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人間館 ―絶滅危惧種ヒトの飼育記録―  作者: 智珠
第七章 機構

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第092話 三つ目の欄

全機会議 招集の通知


一、会議の別


本会議は書面による。第百七十四回とする。本年度に開いた会議は本件で六度目になる。


出席という語は、本通知では用いない。用いない旨を記した書面は、当部門に残っていなかった。前の書式では用いていた。


改めたのは令和二百三年の三月であった。改めた事由の欄は、当時の綴では空のままになっている。議事録の保存の年限は無期になる。


回を追って番号を付す。番号を付け直した例は、当部門の綴に見当たらない。本会議より前の回の番号は、第百七十三回であった。


回と回との間隔を定めた記載は、本通知に置いていない。前の回からの日数は十九日になる。本年度の六度の間隔は、短いもので十一日、長いもので五十二日であった。


二、付する書面


各号は書面を一通ずつ付する。一通の枚数は四枚を上限とした。下限は置いていない。


一枚のみで足りるとした例は本年度に三件あった。枚数を数える者は、記録を取る者とする。数え違いがあった場合の扱いは、本通知では触れていない。


枚数の内訳を控える欄は、議事録の側に置いていなかった。合計の枚数のみを記すものとした。本年度の合計は、少ないもので二十九枚、多いもので四十四枚であった。


書面の様式は各号の任意による。手書きを認めるものとした。手書きの例は本年度の六度で、いずれも同じ号によるものであった。


三、提出の期限


書面の提出の期限は前日の正午とする。期限を過ぎた場合の扱いを記した記載は、本通知に無い。本年度に過ぎた例は二件であった。


二件とも受け付けている。受け付けた事由を控えた書面は、当部門に残っていなかった。期限より前に出した書面を差し替える手続は、本通知の裏面に記してある。


差し替えた例は本年度に一件であった。差し替えた前の書面は返さない扱いとした。返さなかった書面の綴を、当部門では別に立てていない。


四、欠けた場合の扱い


書面を欠いた号がある場合は、その旨を議事録へ記すものとした。


欠いた号の主張を他の号が代わって述べる扱いは、置いていない。本年度に欠いた例は零件であった。零件である旨を記す欄は、本通知に置いていない。


判は各号が自ら押すものとした。判を欠いた書面の扱いは、本通知では定めていなかった。本年度に判を欠いた例の数を、当部門で数えていない。


本通知を最後に改めたのは令和二百三年の三月であった。改めた箇所は第一の条のみになる。


──────────────────


 六時に綴じ室へ入る。鍵は私が開ける。

 戸の建て付けは下が擦れる。開ける時に一度、閉める時に一度。音は同じ高さだ。


 室の温度は十三度になる。壁の温度計は目盛りが縦に並んでいて、赤い柱が十三と十四の間で止まっている。下の目盛りのほうが近い。

 窓は北を向いている。硝子は一枚しか入っていない。

 外の光は入るが、日は入らない。そういう室では紙が焼ける。


 台は二つある。

 長いのが綴じ台で、短いのが読む台になる。表に板の目が縦に走っている。手を置くと、目の谷に指の腹が乗った。


 板の色は端が濃い。人の手が触る場所で色が抜けている。落ちた形は横に長い楕円になる。


 私は道具を並べる。順は決まっている。錐。


 紐。鋏。糊。

 判。朱肉。左から右へ置く。


 錐の柄は木で、握るところが細い。削った分ではなく、使った分になる。紐は麻でできている。

 巻いたまま置いてある。一巻きで四十件ぶん足りる。前の巻きは十一日もった。


 鋏は刃が短い。

 紙を切る鋏で、紐は切らない。

 麻を切る鋏は室の隅の箱に入れてある。糊は瓶で来る。

 蓋を開けると匂いが立つ。米の匂いに近くて、少し酸い。


 匂いは指へ移る。一度移ると夕方まで消えない。手を洗っても、洗った直後に紙を触ると戻ってくる。

 紙のほうにも残っている。


 判は二つある。受けの判と、綴じの判だ。

 丸い面が受けで、四角い面が綴じになる。


 朱肉は一つで足りる。肉の面は真ん中が窪んでいる。私は端から取った。

 中央を掘ると、次の人が困る。次の人が誰かを、私は知らない。前の人が端から取っていたことは、窪みの形で分かる。


 手を膝の下へ入れて温める。

 十を数えるほど入れておく。

 冷えた指は紙の端を捲れない。六時二十分に、廊下の灯が点いた。

 端から順に点く。綴じ室の前は四つ目になる。


 私は戸を細く開けて、廊下を見る。灯は四つとも点いている。五つ目から先はまだだ。

 朝の廊下は音が無い。七時を回ると、廊下に足音が立つ。

 台へ戻る。読む台の上に、昨日の綴が一つ残っている。第百七十三回の分だ。


 紐の結び目は私が結んだ。やり方は一つで、輪が二つ出る。

 輪の長さを揃えるのが難しい。昨日の分は左が指の半分ぶん長い。


 直そうとして、やめた。直すと結び目が緩む。一度ゆるんだ綴は棚で開く。

 棚は室の北側に六段ある。上から二段目までが本年度だ。三段目から下は前の年になる。


 一番下の段は空いている。一段は空けておくものと決まっている。


 そう決めた者の名を、私は聞いていない。

 二段目に本年度の綴が五つ並んでいる。

 背の幅は同じではない。厚いものと薄いものの差は、指の一本ぶんほどある。


 厚いのは三月の分で、薄いのは八月の分だ。厚さは枚数に付いて動く。私は数えなくても目で分かる。

 背に貼る札は自分で切る。寸法は縦二センチ、横六センチと決めてある。切った端が斜めになると貼り直す。

 本年度の五つは、五つとも貼り直していない。前の年の分には、貼り直した札が二つある。

 貼り直した札は糊が二重になって、少し盛り上がっている。七時に運搬の係が来た。

 戸口で止まる。中へは入らない。


 箱を床へ置いて、受けの紙を差し出す。私は判を押す。受けの判のほうだ。

 係は紙を持って帰る。言葉は要らない。この受け渡しに言葉を使ったことが、私には一度も無い。


 箱は木で、蓋は紐で縛ってある。その結び方は係の側の決まりになる。

 私の側の決まりではない。紐を解く。

 結び目は三つあった。解く順は上からになる。


 中に書面が入っている。折らずに重ねてある。一番上が第一号で、一番下が第十二号だ。

 号の順に重ねる決まりになる。私は上から一通ずつ取り出して、読む台へ並べる。字の頭が私を向くほうへ揃える。


 十一通ある。数え直した。

 十一で変わらない。欠けているのは第九号になる。箱の底まで見ても、第九号の分が出てこない。


 私は箱を傾けて、底をもう一度見た。底に木の粉が少し溜まっている。


 欠けた号がある場合は、その旨を議事録へ記す。その欄は綴の三枚目にある。私は三枚目を出して、欄の位置を確かめた。

 欄は横に長い。字は五つほど入る。

 書く前に、時計を見る。七時十四分だ。

 期限は昨日の正午だから、もう二十日ぶんほどの余裕は無い。欄へ字を入れかけて、手を止めた。戸の外に足音がする。


 運搬の係が戻ってきた。手に一通持っている。箱に入れ忘れたものになる。

 係は戸口で差し出して、そのまま帰った。今度も言葉は無い。


 紙の端が少し折れている。片方の角だけが折れている。

 折り目は一度で、往復していない。第九号の書面だった。これで十二通になる。

 私は三枚目を戻す。欄は空のままだ。

 欠けなかったのだから、書くことは無い。遅れて来た旨を控える欄は、綴の何処にも見当たらなかった。

 枚数を数える。一通ずつ、指で捲って数える。


 四枚が四通ある。三枚が五通。

 二枚が二通。一枚が一通になる。


 合わせて三十七枚だ。上限は一通につき四枚で、超えたものは無い。下限は置いていない。

 一枚のみで足りるとしたのは第十二号だった。その一枚は、上の三分の一しか字が無い。下の三分の二が白い。


 白いところに折り目も無い。

 書いてから折らずに来ている。二枚の二通は第二号と第八号だ。二通とも一枚目の裏まで字が続いていて、二枚目は表で終わっている。

 二枚目の裏に何も無い書面は、綴じると厚みが揃わない。私は間に薄紙を一枚足す。足した薄紙を数える欄は、綴の側に置いていなかった。

 三枚の五通は、第四号から第六号までと、第十号と第九号になる。五通とも一枚目の頭に日付があって、その下に一行あけてある。


 揃っているのは、一つの刷りの版から来ている分になる。版の別を綴の側では数えない。


 手書きの一通を分ける。第七号だ。

 他の十一通は刷りになる。字の太さが揃っていて、行の間も等しい。第七号の一通は、字の太さが場所で変わる。


 字は右へ寄っている。行の頭が揃っていて、行の尻が少しずつ上がっていく。

 傾きは二度ほどだ。墨の濃さも一定ではない。

 書き始めの二字が濃くて、そこから薄くなる。八字ほどで、また濃くなる。

 筆へ墨を含ませ直した回数が、その濃淡で数えられる。四枚で三十一回になる。私は数えたところで、数えたことを書く欄が無いのに気づいた。

 そこで数えるのをやめた。


 十一時を過ぎると、北の窓の光が一度だけ強くなる。外の建物の硝子に当たった分が返ってくる時間だ。強いのは十五分ほどになる。

 その間だけ、台の上の字が読みやすい。私は細かい字をそこへ寄せて読む。


 寄せて読むと、目の疲れが夕方まで持つ。十五分が過ぎると、光は元の高さへ戻った。

 昼は台を離れる。決まりではないが、座ったままだと腰の右が固くなる。


 室の隅に立って、両手を後ろで組む。そのまま肩を引くと、背の真ん中が鳴った。

 場所は毎日同じになる。湯は廊下の突き当たりで汲める。器を持って歩き、戻ってくるまでに灯を六つ通る。


 湯は熱い。器の縁が持てるようになるまで、二十ほど数える。その間に、手のひらが先に温まった。

 温まると指の腹が紙に吸い付く。冷えている時より捲りやすい。その代わり、二枚を一度に捲ることが増える。

 どちらがましかは、その日の枚数による。今日は三十七枚だ。中身は読まない。

 二度読む決まりも置いていない。私が読むのは、綴じるのに要るところだけになる。


 要るのは三つだ。号の番号と、枚数と、判の有無。

 順を決める。読む順は号の順ではない。枚数の多いものから読む。


 多いものから読むと、後のほうで手が楽になる。誰かがそう決めたわけではなく、私がそうしている。


 四枚の四通から始める。第一号と第三号。第七号と第十一号になる。


 第三号の四枚を捲る。行の頭に丸が付いている。

 丸は項の別を示す。項は九つあった。

 「停止」の字を数える。

 九箇所ある。項の数と同じだが、項ごとに一つずつではない。三つ目の項に三箇所あって、五つ目と六つ目の項には一箇所も無い。


 数えたのは、判の押し忘れが字の密なところで起きやすいためになる。密なところは目が滑る。第三号の判は四枚目の右下に押してある。

 面は丸い。朱の乗りが薄くて、縁の一部が切れている。


 切れているのは左の上だ。判を傾けて押すとこうなった。

 第十一号の四枚を捲る。こちらは行の頭に丸が無い。字が続けて詰めてある。


 判は四枚目の左下だった。右下ではない。押す位置の定めを、私は見たことが無い。

 第七号の四枚を捲る。手書きの分だ。


 一枚目の上に日付がある。そこだけが刷りの字に近い。


 書き慣れた手つきになる。二枚目から字が少し大きくなった。

 三枚目でまた戻る。四枚目は一枚目と同じ大きさだ。


 判は四枚目の右下にある。朱の乗りが厚い。

 押した後で指で押さえた跡が、朱のへりに一つ付いている。第一号の四枚を最後にした。四枚とも刷りで、行の間が他のどれより広い。


 一枚目に数の表がある。欄は六つで、六つとも埋まっている。二枚目にも表がある。

 こちらは欄が十二あって、埋まっているのは十一だ。

 空いているのは下から二つ目になる。空いた欄に横線は引いていない。白いままだ。

 三枚目は字だけの頁になる。表は無い。行は四十二ある。

 裏まで続いているかを見た。裏は白かった。


 字だけの頁は綴じる時に丸まりやすい。表のある頁より墨が少ない。

 紙が乾いた形へ戻ろうとする。私は三枚目を台へ伏せて、上へ判の箱を置いた。置いておくと平らになる。


 四枚目を捲る。上の半分が表で、下の半分が字だ。

 下から三行目に、他と違う書き出しの行がある。頭が一字ぶん下がっている。

 下がっている行は、この四枚で一つだけだ。私は一度、目を上へ戻した。上の行は表の続きの説明で、下がった行から書き方が変わる。


 行を読む。目を通すのは要るところだけと決めてあるが、下がった行は位置が要るところに近い。


「記録の一件について、当時の綴の提出を求める」


 それが行の全部になる。次の行に日付がある。令和百九十六年四月。


 その次の行に数がある。当機構の全園で一件。

 その次の行に番号が二つ並んでいた。

 二つは同じ番号だ。


 同じである旨の説明は付いていない。二つ並べて、その下に線が一本引いてある。線の長さは、番号の二つぶんより少し短い。


 私は四枚目を伏せた。

 それから判の位置を見る。判は伏せた側の裏にある。もう一度めくる。


 めくる時に、下がった行がまた目に入った。読む気は無い。目のほうが位置を覚えている。

 覚えているのは、四枚目の下から三行目という位置だけだ。

 数なら持てる。


 判は右下にあった。面は丸い。朱の乗りは普通だ。


 求めがある書面は、綴の別のところへ写す。移す先は採決を受ける様式になる。様式は室の棚の三段目に束ねてある。

 私は椅子を引いて、束から一枚抜いた。

 様式の紙は綴の紙より厚い。

 指で弾くと音が高い。

 採決の別を記す欄が三つ並んでいる。横に三つで、上に小さく数字が振ってある。一、二、三。


 一の下に「可」と刷ってある。

 二の下に「否」と刷ってある。

 三の下は白い。

 刷りの字が無い。


 私は手引を出した。手引は綴じ室に一冊ある。表紙が布で、角が丸くなっている。

 目次を見る。

 様式の項は四十一頁だ。


 四十一頁を開く。


 採決の別の説明が十四行ある。

 一の欄について三行。

 二の欄について三行。

 残りの八行は、記入の仕方と控の扱いになる。


 三の欄についての行は無い。


 私は頁をもう一枚めくった。四十二頁は別の様式の説明だった。

 戻って四十一頁の下も見る。註は付いていない。

 求めは三つ目の欄へ入った。一つ目は可、二つ目は否になる。

 三つ目が何であるかは、手引の何処にも書いていない。


 綴じ紐は二本使う。一本では真ん中がたわむ。

 穴は四つ開ける。上から一寸のところに一つ、下から一寸のところに一つ、その間を三等分して二つになる。錐で開ける。

 三十七枚を一度に開けると、下のほうの穴が斜めになる。私は十二枚ずつ三度に分けて開ける。


 最後の一枚だけが余る。この一枚は上の束へ足す。開けた後で、穴の縁を指でならす。

 ならさないと紐が引っ掛かる。ならすのに使うのは親指の腹だ。爪を使うと紙が毛羽立つ。


 毛羽が立った穴は、二度目に紐を通す時に分かる。抵抗が一段だけ増える。


 増えた分を無理に押すと、紐が裂ける。

 一度裂けると継げない。初めから通し直す。紐を通す前に、判を数えた。


 十一ある。第一号から第十二号まで並べて、押してあるのは十一だ。押していないのは第九号になる。

 遅れて来た一通だった。


 私は第九号の書面を持ち上げて、裏を見た。裏にも無い。四枚の何処にも朱が乗っていない。


 判を欠いた書面の扱いを、私は手引で探した。四十一頁は採決の別で終わっている。

 目次に判の項がある。八十七頁だ。


 八十七頁を開く。判についての説明が七行ある。

 各号が自ら押す。朱肉は室の備え付けを用いる。

 押す位置についての定めは置いていない。欠いた場合のことは、七行の何処にも出てこない。


 私は書面を元の位置へ戻した。戻した後で、綴の三枚目を出す。欠けた号がある場合の欄だ。

 第九号は書面を出している。欠けていない。判だけが無い。

 この欄は書面のための欄になる。判を受ける欄ではない。私は欄を空のままにして、三枚目を戻した。


 倉へ行く。求めのあった綴を探すためになる。

 倉は同じ階の西の端にある。綴じ室から歩いて、灯の下を九つ通る。


 九つ目の灯が点いていない。先月からそのままだ。

 替えの札を出して、返事を待っている。その一つぶんだけ、床の色が違って見える。

 実際に違うわけではない。目が暗さに追いつかないためになる。


 倉の戸は重い。押すと下の縁が床を擦る。その音が長い。


 中は紙の匂いがする。糊のより古い。埃と、乾いた木が混ざる匂いだ。

 目録は入口の台に置いてある。表紙が硬くて、開くと勝手に閉じる。私は左手で押さえて右手で頁を捲る。


 台の高さは腰より少し上だ。立ったまま読む造りになっている。

 前に椅子があったらしく、床に四つの窪みが残っている。窪みの間隔は、私の靴の長さの二つぶんほどになる。

 年の順に並んでいる。令和百九十年の行から探す。


 一年に一行のこともあれば、四行のこともある。行の数は綴の数になる。最初の三年は、順に一行と二行と一行だ。

 指で押さえながら下へ追う。三年目の次が二行で、その次が一行になる。百九十五のところで三行に増えた。

 三行目の下を見る。

 そこが百九十七の一行目になっていた。私は指を戻した。百九十五の三行目の下は、百九十七の一行目だ。


 頁の下を見る。頁の番号は百四十一だ。次の頁をめくる。

 百四十三と刷ってある。

 私はもう一度戻して、百四十一の裏を見た。裏は白い。

 番号の刷りもそこで切れている。紙の厚みを指で確かめる。

 厚みは他の頁と同じだ。二枚がくっついているのでもない。


 目録を閉じた。表紙が自分で戻る音が、倉の中で一度響く。

 台の下に古い目録の束がある。前の版になる。私はその束の上から三冊目を出した。


 同じところを開く。百九十五の三行目の次は、百九十六の一行目だった。行はある。

 中身は三つだ。綴の番号と、預けた部門の名と、年月になる。


 綴の番号を控えて、棚を見に行った。番号の頭の二桁で棚の段が決まる。

 段は北の壁の五段目だ。私は端から番号を追う。


 番号は続いている。一つ前の番号があって、一つ後の番号がある。間の一つだけが抜けている。


 抜けた分の隙間も無い。両側の綴が寄っている。

 いつ寄ったかは、綴の背の埃で分かる。背の埃は両側とも厚さが揃う。片方が薄いということも起きていない。

 私は指を綴と綴の間へ入れて、奥を触った。奥に当たるのは板だ。板の面に埃が乗っている。

 厚みは棚の他の場所と同じだった。綴じ室へ戻る。九つ目の灯は点いていない。


 戻ってから、様式の三つ目の欄をもう一度見た。白いままだ。

 欄の高さは四分ほどある。字なら二つ入る。


 私は筆を持たなかった。

 書く物が決まっていない欄に、字を入れる決まりも無い。様式を綴の一番上へ置いた。園の側が最初に見る紙は、束の一番上になる。


 紐を通す。上の穴から入れて、下の穴で折り返す。二本目は逆から通す。

 通した後で、束の背を台へ二度打ちつける。紙の端が揃う。

 揃ってから結ぶ。目は一つで、輪が二つ出る。

 輪の長さを見る。今日は右が指の三分の一ぶん長い。昨日より近い。


 綴じの判を押す。面は四角い。押す位置は表紙の左下と決まっている。

 朱肉の端から取る。取り終えたら、肉の面をもう一度平らにならす。


 判を紙へ当てて、上から親指で押さえる。時間は二つ数えるほどだ。

 長く押さえると滲む。離すと音がする。紙から判が剥がれる音になる。


 窓を見る。外はもう暗い。北を向いた窓は、暗くなるのが他の室より早い。

 硝子に室の中が映る。出るのは台と、台の上の判の箱と、私の肩から上になる。

 顔の細かいところは映らない。硝子が一枚で、向こうが暗いだけの映り方だ。


 私は一度、映った先へ手を挙げた。向こうの手も揃って挙がる。

 確かめる用があったわけではない。時計は十九時を回っていた。

 灯を点けたのは十六時ごろになる。点けた時のことを、私は覚えていない。

 点けながら枚数を数えていた。勘定の間のことは、後から出てこない。署名の欄は綴の最後の紙にある。

 欄は一つで、横に長い。自署によるものとされている。判で代えることを認めた例が、本年度に四件ある。


 私は判のほうを取った。四件目までは他の者の分で、五件目が私になる。

 判の面を見る。氏名は彫っていない。入っているのは四字だ。


 朱肉へ当てて、紙へ押す。当てている時間は二つ。離す。

 面の四字が紙の上にある。

 私は綴を棚の二段目へ入れた。左から数えて六つ目になる。本年度の六度目の綴だ。

 入れてから、背を揃える。指で押して、他の綴と面を合わせる。


 合わせた後で、一番下の段を見た。空いている。


 道具を戻す。順は朝と逆になる。朱肉。

 判。糊。鋏。

 紐。錐。


 右から左へ戻すと、置いた場所が朝と揃う。同じにしておくと、明日の朝に迷わない。

 糊の瓶の蓋を閉める。その前に匂いを嗅いだ。朝より弱い。


 瓶の口に糊が固まっている。爪で落とすと、粉になって台へ落ちた。台を布で拭く。

 布は台の下に掛けてある。拭くと板の目に沿って筋が残る。


 筋は乾けば消える。乾くまでの間だけ、板の色が濃い。


 十二という数が、今日は二度出た。号の数が十二で、二枚目の表の欄も十二だった。表の欄の十二は、埋まっているのが十一になる。


 十一という数も二度出た。判の数と、表の埋まった欄の数だ。

 二つは別のことを数えている。同じ数が別のところから出るのは、珍しくない。数は元を持たない。


 持たない数を並べるのは私の癖になる。並べたものを受ける欄が、綴の側に一つも無い。

 綴が求めるのは合計の一つだけになる。合計は三十七だ。


 綴じ紐の余りが台に落ちている。長さは指の二本ぶんだ。

 鋏で切った端が、片方だけ斜めになっている。切る時に紐が動いた分になる。


 私は余りを拾って、紙の箱へ入れた。箱には前の余りが溜まっている。

 溜まった分を数えたことは無い。数えても入れる欄が無い。

 箱は月に一度、下の階へ下ろす。行った先で何になるかを、私は聞いていない。


 聞かなくても回る。

 動いている間は、聞く用が立たない。穴を開けた時の粉も、台の端に少し残っていた。白くて、指で押すと潰れる。

 潰れると跡が付く。跡は布で拭けば取れる。私は拭かずに置いた。

 明日の朝、乾いてから拭くほうが取れる。台の端に、朱肉の粉も少し落ちている。判を離す時に飛んだ分になる。


 朱の粉は白い粉より小さい。指で押しても潰れない。布で押さえると布の側へ移る。

 布はもう朱の色をしている。途中で染まって、そこから先は変わらない。


 戸を閉める。下の縁が擦れる。

 音は朝と同じ高さだった。廊下の灯は九つのうち八つ点いている。九つ目のところで、私は一度足を止めた。


 止めたのは、暗いところの床の色を見るためになる。昼と同じだ。


 鍵を掛ける。掛け終えてから一度、把手を引いて確かめる。把手は動かない。

 二度確かめてから、廊下を歩き出した。


 歩いている間に、下がっていた一行を思い出した。行の頭が一字ぶん下がっていた。

 字ではなく、下がり方を覚えている。下がり方は、深さで持てる。

 深さは一字ぶんだ。二字でも三字でもない。


 下がった行の終わりに、二字の言葉がある。二字は行の下の端から数えて三つ目と四つ目になる。


 最後の一語は「求める」だった。


──────────────────


個体数調整の様式


一、採決の別


採決の別を記す欄は三つとする。一を可、二を否とした。欄の幅は三つとも等しい。


三の欄に記入すべき事項を定めた記載は本様式に無かった。本様式の手引にも置いていない。本年度に三の欄へ記入のあった例は零件であった。


零件である旨を記す欄も、本様式には無い。三の欄を設けた事由を控えた書面は当部門に残っていなかった。設けたのは令和二百九年の刷りからになる。


前の刷りの様式は二欄であった。刷り替えた枚数は千二百であった。


二、園が受ける手続


採決の結果は本様式をもって園へ送るものとした。送るまでの日数は五日以内と定めた。日数は送った日から数える。


届かなかった場合の扱いは本様式では触れていない。本年度に届かなかった例の数を当部門で数えていなかった。園の側が受けた旨を返す手続は置いてあった。


返さなかった例は本年度に七件であった。


七件について督促を出した記録は当部門に残っていない。


三、記入の欄


記入の欄は九つとした。会議の別。年月日。


採決の別。対象の区分。数。


園の別。記録を取った者。受けた者。


備考になる。数の欄に係る記載は他の様式の数と突き合わせるものとした。合わなかった場合の扱いは定めていない。


本年度に合わなかった例は四件であった。備考の欄に記入のあった例は本年度に二件であった。二件とも同じ園によるものになる。


四、控の扱い


控は園の側で作るものとした。控の保存の年限は二年と定めた。年限は令和二百八年の刷りで五年から二年へ替えた。


年限を過ぎた控の処分の方法を記した記載は本様式に無い。処分した旨を返す手続も置いていなかった。当部門の側で控を作る扱いは令和二百年に廃している。


廃した事由の欄は当時の綴では空のままになっている。


五、署名


本様式には記録を取った者の署名を要するものとした。


署名は末尾の欄へ自署によるものとした。欄の幅は横に十センチとした。判の押印をもって代えることを認めた例は本年度に四件あった。


認めた事由を記す欄は本様式に置いていない。本件の欄には判が押してあった。判の面に彫ってあるのは氏名ではない。


彫ってある字の数は四になる。


 記録の係

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