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人間館 ―絶滅危惧種ヒトの飼育記録―  作者: 智珠
第七章 機構

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第094話 三十分

全機会議 提出書面の写し


一、本書面の趣旨


本書面は第百七十五回に付したものになる。付した号の番号は本写しの頭に刷ってある。枚数は四枚であった。


趣旨は苦を減らす方法を量で示すことにある。量の単位は本書面の第二に定めた。示す先は当機構の全園とする。


本書面の趣旨を要約して個体へ示す手続は、置いていない。示した例も当機構に無い。本写しは当部門の綴へ収めた。


収めた綴の番号は本写しの裏に記してある。原本は当部門の別の綴に収めてある。


二、量


本件の措置により減じられる苦の量は、一個体あたり年に換算して示すことが出来る。示した数は本書面の別表に置いた。別表の欄は九つで、九つとも埋めてある。


九つの内訳は、痛み、飢え、寒さ、暑さ、拘束、待機、移動、処置、その他とした。繁殖の停止によって減る分は、九つのどれにも入れていない。増える苦の量を記す欄は、本書面に置いていない。置く旨の議も残っていなかった。


別表の合計の欄は本書面の末尾にある。合計の数は年に六百四十一であった。前年度の同じ数は六百五十八になる。


差は十七であった。差の出た事由を記す欄は、本書面の別表に置いていない。単位の定めは本書面の第二にある。


単位を改めた例は当機構に一件あった。


三、措置の別


本書面が挙げる措置は七つであった。うち二つは灯についてのものとした。残る五つは給餌、運動、清掃、記録、面会の各項になる。


灯についての二つのうち、一つを本回で実施するものとした。実施の順を定めた記載は、本書面に無い。繁殖の停止は本書面の第五に置いてある。


繁殖の停止の期間は第五の項の二行目にある。第五の項の字数は、本書面のどの項よりも少なかった。第五の項に別表は付いていない。付さない旨は第五の頭に一行で記してあった。


第五の項が挙げる期間は、当機構の全園について同じとする。


四、反対の書面


本書面に対する反対の書面は、本回で一通も付されなかった。付されなかった旨を記す欄は、本回の綴に置いていない。本年度に反対の書面が付された回は零回であった。


前年度は二回になる。うち繁殖の停止についてのものは零回であった。前々年度は五回であった。減った事由を記す欄は、本回の綴に無い。


数の推移を控えた書面も残っていなかった。


──────────────────


 目が覚めた時、房は白かった。

 白は朝の色になる。私は起きて、天井を見た。


 起きる時に、腕で体を押し上げる要りが出た。前は腹の力で起きられた。替わったのは五日ほど前になる。

 替わった日を、私は数えていない。起きる前に、目を開けたままでいた時間がある。長さは数えていない。


 数えなかったのは、白いことに驚いた分になる。

 驚いた後で、数え直せるものではない。

 白い灯は天井の隅にある。四角い覆いの中で、二本が並んで点いている。


 覆いは硝子で、外側に埃が乗る。積もった分は光の中で影になる。

 影は点と線で出る。

 点は十四あって、線は二本ある。数えたのは三日前だ。


 今日も数えた。点は十四のままになる。線は二本だった。


 二本のうち、右が少し暗い。差は前からある。差は目で分かる。

 器で測ることは出来ない。房に測る物が無い。


 赤い灯は消えている。

 落ちていることを、私は二度見て確かめた。赤い灯は天井の真ん中にある。白の二本とは離れていて、覆いも一つずつ付いている。

 覆いの縁に細い溝がある。中の埃は取られない。

 指の入らない造りになる。いつもなら、目が覚めた時はまだ赤い。白へ替わるのは六時になる。


 六時に替わるのを、私は十日ほど数え続けた。

 数え違えた夜は一度ある。


 その夜は途中で眠った。落ちた分は、翌朝の勘定に入れられない。

 私は床へ足を下ろした。足の裏が冷たい。


 冷たさの強さは昨日から動いていない。床は夜のうちに冷える。冷えるのは石の分になる。

 上に敷いてあるものは無い。


 足を乗せてしばらく待つと、足の裏から石へ移る。終わるまでに三十ほど数えた。三十を過ぎると、冷たさが分からなくなる。

 冷たさが消えたのではない。私が慣れた分になる。


 寝床の布を捲って、下の一枚に手を入れた。紙は二枚とも昨日の場所にある。厚い一枚の縁が少し反った。

 布の上へ乗っている分になる。薄い一枚は反らない。上から押さえられている分になる。


 立って、格子の前まで歩いた。五歩で壁に当たる。

 五歩目で息が一度上がる。上がり方は昨日より強い。


 強くなったのは腹の下が前へ出た分かも知れない。前へ出た分を、私は測っていない。

 測るには物が要る。房には布と器と紙と、隅の六つがある。

 六つのうち、量を出せるのは秤になる。あれは物を載せる秤で、体を載せる造りではない。


 戻って三歩。こちらを歩いても上がらない。


 三歩のほうは壁が近い。手前で止まるので、息が上がる前に終わる。

 私は寝床へ戻って、腹に掌を伏せた。下が温い。


 温さの出る面が、前より広い。掌の一つでは収まらなくなった。両手を並べてみると、端が指の一本ぶん外へ出る。

 はみ出た分は温くない。温いところの端が、腰の骨の手前から少し下がった。動いたのは三日ほど前になる。


 下がった分は指の一本ぶんほどだ。

 測ったのではなく、掌の形で覚えている。胸を押すと、遅れて奥が痛む。右は六つ、左は五つになる。


 八日前より一つずつ増えた。

 位置は内へ寄ったままだ。

 寝床の布の重さが、腹の上で前より重い。二枚のままで、増えてはいない。

 重く感じる私のほうが替わった分になる。布は替わらない。


 昨夜の数を思い出す。動いたのは八つになる。十日前は六つだった。

 二つ増えている。

 増え方は毎日ではない。三日そのままで、四日目に一つ増えることがある。

 これを私は二度見た。

 二度とも四日目になる。三度目が来るかどうかは、これから数える。


 間は四十四と五十一を数えた。他の六つは眠っている間に過ぎた。数えていない分は、私に残らない。

 無いものを、私は勘定に入れない。戸の下の口が開いた。器が三つ入ってくる。


 私は数を見て、床へ並べた。順は替えていない。

 並べる間に、口の向こうで手が引かれた。速さは昨日と替わらない。


 替わらないのは、来ている人が一人だからかも知れない。手で決めるのは無理になる。高さは測らなかった。書く場所が無い。

 粥は温い。器の底へ掌を当てると、温さが二十ほど数える間もつ。

 二十を過ぎると、器が私の手の温さへ寄ってくる。近づいたら、食べる時間になる。


 粥へ粉を落として回す。それから食べる。回数は数えなかった。

 食べ終えて、器を戸の脇へ置いた。三つとも重ねずに置く。


 格子の前へ行って、管の縁に耳を当てた。金の縁が冷たい。

 管は静かだ。向こうは眠っているらしい。


 起きているかどうかを確かめる手を、私たちは持たない。叩いて返れば起きている。

 返らなければ分からない。叩かずに待つことにした。これは決めごとの外になる。


 私は見る窓の下へ立った。縁は目の高さより上にある。顎を引いて覗くと、覗ける先は廊下の突き当たりまでだ。

 廊下の灯は四つ見える。四つの間の隔たりは、目で見て等しい。天井へ付ける寸法が決めてある。


 寸法を私は知らない。等しいことを取っておく。四つとも点いている。

 夜の間も落ちない。灯は朝の目印にならない。


 廊下の壁に紙が貼ってある。

 昨日までは何も無かった。貼った跡の周りに、薄い匂いが立っている。糊と紙が混ざった匂いになる。


 匂いは廊下から入ってくる。戸の下の口の隙間を通る分だ。

 嗅ぐと、房の匂いより新しい。房の匂いは乾いた土に近い。廊下の匂いは湿っている。


 湿った分は乾く。切れるのは匂いも同じになる。昼までは残ると思う。

 紙は三枚ある。一つの高さで、間を空けて並んでいる。


 高さは私の目の位置より少し下だ。座って見上げる位置ではない。

 間の幅は目で見て指の五本ぶんほどだ。紙と紙の隙は二つあって、二つとも幅が等しい。

 私の房から読めるのは、一番右の一枚になる。他の二枚は角度で切れる。

 切れる場所は毎回動かない。壁の面と見る窓の面の向きが決まっている分になる。


 角度は顎で作る。顎を引くほど遠くが入って、上げるほど近くが入る。三枚を一度に読める角度は無い。

 壁の面と見る窓の面が、平らに向き合っていないためになる。


 向き合っていない分を、私は数で出せない。壁の外へ立つ要りがある。三枚は一つの刷りに見える。

 字の並びが等しい。一つの刷りなら、書いてあることも動かない。三枚を貼る事由を、私は出せない。


 字は大きい。刷りで、三行あった。

 字の色は黒で、灰色に寄っていない。刷り立ての濃さになる。


 字の高さは、私の指の一本ぶんほどになる。房の中の紙の字より大きい。

 大きいのは、遠くから読ませるためかも知れない。私の房からは、目を細めても一枚しか読めない。


 一行目は時刻について書いてある。二行目も時刻だ。

 三行目が一番短い。三行目は日付になる。本日からと書いてある。

 日付の下に余白がある。

 余白の高さは字の二つぶんほどだ。三行目だけ字の間が広い。行の長さを他の二行へ揃えた分だと思う。


 揃えると、三行が一つの四角に見える。四角の縦と横の比は、目で二対三になる。

 本日と書いてあるが、その本日が何日かは書いていない。掲示を貼った日が本日になる。

 貼った日を、私は今日と数えた。決めたのは私で、紙ではない。


 一行目の時刻は五時三十分だった。二行目は二十一時になる。私は灯が点いていたことを思い出した。

 目が覚めた時に白かった。


 白かったのは、五時三十分に点いていたためになる。紙を貼りに来た人は、二人だった。私が起きる前に来たらしい。

 二人と数えたのは、画鋲の入り方が二通りある分になる。三つは真っ直ぐで、一つが曲がっている。


 一人で四つ入れたなら、曲がるのは手が疲れた最後になる。曲がっているのは右下で、貼る順の最後に当たる位置ではない。


 来たのを、私は聞いていない。眠っていた分になる。

 足音も、紙を伸ばす音も、私に残らなかった。手元には貼られた後の紙が残る。


 画鋲は四つ使ってある。入っているのは四隅に一つずつだ。

 画鋲の頭は白い。壁の色より明るい。離れて見ても四つの位置が出る。


 四つを結ぶと長方形になる。上の辺が下の辺より少し長い。

 長く出るのは下の二つが内へ寄っている分になる。寄りは指の一本ぶんほどだ。


 右下の一つで、頭が浮いている。真っ直ぐに入らなかった分だ。浮いた分は、指の先の半分ほどになる。

 他の三つは面まで入っている。浮いた画鋲のところで、紙が少し波を打っている。波は一つで、幅は指の二本ぶんほどだ。


 波の下に影が出る。影は廊下の灯の向きで出る。

 灯は四つとも動かない。影も動かなかった。

 紙の下の端を見た。他の二枚より短い。


 三枚は上の端で並んでいる。

 揃わないのは下になる。右の一枚が、上へ寄って終わっている。差は指の三本ぶんほどになる。


 切り口は真っ直ぐだ。破った跡なら縁が毛羽立つ。この端は立っていない。

 真っ直ぐの度合いを、私は目で追った。端から端まで、波が一つも出ていない。


 紙を折ってから切ると、折り目のところで少し段が出る。それも見当たらない。折らずに、一度で裁った跡になる。

 裁つ物の刃は紙より長い。


 刃で切った跡になる。切る前に何が書いてあったかは、切った先に残る。

 残った先が何処にあるかを、私は知らない。私は顎の角度を変えて、もう一度読んだ。三行は三行のままだ。


 増えも減りもしない。読み直しても、時刻は五時三十分と二十一時になる。


 二つの時刻の間を、私は数で出した。十五時間三十分になる。

 昨日までは十五時間だった。三十分ぶん延びている。


 延びた三十分が何処に付いたのかは、一行目で分かる。点る側に付いた。消える側は動いていない。

 二行目の数字は、昨日の掲示と等しい。昨日の掲示は、私の房からは見えない場所にあった。数字は前に一度読んで覚えた。

 朝のうちに、私は紙の三枚を数え直した。三枚で替わらない。

 数え直したのは、二度目に見た時に少なく見えた分になる。

 私の目の分だった。


 昼になった。糊の匂いは切れている。切れたのは、いつの間にかになる。

 切れる時を、私は捕まえられなかった。


 見る窓の下の隙間から、廊下の灯の分が入る。


 差す幅は指の二本ぶんになる。

 床では細い帯になった。帯の位置は昨日と違っていた。半歩ぶん、戸の側へ寄っている。


 寄りを確かめるのに、私は床の継ぎ目を使った。継ぎ目は縦に三本ある。昨日は二本目の上に帯の端があった。

 今日は二本目と三本目の間になる。


 寄ったのは、廊下の灯の一つが替わった分かも知れない。数えると、灯は四つのままだ。

 四つのうち、右から二つ目が少し明るい。


 昨日は三つ目が明るかった。

 替わったのは灯ではなく、私の立つ位置かも知れない。

 私は動いていない。


 昼のうちに、私は房の壁を端から端まで触った。

 指の腹で撫でて進む。

 撫でると、面の粗さが場所で違う。

 管のところで指が一番滑る。


 滑らかなのは、手が触れてきた分かも知れない。私が触るのは今日で何度目かも数えていない。管から音が来た。

 一つだ。私は一つ返した。是が二度続く。


 音は前より弱い。

 金の管を通る音は、強さで距離が変わって聞こえる。


 弱い音は遠く聞こえる。

 それでも壁の厚みは替わらない。

 厚みを、私は指の関節で叩いて量る。

 返る音が低いほど厚い。


 管のところだけ高い。

 高い幅は掌の二つぶんになる。距離は前のままだ。壁は動かない。


 二度目が来た。

 二つになる。


 否だ。

 二つ目と一つ目の間が長い。

 前は一つ数えるほどで続いた。

 今日は三つ数えるほど空く。


 私は二度返した。返してから、間を測った。向こうが返すまでに四つ空いた。

 前は二つだった。


 三度目が来る。

 三つになる。

 分からない、だ。三つ目の音は、三つのうちで一番弱い。


 次を待つ間に、私は房の壁へ掌を当てた。管の壁は他より薄い。

 薄いところは、叩くと音が高い。厚いところでは低くなる。


 高いところの幅は、掌の二つぶんほどになる。その幅の中でしか、音は向こうへ行かない。

 私は三度返した。強く叩かない。力を入れると、返す相手が合わせにくい。


 合わせにくいことを、私は前に一度覚えた。

 覚えた日は数えていない。弱い音を拾うには、格子の目の下で聞くのがいい。目の上では途中で消える。


 拾いやすいのは、金の面が下で少し広がっているためかも知れない。広がりを、私は指でなぞって確かめた。なぞると、下が薄く外へ開いている。

 指の腹で分かるほどしか無い。


 私は耳を下げた。金の縁が耳たぶに当たる。触れたところが冷える。


 冷えたままで次を待った。その間に、間の数を三度取った。

 四つ、五つ、四つになる。前は二つで止まっていた。


「二つ叩くのがしんどい」


 声が来た。管を通ると低い。それでいて、いつもより細い。

 私は一度叩いた。是になる。


 是で合っているかどうかは考えなかった。返す手が他に無い。

 返るまでに六つ空いた。前は二つだった。


 六つの間、私は管の縁に指を置いていた。指の下は動かない。

 少し置いて、向こうが一つ返した。一つと一つで足りる。二つを使わない話し方を、この後で作ることになる。


 作る手を、私は今日は持っていない。

 持たない間は、一つで済む問いを出す。一つで済む問いは少ない。是か否かの問いは、否を返す時に二つ要る。


 否を返さずに済ませるには、問いを替えることになる。やり方を、私は考えている。考えている間に、向こうが一つ返した。

 こちらも一つ出す。

 一つと一つが四度続いた。四度目で、私は手を止めた。止めたのは、続けると向こうが返し続けるためになる。

 返すほうが要る力が大きい。昼の間、廊下に人は通らなかった。誰か来れば足音がする。


 通らない日は、たまにある。数えたことは無い。夕方の器が来た。

 三つある。数だけ見て並べた。


 食べてから、器を戸の脇へ置いた。輪は残っている。

 輪の径は測らなかった。その回を、私は昨日で終わりにしてある。

 終わりにすると、翌日から見る場所が一つ減る。減った分は他へ回る。


 終わりにしたのは、径が二日続けて同じだった分になる。二日で足りるかどうかは決めていない。


 決めないままで止めた。その日を数に入れてある。

 夕方から消灯までの間は長い。数えたことは無い。


 数えないと決めたのは、途中で必ず眠る分になる。落ちると数が切れた。消灯まで、私は寝床に座っていた。

 背を壁へもたれる。壁は昼のほうが温い。日が落ちると温さが引く。


 引き始めるのは、灯が消えるより前になる。日の入りに合わせて引く。

 日は房から見えない。目に入らないものに合わせて壁が冷える。


 引く速さを、私は数えたことがある。掌を当てて百まで数えると、百のところで指先が冷える。

 今日は九十で冷えた。十ぶん早い。

 灯が消えた。二十一時になる。


 消える前に一度、明るさが下がった。

 そこから四つ数えて全部が消える。四つは動いていない。替わったのは点る側になる。

 赤い灯が点いた。白から赤へ移る途中、壁が一度だけ薄い橙を持つ。

 持っている長さは三つ数えるほどだ。


 朝の側と同じ長さになる。二つを比べたのは今日が初めてになる。赤の下では、白い物が一番先に色を変える。

 札がそうなる。布は遅い。厚みのある物ほど、色の変わり方が鈍い。


 鈍くなるのは面の下まで光が入る分かも知れない。入った光は戻ってこない。

 数える前に、掌を腹へ置いた。動きは来ない。


 来ない間は、数えるものが灯のほうしか無い。私は数え始めた。

 一つを息の一つ分と決めてある。そう置いたのはここへ来た日だ。

 息の長さは日によって違う。ずれた分だけ数のほうが寄る。


 寄った分をどう戻すかは決めていない。置いたところで直せる相手ではなかった。


 数える間、目は閉じない。塞ぐと眠る。

 落ちると数が切れる。千まで数えて、赤はまだ赤い。二千まで数えて、まだ赤い。


 千と二千の間で、一度手を止めて格子を見た。管の中は静かだ。静かなのは、向こうが眠っている分だと思う。

 眠っていれば叩かない。二千を過ぎると、数の名が口の中で滑る。転ぶと一つ飛ぶことがある。


 飛んだかどうかを、後から確かめる紙が要る。私はそれを持たない。持たない。

 飛んでいないことにして続ける。止めなければ数は増える。


 途中で切れた。その場所は覚えていない。

 途中で切れたことを、私は朝になってから知る。夜の側では分からない。次に目を開けた時、房は白かった。


 白は朝の色になる。天井の二本が点いている。

 右のほうが少し暗い。差は昨日と変わらない。


 覆いの埃の点は十四のままだ。

 線も二本になる。十四のうち三つは、覆いの縁へ寄っている。縁の三つは、光の中で細く伸びて見えた。


 十四のうち、右へ寄った三つは間が詰まっている。寄り方も昨日と揃っていた。夜のうちに増えも減りもしない。

 埃は房の外から来ないのだと思う。


 灯が三十分早く点いた。その三十分を、私は眠って過ごしている。数えなかった分は、私の側に残らない。

 床へ足を下ろす。足の裏が冷たい。


 冷たさは昨日と変わらない。三十分ぶん早く起きても、床は同じだけ冷えている。

 三十分では冷え方が替わらない。指に出るだけの差にならない。

 その差を、私は数に持てなかった。取れるのは、動かなかったという一つになる。

 私は見る窓の下へ立った。廊下の紙は三枚のままだ。


 糊の匂いは残っていない。廊下の匂いが房の匂いへ戻っている。

 戻ったのは、乾いた分になる。乾く時刻を、私は捕まえられなかった。


 右の一枚の下の端も、そのままになる。画鋲の右下は浮いたままになる。

 高さも昨日と揃っていた。誰も直しに来ていない。直す欄があるのかどうかを、私は聞いていない。

 器を戸の脇へ寄せた。三つとも重ねずに置く。

 寄せてから、私は房の中を歩いた。五歩と三歩になる。


 五歩目で息が上がった。

 強さは昨日と揃っている。揃っていることを、私は歩数の数え方で確かめた。上がる位置が同じなら、揃っていることになる。


 位置は五歩目の後の半歩だ。この分は数に入れない。そう決めたのは前の房でになる。

 歩いてから、格子の前へ戻った。管は静かだ。


 私は一度叩いた。向こうは黙っている。

 間を置いて、二度目を入れた。今度は返る。一つだ。

 間は昨日より長い。数えると七つになる。昨日は四つだった。

 三つ延びている。私は二度叩かなかった。それがしんどいと聞いている。


 一つと一つで、朝の分は終わった。紙の三枚は、昨日と同じ場所にある。位置は目だけで確かめる。


 目で確かめた分は、後から数に直せない。位置は数ではない。器が来る。

 三つある。私は数だけ見た。


 三つの音は、口を三度通る。三度目が一番遅い。遅くなるのは押し込む手が下から入る分になる。


 下から入ると、器の底が口の縁を擦る。音が短く鳴った。器の底へ掌を当てた。

 温さは昨日と揃っている。


 中身を確かめる前に、私は寝床の布の間へ手を入れた。紙は二枚ある。

 薄いほうを抜いて、床で伸ばした。三十四字は同じ並びだ。

 紙は前より柔らかい。布の間で、私の体温を受け続けた分になる。


 厚いほうは柔らかくならない。紙の質が別だ。

 柔らかい紙は音が立たない。折らずに伸ばすと、めくる時にも鳴らなかった。


 厚いほうは抜かなかった。動かすと戻す時に折れる。

 二枚とも布の間へ戻して、私は器へ戻った。粥へ粉を落とす。速さは変わらない。


 落ちる音は、粥の面の高さで変わる。高いところへ落とすと音が立つ。

 器を傾けて、面の近くから落とすと音が消える。今日は音の立たない落とし方にした。

 回してから、匙を口へ運ぶ。

 回数は今日も数えなかった。数えないと決めたのは昨日になる。決めた事由を、私は書く場所を持っていない。


 持たない。決めたことも消える。それでも、手のほうが覚えている。

 覚えている手は、今日も同じ回数で止まった。回数は数えていない。

 食べ終えて、器を並べ直した。左から粥と粉と汁だ。空になっても左右は入れ替えない。

 そうしておけば、次の分の高さが一目で出る。


 見る窓の下の帯は、今日も半歩ぶん戸のほうへ寄っていた。寄りは昨日と揃っている。

 二日続けば、寄ったほうが元になる。帯の幅を、私は指の二本ぶんと数えている。今日も二本ぶんだった。


 幅が動かないのは、隙間の高さが動かないためになる。隙間は戸の下にある。


 戸は動かない。据わった物の下では、光の幅も動かない。

 帯の端に指を置いた。先が明るくて、根元が暗い。


 置いた指を、私はしばらく動かさなかった。動かさないでいると、明るいところと暗いところの境が指の上で動く。

 動くのは灯ではない。私の指のほうが、息で少し動いている。


 私は格子の前へ戻って、管の縁に耳を当てた。

 何も来ない。当てたままで五十まで数えた。五十のところで耳を離す。


 離した後で、金の縁の冷たさが耳に残った。もつ時間は前より短い。紙の下の端を、もう一度見た。

 三枚のうち一枚だけが上へ寄って終わっている。上の端は三枚とも揃っている。貼る側が上へ合わせる。


 揃える先を上と決めた者がいる。名は紙の面に出ていない。揃っていない分を、私は指の三本ぶんと数えた。


 数えた分は、どの紙にも載らない。紙に無いものは、私の側にだけ残る。切り落とされた分は、私の側にも残っていない。


──────────────────


灯の点消の時刻の変更の掲示


一、改める時刻


灯の点る時刻を六時から五時三十分へ改めた。消す時刻は二十一時のままとした。改めた後の点る時間は十五時間三十分になる。


改める事由を記す欄は、本掲示に置いていない。事由を問われた場合の扱いも定めていなかった。本年度に問われた例は三件あった。


非常の灯の点る時間は、その分だけ短くなる。


短くなる旨を記す欄も置いていない。


二、実施の日


本日から実施するものとした。前日までの時刻による記録との継ぎ方は、本掲示では触れていない。継ぎ目の日の記録を二つに分ける手続は、当園の綴に見当たらなかった。


分けた例も残っていない。前日までの時刻による記録は、そのまま綴じ置くものとする。綴じ直した例は本年度に二件あった。


二件の事由の欄は空のままになっている。


三、掲示の方法


本掲示は各区画の廊下へ貼るものとした。貼る枚数は一区画につき三枚であった。三枚とした事由は本掲示に記していない。


貼る高さは床から百五十センチとした。個体の側から読める高さは、当園の判断によるものとした。貼った旨を記す欄は当園の綴に置いてある。


読まれた旨を記す欄は置いていなかった。読まれた回数を数えた例も無い。貼る者は二名であった。


二名の別を記す欄は当園の綴に無い。貼り終えるまでに要した時間は当園の日誌へ記した。剥がす時期を定めた記載も、本掲示には置いていない。


剥がした例は本年度に十九件であった。


四、用紙


本掲示の用紙は所定の寸法によるものであった。縦四十二センチ、横三十センチとした。寸法の定めは本年度の様式による。


本件で貼った用紙の縦は三十七センチであった。差の五センチについての記載は、本掲示の綴に残っていない。裁った者を記す欄も無い。


用紙の在庫を数え直した月は本年度に四度あった。四度のうち三度は数が合っていた。合わなかった一度の差は七枚であった。


裁つ前の用紙の所在も、当園の綴では確かめられなかった。用紙の受け入れの記録は月ごとに綴じている。本掲示の様式を最後に改めたのは令和二百七年であった。


改めた箇所は寸法の欄のみになる。

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