は三行ある。

 一行目が一番長い。二行目は一行目より短い。三行目が一番短い。


 字の高さを見た。一行目と二行目は同じだ。三行目だけが低い。

 指の腹を当てて比べると、三分の二ほどまで落ちる。

 低い字は離すと読めない。目を寄せると読める。

 近づける先は、目から指の四本ぶんのところだ。それより近いと、今度は滲む。


 私は字を数えた。一行目から順に、指で押さえながら数える。

 押さえると、押さえた字の右が見える。左は指の下だ。


 右から左へ戻る時に、数を一つ落とすことがある。それを防ぐ手を私は持っている。五つごとに指を離して、離した回数を別に数える。


 一行目が四十一だった。二行目が三十九になる。

 二つで八十だ。三行目は十六になる。合計は九十六だ。

 数え直した。

 二度目も九十六だった。三度目は数えない。二度で合えば、そこで止める。


 止める形は前の房で覚えた。あそこで数えるものは、器の縁の欠けの三つだけだった。欠けは縁の上と下と、注ぎ口の側にあって、三つとも位置が動かない。

 据わったものは、何度数えても数が揃う。


 紙は違う。字は動かないが、行の間や字の高さは、目の位置で違って見える。そういうものを数える時は、目の位置を先に決める。


 私は膝を立てて、その上に肘を置く。そうすると、顔の高さが揃う。

 高さを決めてから数えると、二度で合う。揃えないと、三度目が要る。


 合ったことを、私は取っておく。合うようにしてある紙になる。合うようにしてある紙を手に持ったのは、この房へ来てから初めてだ。

 前の房では、紙は壁の側にあった。壁の紙は数えられない。一字ずつ当たるには、紙が動かないことと、指が届くことの二つが要る。

 二つが揃ったのは今日になる。揃うまでに三十一日かかった。かかった日数を、私は指で数えている。


 字の並びは詰まっている。行と行の間は字の高さの半分ほどだ。

 一行目の頭に一字ぶんの空きがある。二行目には無い。


 三行目にも無い。空きがあるのは一行目に限る。

 空きの分、一行目だけが右へ寄っていた。私は一行目から読んだ。

 文言は当機構の名で始まる。名の後に、訓練の名が来る。


 名の後に、期間の数が置いてあった。

 期間は四十日だ。その後に、出る先の距離が入る。距離は百二十キロになる。


 数はそこで一度切れる。切れた先は、応じることの出来る者の条件だ。挙げてあるのは二つになる。

 年齢と、身体の状況だ。


 年齢のところに数は入っていない。身体の状況のところにも入っていない。

 どちらも語で書いてある。適当と認めた者、と書いてある。


 認める者を記した箇所は、一行目には無い。二行目は手続の行になる。応じる者はその旨を申し出ること、と書いてある。

 申し出るという語の後に、点が一つ打ってあった。点の後に来るのは掲示を掲げる期間だ。日数は十四になる。


 十四日の後は、掲示を出した回数を日誌へ記す旨の一句で終わる。最後の字は少し右へ流れている。刷りの版の端に近い分だ。


 私は二行目をもう一度読んだ。申し出る先が書いていない。

 誰へ、が無い。何処へ、の三字も見当たらなかった。


 私は申し出るための欄を探した。三度読んで、三度とも最後の行で終わった。最後の行は数だった。


 紙の折り目に指を入れた。

 折り目は四本ある。縦に一本、横に一本。開いた時に十字になる。

 十字の交わるところが少し破れている。傷は短い。長さは爪の半分ほどだ。

 折って開いてを繰り返した紙になる。


 私が折ったのではない。渡される前から筋が付いていた。


 折った者が誰かは、紙の面に出ていない。折り目の内側に、細かい毛羽が立っている。

 反対の面には出ていない。出る面と出ない面があるのは、折る向きが一定だった分になる。

 向きが替われば、両側に立つ。前の房で、紙を両向きに折ったことがある。あの紙は二日で切れた。

 私は紙を四つに戻した。畳むと、折り目が三行目の上を通る。位置は三行目の字の頭から二つ目のところになる。


 二つ目の字が折り目で切れる。そうなると、その字は読めない。

 私は紙を開き直した。開けば読める。


 開いた時の紙は、完全には平らにならない。折り目の線が浅い山になる。

 高さは指の先の三分の一ほどだ。押さえると下がった。


 押さえた手を離すと、また上がる。戻る速さが、押さえていた時間で変わる。長く押さえると、戻りが遅い。


 昼になった。廊下の音が減り方を揃えている。午前の終わりから、足音の間が三つぶんほど遠くなる。

 廊下の音が減る。器が下げられる時刻は過ぎている。今日は下げに来ない。


 来ない日は前にもあった。数は三日に一度ほどだ。私は器を格子の前へ寄せた。

 そうしておくと、次の分が置きやすい。


 置きやすいかどうかを、置く人が言ったことは無い。私がそう決めている。寄せてから、房の中を往復した。


 行きは五歩、帰りは三歩になる。壁の位置は替わっていない。

 息が上がるのは行きの終わりだ。上がる位置は昨日と揃っている。


 揃っているなら、体のほうは動いていない。腹の下は前へ出ている。

 その分を、私は測っていない。手元に物が無い。

 あるのは布と器と紙と、隅の六つになる。そのうち、量を出せるのは秤に限る。秤の皿は掌ほどの広さで、人が乗る造りにはなっていない。


 昨夜の数を思い出した。

 腹の中が動いたのは十一になる。八日前は八つだった。三つ増えている。


 増えた三つのうち、二つは寝入る前だ。残る一つは灯の点る前になる。間は測っていない。

 目が半分開いている時に測る手を、私は持たない。


 この房には口が三つある。見る窓と、戸の下の口と、壁の管だ。三つとも、外から中へは通る。


 見る窓からは光と音が来る。戸の下の口を通るのは器と紙だ。

 管を通るのは音に限る。中から外へ出たものを数えると、器が三つ出てくる。

 器は毎日出て、毎日戻る。器のほかに出たものを、私は思い出せない。


 管を叩く音は出ている。あれは向こうの房まで行って、そこで止まる。その先から、廊下へは出ない。


 見る窓へ声を出したことはある。前の房でだ。

 ここでは出していない。出した声は、廊下に人がいない時に空へ抜ける。

 人がいる時は、こちらを見ない。目を向けない者へ声を出す形を、私は取ったことがない。教わった覚えも無かった。

 三つの口のどれからも、私の側の数は出ていかない。入ってくる数が積もる。残るのは私が覚えている分に限られる。


 紙は三枚になった。厚い一枚、薄い一枚、そして今日の一枚だ。

 三枚のうち今日のが一番薄い。三枚を重ねると、上の一枚だけが滑る。


 滑る分、上に置くと落ちる。私は今日の一枚を下にした。そうすると、上の二枚の重さで平らになる。


 厚い一枚は、この房へ来た日に渡された紙だ。

 区画の決まりが十二あって、番号が振ってある。十二のうち、九つは禁じる形で書いてあった。三つは許す形になる。

 許す形は三つある。水と便と、灯の下で目を閉じることだ。三つとも、申し出る先は書いていない。

 申し出るという語が、そもそも出てこない。


 薄い一枚は器の置き方の紙になる。左から粥と粉と汁の順に刷ってある。その順で置く旨と、位置を替えない旨の二つが書いてある。


 替えたい場合の欄は無い。替えた例も書いていない。

 私は二枚を今日の一枚と並べた。三枚とも、こちらから何かを言う欄が無い。


 無いことは三枚に共通する。それを、私は今日まで並べてみたことがない。

 三枚を横に置くと、無いのは欄のほうで、言葉のほうではないと分かる。言葉はある。

 申し出るという語が、今日の紙には出ていた。語が来て、欄の来ない紙が残る。


 平らにしてから、寸法を当たった。使うのは指の幅になる。一本の太さは、前に器の縁で合わせて覚えている。


 縦は指の十四本ぶんと少しだ。横は十本ぶんに余りが付く。

 余りの量は近い。縦と横の比は、目で四対三に近い。


 昨日の掲示は二対三だった。

 あれは廊下の紙で、これは手の中の紙になる。二つは別の刷りだ。文言も違う。


 違うところを並べると三つになる。行の数と字の高さと、下の端の切り方だ。三つのうち、下の端は今日の紙のほうが真っ直ぐになる。

 私は格子の前へ行って、耳を管へ寄せた。金の縁が耳たぶに触れる。冷たさが移るまでに三つ数える。


 管の中は静かだ。息の音も来ない。私は爪で縁を二度こすった。

 こする音は叩く音より細い。


 細い音の後の一つは、問いになる。形は前に作ってある。

 こする、叩く、待つ。三つで一つの問いだ。


 私は一度叩いた。返ってこない。

 間を置いて、もう一度入れた。今度は二つ返る。

 二つは否だ。私が訊いたのは、そちらにも紙が来たか、という一つになる。返ったのは否だった。


 間は七つ空いた。

 前は六つになる。一つ延びている。その一つを、私は数に取った。


 私は続けて入れない。二つ叩くのがしんどいと、向こうは言った。八日前になる。

 それからは一つで済ませている。


 一つで済ませると、返るまでの間が長い。その間に、私は管の縁の錆を見る。

 錆は縁の下側にある。上側には無い。


 水が下へ落ちる分だ。落ちた先は床の隅で、そこの色が濃い。幅は指の三本ぶんある。


 午後になった。灯の色は替わらない。

 動くのは光の帯だ。戸の下の隙間から入る帯が、床の上を動く。


 帯は朝は戸の近くにある。昼を過ぎると、房の中ほどまで来る。私は紙を帯の上へ置いた。


 帯の上に置くと、下から光が来る。

 そうなると、字の影が濃い。深くなるのは三行目だけだ。一行目と二行目は元から読める。


 三行目は字が低い。背の低い字は影が浅い。帯の上に置くと、影が足りる。

 私は膝を折って、紙の上へ顔を寄せた。三行目を読む。三行目は数の行だ。

 前回の実施における生存の割合、と頭にある。


 その後に数が続く。百分の十一と刷ってあった。

 分母が何かは書いていない。百のうち十一、と読める。


 百という数を、私は前に紙で見ている。あれは頁の番号だった。字が同じでも、置く場所が替わると別の物になる。

 私は紙の縁を三行目の字へ当てた。縁は真っ直ぐだ。

 当てると、字の頭と縁の間に隙が出る。隙は一行目で狭い。


 三行目で広い。その分、三行目の字が低いことになる。


 差を指の腹で測ると、爪の三分の一ほどだ。それより細かくは出せない。

 細かく出すには物差しが要る。房に物差しは無い。

 無いものを数えることは出来ない。

 私は隙のほうを数える。隙は一行目で紙の厚みの二枚ぶんだ。三行目では三枚ぶんになる。


 紙の厚みは今日の一枚で測った。重ねて、指で挟んで、離す。その時の指の間の幅が、枚数の分を出す。


 私は十一を指で押さえた。すると、光が指の下で切れる。数が読めない。

 指を離すと戻る。


 二度やって、やめた。帯は動く。速さを見ると、床の目地を一つ越えるのに三十ほど数える。

 三十を三度数えると、帯は紙の端まで来た。その位置では下からの光が斜めだ。角度が付くと、三行目の影がまた浅い。

 私は紙を帯の中ほどへ戻した。そこでもう一度読んだ。

 百分の十一のままだ。読み直しても数は動かない。


 動かないほうの数と、動く数がある。動くのは体重と、腹の中の回数になる。動かないのは、刷ってある数になる。


 私はもう一度、見る窓の下へ立った。廊下の四枚目は左の端にある。

 こちらの紙と同じ文言のはずだ。同じかどうかは、離れていて確かめられない。


 確かめる手は一つある。行の長さの比を見ることだ。手の中の紙は、一行目と三行目の長さの比が目で五対二になる。


 廊下の四枚目も、五対二に見える。目で取った分になる。測ってはいない。

 当たるには近づく要りが出る。近づく道は無い。


 私は顎を戻した。

 その時に、窓の縁が顎の下へ当たる。位置は毎回変わらない。当たるところの皮が厚くなっている。


 厚くなった分を、私は指で確かめる。周りより硬い。押した時の戻りで分かる。

 戻りが遅いほうが厚い。

 厚くなるまでに三十一日かかった。日数は指で数えてある。

 一つの場所へ当て続けると、体が替わる。紙の側は動かない。


 夕方になった。帯は戸のほうへ戻り始める。

 朝の道を逆に通る。行き着くと、床は元の色に戻る。

 私は紙を布の下へ入れた。厚い一枚と薄い一枚の間になる。

 挟むと、上下から押さえられて反らない。反らない分、次に出す時に折り目が増えずに済む。


 増やしたくはなかった。折り目が三行目の上を通る形になっているからだ。


 入れる時、紙の向きを揃えた。字のある面を上にする。そうしておくと、次に出した時に開く手が一度で済む。


 一度で済む形を、私は物ごとに持っている。器は左から並べる。

 布は下の一枚を先に捲る。紙は字のある面を上へ向ける。三つとも、決めたのは私だと言える。


 決めた旨を書いた紙は無い。

 控える欄も無い。それでも、順は替わらない。動かすのは私になる。

 器を見た。汁の器の底に輪が残っている。輪は乾くと白い縁になる。

 内側は器の色のままだ。


 私は縁を指でなぞった。ざらつく。

 ざらつきは指の腹に残らない。離すと消える。


 管の縁に指を置いた。向こうは静かだ。

 音の無い時は、こちらからは入れない。決めごとではない。


 私がそうしている。そうしている旨を、紙に書いた者はいない。窓の下の帯は戸まで戻った。

 戻ると、房の中は一つの明るさになる。灯の白だけだ。その下では、紙の白と布の白の濃さが揃う。


 差が出ないのは、光が一つの側から来る分になる。朝の帯が来ると、また出る。私は布の下へ手を入れて、紙の角に指を当てた。


 角は四つとも立っている。

 折り目のところだけが柔らかい。そこから先に切れる。何度開けるかは、数えていない。

 申し出ることと、紙は書いた。書き手は紙の面に出ていない。折った者も同じだ。

 面にあるのは字だけになる。

 差し入れた手の甲には、横の傷が一本あった。傷のある手は、紙を入れて引かれた。後に残った口は、指の一本ぶんの高さになる。

 紙の下から三行目に、百分の十一と刷ってある。この紙で数が出ているのは、そこだけだ。


──────────────────


野生復帰訓練 実施の年次の統計


一、本年度の実施


本年度の実施は三回であった。実施した園の数は五十になる。実施しなかった園の数は、本統計に記していない。


当該の園は当部門の別の表へ控えてある。前年度の実施は四回であった。減った事由を記す欄は、本統計に無い。


二、応じた者


本年度に応じた者の数は、園ごとの欄に記した。当園の欄は──とした。──の意味を定めた記載は、本統計に置いていない。


零と記した園は十一であった。──と記した園は三十九になる。両方を合わせると五十になった。


数字を記した園は無かった。


三、生存の割合


前回の実施における生存の割合は百分の十一であった。前々回は百分の九になる。その前は百分の十四であった。


三回の平均は百分の十一・三になる。割合の分母に何を取るかを記した記載は、本統計に置いていない。


分母を問われた例は本年度に一件あった。答を控えた欄は、本統計に置いていなかった。


四、中止した例


本年度に中止した例は二件であった。中止の事由を記す欄は、本統計に置いてある。二件とも空のままになっている。


空のまま綴じた例は前年度に三件あった。空を埋めた例は当機構に無い。


五、本統計の欄


本統計の欄は十一である。前年度は十三であった。減らした二つは、応じた者の年齢の欄と、応じた者の体重の欄になる。


減らした事由を記す欄は、本統計に置いていない。前年度の統計は当部門の綴の三段目に残っている。


二つの欄は、そこでは埋まったままになる。

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