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人間館 ―絶滅危惧種ヒトの飼育記録―  作者: 智珠
第七章 機構

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第093話 三十グラム

給餌の帯の変更の実施の記録


一、実施の日


本年十月十六日に実施した。実施の時刻は十六時四十分であった。時刻を記す欄は本記録に置いてあった。


指示を受けたのは同日の十時二分であった。受けてから実施までの時間を記す欄は、本記録に無い。当日中に実施するものとした。


当日中に実施しなかった例は本年度に六件あった。六件の事由の欄は、六件とも空のままになっている。本記録の様式は本年四月に改めたものであった。


改めた箇所は時刻の欄を加えた一点になる。加える前の記録に時刻は残っていない。


二、改めた帯


当該の個体の帯を第二から第三へ改めた。増量は一日二百四十グラムとする。改めた事由を記す欄は、本記録に置いていない。


本部の指示によるものであった。指示の書面は本記録の裏面へ綴じた。裏面に綴じた書面の枚数は一枚であった。


当該の個体の体重は五十三・八キログラムであった。第三の帯は六十五キログラム以上とする。足りない場合の扱いを記した記載は、本年度の取り扱いに無い。


第二の帯は五十五キログラム以上になる。当該の個体は第二の帯にも足りていなかった。足りないまま第二の帯によっていた期間は、九月十二日から本日までとする。


三、同区画の他の一名


同区画の他の一名の帯を、第一から改めた。改めた先の帯の名は〈帯の外〉とする。〈帯の外〉の量を定めた記載は、本記録にも本年度の取り扱いにも無い。


本年度に〈帯の外〉を用いた例は、本件が初めてになる。用いた事由を記す欄は、本記録に置いていない。当該の一名の体重は十四・二キログラムであった。


第一の帯は四十五キログラム以上とする。


第一より下の帯を置いていない旨は、本年度の取り扱いに記してある。


四、読み上げ


変更の内容は、当該の個体に対して読み上げるものとした。読み上げる者は給餌の係とする。読み上げる文言は本記録の別紙に定めてあった。


文言の字数は三十四字であった。読み上げた旨を記す欄は本記録に置いてあった。読み上げの後に問いを受けた場合の扱いは、本記録では触れていない。


本日の読み上げで問いを受けた例は無かった。


五、消灯後の当番


消灯の後、当番が廊下を通るものとする。通る回数は一夜につき四回とした。当番が見た事項を記す欄は、本記録に置いていない。


通った回数のみを記す。本年度に回数が四に満たなかった夜は十一夜あった。満たなかった事由の欄は、十一夜とも空のままになっている。


──────────────────


 私は格子の前に座っていた。

 座ると、腰の右のほうが先に痺れる。


 痺れは足の付け根まで下りて、そこで止まる。


 立ち上がると引く。引くまでに十ほど数えた。


 床の帯はもう無い。廊下の灯の分は、日が落ちると壁の色に混ざって見えなくなる。


 見えなくなる時刻を、私は捕まえたことが一度もない。目を離した間に消えている。


 管の中は静かだ。向こうは午後の間ずっと叩いてこなかった。


 叩いてこない日は、これで三日目になる。三日のうち、二日は夜に一度だけ来た。


 私は一度叩いてみた。返らない。

 少し置いて、もう一度叩く。今度も返らない。

 二度で止めた。三度目を出すと、こちらの数のほうが増える。


 増えた分は、返ってこないまま残る。残る側は私になる。

 壁にもたれて、天井を見た。継ぎ目は三本ある。二本が縦で、一本が横だ。

 横の継ぎ目の上に、小さな窪みがある。丸くて、指の先ほどの大きさになる。


 昼の光では窪みの中まで見える。底は平らだ。


 戸の外で足音がした。

 速さは昼の係と揃っている。


 足音は房の前で止まった。器の来る時刻だ。


 夕方の器が来る。三つある。

 数を二度見た。二度とも三つだった。最後の一つの来る音は、他の二つと違っている。


 戸の下の口が三度開いた。一度に一つずつ入ってくる。二つの時は一度で済んでいた。

 三つ目が入る時、口の向こうの手が一度止まった。止まった長さは二つ数えるほどになっていた。


 止まってから、器が押し込まれた。二つ目までの手つきと同じではない。押す速さは前の二つより遅い。

 昨日までは二つだった。粥と粉で、水は別に来る。今日はその三つ目が汁になっている。


 汁の器は浅い。粥の器と比べると、深さは半分ほどになる。

 縁が薄くて、持つと熱が指へ早く来る。器の材は他の二つと違う。

 粥と粉の器は白で、厚みがある。

 汁の器は灰色で、指で弾くと音が高い。


 縁の一箇所が欠けている。そこと反対側では、縁の厚みが同じに見える。

 欠けは小さくて、爪の先の半分ほどだ。欠けた面は滑らかになっている。


 新しい欠けではない。角が立っていれば新しい。この欠けは指を当てても引っ掛からない。

 押し込まれた器の底が、床の石に当たって鳴った。音は短い。二つの時より一つ多い分、鳴りも一つ多くなる。


 私は三つを床へ並べた。順は左から粥、粉、汁になる。

 決めたのは私になる。この房へ入った日にそう置いた。並べると、三つ目の置き場所が半歩ぶん右へ寄る。器が二つの時は動かなかった。


 寄った先に床の継ぎ目がある。その上へ器を置くと、少し傾く。私は継ぎ目を避けて置き直した。


 置き終えた時、戸の下の口が開いた。紙が入ってくる。


 紙は折らずに来る。差し入れる人の手が、口の向こうで止まっている。

 止まっている間に、声が来た。読み上げになる。


 声は戸の向こうから来る。戸を隔てると、高いところが先に落ちる。低い音が残って届く。

 文言は決まっている。始めから終わりまで、息を継ぐ場所も動かない。


 継ぐのは二箇所になる。前の読み上げと同じ数だ。

 十二字目の後と、二十五字目の後だ。二箇所は句点のところではない。息が続かなくなったところで継いでいる。


 読む人が替わらなければ、継ぐところも替わらない。

 前に聞いた時もそうだった。

 私は字数を数えた。三十四になる。

 三十四で切れる。終わってから、手が引かれた。


 引かれる前に、私は口の近くへ顔を寄せた。


「量は戻りますか」


 声は届いたと思う。口はまだ開いていた。答えは来ない。

 手が引かれて、口が閉じた。音は一つになる。

 訊いたことを、私は数に入れた。答えが無かったことも数に入れる。

 粉の器を取り上げた。指を内側へ入れて、粉の面まで下ろす。爪の先が面に触れたところで止めた。


 器の底からの高さが、指の一本ぶんから一本と半分になった。増えた分は、私が数えて出したのではない数になる。


 匙の背でならした筋が入っている。筋は四本ある。昨日までは三本だった。


 四本目は端に寄っていて、他の三本より短い。長さは三本の半分ほどだ。ならす手が一度足りなかった分だと思う。

 筋の深さは四本とも揃っている。深さは粉の高さの十分の一ほどしか無い。


 粥へ粉を落として回す。落ちる速さは前と変わらない。量が増えても、落ちる速さは変わらない。回すと重くなる。

 匙の抜ける速さは、汁を入れない日より遅い。前より一つ数えるほど遅かった。

 汁を足す。汁は薄い黄で、粥へ入れると色が消える。

 混ぜてから四つ数えるほどだ。消えた後の色は、粥に汁を入れない時より少し濃い。器を傾けて縁の近くを見ると分かる。


 真ん中を見ても分からない。厚みのあるところでは、色の差が消えている。味は前と替わらない。


 甘さの来る場所も動かない。

 違っているのは量になる。


 量が増えると、食べ終えるまでの回数が増える。匙で口へ運ぶ回数を数えた。


 二十二になる。昨日は十七だった。

 差は五で、増えた側が今日になる。五という数を、私は覚えておくことにした。持っていても使い道は無い。


 匂いを嗅いだ。

 乳に近い。汁からは何も来ない。

 汁の器を鼻の近くまで持ち上げても、匂いは立たなかった。温いうちなら立つのかも知れない。来た時にはもう温くない。


 口の中で温めると、舌の上に薄い匂いが出る。立つのは飲み込む直前になる。飲み込むと消える。


 鼻から抜ける分が無い。

 食べ終えて、器を戸の脇へ置く。三つとも重ねずに置く。重ねると下の器の縁に跡が付く。

 置いてから、粉の器の底を見た。輪の形で粉が残っている。


 輪の径は器の底の半分ほどだ。指でこすると取れる。

 落ちた分を舐めて、また置いた。

 二つは別の数になる。訊いた回数と、返った回数だ。今日は一と零だ。


 読み上げた内容は、量が増えることだった。帯という言葉が二度出る。一度目は前の帯で、二度目は今の帯になる。

 どちらの帯も数で言われた。二と三だ。


 数の前後に付く言葉は短い。「第二の帯より」「第三の帯へ」の二つになる。その二つの間に、動きを表す言葉が一つある。改めるという言葉だ。


 改めるのは誰かが決めることになる。その者を指す言葉は、三十四字に入っていなかった。

 二から三へ動いた。理由は文言に入っていない。三十四字のうち、理由に当たる字が一つも無かった。


 私は紙を拾って、床で伸ばした。

 字は刷りで、判が一つ押してある。紙の大きさは血統書より小さい。縦が血統書の半分ほどで、横は揃っている。


 折り目は無い。差し入れる口の幅より紙が狭い。判の面は丸い。

 朱の乗りが薄くて、縁の右が切れている。切れ方はこの前に見た判と揃っている。一つの判かどうかを、切れ方では決められなかった。


 朱の色は前より濃い。二つを並べれば分かるほうになる。濃いのは押した日が近いためかも知れない。

 紙の裏を見た。裏は白い。


 白い面を上にして寝床の布の間へ入れた。血統書のある場所になる。

 二枚の間に紙が二枚ある。二枚の厚みは違う。

 血統書が厚い。押すと、厚い側が先に当たる。


 二十一時に灯が消えた。


 全部が落ちる前に、明るさが一度だけ引く。引いてから少し置いて、残りも消える。

 その少しの間を数えたことがある。四つになる。この数は毎晩変わらない。


 赤い灯が点く。房の色が替わり、隅の六つも色を移した。

 濃く出るのは白い札になる。他の五つは、赤の中で色の別が付かない。布は色が沈む。


 秤の皿が赤の中で光を返す。場所は皿の縁の右になる。左の縁は返さない。

 灯の位置が右へ寄っている分だ。


 物の並びは変えていない。左から布。器。

 鋏。紐。秤。

 札になる。六つとも運び込まれた時のままだ。

 布の縁が少し捲れている。上の一枚の右下になる。

 前は捲れていなかった。捲れた分を指で押さえた。


 離すとまた戻る。折り目が付いていない捲れになる。


 鋏の包みは解いていない。結び目の輪は二つのままだ。

 紐は二本で、片方が指の一本ぶん長い。差は測った日から変わらない。


 秤の皿を押した。少し沈んで、戻る。速さは押した時より遅い。

 札は白い。裏を返しても色は替わらない。厚みは血統書より薄いままになる。


 器を戸の脇へ寄せてから、私は手を洗う真似をした。水は夜には来ない。

 布で掌を拭くと、洗ったのに近い動きになる。手つきは揃っている。


 私は寝床へ入った。布は二枚のままだ。三つ目が来る話は聞いていない。

 器が三つになっても、布は二枚になる。数え方が別の紙で決まっているらしい。

 布の重さは、二枚で私の腕の半分ほどになる。腹の上へ掛けると、その分だけ息が浅い。

 私は仰向けになった。腹に掌を伏せる。

 下が温い。温さは臍の下から左右へ出て、骨の手前で止まっている。止まる位置は昨日と変わらない。


 胸を押した。奥のほうが遅れて痛む。右で五つ、左で四つを数えた。

 数は六日前より一つずつ増えた。位置はまた少し内へ寄っている。

 寄った先に骨の縁がある。縁までの隔たりを、私は測る物を持たない。


 寝返りを打つ。右の腰が先に床へ着いて、左が後から着いた。差は一つ数えるほどになる。

 掌を離すと、温さは残る。時間は五つ数えるほどになる。


 五つを過ぎると、布の冷たさが上に来る。

 布は二枚で、下の一枚は薄い。薄い一枚は体の下で温まっている。上の一枚は縁が冷えたままだ。


 腹の中が動いた。一度目は短い。

 二つ数えるほどで止まった。二度目までの間を数える。三十九になる。

 二度目は長かった。三つ数えるほど続く。押される場所は臍の右だ。

 三度目までの間は四十四だった。間は毎回違う。三十九と四十四の差は五だ。


 差が何から出るのかは、私に分からない。持っているのは数えた分になる。

 十日前の間は二十台だった。二十六と二十九を数えた覚えが残る。


 いまは三十台と四十台だ。間が延びている。


 延びた分が何処へ行くのかを、私は知らない。動きの数は減っていない。一晩に数えた動きは、十日前が七つで、今日は六つだった。

 一つ少ない。


 少ないのは、私が眠っていた間の分を数えていないためかも知れない。廊下で足音がした。一つ目になる。

 速さは一定だ。昼に通る係の足音より遅い。房の前を通り過ぎる時、音が一度大きくなって、また小さくなる。


 大きくなる場所は戸の正面だと思う。通り過ぎるまでに、私は十一を数えた。


 足音は戻ってこない。廊下の端まで行って、別の道から出るらしい。

 行きと帰りで同じ道を通るなら、房の前を二度通ることになる。二度目は来ない。


 だから廊下は輪になっていると思う。輪の長さを、私は測れない。二つ目が来たのは、それから長く経ってからだった。

 私は数えていない。眠っていた分がある。

 二つ目の速さは一つ目と等しい。通り過ぎるまでの数も十一だった。

 二つとも、房の前で止まらずに行く。止まる決まりがあるのかどうかを、私は知らない。


 止まるほうがいいのかどうかも決めていない。

 決めたところで、私の側では動かせなかった。足音の他に、鍵の音は来ない。あの音がすれば、戸が開いたことになった。


 夜のうちに戸が開いた例を、私は知らない。ここへ来てから十四回の夜が過ぎた。目を開けたままで天井を見る。

 赤い光の中に、天井の継ぎ目が浮いた。


 継ぎ目は三本ある。

 二本は縦で、一本は横だ。

 太いのは横になる。太いところに小さな窪みがある。丸くて、指の先ほどの大きさになる。


 窪みの中は赤く見えない。


 灯の光が入らない角度だ。

 そこが黒い。


 三つ目の足音が来た。

 速さは前の二つと等しい。


 数も十一になる。


 三つとも十一で揃った。昼に通る係の数は十三だった。歩幅と速さが決まっていれば、数は揃う。

 決めたのが本人なのか、紙なのかは分からない。

 私に数えられるのは、揃っていることになる。


 三つ目の後で、私は四つ目を待った。その間に、腹がもう一度動く。動いた長さは短い。

 一つ数えるほどだ。待つ間に、私は天井の窪みをもう一度見た。黒いままになる。


 目が慣れると、黒の中に薄い縁が出てくる。

 縁は円で、切れ目が無い。


 四つ目は来なかった。


 灯が白へ戻る。

 朝になる。来なかったことを、私は数えていない。取ったのは来た三つの分だった。


 三つと四つの差は一つだ。

 差の分を、私の側で数に取った。

 白へ戻る時は、赤が先に薄くなる。

 引いてから白が乗る。


 二つが重なる間があって、そこで房の色が桃に近くなる。

 長さは三つ数えるほどだ。


 六時だ。私は起きて、床へ足を下ろした。足の裏が冷たい。

 夜のうちに床が冷える。

 冷え方は日ごとに強くなっている。


 見る窓の前に立った。

 縁の高さは私の目より上だ。

 顎を引けば廊下の奥まで入る。

 上げると手前しか入らない。


 入る幅は姿勢で変わる。

 動く量を、私は膝と腰と立った高さの三つで測った。

 奥まで届くのは、立って顎を引いた姿勢だった。

 測った数を、紙の側は持っていない。


 廊下の灯は四つ見える。四つとも点いている。前の房から見えた数は八つだった。

 立って、房の中を歩いた。五歩で壁に当たる。戻って三歩で反対の壁に当たる。


 歩幅は替えていない。


 数も替わらない。

 五歩目で息が一度上がるようになった。上がるようになったのは四日前からだ。その日と今日で、上がり方の強さは変わらない。


 上がるのは五歩目になる。

 三歩を歩いても上がらない。五歩と三歩の違いは長さになる。多いほうで一度、息が追いつかなくなる。


 追いつかない分は、次の一歩で戻る。速さは日ごとに遅い。


 壁に手を当てて、しばらく立った。手のひらが壁の冷たさを取る。

 取ってから離すと、壁に手の形が残る。跡は薄くて、三つ数えるほどで消えた。

 格子の前へ行った。管の中は静かだ。


 朝の器が来た。三つある。夕方と揃っている。

 私は指を器の内側へ入れて、粉の面まで下ろした。爪の先が面に触れたところで止める。


 高さは夕方から動いていない。二度入れて、二度とも同じところで止まった。


 匙の背の筋は四本ある。

 末の一本が短いのも変わらない。ならす手つきが決まっているらしい。


 汁の器も見た。量は夕方と揃っている。

 器の縁の欠けも位置が動いていない。一つの器が二度来ることはあるらしい。

 数えていない。何度目かは分からない。


 欠けを目印にすれば数えられる。私は今日から数えることにした。

 今日が一になる。私は粥を半分で止めた。粉は落とさずに置く。


 置いてから、粉の器を見た。粉は減っていない。器ごと残すと、残した分がそのまま見える。

 器は下げられる。運ぶのは戸の下の口を通してになる。

 残した分が何処へ行くのかを、私は知らない。量として数える欄があるのかどうかも聞いていない。半分残すのをやめた。

 粥へ落として、全部食べる。


 食べ終えて、器を戸の脇へ置いた。輪はまた残っている。径は昨日と揃っている。

 格子の前へ戻った。管の縁に耳を当てる。金の縁が冷たい。


 冷たさは頬から耳の後ろへ抜ける。速さは朝が上になる。

 私は一度叩いた。是になる。


 返ってこない。少し置いて、もう一度叩いた。

 二度目で返ってきた。一つだ。


 三度叩く。分からない、を出したことになる。向こうからも三度返る。


 三つが二度続く。

 ここまでは昨日の運びになる。私は器の数を訊く形を作った。決めたのは前になる。


 決めたのは五日前になる。一つが是、二つが否、三つが分からない。

 この三つでは数が訊けない。だから二度と二度を組にした。この形なら、三つの言葉のどれとも重ならない。

 重ならないことを確かめるのに、二日かかった。確かめたのは向こうと私の両方になる。二度叩いて、少し置いて、また二度叩く。

 これで数を訊いた形にした。


 答えは叩いた数で返る。器が二つなら二つ、三つなら三つになる。返ってきたのは一つになる。


 私はもう一度、二度と二度を叩いた。訊き直したことになる。

 一つが返る。二度目も一つが返る。

 私は一つを数え直した。指で数えても一つになる。耳でも数は替わらない。

 数え違いなら、二度目で別の数が来るはずだ。二度とも一つが来ている。


 向こうが数え違えている場合もある。それを確かめる手を、私たちは持っていない。

 持っていない。来た数をそのまま取る。受けたら、それが今日の数になる。


 昨日は二つだった。一昨日も替わらない。

 私の器は三つある。向こうの数は一つへ減っていた。


 二つの数は、同じ日に動く。向きが逆へ動いた。


「器は一つになったよ」


 声が来た。管を通ると低い。


 私は返す音を持っていない。数を訊く叩き方はあるが、それに答える側しか決めていない。一度叩いた。

 是になる。それで合っているかどうかは考えなかった。


「こっちは二つも来ない」


 声が続く。私はもう一度叩いた。


 向こうも一度返した。二人で一つずつ叩き合う。

 意味は乗っていない。数えると、九つになった。最後の一つで向こうが止めた。


 止め方は返さないでおくことになる。

 そのやり方も、決めた覚えは無い。意味の乗らない音でも、届けば音になる。届いている間は、向こうに人がいた。

 向こうがいる間は、数が数えられる。取れている間は、何も減っていない。昼の光が入る時間へ来ている。

 見る窓の下の隙間から、廊下の灯の分が差した。


 入る幅は指の二本ぶんだ。前の房の棒の間より狭い。床の上で細い帯を作る。

 帯の端は隅の物のところまで届かない。手前で切れていた。


 切れる位置へ指を出した。爪の側が明るく、付け根の側が暗い。

 帯の中の埃が動いている。息を止めても止まらない。


 動く向きは一定ではない。上へ行くものと、横へ流れるものがある。

 数えられる数ではない。光の中で見えるものは、光の外にも同じほどあるはずだ。

 あるはずの分を、私は勘定へ入れずにおいた。取るのは見えた側になる。


 置いたままで、昨日の粉の高さを思い出した。指の一本ぶんしか無かった。

 今日は一本と半分になる。増えたのは残りの分になっている。


 増えた半分が何処から来たのかは、紙に書いていない。書いてあるのは量と帯の数になる。

 向こうの一つが何処へ行ったのかも、書いていない。紙は二つを別々に書いたのかも知れない。私が見たのは一枚になる。


 もう一枚があるかどうかを、私は確かめられない。当たる先が房の外にあった。


 並べたのは私になる。

 並べても、そこから何も出てこない。出てこないものを、私は数に入れない。見えた分だけを数える。


 寝床へ入って、布の間の紙に触った。二枚とも同じ場所にある。厚いほうを指で押した。

 沈んだ分は、離すと戻る。薄いほうは押しても沈まない。布の上に乗っている。


 私は薄いほうを抜いて、もう一度読んだ。三十四字は同じ並びになる。字を指でなぞった。

 刷りの字は紙の面より少し低い。押した分が沈んでいる。


 紙を布の間へ戻した。厚いほうの上に置く。順を決めたのは今日のことだった。

 読んでいる間に、管から音がした。三つだ。

 分からない、が来る。私は何も訊いていない。


 問いを出さない側にも、分からないは届いた。昨日もそうなっている。


 私は三度返した。三つが行って、三つが戻る。

 戻った後で、向こうは止めた。やり方は返さない側になる。


 止まった後の管は静かだ。耳を当てても、何も来ない。

 増えても減ってもいない。埃は指で押すと潰れる。一つ潰したら、元へは戻せない。


 戻せない。押すのは一つでやめた。残りの三つはそのままにしてある。

 管の縁に、私はもう一度耳を当てた。冷たさは朝より弱い。

 房の気が上がった分だと思う。上がった分は数で持てない。器の底の輪を、私は指でなぞった。

 粉が輪になっている。


 径は器の底の半分ほどになる。輪の太さは一定ではない。

 左のほうが太くて、右が細い。器が傾いて置かれた分だと思う。


 傾けたのは私ではない。器は口から出てくる時に、もう傾いている。


 私は器を平らに置き直した。輪の形は動かなかった。

 輪は乾いている。指でこすると粉になって落ちた。


 落ちた粉を掌へ集める。乗った分は、爪の先ほどしか残らなかった。

 量として数えられる分ではない。取れない分は、どの紙にも載らない。

 輪が残るのは粉の器になる。粥のほうには何も残らなかった。粥は水が多く、器の面を滑って落ちる。

 滑る時に底をならしていく。ならされた底は、拭いた後に近くなる。拭いた覚えは無い。


 汁の器には薄い膜が張る。膜は乾くと縮んで、縁の内側へ寄る。

 寄った膜を爪で剥がした。取れた分は丸まって落ちる。軽さは粉より上にある。


 軽いものは床の上を少し動く。粉のほうは息では動かない。息を吹きかけると、指の一本ぶん動いた。

 動いた先は床の継ぎ目だった。溝のところで止まる。


 溝の深さは爪の半分ほどになる。一度落ちたものは、息では出てこない。


 指の先で掻き出そうとして、やめた。

 掻き出しても、置く場所が無い。膜の分は溝に置いたままにした。明日また来る器の膜も、明日また剥がすことになるだろう。


 私は掌の粉を舐めた。味は薄い。

 舐めてから、掌を布へ押し当てた。何も付いていない。付いていない時も同じだけ拭く。


 拭いた布を、私は元の場所へ戻した。置き場は寝床の足のほうになる。三つの器を並べ直した。

 左から粥と粉と汁になる。空でも順は替えない。


 替えないでおくと、次に来た時に高さがすぐ出る。出るのは高さになる。汁の器の欠けを、指でもう一度触った。

 引っ掛からない。


 欠けた分の破片が何処へ行ったのかを、私は知らない。器はここに来る前から欠けている。

 欠けの寸法を、私は爪の先の半分ほどと数えた。数えた分は、私の側に残る。


──────────────────


給餌の帯の別を定める基準の一部改正


一、改める箇所


本基準の第二の項に、帯の別を四つ定めてあった。第一を四十五キログラム以上、第二を五十五、第三を六十五、第四を七十五とした。本改正では第二の項に一つを加えるものとした。


加える先は第一の下であった。前に本基準へ手を入れたのは令和二百十一年七月になる。手を入れた先は第三の帯の量の一点であった。


本改正はそれに次ぐ二度目の改正になる。


二、帯の外


加える帯の名は〈帯の外〉とする。体重の下限と上限を記す欄は、本改正に置いていない。〈帯の外〉に当たる個体を定める者は、当該の園の給餌の係とした。


定めた月日を記す欄は、本改正に無い。本改正の施行の日は本年十月十六日とする。施行の日より前に当たっていた個体の扱いは、本改正では触れていない。


三、量


〈帯の外〉の量を定める欄は、本改正の別表に置いてあった。別表の当該の欄は空のままになっている。空である事由を記す欄は、本改正に置いていない。


空のまま施行した例は、当機構に本件のほかに無い。量を後から定める手続は本改正の裏面に記してあった。定めた例は本年度に無かった。


定めるまでの間の量は、当該の園の給餌の係が決めるものとした。決めるにあたって用いる目安を記した書面は、当部門に残っていなかった。決めた量を控える欄は、本改正に置いていない。


四、辞する手続


増量を受けた個体の側から、増量を辞する手続は置いていない。辞した例は当機構に無い。辞する旨の申し出があった場合の扱いも定めていなかった。


申し出を受けた者が記す欄も置いていない。本改正を起案した部門の名は本改正の頭に刷ってあった。起案の年月日を記す欄も頭に置いてあった。


起案の事由を記す欄は、本改正の何処にも置いていなかった。


別表の当該の欄は、本日現在も空のままになっている。

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