↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間館 ―絶滅危惧種ヒトの飼育記録―  作者: 智珠
第六章 野生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/106

第081話 点の位置

登録の番号の様式に係る規程(抄)


桁と点 六桁・端から三つ目と四つ目の間

二つの番号の別 次項による

分ける必要が生じた場合 当該の部門の判断による


一、桁と点


登録の番号は六桁とする。点は端から三つ目と四つ目の間に置くものとした。この様式を定めたのは令和百六十二年である。


以後、点の位置を改めた例は零件であった。


桁を改めるための起案も、当機構では扱っていない。


一の二、字体


番号に用いる字体は一種とした。刷りと手書きとで別の字体を用いる扱いは置いていない。手書きで記した番号を刷りへ移す際の手順は、別の書面によることとしていた。


二、二つの番号の別


登録の番号のほかに、施設の側で用いる個体の番号がある。


二つは桁も点の位置も同じであった。二つを分ける記号を付す扱いは置いていない。付すよう起案した記載も残っていなかった。


二つのいずれであるかは、番号を載せた簿冊の側で判る扱いとしていた。


二の二、簿冊の側で判る扱い


前項の扱いは、簿冊の表紙の題によるものとする。


表紙の題を欠いた簿冊の扱いは定めていなかった。題を欠いた簿冊の数は、本年度に三冊であった。三冊はいずれも現場の部門が備えたものになる。


三、照会を受けた場合


番号の様式について照会を受けた場合は、桁と点の位置のみを答えることとした。それ以上を答えた例は本年度に零件であった。答えなかった旨は照会の受付簿の欄へ記した。


当該の欄に記入のあった照会は本年度に二十九件になる。


三の二、照会の相手方


照会の相手方の別を記す欄も置いてある。


二十九件のうち、施設の側からのものは十一件であった。


残る十八件は施設の外からになる。外からの十八件について、相手方の区の名を記した例は本年度に零件であった。


四、分ける必要が生じた場合


二つの番号を分ける必要が生じた場合の扱いは、当該の部門の判断によるものとする。


判断の基準を定めた書面は、本規程のほかに置いていなかった。


四の二、生じた例の数


必要が生じた例の数は、当機構では数えていない。


数える欄を設けた記載も無かった。施設の側で数えた例があるかどうかは、当機構では確かめていない。


五、番号の写


番号の写を求められた場合は、区の当番の備える控によることとした。


当機構の窓口で写を交付する扱いは置いていない。控の様式は各区の側で定めるものとする。様式を揃えるよう求めた記載は、本規程に無かった。


五の二、控に載せる範囲


控に載せるのは、当該の区に住まう者の分とした。区の外にある者を載せた例は本年度に四件になる。四件はいずれも婚姻による転入の前の分であった。


転入の前の分を載せる扱いを定めた記載は、本規程に置いていない。


──────────────────


 朝のうちに、私は紙の位置を確かめる。

 通知は板の上にある。板は寝るところの脇で、床から手のひら一つぶん高い。


 紙は角を四つとも合わせて、板の上へ置いてある。上に石を一つ載せた。石は小屋の外で拾ったものだ。

 平たくて、片面がざらついている。石の厚みは、指の一本ぶんに足りない。重さは掌に載せて分かるほどある。


 色は灰で、日に当てると縁が白く見える。

 濡らすと縁の白さが消えた。

 乾くと、また出てくる。私は二度濡らして、二度とも戻るのを見た。

 ざらついた面を下にすると、紙が動かない。試したのは九日前になる。


 九日の間に、風で二度ずれた。

 二度とも右の下の角が浮いている。もとから折れていた一つになる。

 角の内側に、細かい皺が寄っていた。私はその角を、指で押さえて戻す。押さえた形はそのまま残る。


 通知の字は六の項まである。私は下から二行を読む。朝に一度で、夜には開かない。


 下から二行の字は、上の項より小さい。

 刷った版が違う。

 一の項から五の項までは字の高さが揃っている。六の項だけ低い。


 低い分、行と行の空きが広く取ってある。広さは指の腹ほどになる。

 私はそこへ爪を当てて、幅を覚えた。覚えた幅は、女の人の紙の折り目の幅と近い。近いだけで、揃ってはいない。


 板の下には桶が入れてある。前に空けたのは昨日になる。屋根の漏りは八月に入ってから減った。

 雨が降っていない。日を数えると、今日で十一になる。

 水そのものは、減っていない。

 減らないのは、下の川から入りがあるためになる。小屋の下は水の際で、面は板の隙間から見える。面の高さは、七月の終わりから指二本ぶん下がった。


 下がり方は毎日違う。四日かかって一本ぶん下がる日もある。一日で半分ほど落ちる日もあった。

 下がる日は前の晩が暑い。

 私は板の節の穴から、水の面を見る。穴は小さく、目を寄せないと入らない。穴の縁に印を付けてはいない。印が無くても、岸の石の並びで分かる。

 下がると、岸の石が並んで出てくる。並んだ石には白い縁が付いている。

 縁は水の跡だ。触ると粉が指に移る。


 出ている石を数えると、今朝は十九になった。

 七月の終わりは七つだった。増えた十二のうちの四つは大きい。ほかは掌に載る。


 大きい四つは、並びの真ん中に寄っている。端に並ぶのは小さい石ばかりだ。端の石は水が動くと転がる。

 大きい四つは動かない。


 天井の草の束は十一のままにしてある。八月に足していない。弾くと、十一とも音が高くなった。七月に生だった四つも乾いている。


 私は起きる。体を右へ回してから、肘で押す。

 肘を突く場所は板の目に沿わせる。逆らうと掌の付け根が痛い。


 起きてから、天井の低いところへ頭が当たらないように屈む。低いところの高さは肩の幅ほどになる。戸のところまで来ると立てる。


 腰の後ろの重さは、落ちきるまでに七を数えた。

 八月の初めは八だった。数が減ったのは、起き方を変えたためになる。膝を先に立てる。


 胸の脇の張りは、左のほうが強いままだ。服の上から当てると、指の当たる面が固い。固さの縁は前より外へ寄っている。

 幅は指の一本ぶんほどだ。

 腰の骨の上のあたりが、服の内で当たるようになった。当たるのは坐った時になる。立つと離れる。


 坐り方を変えると当たらない。私は片方の膝を少し外へ開いて坐る。開く幅は掌の半分ほどになる。開きすぎると腰の後ろへ来た。

 朝の吐き気は八月に入ってから一度も来ていない。無くなった日から数えると、七月二十九日で十八日になる。


 五月二十八日から数えると、今日で八十日だ。八十という数は割り切れる。

 二でも四でも五でも十でも割れる。

 三では割れない。七でも割れない。


 私は割れる数と割れない数を、指で分けておく。置く手は決まっている。右手が割れるほうで、左手が割れないほうだ。

 顔を洗う。桶の水は温い。夜のうちに冷えていない。


 洗う手は二度掬う。一度目で目のまわり、二度目で口のまわりを洗う。

 口のところは、洗ってから手の甲で拭く。掌では拭かない。


 掌で拭くと、水が袖まで入る。袖が濡れると乾くのに昼までかかった。

 髪を括ってから、服の帯を締める。帯の位置は腰の骨の下に落としたままにする。

 結び目は前ではなく、少し横へ回す。寄せる先は右になる。


 右へ回すと、坐った時に膝へ当たらない。左だと当たった。

 寝る時にも、そこへ来る。私は右で通している。


 小屋を出る。外は明るい。日の当たる幅が、七月より狭くなっていた。


 道を登る。

 歩幅は狭いままで、広げていない。登り切ると家が見える。数は十四で、変わらない。


 途中に曲がりが二つある。一つ目は右へ、二つ目は左へ折れる。二つ目の角が急になる。

 角のところは土が削れて、石が出ていた。


 出た石は三つある。三つとも上の面が平らになっている。

 足で均されたものになる。踏む足の数は数えられない。

 曲がりの外側には草が伸びていた。丈は膝の上まである。

 刈った跡は無い。内側は踏まれて、丈が足の甲までになる。


 広場は乾いている。土の色が薄い。踏まれた場所に、まだ濃さが残る。


 濃い場所は真ん中に寄っていた。

 幅は八月の初めより狭い。雨が降らない日が続いている。乾いた土は、踏んだ跡が浅く残る。


 広場の隅の台は、脚を畳んで壁へ立てかけてあった。畳んだ脚の角は浅い。倒れないところで止めてある。


 三軒目の家の戸は開いていた。中から煮炊きの匂いが出てくる。匂いは麦が強い。

 漬けたものは弱い。


 女の人は土間に立っていた。手には布巾がある。絞ってある。

 水は落ちない。皺が縦に寄っていた。


 寄り方は片側だけ強い。片手で絞る癖になる。


「あんた、来たね。今日は当番の家へ行くから、支度をしておくんだよ」


 私は戸口で待つ。土間の内は外より暗い。

 窓が一つしか無く、その一つも高いところにある。目が慣れるまでに、二十ほど数えた。


 数えるのは息の長さで測る。息を吐ききるまでを五とする。四度吐くと二十になった。

 慣れる速さは日によって違う。外の日が強い日ほど遅い。今日は四度で足りた。


 慣れると、棚の上のものが見えてくる。鍋が二つ、笊が三つ、あとは瓶だ。五つ並んでいて、背の高さが二種になる。


 高いのが三つで、低いのが二つある。並べ方は高い低いの順ではない。

 左から高い低いと来て、次に高いが二つ続く。一番右がまた低い。


 瓶の口には布が被せてあった。

 布の色は五つとも違う。留めてある紐は五つとも同じ色になる。結び目はどれも右へ寄っている。


 結んだ手が一人だと分かる。結び目の高さは、口の縁から指一本ぶん下がっていた。

 鍋の一つは底に煤が付いている。もう一つは新しい。

 そちらの縁に、まだ削りの跡が残っていた。跡は細かい横の筋になる。


 笊は三つとも編みの目が違う。細かいものが一つ、粗いものが二つある。粗いものは、目の大きさが揃っていた。

 同じ手で編んだものになる。


「三つ目の紙はね、うちらのは当番のところにあるよ。あんたのは無いけどね」


 女の人は懐から紙を出した。懐から抜く時、一度裏返している。その面には何も書いていない。


 裏返した理由をこの人は言わなかった。私も訊いていない。

 裏返す手つきは速い。手の速さは布巾を絞る時と揃っていた。

 紙は二つに折ってあった。目は真ん中にある。

 端が少し破れていた。下の側に入っている。上の側は切ったままの縁だ。

 破れの長さは爪の幅ほどある。破れた口は毛羽立っていた。

 向きは表から裏へになる。破いたのは表の側からだ。


 紙の厚みは通知より厚い。持つと、折り目のところで自分から立つ。通知は折らずに置いてあるので、比べるのは指の腹の感じになる。


 紙の色は白ではない。

 少し黄に寄っている。縁のところで強くなる。真ん中はまだ白に近かった。


「これがうちのだよ。去年、当番のところで写してもらった。判は当番が押すのさ」


 紙の上のほうに字が並んでいる。並びは横で、縦には入っていない。私はそこを見る。


 字は刷りではない。手で書いてある。書いた者は一人だ。

 線が太い。線の終わりが丸く止まっている。


 止まり方は、はねを付けていない止め方になる。全部の字がそうだ。筆ではなく、太い鉛筆で書いたものになる。

 紙の下のところに判が一つ押してあった。判は丸い。中の字は三つで、外の輪には切れているところが一箇所あった。


 切れは右の下だ。押した時に浮いた分になる。

 この紙の上に、押し直した跡は無い。一度で済ませてある。

 女の人は紙を私の手前へ寄せた。置いてから、指を離す。


 私は数の並びを見る。点が一つ入っていた。

 点は真ん中より左だ。左と右で、数の数は釣り合っている。

 点の形は丸い。書いた者が筆を止めた跡が、少しだけ濃い。濃いところの径は、ほかの字の線の太さより大きい。

 径は倍ほどになる。押し当てて、そこで止めた跡になる。


 六つの数のうち、二つは同じ字だった。並んではいない。一つは左の端で、もう一つは右の真ん中にある。


 字の高さは六つとも揃っていた。下の端が一本の線に乗る。揃えるための罫は引いてない。

 手で揃えたものになる。


「あんたのはどうするんだい。無いものは、何処かで作ってもらうのかい」


 私は答え方を持っていない。作る手を聞いていない。聞ける相手も、いま前にいる一人だけになる。


 女の人は紙を畳んで懐へ戻した。畳む向きは、出した時と逆になる。

 戻す先は右の懐だ。抜いた時と変わらない。


 入れてから、この人は服の上を一度押さえた。押さえた場所は胸の下になる。

 押さえると、紙の角が布の上へ出る。浮いた形は三角に近い。

 当番の家までは、広場から歩いて数えると六十二歩ある。行きは女の人が先に立った。

 この人の歩幅は私より広い。私は二歩に一度、合わせるために足を詰める。短くするのは右の足になる。

 道の左に用水が通っている。

 水の音は途中で一度切れた。切れる場所に板が渡してある。板の下で水が細くなっていた。


 板の幅は足の長さの倍ほどある。渡る時、女の人は真ん中を通った。私は端を歩いた。

 そちらは板の撓みが小さい。


 当番の家は広場から左へ入って、四軒目にある。屋根は他より低い。戸は引き戸で、下の溝に砂が溜まっていた。


 溝の砂は片側に寄っている。開ける手の側に集まっていた。開ける度に掃き寄せられた跡になる。

 掃き出した跡は無い。開ける時、音が二度に切れる。一度目で止まり、二度目で開く。


 土間は三軒目の家より高い。上がり框が無くて、床がそのまま続いている。

 足を上げる高さが違うので、私は一度つまずきかけた。

 当番の人は奥にいた。


 この人は口を開かない。開かないのは今日に限らない。


 顔をこちらへ向けたのは一度になる。

 向けてから、また手元へ戻した。

 手元には縄がある。

 編みかけのものが膝の上に置いてあった。


 編み目は途中で太さが変わっている。

 途中から先が細い。

 後から編んだところになる。

 そちらの縁は毛羽立っていなかった。


 私たちが入ると、棚から冊子を一つ下ろした。棚から抜く時、両手を使う。冊子は厚い。

 背に紐が三本通っていて、真ん中の一本だけ色が違う。違うのは掛け直したためになる。日を書いた紙は付いていない。


 当番の人は冊子を台の上へ置いた。

 それから、表紙を開く。表紙の裏には何も刷っていない。次の頁から字が始まる。


 紙は薄い。下の頁の字が透けて見える。透けるのは行の太いところに限られる。


 頁の左に家の名が並んでいた。名の右に番号が入っている。番号は縦に並ぶ。

 行の高さは揃っていた。


 揃えるための罫は引いてない。目で揃えたものになる。下へ行くほど、右の端が少しずつ内へ寄っていた。

 寄り方は一行につき髪の幅ほどだ。一頁で爪の幅になる。


 一頁に十四行ある。家の数と合っていた。

 私は上の行から順に見た。番号はどれも同じ長さだ。

 私は桁を数える。六つあった。点は三つ目の次にある。

 十四行とも、点は同じところにある。


 点の大きさは行によって違った。上の点が大きい。

 下へ行くほど小さくなる。書く速さが上がった分になる。

 十四行のうち、点の下がわずかに滲んでいる行が三つあった。滲んだ行は続いていない。上から五つ目と、八つ目と、十三つ目になる。

 滲みは下へ寄っている。紙を立てて乾かした跡だ。


 当番の人は指で一つの行を押さえた。指の当たったのは上から三つ目の行になる。

 押さえた指の爪は短い。切った縁が真っ直ぐになっている。

 切った跡は一度で、途中で角を残していない。女の人が横から覗く。見てから、頷いた。


「そこがうちだよ。去年もその前も、ずっと同じところに載ってるからね」


 当番の人は頁をもう一枚めくる。次の頁も十四行あった。

 二枚目の行は、一枚目より字が薄い。書いた年が違う。


 薄いのは鉛筆の芯が違うためになる。同じ手で書いてあった。字の止め方が一枚目と揃っている。

 はねを付けていない。薄いほうには、下に線を引いた行が二つある。


 線は横に引いてあった。線の下の数は読める。

 二つの線は長さが違う。上のほうが短い。

 上の線は数の途中で止まっていた。先の二桁に線は掛かっていない。


 定規を当てた線ではない。

 手で引いてある。途中で太さが一度変わった。押す力が抜けたところになる。


 当番の人は二枚目を指で二度叩いた。叩いた場所は線の引いてある行になる。それから冊子を閉じる。

 閉じる時、紐が台に当たって短く鳴った。


 私は冊子の背を見る。背には題が刷ってある。字は四つだ。

 字の高さは背の幅の半分ほどある。上下の空きは同じではない。

 上のほうが広い。下は字の端まで一分ほどしか無かった。

 題の下には何も無い。年も、区の名も入っていない。刷りの色は黒で、掠れていなかった。


 背の紙は表紙より濃い色をしている。貼ってあるのは背になる。剥がれかけているところが下の端にある。

 剥がれの幅は爪の半分になる。当番の人は冊子を棚へ戻した。置く場所は抜いた棚の段になる。


 棚の高さは私の肩より上だ。当番の人は爪先を上げなかった。


 当番の人は私たちを戸まで送らなかった。座ったまま縄へ戻っている。

 編む手は途中から速くなった。上がる場所は決まっていない。


 外へ出ると、日が真上より少し西へ寄っていた。影の向きが、来た時と変わっている。来た時、影は道の右へ落ちていた。

 今は左になる。変わったのは日になる。道は動いていない。


 広場の裏の作業場に人がいた。木を割る音がしている。

 一つ置きに二度鳴る。割れる木と、割れない木がある。


 割る人は二人いる。一人が斧を持ち、もう一人が木を立てる。

 木を置く人は、手を引く速さが決まっていた。引いてから、斧が下りるまでに二つ数える。二つの間は毎回変わらない。


 割れた木は右へ積む。

 割れなかった木は左へ寄せてあった。左の山が低い。高さは膝の下までになる。


 右の山は私の腰まである。積み方は縦ではない。横へ寝かせてあった。

 鵜飼はその脇に立っていた。手には何も持っていない。

 この人を見るのは四十日ぶりになる。服は六月と変わっていない。袖の丈が合っていない。

 丈の違うのは右の袖になる。


 右の袖は肘の下で一度折り返してある。返した幅は二重になる。

 左は折っていない。手首まで真っ直ぐ落ちている。


 靴は前と違う。底の厚みが増していた。

 付け足した厚みになる。縫った糸の色が本体と違う。

 糸は黄で、本体は黒に近い。縫い目の数は片足で十二あった。


「札の話は聞いた。当番の控は見たか。見たなら形は分かるだろう」


 私は頷いた。首を縦に一度動かす。それから、指を六本立てた。


 立てたのは両手になる。右が三本で、左が三本だ。間を少し空けて立てた。

 空けた幅は指一本ぶんある。鵜飼は立てた指を見た。それから、目を作業場へ戻す。


「番号の無い者に番号は付かない。付けるには先に世帯が要る」


 私は世帯のことを言おうとした。口を開くところまでは動いている。言う前に、この人が続けた。


「世帯があっても、生まれた場所の紙が要る。そっちは俺にも作れん」


 鵜飼は自分の紙を出さなかった。懐に手も入れていない。

 この人の懐は左が膨らんでいる。中身は帳面に近い。

 角が四つとも出ている。厚みは指の二本ぶんほどになる。


 膨らみの位置は前より下だ。六月に見た時は胸の高さにあった。

 作業場の音が止まった。切れてから、また始まる。


 始まりの一度目は音が小さい。二度目から元の高さに戻った。

 止まっていた長さは、二十を数えるほどになる。止まっている間、二人は何も言わなかった。斧の刃を布で拭いている。


 拭くのは片面ずつだ。表を三度、裏を三度で終わる。


「当番は写すだけだ。向こうが直せば、こっちの控も変わる」


 私は向こうが何処かを訊かなかった。この人は指も差さない。


 鵜飼は道へ向かって歩いていく。歩幅は広い。右の足のほうが土を強く踏む。

 踏んだ跡は左より深く残った。深さは指の腹が入るほどになる。


 私はその跡を見ている。

 そのうちに風が来て、縁が崩れた。崩れるのは上の縁からだ。底の縁は残った。


 風は西から来た。今朝は東から来ていた。変わる時刻を私は見ていない。


 風の来る草が、一度に倒れた。向きは揃っている。

 起き上がり方は揃っていない。戻る速さは丈で決まる。長いものほど遅く戻った。


 女の人が私の腕を軽く叩いた。それから、家を指す。


「帰るよ。日が落ちる前に薪を運んでおくんだ。今日の分はまだだからね」


 私は薪の置き場へ行く。三軒目の家の脇にあって、道からは板の陰になる。積んだ列は六つで、そのうちの二つが手前から取ってある。

 取ってある二つは、奥まで空いてはいない。手の届く分が抜けている。空いた跡は、上から見ると三日月に近い。


 一番上の横向きの一本は、まだそこにあった。切り口の白さが少し落ちている。日に当たって落ちたものになる。


 私は下の列から、順に取る。一度に持つのは四本になる。両腕で抱えられる数だ。

 五本にすると、腰の後ろへ来る。


 抱える位置は胸の下になる。上へ寄せると顎に当たった。

 下へ寄せると腕が伸びきる。腕が伸びると、途中で持ち替えることになる。


 持ち替えると一本落ちる日がある。落ちるのは一番外の一本だ。一番外の一本が、抱える腕から遠い。

 運ぶ道は片道で九歩ある。抱えた数が四本でも三本でも変わらない。


 戸口へ置いて、また取りに行く。三度で、今日の分になった。

 三度目の最後の一本に、皮が残っていた。皮の縁は反り返っている。

 反った内側は色が薄い。私は指で剥がさなかった。


 運び終えてから、私は手を服で払う。皮の粉が付いていた。

 粉は白い。払うと、服の色が変わる。色の変わる幅は擦った長さで決まる。


 手のひらの真ん中に、薪の角の跡が残っていた。跡は三本ある。

 二本は平行で、一本は斜めに入っている。斜めの一本は、持ち替えた時に付いたものになる。

 日が落ちる。屋根の影が土の上を伸びていく。伸びた先が、薪の置き場の手前で止まった。

 止まる場所は昨日より手前になる。日が短くなっている。


 私は小屋へ戻る道を歩く。帰りは行きより歩幅が広くなった。自分で決めたことではない。


 途中の曲がりで、朝に見た石をもう一度見る。三つとも動いていない。平らな面に、日が斜めから当たっていた。

 斜めの光で、面の傷が見えた。傷は細くて、向きが揃っている。削れた向きになる。


 小屋の戸を開ける。中の匂いが出てくる。

 板と水の匂いだ。朝より薄い。日の間は戸を閉めていたのに、薄くなっている。

 薄くなるのは、外の匂いを持ち帰った分になる。服に付いたのは木の粉と、土と、当番の家の紙の匂いだ。


 通知は板の上にある。石も動いていない。私は今日見た物を並べる。

 当番の家の冊子の背の紐が三本で、真ん中の一本だけ色が違う。女の人の紙は二つ折りで、下の側だけ破れていた。


 鵜飼の懐は左が膨らんでいて、中身は帳面に近い。薪の一番上の一本は横を向いたままだ。

 次に人を並べる。当番の人は一言も言わなかった。


 女の人は三度話した。鵜飼は三度言い切った。


 私は誰にも訊き返していない。

 指を六本立てただけになる。最後に数を並べる。当番の冊子は一頁に十四行で、二枚目にも十四行あった。


 線の引いてある行は二つ。番号はどれも六桁で、点は三つ目の次にある。私の番号は、頭に字が一つ付いて、後に数が四つ並ぶ形だ。

 その形は今日見た紙の何処にも無い。


 私は板の上の紙をもう一度見る。角の一つは、押さえた形のままになっている。


──────────────────


地区の住民の控に係る当番の覚(抄)


写しの元 機構の側の名簿による

照合した数 十四

控の保存の年限 五年


一、写しの元


本控に載せた番号は、機構の側の名簿から写した。


写しは当番の家で行うこととしている。写す際に用いた紙は回覧の紙の裏であった。裏を用いる扱いは過去の当番から続いている。


一の二、写す時期


写しは年に一度行うものとした。時期は当番の替わる月による。本年度は四月に行っている。


四月のうちのどの日に行ったかは、本覚に書いていない。


二、照合した数


本年度に照合した数は十四になる。


十四は当区の家の数と合っていた。


家の数と番号の数とが合わなかった年があるかどうかは、本覚では確かめていない。前の当番へ問い合わせる扱いも定めていなかった。


二の二、線を引いた行


本控には線を引いた行が二つある。二つとも二枚目にある。線の下の数は読める状態のままにしてある。


線を引いた者と、引いた日を記す欄は本控に置いていない。線を引いた事由を口で引き継ぐ扱いとしている。引き継いだ旨を記した紙は残っていなかった。


三、控の保存の年限


本控の保存の年限は五年とした。


年限を過ぎた分の扱いは、当番の判断による。判断の別を記す欄は置いていない。年限を過ぎた分を残した例が過去にあったかどうかも、本覚では確かめていなかった。


三の二、表紙の題


本控の表紙には題を刷ってある。題は四字とした。区の名を入れる扱いは置いていない。


入れるよう求めた例も残っていなかった。


四、区の外にある者


区の外にある者の分を載せた例は、本年度に一件あった。


当該の一件は婚姻による転入の前の分になる。


転入の後は当区の分として載せ替えた。載せ替えた日を記す欄は本控に無い。


四の二、番号を持たない者


番号を持たない者を本控に載せた例は、これまでに無かった。載せる場合の扱いを定めた記載も置いていない。当番の側から機構へ問い合わせた例も残っていなかった。


五、写しの元となる名簿


本控の元となる名簿を、当区で備える扱いは置いていない。


備える用が生じていないものとみられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。