第085話 二十四の孔
個体の輸送に用いる容器の基準
箱の寸法 三種
通気孔 数と位置を定める
輸送の時間 上限を定めない
一、箱の寸法
輸送に用いる容器は木の箱とすることとした。寸法は三種であった。金属の箱を用いた例は本年度に無かった。
小は長さ九百、幅四百五十、高さ五百とした。中は長さ千二百、幅六百、高さ六百五十になる。大は長さ千五百、幅七百五十、高さ八百であった。
単位はいずれもミリメートルとしていた。三種のいずれを用いるかは、体重の区分によることとしていた。体重の記入が無い場合の別は、本基準に置いていない。
一の二、材
材は針葉樹の板とし、厚さは十五ミリ以上とした。
板の枚数と釘の本数を記す欄は本基準に無かった。組み方は請け負う側の判断による。図面を提出させる様式は、別に定めてある。
一の三、箱に記す事項
箱の外の面に記す事項は数のみとした。桁は四としていた。数の付け方を定めた記載は本基準に無かった。
付ける者を記す欄も置いていない。
二、通気孔
通気孔は側面の四面に設けることとした。数は一面につき六になる。四面の合計は二十四としていた。
位置は下端から二百八十ミリの高さに三とする。四百二十ミリの高さにも三を設け、左右の端からそれぞれ百十ミリを空けることとした。孔の径は二十ミリになる。
径を改めた例は令和百九十一年に一度あった。
改める前の径は十六ミリであった。
二の二、上面と底面
上面と底面には孔を設けない。設けない理由を記した書面は、本基準のほかに備えていなかった。底面に敷く物は、輸送の前に入れることとする。
材質を定めた記載は本基準に無い。厚みを定めた記載も置いていない。本年度に用いた材は、綿、藁、紙の三種であった。
三種の別を記す欄は本基準に置いていない。
二の三、孔の縁
孔は外の側から開けることとした。
内の側の縁は削ることとする。
削る深さを記した記載は本基準に無い。削り残した例の数も数えていなかった。
三、輸送の時間
輸送の時間の上限は、本基準に定めていない。
定めるよう起案した書面も残っていなかった。
三の二、九時間を超えた例
九時間を超えた例の数は、当部門で数えていなかった。数えるよう求めた例も残っていない。時間を記す欄は輸送の記録の側に置いてある。
四、開けるまで
到着から箱を開けるまでの間を記す欄は、輸送の記録に置いてあった。
その間の上限は定めていない。本年度の最も長い例は四時間十分になる。
四の二、開ける者
箱を開ける者は二名以上とすることとした。二名の別を記す欄は輸送の記録に置いてある。うち一名は収容の側の者とする。
一名で開けた例は本年度に七件あった。
七件の事由を記した欄は空のままになっていた。
五、箱を返す先
用いた箱は返すこととした。
返す先は請け負う側であった。返す期限は到着の日から十日以内とする。返さなかった例は本年度に二件ある。
二件について事由を記した欄は空のままになっていた。
六、本基準を改めた月日
本基準を最後に改めたのは令和二百八年三月であった。改めた箇所は孔の径のみになる。
改める際に用いた資料の名を、本基準に記していない。
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目が覚める。暗い。
上と下が分からない。頬に当たっているものが硬い。木だ。
木の面は横に走っている。指でなぞると、目に沿って爪が引っ掛かった。
匂いは木の匂いになる。削ってから間の無い匂いだ。
脂と縄の匂いは無い。
土の匂いも来ない。私は動かずにいる。どちらへ体を向ければいいかが分からない。
手を上げる。指の先が硬いものに当たった。そこまでは肘を曲げた分になる。
横へやると、そちらにも同じものがある。二つの間は、肩の幅より少し広い。
足のほうへ伸ばす。膝を伸ばしきる前に、足の裏が面へ着いた。
箱だ。
中に入れられている。私は坐り直す。
膝を立てると、その上が面に当たった。立てられる高さは膝の半分ほどになる。それより上へは行かない。
腰の上が硬い。押すと、痛みではなく鈍いものが返ってくる。押した場所は右になる。
当たったのはそこだ。
口が乾いている。舌を動かすと、上顎に貼り付いた。
剥がすのに二つ数える。剥がれてから、唾を出そうとした。何も来ない。
喉の奥が張り付いている。飲み込む形をすると、途中で止まった。
止まる位置は決まっている。三度やって、三度ともそこで止まった。
息は鼻から入る。
鼻の上のほうが冷たい。
吐く時は口を使う。口から出すと、木の匂いが薄くなった。
薄くなった分は自分の息になる。混ざった匂いは、しばらく戻らない。
髪が顔に掛かっている。紐は付いたままだ。二度巻いた形が崩れていない。
寝返りは打っていない。落ちてからずっと同じ向きでいたことになる。
服は着ている。袖も襟も動いていない。膝のところに、土が付いていた。
乾いて、押すと粉になる。粉は掌に移る。付いた分を、私は服で拭かない。
光がある。細く入っている。
光は面の一つに並んでいる。丸い。
数える。三つ並んでいた。高さは一つで、間に広い狭いが無い。
その下にもう三つある。
合わせて六つになる。
私は向きを変える。隣の面にも六つあった。
四つの面を数える。二十四になる。
上の面には無い。
下も同じになる。孔の径を指で測ると、一本ぶんより少し広い。指を入れると、第二の関節で止まった。
止まった先に外がある。
そちらの空気は、中の空気より冷たい。孔の縁は削ってある。
指を抜く時に、縁が指の腹を撫でた。撫でる感じは片方の面だけにある。もう片方は角が立っていた。
角の立っているほうが外になる。この孔を開けたのは、外に立っていた者になる。私は四つの面の孔を、順に指で確かめる。
二十四の縁は、指でなぞる限り区別が付かない。
同じでないのは一つだけだ。足のほうの面の、下の段の右になる。
その一つは縁が欠けていた。幅は爪の半分ほどある。
欠けたところへ指を入れると、少し深く入った。指の先に、割れ目の縁が当たる。
割れは孔から下へ伸びている。先は指では追えない。
下に何か敷いてある。膝で押すと沈む。
沈んでから戻る。速さは遅い。
藁ではない。押した時に音が出るのが藁になる。これは鳴らない。
紙でもない。折れたところが残るのが紙だ。指で挟んでみる。
細くなって、離すとまた膨らんだ。綿だ。
厚みは指の二本ぶんほどになる。敷いてある範囲は、私の体より少し広い。
端のところだけ薄い。そこへ手を置くと、板の目が指へ通ってくる。薄いところは頭の側にある。
私は寝ていた時、そこに頭を置いていた。置いていた場所には、髪の抜けたものが二本あった。長さは短い。
短いのは切れたものになる。
抜けたものなら根が付いている。
私は二本を拾って、綿の下へ入れる。それから指で押さえた。
押さえた場所は覚えておく。持って出られるとは限らない。
箱の板を数える。側の面は縦に二枚ずつだ。四つの面で八枚になる。
上の面は一枚で、幅が広い。
下の面も一枚だった。合わせて十枚だ。数えてから、上の面をもう一度触る。
継ぎ目が無い。
一枚で足りている。
釘の頭が並んでいる。上の面の縁に沿って、頭だけが出ていた。
数えると十四ある。間は揃っていない。
揃っていないところは二箇所あり、いずれも角の近くになる。角の近くは板が重なっている。その分が厚い。
厚いところへ釘を打つと、頭が沈まない。出たままの頭は指に当たる。当たる高さは紙の一枚ぶんほどだ。
押しても引っ込まない。私は十四を数え直す。二度目も十四だった。
三度目は数えない。二度で合えば、それでいい。
頭の面は平らだ。押しても動かない。
私は指を戻す。指の腹に木の粉が付いていた。
付いた粉を舐めようとして、やめる。口が乾いているままだ。
腹が鳴った。音は箱の中で返ってくる。外へも出ているはずになる。
外では誰も動かない。最後に食べたのは芋と汁だ。芋は二切れで、汁には菜が浮いていた。
菜の数までは見ていない。汁の温さを覚えている。
掌に当たる程度のものだった。熱くはない。
揺れる。体が前へ押された。押される前に、床が一度沈んだ。
沈んでから上がる。
上がりきったところで前へ来た。二つの動きは続けて起きる。私は膝を先に立てて、体を面へ寄せた。
そうすると、揺れの幅が小さくなる。小さくなった。動く先が塞がっていた。
背中を当てる面は、頭の側にする。反対には当てない。
足の側は蹴れる。空けておくのはそちらだ。
押されてから戻る。上のほうが遅れた。
車だ。荷のところに置かれた。
床から来る音は低い。続いていて、途中で高い音になった。
高くなるのは上りになる。坂の終わりで、また低い。
段差が来る。一度、下から突き上げる。
私は数え始める。一。二。
三。段差の数を数える。口の中でやる。
十を越えたところで、間の空き方が変わった。短い間が続く。
短い間は五つ続いて、そこで切れる。その後はしばらく何も来ない。
何も来ない間に、床の音が変わった。低いままで、粒が細かくなる。
細かい粒は道の面から来る。荒い面では粒が大きい。
大きい粒の道は長かった。
細かい粒に変わってからは、揺れが減る。短い間の後に長い間が来る。長い間は数えられない。
数えるのは段差だけにする。来た時に一つ増えた。
数えている間に、腕の下が痺れた。範囲は肘から手首までになる。指の先で一度止まる。
そこだけ感じが薄い。私は腕を持ち上げて、面へ押し付ける。すると痺れが濃くなる。
上がってから、引いた。元へ戻るまでに十五ほど数える。
三十。五十。八十。
百を越えてから、光の色が変わった。孔から入る光は白かった。今は少し黄色い。
黄色は日の下りた色になる。二百を越えるころには、色が消えた。消える前に、一度、濃くなった。
赤に近い色になる。
濃さの続いたのは、数えると二十ほどだ。その間、孔は二十四が一つの色をしていた。
色が同じでも、明るさは違う。上の段の三つのほうが明るい。
上の段は外の面の高いところに当たる。低い側には物が寄せてある。
色が消えてからは、孔は黒くなる。孔の場所は分かる。
そこだけ空気が動いている。頬を近づけると、細く当たってくる。強さは面によって違った。
一番強いのは足の側だ。そこへ頬を寄せると、前の髪が動く。紐で留めたところは動かない。
弱いのは頭の側だ。そちらの孔へ指を寄せても、何も当たらなかった。
外の側に何かが接している。何が接しているのかは、私には分からない。
三百二十六で、私は数を止める。数が段差から離れた。段差の無いところで一つ増えている。
増えた分は戻せない。そのまま置いておく。
腰の脇へ手をやる。包みは無い。
二十七が何処にあるかを、私は見ていない。布の重さも無い。膝の下へ手を入れる。
綿があるだけになる。私は両手を綿の上へ置く。それから指を広げた。
広げた指の先まで、綿が続いている。切れ目は無い。
包みがあれば、指の何処かに角が来る。何も来ない。
私は手を戻す。それからもう一度やる。
二度目も同じだった。外にいたのは八十五日だった。八十六日目が置けない。
置けないのは、間が抜けているためになる。落ちていた間を私は数えていない。
数え直す手掛かりが無い。日が上れば一つ増やせる。上るまでは八十五のままだ。
この数は私が数えたものになる。書いてある紙は無い。誰かに合わせて直すのは出来ない。
園にいた間は、数は紙のほうにあった。私が数えなくても増えていく。外へ出てからは、こちらで数える。
朝の一度だけにしていた。朝が来なければ、その日は増えない。そういう日を、私は今まで持っていない。
曲がる。体が右へ寄った。
寄った先の面に肩が当たる。
場所は肩の後ろになる。
曲がりを数える。
一つ目は右だ。
二つ目は左で、三つ目も左になる。
四つ目は右で、五つ目も右だ。
六つ目は左。
七つ目は右になる。
七つで数えるのをやめた。八つ目が来ない。曲がりの向きは、体の寄る先で分かる。
右へ寄れば左の曲がりになる。寄る強さは曲がりによって違った。三つ目が一番強い。
強い曲がりの後は、しばらく真っ直ぐになる。
その間は数が増えない。
増えない間に、私は口の中を数える。
歯は上に十六、下にも十六ある。
三十二だ。前に数えた時と同じになる。前に数えたのは園の廊下だった。
あそこには、待つ間に数えるものが他にもあった。床の目地。天井の板の継ぎ目。
箱の中には目地が無い。板は十枚で、継ぎ目は八本になる。もう数え終えている。
歯の次に数えるものは残っていない。私は指を折って戻す。五度やって、やめた。
止まる。
音が消えた。
消えてから、外で人の声がした。
二人ぶんになる。
言葉は分からない。
高さだけが来る。
声は低くて、どちらも短い。
言い終わるまでの間も、二人とも同じくらいになる。また動く。止まったのは一度目だ。
止まったのは全部で四度になる。
どれも、動き出すまでは長くない。
止まっている間は、体の下の沈み方が変わる。走っている時より深く沈んだ。下がるのは止まっている間だけになる。
揺れがあると、体は綿の上を少し浮く。その間は腰が楽だ。止まると、腰の右がまた当たる。
場所は毎度同じになる。
三度目からは、当たる前に体を寄せておいた。
三度目の時に、匂いが入った。油の匂いだ。油は舟の脂と違う。
もっと薄くて、鼻の奥に残る。
四度目の時に、その匂いが強くなった。上がってから、また薄くなる。薄くなる速さは、強くなった速さより遅い。
入るのは早くて、抜けるのは遅い。抜けきらないうちに、次の匂いが来た。次のは油ではない。
草の匂いに近いが、青くない。
乾いた草でもなかった。
この匂いは一つ数えるほどで切れた。その後は戻らなかった。
私は自分の匂いを嗅ぐ。腕の内側を鼻へ寄せた。
汗の匂いがする。三日つづけて魚を食べた分は、もう抜けている。
抜けた分の上に、新しい汗が来ている。膝を抱える。すると、箱の中の空気が少し温くなった。
温くなるのは私の分だけだ。孔から入るぶんは冷たいままになる。
温いところと冷たいところの境は、膝の高さにある。私は境のところで手を止める。そこで、また揺れた。
揺れは前より小さい。道が変わった。変わってからは段差が来ない。
数は増えない。増えない間に、私は箱の角を触る。四つの角のうち、頭の側の二つが手に届く。
角は直角ではない。少し丸い。
丸いのは削った分になる。削った跡は爪でなぞると分かった。
なぞると、粉が落ちる。粉は綿の上に乗って、そのままになる。粉の量は指の腹に付く程度だ。
落ちた分は目では見えない。掌で撫でると集まってくる。それを私は綿の端へ寄せた。
場所は髪を入れたところと同じにする。一度で確かめられる。
止まる。五度目になる。
今度は長い。音が止まったきりで、戻ってこない。
外で戸が閉まる音がした。二つ続けて鳴る。
足音が来る。二人ぶんだ。
足音は箱の脇で止まる。それから、上の面を叩く音がした。
叩いたのは二度になる。
強さに差は無い。金具の音がする。上の面の縁で、四箇所から順に鳴った。
鳴る順は右の手前から始まる。次が右の奥で、その次が左の奥になる。最後は左の手前だ。
四つは一つの音になる。金と木が擦れて、最後に短く鳴る。
一つにつき三つ数えるほどで鳴り終わる。私は数えながら膝を立てておく。そうしておけば、開いた時に自分で動けた。
動けるのと、動くのとは別だ。私は膝を立てて、そのままでいる。立てた膝の上へ腕を乗せる。
それから掌を上に向けた。孔からの空気が掌に当たる。
触れている間は、掌の温さが下がる。下がりきる手前で、金具の最後の音が来た。
最後の音の後で、上の面が持ち上がった。光が入る。目が痛い。
痛いのは目の奥で、閉じても続く。閉じてから、少しずつ開ける。
開けられる幅は、初めは睫毛のぶんほどだ。二人いる。着ているものの色は、上から下まで一つだ。
色は薄い緑になる。上と下で分かれていない。
一続きになる。手袋をしている。二人の手袋は、色まで一つになる。
一人が板を持っている。板に紙が挟んであった。もう一人が箱の縁に手を掛ける。
場所は角ではない。
真ん中に近いところを持った。それから下へ力を入れる。
箱が少し傾く。向きは足のほうになる。
「収容の記録の欄と、着いた時刻の欄を先に埋めることになります。順にこちらからお訊ねいたします」
私は坐ったままでいる。そのまま上を見た。顎を上げると、首の後ろが引き攣れた。
一度で消える。天井がある。高くて、孔は無い。
灯が並んでいた。数えると六つで、六つの形に差は無い。
灯の間に広い狭いは無い。四つ目だけ、光が弱まっている。
「何処ですか」
「番号の欄は照合の済みました後に埋めます。仮の区分の欄には本日の日付を入れることになります」
板を持つ人は、こちらを見ないで書いた。鉛筆の音は短い。
二画か三画で終わる。園の台の脇で聞いた音と同じ長さだ。
私は箱から出る。膝が縁へ当たった。
縁は角が丸い。当たっても痛くない。
立つと、足の裏が床に着いた。床は板ではなく、硬くて平らで、冷たい。
冷たさは足の裏から膝まで来る。
膝で止まった。箱を見る。外からだと、思っていたより小さく見えた。
側の面の孔は六つずつだ。中から数えたのと合っている。
板の色は外の側のほうが濃い。中は削ったままで白かった。外の面には字が書いてある。
字は横に一列で、数は四つになる。後ろの二つが大きい。そちらは筆の線が太い。
書いた後で上からもう一度なぞってある。なぞった跡が縁に出ていた。
中からこの字は見えていない。孔の外は暗かった。
箱の下に台がある。車が四つ付いていて、どれも掌に入るほど小さい。車の一つに紙が挟まっていた。
紙は白くない。踏まれた跡が付いている。
挟まっている場所は、車と台の間になる。抜けそうで抜けない。私はそれを見ている。
二人のどちらも、そこを見ていない。
台の脇に数が書いてあった。数は三つ並んでいる。桁は分からない。
書いてあるのは板ではなく、貼ってある札の上になる。札の角が一つ剥がれていた。
「持ち物の欄は空といたします。着替えの欄のほうは本日は行わない扱いということでお願いをいたします」
私は自分の袖を見ない。手は下げたままにする。
手袋の手が私の腕を取った。位置は肘の上になる。
力は強くない。前にも同じ位置を取られた。連れて行かれる先は廊下だ。
長い。壁は両側が一つの色をしている。床と壁の境に、細い溝があった。
溝には埃が溜まっていない。掃いた跡が残っている。
跡は一つの向きへ倒れていた。幅は箒の幅になる。
壁には掲示が無い。園の廊下には、四箇所に紙が貼ってあった。貼ってあった紙の隅には、押した印が一つずつ入っている。
途中に戸が四つある。どれも閉まっていた。
戸の板には継ぎ目が無い。園の戸には縦に一本入っていた。
戸の高さは一つになる。取っ手の位置も一つだ。
取っ手は横に長い。押す側と引く側で、色の落ち方が違った。落ちているのは押す側になる。
手の当たるところだけ明るい。明るい部分は、四つが一つになっていない。二つ目の戸のは細長い。
三つ目の戸だけ、下の隙間から光が出ている。台のある部屋へ入る。台は白い。
四角い。角は丸くしてある。
乗る前に、履いているものを脱ぐ。台の脇へ置いた。
置く場所を、私は覚えている。指差された場所と同じだった。
台の上は冷たい。足の裏が一度縮む。
縮むと数が動く。止まるまで待った。
待つ長さは、数えると十二ほどになる。待つ間に、私は台の縁の高さを目で測る。
膝の皿より少し上になる。園の台はこれより低かった。低いほうが乗りやすい。
十二の後で、係の人が紙に何かを書いた。台の面は私の側を向いていない。台には数の出るところがある。
私の側からは裏になっていて、光の縁だけが見えた。縁の形は横に長い。細い線が並んでいるのが、下から少し見える。
並びだけで、数は読めない。私は足の位置を動かさない。係の人は数を紙へ写す。
途中で一度、手が止まった。それから前の紙をめくってみる。すぐに戻された。
次に背丈を測る。壁の柱に横木が下りてきて、頭の上で止まる。
止まった時に、髪が押される。そのぶんは数に入らない。
横木は冷たくない。木ではないが、木のような手触りをしている。下りてくる速さは一定だ。
頭に当たる前に、一度止まった。止まってから、また下りる。着いたところで音が鳴る。
鳴るのは短い一つの音になる。園の台の横木も、同じところで鳴った。
入らないことを、私は前に教わった。その人の顔は思い出せない。
出てこないものは、手のほうに残ることがある。腕を上げる形は覚えている。
覚えている形の通りに、私は腕を上げなかった。誰も上げろと言わない。
最後に耳へ何かを入れられる。その時、係の人は指で耳を少し引いた。
音が一度鳴る。抜いてから、その人は紙を見た。
抜いた物の先を、その人は布で拭く。それから脇の器へ戻した。器には同じ物が並んでいる。
数えると四つある。いま戻した物だけが器の縁に寄っていた。直す手は来ない。
「体温の欄と、身長の欄に記入をいたします。三つの数値のほうは次の紙へも写すことになります」
三つの数が出た。
三つとも紙に書かれた。書いた紙は板に挟まれる。それから上の紙をめくった。
めくった先に、もう一枚ある。私は数を見ていない。紙は二枚で足りるらしい。
三枚目はめくられなかった。板には挟む金具が付いている。金具の下に、紙の端が揃えて入っていた。
揃えるのに、係の人は板を台の面へ一度打ち付ける。音は短い。その後で、板は脇へ回された。
先は私の見えない側になる。板の裏には、紐で吊るした札が付いていた。札の面はこちらから見えない。
吊るした紐は細くて、二度結んである。結び目の下に、切った端が二本垂れていた。
部屋を出る。廊下をもう一度歩く。向きは来た時と逆になる。
歩く速さは前と同じだ。腕は取られていない。
途中で匂いが変わった。油ではない。薄くて、鼻の先で切れる。
それから、また来る。
来る間は短い。一つ数えるほどだ。
この匂いを、私は前に嗅いだことがある。嗅いだのは一度ではない。何度も嗅いだ匂いだ。
毎日嗅いだ匂いは、名前を持っていないことが多い。名前を持っていないものは、思い出す時に形が出てこない。
何処で嗅いだかは出てこない。匂いだけが続いている。出てこないものは置いておく。
後で戻ってくることがある。そのままのものもある。どちらになるかは、いまは決められない。
廊下の突き当たりに戸がある。その前で、係の人が止まった。
止まってから、紙をもう一度見る。見る時間は、数えると八つぶんになる。
私は自分の腕を見た。腕には何も書いていない。
戸が開く。中は暗い。
入ると、匂いが濃くなった。木の匂いはもう無い。
油の匂いも無い。自分の匂いは、腕を寄せれば分かる。
濃いのは四つ目の匂いになる。私には覚えがある。園の台の脇にあった。
あった時は、拭いた後の輪が残っていた。輪は乾くと、縁だけが白くなる。その縁を、私は指でなぞったことがある。
何も付かない。それでも指は匂う。私は手を下ろす。
目が慣れてくる。暗い中に、台の形が浮いてきた。四角い。
角は丸い。高さは腰のあたりになる。その脇に、拭き残しの輪。
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収容の記録
着いた時刻 九月九日 一時四十分
引き渡した者 三名
照会 五に記す
一、着いた時刻
本件の個体が当園へ着いた時刻は、九月九日の一時四十分であった。出た時刻は前日の十六時三十五分であった。二つの差は九時間五分。
差を記す欄は本記録に置いてある。
上限を超えた旨を記す欄は無い。
一の二、箱を開けるまで
着いてから箱を開けるまでは三十五分であった。開けた者の欄には係の番号を記した。番号は二つ記してある。
一の三、輸送に用いた箱
用いた箱は中であった。
返す先の欄には請け負う側の名を記した。返した月日は、返す時に記すこととした。
二、引き渡した者
引き渡した者は三名であった。
受けた者は二名だった。双方の名は所定の欄に記した。数の別を記す欄は本記録に置いていない。
二の二、持ち物
持ち物の欄は空とした。空とした事由を記す欄は本記録に無い。着替えは本日行っていない。
行う日は明日以降とする。
三、身体の計測
体重、身長、体温を測った。
三つとも数値を所定の欄に記した。
体重は四十九・八キログラムであった。前回の計測との差を出す欄は本記録に置いていない。
三の三、外傷
外傷の有無を見た。
腰の右に色の変わった箇所が一つあった。大きさは所定の語で記した。語は三つのうちの一つであった。
三の二、番号
当該の個体の番号は、照合の後に定めることとした。
照合が済むまでの間の呼び方を記す欄は本記録に無い。
四、区分
収容の区分は仮のものとした。
仮の区分の期間は、照合の済むまでとする。本年度の仮の区分は四件であった。四件とも本区分へ移っている。
移った月日は四件とも記してある。
四の三、収容の場所
収容の場所は当園の第二の棟とした。棟の別を記す欄は本記録に置いてある。棟の中の室の番号は、本日は定めていない。
同じ棟に前に居た個体であるかどうかを照らす欄は無かった。
五、照会
本日の収容に際し、当該の地区について未処理の照会が一件あることが判明した。日付は本年八月七日。
当該の通知に、照会の対象の個体を記す欄は無い。本件の個体が当該の照会の対象であるかどうかは、本記録では確かめていない。回答の宛先を記す欄も、当該の通知に無いまま。
作成 収容の事務の係




