第086話 裏の字
区分の変更 事務の問答
問と答の数 問十四 答十三
遡る先 確認の日
答の無い問 問十四
一、この問答について
本問答は、区分の変更の事務について各園から寄せられた問に答えるものとした。問は十四であった。答は十三になる。
答を付していない問が一つある。付していない事由を記す欄は、本問答に置いていない。本問答は各園へ一部ずつ配ることとした。
配った先の一覧は、当部門の別の綴による。
二、効力の日について
問一 変更の効力はいつ生じるか。答一 確認の日に生じることとした。確認の日は確認を行った者が記入する。
記入の欄は届の側に置いてあった。問二 確認の日より前へ遡るか。答二 遡ることとした。
遡る先は確認の根拠の生じた日とした。根拠の生じた日を定める手順は、本問答に置いていなかった。問三 遡る先に区分が無い場合はどうするか。
答三 区分の生じた日を遡る先とすることとした。本年度の該当は一件であった。遡れなかった旨を記す欄は、本様式に無い。
問三の二 遡る先の日が、園の外にある場合はどうするか。答三の二 園の外にあった間の日を、遡る先とすることは出来ない。出来ない旨を記す欄は、本届に置いていない。
三、遡った間の記録について
問四 遡った日から確認の日までの記録は、どう扱うか。答四 変更の前の区分のまま残すこととした。書き改めは行わないこととしていた。
問五 残した記録に印を付けるか。答五 付さないこととした。付す場合の様式は定めていなかった。
問六 残した記録を後から数える必要が生じた場合はどうするか。答六 園の側の控によることとした。控の保存の年限は五年であった。
四、届の記入について
問七 変更の前の区分は、どの欄へ記入するか。
答七 第一の欄へ記入することとした。第二の欄は変更の後の区分とした。問八 二つの欄が同じ区分になる場合はあるか。
答八 あることとした。本年度に三件あった。問九 番号の欄は、いつ埋めるか。
答九 照合の済んだ後に埋めることとした。以前の番号を記す欄は、本届に置いていない。
五、照合について
問十 照合はどの記録との間で行うか。答十 登録の記録との間で行うこととした。手順は別の定めによった。
問十一 照合の済まない間、区分は立つか。答十一 立つこととした。仮の区分によることとしていた。
仮の期間を記す欄は本届に無かった。問十二 変更の前提として、処置の履歴との照合を行うか。答十二 行うこととした。
照合の結果を記す欄は、届に置いていない。問十三 照合の結果が合わない場合はどうするか。答十三 当部門の扱いではない。
本年度に当部門から送った例は無かった。扱う部門の名は、本問答に記していない。
六、答を付していない問
問十四 変更の前の区分による記録と、変更の後の区分による記録とが、同じ期間について二つ立つ場合、どちらを本体とするか。
七、本年度の数
本年度の変更は十一件であった。うち遡った例は九件になる。前年度は八件であった。
遡った先が三十日を超えた例は二件あった。
二件の内訳を記す欄は、本問答に置いていない。
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目が覚めると、天井は白くて、板の目が無い。塗ってある面で、継ぎ目が一本、頭の上を横に走っている。塗りは白より少し灰に寄っていて、所々に刷毛の跡が残る。
跡は一方向に揃っているが、戸の上のあたりで向きが変わる。
私は起き上がる。敷いてあるのは台の上の布で、厚みは指の三本ぶんだ。
布の下は板で、押しても沈まない。膝を突くと、音が短く返る。房を歩く。
長いほうへは四歩で、短いほうへ三歩。歩幅は自分のもので測る。前の房は五歩と三歩だった。
園にいた時の仕切りは、長いほうへ六歩あった。あちらは戸が無い。
仕切りと仕切りの間は板一枚で、上のほうが空いていた。声がそこを通る。
ここには戸があった。
声の通る場所は、棒と棒の間になる。
戸は板ではない。細い棒が縦に並んでいて、間から廊下が見える。
棒は金で、握ると手の熱を取っていく。奪われた分は、離してもしばらく戻らない。
棒の数を数える。十九ある。二度数えて、二度目も十九になる。
棒と棒の間は、指を三本まで入れられる幅になる。四本目は入らない。
前の房は十七だった。房ごとに幅が違うのかどうかは、二つでは決められない。
手足が冷たい。腹の上へ掌を置くと、そこは温い。温いところと冷たいところの境は、腰の骨のあたりになる。髪を触るが、紐は付いていない。
外していたのは四日前だ。外した紐が今何処にあるかを、私は聞いていない。髪は肩の下まであり、指を通すと、途中で一度引っ掛かった。
引っ掛かりは右の耳の後ろにある。解くのに七つ数えた。胸が張っていて、触ると少し遅れて痛みが来る。
痛みは押した指の下ではなく、その奥から来た。奥のほうが硬い。
外にいた間からこうなっている。日を追って硬くなった。腹はまだ平らで、手を当てると掌のぶんが温い。
温さは胸の側より高い。二つを続けて触ると、差が分かる。
爪を見ると、左の親指の先が割れている。割れは縦で、深さは白いところで止まっていた。押しても痛みは来ない。
外で割った爪だ。割った日は覚えていない。息を吐くが、白くはならない。
部屋の空気は外より温い。動いていない空気だ。
匂いがする。四日前に嗅いだのと同じ匂いになる。
拭いた後の匂いだ。
名前は付いていない。鼻を慣らすと、その下にもう一つある。
布の匂いが薄く来る。洗ってから間が空いていない布だ。糊の残りが指に固い。
昨日は途中で目が覚めた。二度覚めて、二度とも戻れた。覚めた時刻は分からない。
窓が無い部屋だった。
今の部屋には窓がある。まだ入ったことがない部屋だ。
部屋の隅に低い台がある。その上に桶が一つ置いてあった。桶には水が入っている。差し入れた指が冷たくなる。
冷たさは指の第二の関節までで止まった。深さがそこまでになる。
顔を洗う。掌で二度掬い、二度目で口の中を漱いだ。
漱いだ水は桶へ戻さない。隅の穴へ落とす。穴には格子が嵌めてある。
格子の目は指が通らない大きさだ。落ちる音は短い。下に何があるかは分からない。
園の洗い場には、これに近い格子があった。毎日見ている。
あちらの格子は目が細かい。朝の器が来る。数は二つになる。
一つは粥で、一つは汁になる。
菜は四切れ浮いていた。
器は二つとも焼き物で、縁に細い欠けがある。傷は粥の器の側にあった。
欠けたところへ唇を当てないように、私は器を回す。向きはいつも右になる。
粥は温い。掌へ載せられる程度になる。匙は付いていない。
器の縁から直に飲む。飲むと胃の上が動いた。一つ揺れて、それきりになる。
止まってから、私は残りを飲む。全部入った。
外では朝に吐いた。
ここへ来てからは吐いていない。
吐いていた頃は、口の中に酸の味が残った。今はその味が薄い。
食べる物が変わっている。乾いた魚は出てこない。
吐かない日が五日続く。
数えているのは私だけになる。汁は薄く、塩の味が舌の縁へ来る。
菜は柔らかくなるまで煮てある。噛むと繊維が横に切れた。四切れのうち二切れは葉で、残りは茎になる。
甘いのは茎だ。器の底に汁が残る。少しの分は飲まない。
外では残さなかった。捨てる分が出てこない。
器を戸の脇へ置く。寄せる先は、初めから決まっていた。
前の房でも、器は戸の脇へ寄せてあった。
園の仕切りでは、台の下へ入れる決まりになる。
三つとも場所が違う。決めたのは私ではない。
置く場所を教えた人はいない。前の器がそこにあった。
中へ入ってから五日目で、日は一つずつ増える。朝が来ると一つ増える。朝は毎日来る。
外の数は八十五で止まっていて、あれは足せない。足せない数を、私は消していない。二つとも覚えている。
二つを並べると隙間が出る。隙間の日数が分からない。
分からないままで新しいほうを数える。今日で五になる。
隙間の日数を出す手掛かりを、私は持っていない。落ちていた間に朝が何度来たかを、誰かが数えている。その紙は係の人の側にある。
紙を見せてくれと言えば見せるかどうかも分からない。言ったことがない。
廊下で音がした。台車の、車の側から来る。車は四つで、一つが高く鳴る。
085 の台車も一つ鳴っていた。鳴り方が同じかどうかは分からない。並べて聞いていない。
台車の音の後ろに、履物の音が二つ付いている。
歩幅に差がある。一つは短く、もう一つは長い。遅れてくるのは長いほうだ。
音は戸の前を通り過ぎる。行った先で止まった。止まってから、紙の音がする。
めくっている。二枚めくって、それから戻る音がした。
私は棒の間から廊下を見る。壁は両側とも塗ってある。塗りの色は房の中より濃く、下から三十センチほどのところで一度切り替わっていた。
切り替わりの線は、廊下の端から端まで途切れずに続いている。床と壁の境に細い溝がある。
中に埃は溜まっていない。掲示の紙が見える。数えると、四つ並んでいた。
紙の隅に印が一つずつ押してある。印の色は薄い赤になる。園の廊下にも紙が四つ貼ってあった。
あちらの印も隅にあった。
色まで同じかどうかを、私は覚えていない。字は遠くて読めない。行の数だけ数える。
一枚目は七行、二枚目は五行だ。三枚目と四枚目は行数が並ぶ。
行数の並ぶ二枚は、貼ってある高さも揃っている。一枚目が少し低い。
下の角が壁から浮いていた。浮いた角は右下だ。糊が足りていない。
風は来ない。それでも角は動いている。
動く幅は紙の一枚ぶんほどになる。動いてから戻る。
戻る速さは行きより遅い。何度見ても変わらなかった。紙の下の端は壁に付いている。糊は上の二箇所らしい。
園の紙は四隅を留めてあった。使ってあるのは画鋲で、頭は四つが白い。
ここの紙に画鋲は無い。跡も残っていない。
数えている間に、足音が来た。二人ぶんだ。足音は戸の前で止まる。
鍵の音が一度した。戸が開いて、廊下の空気が入ってくる。
入ってきた空気は廊下のものだ。
房の匂いより薄い。
薄いところに、油の匂いが混じっている。四日前に箱の中で嗅いだのと近い。
近いだけで、同じかどうかは分からない。
並べて嗅ぐことが出来ない。二人は薄い緑のものを着ている。
四日前と同じ色になる。袖の口には紐が通っていて、絞ってある。締めた位置は二人の手首の上になる。
胸のところに小さい札が留めてある。札の字はこの距離では読めない。顔は別で、四日前の二人ではない。
一人が板を持っていて、板には紙が挟んであった。もう一人は何も持っていない。
手袋だけしている。板を持つ人が先に入る。手袋の人は戸の内側で止まった。
止まった位置は棒の並びの端になる。廊下の光がその人の靴を照らしている。
靴は二人とも一つの形になる。爪先の縫い目が二本ずつ入っている。
板の紙は三枚重なっている。上の一枚だけ角が折れていた。
折れた角は左の上になる。折り目は一度きりで、伸ばした跡が無い。
私は立つ。その時に膝が鳴った。立ってから、私は手を体の脇へ下ろす。
指を組まない形が、ここでは通る。鳴ったのは右で、左は鳴らない。
板を持つ人が紙を見る。目を落としながら条を読み上げた。
「本日の区分の変更につきまして、変更の前の区分を第一の欄へ、変更の後の区分を第二の欄へ記入いたします」
言葉は前へ流れていく。止まるところが無い。語の切れ目は等しい。
息を継ぐ場所が二箇所ある。二箇所とも読点の後だ。継ぐ長さは一つ数えるほどになる。
この読み方を前に聞いたことがある。
園の廊下の台の脇だ。声の高さは別になる。継ぐ場所の間隔が揃っていた。
私は聞いている。聞いたかどうかを、その人は確かめない。
紙の上でペンが動く。音は二画か三画で切れた。切れてから、次の欄へ移る音がする。
欄と欄の間で、ペンが一度浮く。浮いている間が短い。短い間に、その人は私を見なかった。
目は紙にある。
ペンは黒く、軸の途中に細い輪が入っていた。輪は金の色をしている。持つ指がそこへ当たっている。
当たっているところの色が薄い。擦れて下の地が出ていた。
書く手は右になる。左の手は紙の端を押さえている。
押さえる力は強くない。紙の角が息の分で動いている。
押さえる指は三本だ。親指と、その隣の二本になる。
「効力の生じる日は本年九月九日といたします。それ以前の分は変更の前の区分のままで残ることになります」
九月九日は私が中へ入った日になる。四日前だ。
その日の記憶は、箱の中と廊下と台の上だけになる。順は覚えている。
順は覚えていても、時刻は分からない。時計のある部屋を通っていなかった。その前の日は、どの区分にも入っていない。
入っていない日を数えると八十五になる。
その数は紙の上に無い。
「元の房ですか」
私は訊いた。返事は来ない。ペンの音が続いている。
訊いた声は小さかった。
それでも部屋の広さなら届く。
届いた後で、二人とも手を止めていない。
板を持つ人の目は紙にある。
手袋の人は戸の内側にいる。
こちらを見て、それから廊下を見た。
見た順は私が先で、廊下が後になる。間は一つ数えるほどだ。もう一度訊く形を、私は口の中で作った。
作ったままにしておく。音が二つ増えて、それから止まった。切れたところで、その人は紙をめくる。
めくった先に、もう一枚あった。二枚目には表が刷ってある。線が縦に走っているのが、遠くから見えた。
刷ってある線は青い。
書き込んである字は黒になる。
青と黒は重なっているところがあった。
数えると二つになる。
二つとも表の右の端にある。
そこの欄は幅が狭い。
狭い欄に長い語を入れると、字が線をまたぐ。またいだ字は読みにくくなる。線の数は数えられない。
角度が悪い。手袋の人が私の腕を取る。位置は肘の上になる。
力は強くない。
前の二人が取ったところになる。
連れて行かれる先は台のある部屋だ。
四日前にも通っている。
戸の取っ手の色の落ち方まで覚えている。押す側が明るい。台に乗り、履いているものは脇へ置く。
台の縁の高さは、膝の皿より少し上になる。
四日前に目で測ってある。
置く場所も四日前に倣った。
指を差される前に置いてある。
足の裏が冷たく、縮むと数が動く。動かなくなるまで待つ。長さは十四ほどになった。
四日前は十二だった。
二つ増えている。
増えた分は数の上に残る。
理由の欄は何処にも無い。台の面は四日前より温い。前の人が乗った後になる。
温さは掌ほどの広さで、真ん中から少し右に寄っていた。
私は右へ寄らない。
真ん中へ足を置く。背丈を測る。横木が下りてきて、頭の上で止まった。
止まる音は短い。四日前に聞いたのと変わらない。次に腹のまわりを測る。
紐のようなものを回された。
回した後で、その人は指で一度たわみを取る。それから数を読んだ。紐は布で出来ていて、幅は指の一本ぶんになる。
端から端まで数字が刷ってあった。
文字は薄い。
何度も使った刷りになる。
手で持つあたりが特に薄い。
回した時、紐は肌へ直に触れた。温さは自分の腹くらいになる。
読んだ数は私に向いていない。声にもならない。
紙へ書く音だけが来る。二画で終わった。
腹のまわりの後で、腕の内側に何かを巻かれた。巻いた布は膨らんで、それから縮む。
その間に細い音が続いた。音は途中で二度、間を空ける。二度目の後で布は緩んだ。
緩んでから、その人は紙へ数を書く。三桁になる。
三桁のうち、私が見たのは一つ目の位だけになる。角度がそこまでだった。
台から下りて、履いているものを履く。履く間、二人は待っている。急がせる声は無い。
部屋の隅に籠があった。中に畳んだものが入っている。
手袋の人が籠を指す。私は着ているものを脱いで、籠のものへ替えた。
替えたものは布が厚い。襟の内側に印が一つ刷ってある。
脱いだものは、その人が別の籠へ入れた。そこで一度、両手で持ち直す。
持ち直した後は、こちらを見ないで蓋をした。部屋を出る。廊下を歩く向きは、来た時と逆になる。
途中に戸が四つある。
どれも閉まっていた。三つ目の戸から、下の隙間の光が出ている。四日前もそうだった。
光の幅は指の一本ぶんで、床へ細く伸びている。先は廊下の真ん中まで届かない。どの戸かは分からない。
数えた順だけが揃っている。歩く速さは来た時より遅い。腕は取られていない。
手袋の人は半歩後ろにいる。足音の間が一定だ。
板を持つ人が先を行く。板は脇に挟んである。
挟んだ紙の端が、歩く度に少し動いた。三枚が一緒になっている。
房の前へ戻る。着いてから、二人は戸を開けない。
板を持つ人が、戸の脇の札に手を掛けた。札は差し込んである。上から抜けるようになっていた。
抜くと、指の腹ほどの厚みがある。紙を何枚か重ねたものだ。
係の人は札を裏返して、差し直した。裏にも字がある。
書いてあるのは、前の区分になる。表になったほうの字は新しい。墨が乾いた後の艶が残っている。
書いた者の手は速い。払いの先が細くなって切れていた。切れた先に点が一つ落ちていた。
紙の目に沿って滲んでいる。裏の字は薄い。書いてから間が空いていた。
消してはいない。線も引いていない。差し込みの溝には埃が溜まっていた。
抜いた時、埃が下の縁へ落ちる。
落ちた埃は床で見えなくなる。床の色が近い。札の下の縁に、色が濃く残っていた。
溝の中に入っていた部分になる。私が札を見ても、二人はそれを咎めない。
札の下に小さい枠がある。中に数字が四つ入っていた。
数字を読む。零が二つ並んで、その後に七と三が来る。
前は零が二つの後に三と七だった。四つは並びを替えただけになる。
並びが替わっている。決めた者の名は、何処にも書いていない。
枠の線は四角で、角が丸くしてある。線の太さは一定だ。
数字は枠の中で少し左に寄っている。右に空きが出ていた。空きの幅は数字の一つぶんほどになる。
五つ目を入れる場所がある。私は口の中で二つを並べる。声には出さない。
出さなかったことを、私は覚えておく。
二人は戸を開けない。そのままで、廊下の先を指した。
「本日より別の棟へ移っていただきます。お荷物は当方でお運びいたしますので、そのままでお待ちください」
荷という言葉が出た。私の荷が何かを、私は知らない。
房の中には器が二つあるだけになる。器は私のものではない。
廊下を歩く。左へ二度、右へ一度曲がった。
曲がる度に床の音が変わる。三度目の後は硬い音になった。
三度目の後の床は板ではない。硬くて継ぎ目が細い。
継ぎ目の間隔は歩幅より広かった。
踏むと足の裏で分かる。壁の高いところに管が走っている。管は塗ってあって、塗りの色は壁に寄せてある。
管は途中で二つに分かれた。片方の一本は下へ降りている。降りた先に小さい戸があった。
そこに取っ手は付いていない。突き当たりに戸がある。横に開く形だ。
開く音は低く、途中で一度引っ掛かる。その後で、残りが一息に開いた。戸の下に溝がある。
中に細かい砂が溜まっていた。
開いた先も廊下だ。こちらの壁の色は少し濃い。
濃いのは塗り直していないためになる。角のところが擦れていた。
擦れた高さは腰のあたりだ。人の手が当たる高さになる。
新しい房へ入る。広さは長いほうへ五歩、短いほうへ三歩。前の房より一歩広い。
歩幅は替えていない。床は前の房と一つの材になる。踏むと、変わらない硬さが返ってくる。
継ぎ目の位置が動いている。ここでは戸の側に一本通っている。
壁に拭いた跡がある。輪の形で三つ並んでいた。
三つは大きさが揃っていない。縁の白さは残っていた。
白いのは乾いた後の縁になる。指でなぞっても何も付かない。
窓があり、高さは目より上になる。背を伸ばすと、外の空が下の端だけ見える。雲は動いていない。
空の色は白に近く、日の在処が分からない。影も出ていなかった。風が無い。
窓は開かない形をしている。窓の枠は金になる。触ると指の熱を取っていく。
枠の下に埃が溜まっている。指でなぞると線が残った。
線は一本で、端まで届いていない。途中で指を止めた。
寝床は台の上の布で、厚みは指の三本ぶんになる。前と同じだ。
布の色は前より白い。洗ってから間が空いていない。
器を置く場所を探す。戸の脇に窪みがあった。
窪みの底に丸い跡が二つある。前にここにいた誰かの器の跡だ。
跡の大きさは私の器と合う。重ねると縁が揃う。
揃うことを確かめてから、私は手を離した。前にいた誰かは、この窪みへ器を置いていた。
回数は跡の濃さで分かる。濃さは二つで少し違う。汁の器の側が濃かった。
戸が閉まって、鍵の音が一度する。音の後で、足音が二つ遠ざかった。速さは揃っていた。
廊下の先で戸が開く音がした。次に閉まる音がする。
二つの音の間は、数えると六つほどあった。
房の中は静かだ。自分の息の音が聞こえる。
息の間は乱れない。数えると、十で肩が一度動いた。肩が動いた後は、また元へ戻る。
私は棒の間から廊下を見る。壁の色は濃いままだ。誰かが歩いていき、背中だけが見えた。
薄い緑ではない。私が着ているのに近い形になる。背に番号があるが、遠くて読めない。
桁の数は取れた。四つになる。
背の高さは私と変わらない。
肩の幅は少し広い。髪は短い。首の後ろで切り揃えてある。
歩き方には癖が無い。足音の間隔が動かない。その人は振り向かない。
歩く速さに揺れが無い。角を曲がって、見えなくなった。足音は少し続いてから切れる。
切れた後は、何の音もしない。誰もいない廊下は、灯の下だけが明るい。灯と灯の間は、少し暗くなる。
暗いところの床には、拭いた跡が斜めに残っていた。跡の向きは房の中と揃っていない。
窪みの跡へ器を戻す。縁が揃うところまで押した。
押している間に、外で水の音がした。管を通る音になった。
音は壁の中を上から下へ流れて、途中で細くなる。それから切れた。押した指に粉が付く。
壁の粉ではない。器の底の粉だ。粉を舐めずに、指を布で拭く。
布は寝床のもので、拭いた跡が薄く残った。
跡の形は指の三本ぶんで、端のほうが濃い。押した時間が長かった側になる。
残った跡は乾くと消える。それまでは見える。
札の数字を思い出す。零が二つ、それから七と三。
前は零が二つの後に三と七だった。数字は四つとも動いていない。動いたのは順だ。
決めた紙を、私は見ていない。
順が替わっても、数の顔つきは変わらない。零は丸くて、七は角がある。三は角が二つで、七は一つだ。
数え直しても、そこは変わらない。紙の上には字も書いてあった。表の字と、裏の字だ。
表の字は読めた。取れた語は一つになる。
管の音が止まると、房はまた静かになった。息の音だけが残った。
その息を数えると、外にいた時より浅い。走らなくなった分が出ている。
外では朝に走る日があった。ここでは歩く先が五歩で終わる。
私は棒の間へ顔を寄せる。廊下は明るいままだ。
札は戸の脇にある。差し込んである形で、こちらの側からは表しか見えない。
裏を見るには、抜いて回すことになる。私の手は棒の間を通らなかった。
読めた語は、紙の一番下の欄にあった。幅は狭く、字が一つ入るだけになる。その語は「済」だった。
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区分の変更の届
変更の前の区分 第一の欄に記載
変更の後の区分 第二の欄に記載
効力の生じる日 九月九日
一、区分
変更の前の区分は第一の欄へ記載した。変更の後の区分は第二の欄へ記載した。二つの欄は別の区分であった。
二つが同じ区分になる例は本年度に三件あった。本件は当たらない。第一の欄と第二の欄の別を記す欄は、園の側の控にのみ置いてあった。
二、効力の生じる日
効力の生じる日は九月九日とした。
当該の日は当園へ収容した日であった。確認の日は九月十三日であった。確認の根拠の生じた日を記す欄は、本届に置いていない。
遡る先に区分の無い期間がある。当該の期間の日数を記す欄も、本届に無かった。
三、遡った間の記録
九月九日から九月十三日までの記録は、変更の前の区分のまま残すこととした。書き改めは行っていない。残した記録に印は付していない。
園の側の控による。
当該の期間は四日であった。四日ぶんの記録は三枚であった。
四、番号
番号の欄を本日埋めた。照合は九月十二日に済んでいる。以前の番号を記す欄は、本届に置いていない。
五、処置の履歴
処置の履歴の欄に第二種と記載した。処置の別は済であった。実施の年は令和二百十三年になる。
当該の記載は登録の記録から写した。
写した者の欄には係の番号を記してある。
六、確認
確認の欄を埋めた。確認を行った者の番号は所定の欄に記した。
確認の方法は所定の手順によった。
五の欄と本欄は同じ紙の上に並んでいる。二つの欄の間には、他の欄が二つ挟まっている。照合の結果を記す欄は、本届に置いていない。
六の二、控
本届の控を一部、当園に置くこととした。
控の綴は棟ごとに分けてある。本件の控は変更の後の区分の棟の綴へ入れた。変更の前の区分の棟の綴には、写を入れていない。
七、写
本届の写を一部、本部へ送ることとした。送り先の係の名を記す欄は、本届に無かった。本年度に本部から差し戻された届は零件であった。
差し戻しの様式を定めた記載も、当園には無い。
八、棟
当該の個体を、変更の後の区分の棟へ移すこと。




