第082話 基準の日
食料の配給の実施に係る要綱(抄)
配る単位 世帯
名簿の基準日 前年度の十月一日
不足の埋め方 当該の世帯の内による
一、配る単位
配給は世帯を単位として行うものとした。人の頭を単位とする扱いは置いていない。置かない理由を記した書面も、本要綱のほかに備えていなかった。
一の二、世帯ごとの量
世帯ごとの量は、名簿に載せた人数による。
人数の帯は四つとする。一人、二人から三人、四人から六人、七人以上の四つになる。帯の境を改めた例は零件であった。
二、名簿の基準日
配給の名簿の基準日は、前年度の十月一日とした。
基準日の後に人数の変わった世帯は、次の作り直しまで前の人数によって扱う。
二の二、基準日の後に変わった世帯
本年度に基準日の後で人数の変わった世帯は九つになる。
九つのうち二つは減ったほうであった。増えた七つと減った二つとを分けて扱う定めは、本要綱に置いていない。
二の三、名簿の作り直し
名簿の作り直しは年に一度とする。作り直しの月は十月とした。
作り直しの日を早めた例は、当部門の記録に見当たらない。
三、不足の埋め方
世帯の内で不足が生じた場合は、当該の世帯の内で分けるものとする。分け方を定めた記載は本要綱に無い。分けた例の数を数える欄も置いていなかった。
三の二、不足の申し出
不足を申し出る窓口は区の当番とした。当番から当部門へ上げる手順は別に定めるところによる。本年度に申し出のあった例は零件であった。
零である旨は年度の集計の欄へ記している。
四、配る日と場所
配る日は月に二度とした。
日は各区の側で定めるものとする。
場所は各区の広場を用いることとしていた。屋根の有無を定めた記載は本要綱に置いていない。
四の二、並ぶ順
並ぶ順は名簿の順によることとした。
名簿の順は世帯の名の字による。字の順を定めた書面は令和百五十八年の制定になる。以後の改めは一度である。
五、余りの扱い
配り終えて余りが生じた場合は、当該の量を当部門へ戻すものとした。戻す先を記す欄は綴に置いてある。戻した量の年度の合計を出す扱いは置いていない。
合計を求めた例も残っていなかった。
五の二、戻す期日
戻す期日は配る日から三日以内とした。
期日を過ぎた例は本年度に四件あった。四件について事由を聞き取る扱いは置いていない。
──────────────────
起きて、私は数を先に置く。五月二十八日から数えると、今日で八十九になる。
八十九は割り切れない数だ。二でも三でも五でも七でも割れない。
十一だと八が余る。
十三で割ると十二が余った。割れない数の日は、私は指を左手に置いたままにする。
左手に置く日は、七月から数えて三十三日ある。右へ移した日は五十六になる。二つを足すと八十九になる。
足して合うかどうかを、私は朝ごとに見ている。合わなかった日は一度もない。合わない日が来たら、数え直す。
腰の後ろの重さは、落ちるまでに六を数えた。
八月の初めから二つ減っている。
二つの分は起き方に移った。膝を先に立てて、肘は板の目へ沿わせる。
胸の脇の固さは、縁が外へ寄ったところで止まっている。寄りの幅は八月の半ばから変わらない。
腹の前には、服の帯の下で丸みが出るようになった。出方は坐ると分かる。立つと見えない。
私は服の上から掌を当てる。場所は臍の下で、指の三本ぶん下がったところになる。
当てた掌の温さは、腕の内側と変わらない。頬に当てると、頬の温さが低い。
低いのは外の風に当たっている面になる。
夜の間は逆になった。
夜は頬が温い。板に近いところが冷える。
私は寝る向きを七月の終わりから替えている。右を下にする向きへ替えた。
左を下にすると、胸の脇の固いところが板へ当たった。小屋の板の匂いは朝が濃い。水の面はまた下がった。
岸に出ている石は二十四になっている。
八月の半ばは十九だった。増えた五つのうち、三つは平たい。
二つは丸い。平たい三つは、上を歩ける。丸い石へ足を載せると転がった。
転がる向きは水のほうへになる。落ちても深さは踝までだ。私は一度落として、それから平たいところを踏むことにした。
踏む順は決まっている。
手前の一つ、次に真ん中、それから奥になる。一番奥の一枚は上の面が少し傾いていた。下がるのは水へ向かう側になる。
天井の草の束は十一のままだ。指で弾くと、十一とも高い音が出る。乾ききると音が変わらない。
そうなってからは、私は数を見ている。
水を汲む。桶は昨日のうちに空けてある。
汲む場所は岸の平たい石の先で、そこの底が深い。底までは膝の下ほどある。
私は桶を沈めてから、斜めに引き上げる。立てて上げると縁から溢れた。斜めに上げる角は、覚えてしまえば手が勝手に決める。汲んだ水は小屋の前まで運ぶ。
道は十四歩あって、行きと帰りで同じになる。途中に根が一本出ていて、そこで足を高く上げる。
根の出方は七月から変わっていない。乾いて、色が白くなった。
私は顔を洗う。桶の底に砂が溜まっていた。砂は指で掬うと重い。
捨てる場所は戸の外の右になる。左は洗い場に使っている。
砂の溜まる速さが雨の後で上がる。雨の無い日が続くと減った。八月に入ってから雨は二度で、二度とも夜だった。
夜の雨は音で分かる。屋根の草に落ちる音と、水の面に落ちる音が違う。
草の音が低い。面の音は高くて、粒が数えられる。
私は服の帯を締める。
結び目は右のほうへ回す。締める強さは、坐って合わせる。立って締めると、坐った時にきつくなった。
髪は後ろで括る。布の紐は端が二つに割れたままだ。裂けた口は八月に入って一分ほど伸びた。
先のほうを、私は結び目の内へ入れている。
戸を開ける。空は薄い。雲は東の低いところに帯で残っていた。
帯の幅は指の三本ぶんに見える。
長さは指を四つ並べたほどある。
端は切れていない。両方とも、空の色へ溶けて分からなくなった。
朝の風は止まっている。草の先が揃って立っている。
揃っているのは、風の無い日の並びになる。今日は配給の日になる。月に二度あって、二度目は月の終わりに来る。
配りは昼に始まる。朝のうちに、私は道を上へ行ってみることにした。
行くと決めたのは昨日の夜だ。決めてから、寝るまでに三度考え直している。三度とも、行くほうへ戻した。
理由は自分でも並べていない。道は広場を過ぎて、右へ折れてから登りになる。上がりきると平らな場所が来る。
登りの途中に段が四つ切ってある。段は土を掘って、木を横に埋めたものだ。
横木は端が出ていた。四つとも長さが揃っていない。
一番上の段の木は色が新しい。
替えたのは今年になる。替えた跡の土は、周りより柔らかい。踏むと沈む深さが違った。
段の脇に手をつく石が置いてある。石は二つで、間は五歩ある。二つとも上の面が擦れていた。
減った形は掌に近い。
平らな場所には木が三本立っている。幹は三本とも細い。
太さは私の腕ほどだ。三本の間の空きは、掌を広げて四つぶん取ってある。植えたものになる。生えたものなら、こうは並ばない。
三本の根元には、草が寄せて刈ってあった。幅は木の周りで一尺ほどになる。
刈った草はそのまま置いてある。集めて運んだ跡は無い。
置いた草は乾いて、色が二種に分かれていた。上のほうが薄い。上のほうが薄い。
下のほうは、まだ青みが残っている。日の当たり方の差になる。
三本のうち真ん中の一本は、幹の下に切り口がある。枝を落とした跡だ。丸い跡で、縁が盛り上がっている。
盛り上がりの厚みは爪の半分ほどある。切ったのは何年か前になる。左右の二本には、その跡が付いていない。
木の先に標が一本立っていた。標は木の柱で、高さは私の胸のあたりになる。
柱の上に横板が打ってある。板には字が二つ書いてあった。
字は焼いて入れてある。
焼きの深さは二つで違う。
左の字が深い。窪んだところに苔が入っている。
苔は乾いている。指で触ると粉になって落ちた。
粉の色は緑ではない。
灰に近い色をしている。濡れれば戻るはずだが、私は水を掛けなかった。
右の字は浅い。そちらには苔が入っていない。溜まる場所が無いためになる。
私は柱の根元を見る。土が盛ってあって、周りとは色が違う。盛りの高さは足の甲までになる。
盛った土は色が周りと違った。運んできた土だ。
運んだ跡は残っていない。
盛りの縁は丸くならして、上から押さえてある。
当てた道具は平たいものになる。跡の幅は掌より広い。
盛りの上に草は生えていない。周りには膝までの草が立っている。
生えない場所は、柱を中心にした丸に近かった。
柱の周りに柵は無い。縄も張っていない。
柱は一本だ。二本目の柱は、道の向こう側にも見当たらない。立てる場所を均した跡も残っていなかった。
柱の高さは私の胸のあたりで、上を越えるのに手はいらない。横板は柱の上から一尺ほど下に打ってある。釘は二本で留めてある。
釘の頭は錆びている。
色が板へ流れて、下に筋を二本作っていた。筋の長さは違う。左の筋が長い。
標から先へ、道は続いている。幅は手前と変わらない。轍が二本入っていた。
深さも手前と変わらない。
私は標を越えて歩いた。越える時、足の上げ方は変えていない。地面は続いている。
段も溝も入っていない。十歩まで数えて、そこで止める。
止まった場所の土は、手前と変わらない色をしていた。硬さも揃っている。踵で押すと、沈む深さが手前と揃った。
私は左右を見る。右手は草で、丈は腰まである。
左手も草だ。切れ目は入っていない。溝も、石を並べた列も入っていない。
人の踏んだ跡が、道の真ん中に細く続いていた。幅は足の二つぶんになる。
跡は先まで切れずに行っている。今日の朝に付いたものではない。
止まった場所から振り返ると、標の裏側が見えた。裏には字が書いていない。
板の木目が出ている。目の向きは縦になる。
先を見ると、道は下って、途中で草の中へ入っていく。そこで幅が狭くなる。
狭くなった先は見えない。風が吹き下ろす。
吹いてくるのは先のほうからだ。草の匂いが混じっている。
混じっているのは、こちらの草とは違う匂いになる。強いのは乾いた葉の匂いになる。こちらの草は青い匂いがする。
刈ってからでないと乾いた匂いにならない。先にあるのは、刈らずに乾いている草になる。
風は続けて来ない。
吹いて、止まって、また吹く。止まっている間の長さは、数えると三から五になった。揃っていない。
私は十歩を戻る。歩幅は行きと同じにした。揃えると、標の根元でちょうど足が止まる。
足の先は土の盛りの縁に来る。
標のところまで来て、もう一度先を見た。誰も立っていない。
止める者もいない。声は掛からなかった。
草の中に鳥が二羽下りた。下りてから、片方が先に飛ぶ。
残った一羽は、しばらく地面を突いていた。嘴の動きは一定ではない。
柱の横板の裏に、爪で付けたような細い線が三本入っていた。縦に三本で、長さが揃っていない。
真ん中の一本が長い。付けた者の記しになる。数えた先は分からない。
私は柱の横板へ手を置く。
板は日に当たって温い。日の温さが掌から入ってくる。指の先までは来ない。
手を離す。板に掌の跡が残らない。乾いているためになる。
私は戻る。今日は薪の当番になる。当たる日は月に八度あって、順は家の並びで決まっていた。
並びを決めたのは私ではない。
道を下ると、広場が見えてくる。人が出ていた。数は九になる。
九人とも同じほうを見ていた。向いている先に台が二つ出してある。二つは並べてあって、間が空いていない。
台の上に木の箱が載っていた。箱は四つで、大きさが二種になる。大きいのが三つ、小さいのが一つある。
大きい箱には麦が入っていた。小さい箱は粉だ。
箱の角は金具で留めてある。金具は四隅に付いていて、色が二種あった。
三つの箱は黒い金具で、残る一つが白い。新しいのは白いほうになる。
箱の横腹には数が焼いて入れてある。
数は二桁だ。
四つの数は続いていない。間が飛んでいる。間の空き方は揃っていなかった。
配給の係が二人いる。
一人が量り、もう一人が名簿を持つ。
名簿の側は立ったままだ。
量る側は腰掛に坐っている。
腰掛は台の後ろに置いてある。高さは台の縁より低い。そのぶん、量る人は肘を上げて枡を持つ。
名簿は綴じてある。
表紙は厚い紙で、角が四つとも丸くなっていた。減りは手で持つところが大きい。左の上と、左の下が減っている。
持つ人は左手で下を支えて、右手で頁を押さえる。
当てる場所は毎回同じだ。
その場所の紙だけ、色が黒ずんでいる。
量りは天秤ではない。
枡を使う。
枡は二種あって、大小の差は倍になる。
枡の縁は擦れて丸くなっていた。減りは内側のほうが大きい。外側の角は残っている。
手が触れるのは内の縁に限られる。擦れた縁は色が薄い。色の落ちた幅は、枡の四辺で揃っていなかった。
手前の一辺が一番薄い。
量る人の手が、そこへ当たっている。
「本日は世帯の単位でお渡しをいたします。人数の欄は名簿のとおりでお願いいたします」
名簿を持つ人がそう言った。口は紙を読む形になる。九人は列になる。
順は名簿のとおりだ。
名を先に呼ばれた家から前へ出る。
列の間は詰まっていない。
前の側だけが空いている。
人と人の間は、掌を広げて二つぶんほど空いている。幅は前のほうが広い。後ろへ行くほど狭くなった。
狭くなるのは、後ろの者が前を見るためになる。
先頭は見なくてよい。
台の前まで来ると、みな袋を先に開ける。使う手は片方になる。
残る手で口を押さえている。支えを外すと、風で閉じた。
名を呼ぶ声は短い。家の名だけで、人の名は付けない。呼ばれた家の者は、返事をしない。
前へ出るだけになる。
出る速さは家によって違った。二つ目の家は間が空いている。その間に、量る人が枡を布で拭いた。
当てるのは内に限られる。三軒目の家の女の人は、上から四番目に呼ばれた。私はその後ろに立つ。
立ってはいるが、私は呼ばれない。名簿に載っていないためだ。女の人が枡を受ける。
二度受ける。大きい枡と小さい枡が一度ずつになる。
量る人は枡へ麦を入れて、縁を木の棒で切る。棒は平たい。
切る向きは手前から奥へで、一度きりだ。二度は掛けない。
切った分は箱へ戻る。落とす先は取り出した箱になる。
枡を返す時、量る人は袋の口の高さを見ていた。高さが合わないと、少し待つ。その間に、袋を持つ者が肘を上げた。
「こちらは三人の帯でお渡しをいたします。四人の帯は次の名簿の作り直しからになります」
量る人が枡を返した。渡す時、縁を台の角に当てて音を出す。
音は短い。中に残った粉を落とす手つきになる。
女の人は袋を広げた。袋は麻で、口の紐が長い。
紐の端は結んでいない。締めるのは家へ着いてからにする。
袋の底には継ぎが当ててある。継ぎの布は本体より色が濃い。縫った糸は白くて、目の数は片方で十四あった。
「四人になったのは今月だよ。うちの帳面はもう直してあるんだけどね」
「名簿の基準の日は前の年の十月一日になります。お申し出は区の当番へお願いします」
女の人は袋の口を持ち上げた。
上げてから、量る人を見る。目を置いたのは二つ数えるほどだ。それから台を離れた。
離れる時、袋の底を左の手で支えた。手の位置は袋の真ん中より下になる。低いところを持つと、揺れ方が小さい。
麦は袋の中で片方へ寄らなかった。私は女の人の後ろから離れる。下がる時、列を一度見た。
列はまだ五人残っていた。五人のうち、二人は同じ家の者になる。
同じ家から二人来ても、受けるのは一度だ。二人のうち一人は、袋を持っていない。
手ぶらで立っている。持っていない者は、受けた袋を運ぶために来ている。
運ぶ役を分ける家は、十四のうち三つあった。三つの家を私は覚えている。前の配給の日に見た。
今日も三つで変わらない。
広場を出る前に、私は台をもう一度見た。箱の中の麦は、朝より減っている。減った量は三つの箱で揃っていない。
手前の箱が一番減っていた。取りやすい位置になる。
奥の箱は口のところが平らなままだ。手の入った跡が無い。
広場を出る。道の左に用水が通っている。
水は朝より濁っていた。濁りは上で人が入ったためになる。水へ入る場所は決まっている。
三軒目の家に着く。女の人は袋を土間へ置いた。土間に当たる音は鈍い。
麦の入った袋は、粉の袋より低い音を出す。音の高さで中身が分かる。聞き分けられるようになったのは、七月の終わりからだ。
中身は麦が三の二で、粉が三の一になる。私は袋の口から見て測った。
測る時は上から覗いて、境の線を見る。麦と粉は色が違う。
境は真っ直ぐではない。運ぶ間に揺れて、斜めになっていた。
女の人は瓶を二つ下ろす。麦を移す先と、粉を移す先で分ける。
移す時、袋の口を絞って細くした。口を狭めると、こぼれる分が減る。
瓶の口には布を被せる。留める紐は前と変わらない色だ。
麦の瓶は口まで来なかった。
指の二本ぶん下で止まっている。粉の瓶は半分より少ない。粉は嵩が減らないぶん、目で分かりやすい。
女の人は瓶を棚へ戻す。棚の段は胸のあたりになる。麦の瓶を左、粉の瓶を右へ置いた。
並べる順は前と揃えてある。
揃えると、暗いところでも手が迷わない。この人はそう言っていない。私が見て、そう思っている。
「帳面はどれですか」
女の人は棚の上の段を指した。指の先には冊子が横に寝かせてある。表紙は中の紙より厚い。
背から糸が出ている。出た長さは指の一節ほどになる。
棚の上の段は、私の背では手が届かない。見上げると、冊子の底の面だけが見えた。
昼の支度が始まる。鍋は煤の付いたものを使った。新しい鍋は棚に載せたままだ。
煤の付いた鍋は底が丸い。火に当てると、当たる面が広くなる。
新しいのは底が平らだ。底の平らな鍋は、湯が沸くまでに時間が掛かる。
女の人は火を熾す。火口は乾いた草で、天井から取ってきた。
抜いたのは端の一束になる。私が七月に掛けた四つのうちの一つだ。
汁の実は昨日の残りが入る。菜が二種と、干したものが少しになる。干したものは指の先ほどの大きさで、数えると九つあった。
女の人は九つを鍋へ落とす。
入れる時、一つずつではない。掌に乗せて、まとめて入れた。落ちる音は一度に聞こえる。
女の人は麦を量る。使う道具は椀になる。山を作らず、縁で切る。
切るのは指の腹でやる。落ちた分は鍋の外へ出さない。
椀は三杯入れた。入れた三杯が三人の分になる。
私は土間の隅で薪を割る。今日は当番になる。割る場所は戸口から二歩入ったところだ。
そこの土が固い。踏み固めたのではなく、斧の柄の先が当たって固まっている。
割る数は十二本と決まっている。数えるのは自分でする。
置き場から運ぶのは三度に分けた。一度に四本で、道は九歩ある。道の長さは変わらない。
抱える高さは胸の下だ。
斧は柄が短い。柄の先は握るところの色が濃くなっている。
色の変わった幅は掌の広さと合う。私の手より少し大きい。
振り下ろす高さは肩までにした。高く上げると、腰の後ろへ来る。
十二本を割り終える。割れなかったのは一本で、節が入っていた。割れなかった一本は、脇へ寄せておく。
寄せた場所には、前に寄せた分がもう三本ある。四本とも節が入っていた。
節の位置は四本とも同じではない。真ん中に来ているのは一本になる。
割った分は戸口の脇へ積む。横に寝かせて、上から押さえる。上から力を掛けると、崩れる幅が小さくなる。
汁が出来る。器は四つ出た。
出す順は棚の手前からで、迷いが無い。四つとも同じ形をしている。
女の人が汁を分ける。順は手前からで、私のは三つ目になる。
三つ目の器の高さは、ほかの三つより低い。低いのは私のほうになる。
低さは指の半分ほどだ。低くなるのは、四つに分けた時の余りが出ないためになる。四で割ると、三人分は割り切れない。
女の人は自分の椀から三口ぶんを移した。
移した後の高さは、私のと同じになる。移す時、この人は何も言わなかった。私からも言っていない。
器の底に麦が沈む。沈むまでの速さは四つとも揃った。沈むまでの間は、数えると十二ほどある。
動かすと、また浮いて散った。
私は先に一口だけ飲む。温さは口の中で消える。喉のところで下がった。
下がる速さが汁の熱さで変わる。今日は熱すぎない。
女の人は火から下ろしてから、数えるほど置いてある。置いておく長さは毎回同じだ。
二口目からは、麦を先に取る。口へ入れてから汁を飲む。順を変えると、最後に汁だけが残った。
食べ終えて、器を洗う。場所は土間の外になる。洗うのは汁の器を先にする。
麦の付いたところは指で落とした。水は用水から引いていた。樋は竹で、途中に継ぎが一つある。
継ぎのところで水が細くなる。そこから先は音が高い。
器を伏せて乾かす。伏せ方は四つとも同じにする。伏せる場所は板の上で、四つを二つずつ並べた。
向きは縁で揃える。向きが違うと、乾く速さも違ってくる。
板の下には水が落ちる。滴った水は土へ入って、跡を丸く残す。
跡の大きさは器の底より広い。広さは土の乾き具合で決まる。
日が傾く。
雲が東の低いところから動いて、真上より少し西へ来た。雲の切れ目は二つある。切れ目の幅は、東の一つのほうが広い。
広いほうから日が差した。日の帯は広場の端に落ちている。
当たる場所は動いていく。速さを数えると二十で一歩ぶんになる。私は小屋へ戻る道を歩く。
途中の曲がりで、朝に見た石をまた見た。三つとも動いていない。
石の上に、木の葉が一枚載っていた。載り方は端が浮いている。
風で来た葉になる。置いたものではない。
道の下りで、風が背のほうから来た。朝は先のほうから来ていた。替わった時刻を私は見ていない。
替わったことが分かる。
小屋に着く。戸を開けると、中の匂いが出てきた。板と水の匂いだ。
私は今日の数を並べる。石のほうは二十四になった。草の束は十一のままだ。
水の面は指二本ぶん下がったところから、また半分ほど落ちている。標から先へ歩いたのは十歩で、戻ったのも十歩になる。配給の列は九人で、女の人が呼ばれたのは四番目だ。
枡は二度で、椀は三杯になる。器は四つで、移された分は三口になる。
汁の実の干したものは九つで、菜は二種だ。名簿の帯は四つある。
薪は十二本を割って、割れなかったのが一本ある。節の入った分は、脇に四本溜まった。
積んだ高さは膝の上までで、前の分と合わせると腰に届く。次に物を並べる。
標の柱は木で、上に横板が打ってあった。板の字は焼いて入れてあって、左が深い。
深いところに苔が入っている。苔は乾いていた。柱の根元の土は盛ってあって、色が周りと違う。
柵は無い。縄も張っていない。轍は標の先まで、同じ深さで続いている。
最後に人を並べる。人の数だけは、朝から夕まで動かなかった。量る人は坐っていて、名簿を持つ人は立っていた。
名を呼ぶ声は家の名で終わり、呼ばれた者は返事をしない。前へ出る。
女の人は台のところで一度、言い返した。それから袋の口を持ち上げている。
私は誰にも呼ばれていない。列に立ってはいた。
並んだ場所は四番目の後ろになる。後ろに立っても、前が一人ぶん増えたことにはならない。
板の上の通知は、今朝と同じ場所にある。石も動いていない。紙の右の下の折り目は、指で触るとまだ立つ。
私はそこを押さえなかった。押さえれば寝る。一度寝たものは、次の朝には戻らない。
──────────────────
配給の日の受け渡しの綴(抄)
受け取った世帯 十四
渡した量 次項に記す
余りの行方 五に記す
一、受け取った世帯
本日受け取った世帯は十四になる。
十四は当区の世帯の数と合っていた。来なかった世帯は零である。零である旨は本綴の欄へ記した。
一の二、来た者の数
台の前へ来た者の数は十七であった。十七のうち三は、同じ世帯から重ねて来た者になる。重ねて来た者を数える欄は本綴に置いていない。
当番の側で数えた。
二、渡した量
渡した量は麦が四百二十枡、粉が百四十枡であった。
二つの合わせは五百六十枡になる。
枡の大小を分けて記す欄は本綴に置いてある。大の枡で四百八十、小の枡で八十になる。
二の二、人数の帯ごとの世帯
一人の帯は二世帯、二人から三人の帯は六世帯であった。
四人から六人の帯は五世帯になる。七人以上の帯は一世帯であった。帯の別は名簿の人数による。
二の三、基準日の後に変わった世帯
本日受け取った世帯のうち、基準日の後に人数の変わったものは三つあった。三つとも前の人数で渡している。変わった旨を申し出た世帯は一つになる。
申し出を記す欄は本綴に置いてある。
三、不足の申し出
本日、不足の申し出は無かった。無い旨は本綴の欄へ記した。前項の申し出は人数の変わった旨についてであって、不足の申し出には当たらない扱いとした。
三の二、扱いの別
二つを分ける基準を記した書面は、当番の手元に無い。
当番の判断によることとしている。判断をした者を記す欄も本綴に置いていなかった。
四、並ぶ順
並ぶ順は名簿の順によった。
順を違えた例は本日に零件になる。
順を待たずに前へ出た者が一人あったが、当該の者は世帯の名を呼ばれていない。数に入れていない。
五、余りの行方
配り終えて余りが生じた。量は麦が七枡、粉が二枡になる。余りは戻すこととしている。
戻す先を記す欄は本綴に置いてある。
戻した先を書いた行は、この綴の何処にも見当たらない。




