第078話 次の行
交配の組み合わせに係る判定の細目(抄)
判定に用いる値 平均血縁度
推奨しない組 次項に記す
判定の対象としない個体 次の各項による
一、判定に用いる値
判定には平均血縁度を用いることとした。値は小数第三位まで求めるものとする。求め方は別表による。
別表は本細目に添えていない。添えるよう求めた例は本年度に一件あった。当該の一件の処理は、当部門の判断によっていた。
一の二、値を求める時期
値は年度の初めに求め直すこととする。
年度の途中で求め直した例は本年度に二度ある。二度とも、求め直した事由を記す欄は用いていない。用いない旨の定めも置いていなかった。
二、推奨しない組
値が定めの数を上回る組は推奨しないものになる。
上回った組は非推奨として記録していた。本年度に非推奨として記録した組は十四になる。十四のうち、実際に子を得た例は零件であった。
零である旨を確かめた手順は本細目に置いていない。確かめは当部門の内部で行う扱いとしていた。
二の二、定めの数
定めの数は別に定めるものとした。改めた年は令和百八十四年になる。改めた事由を記した書面は当部門に無い。
改める前の数は当時の年報の側で確かめる扱いとした。
三、判定の対象としない個体
記載の要件を欠く個体は判定の対象としないものとした。要件は五としていた。対象としない旨を当該の個体へ示す定めは置いていない。
示した例の有無も数えていなかった。
本年度の該当は一名になる。
四、処置を受けた個体
処置を受けた個体は判定の対象から外す扱いとしていた。
外す手続は処置の記録の写により行うものとしていた。外した年月日を記す欄は本細目に無い。戻した例は零件になる。
戻す場合の手続は当部門の判断によるものとしていた。
四の二、処置の記録の写
処置の記録の写は当部門が受け取ることとしていた。
受け取った旨を記す欄は写の側に無い。
本年度に受け取った写は二十二件になる。二十二件の内訳を記した書面は残していなかった。
五、値の欄が空である場合
双方のいずれかの値が空である組は、値を求めないものとした。
求めない旨を記録する欄も置いていなかった。空のまま置かれた組の数は数えていなかった。数えるよう求められた例も無い。
五の二、空である事由
値の欄が空である事由は三つに分かれるものとしていた。三つの別は当部門の内部の慣行によって扱っていた。三つのうちいずれに当たるかを判ずる者の別も定めなかった。
判じた例の記載は残っていない。
五の三、値を求め直す求め
値を求め直すよう個体の側から求める様式は、当部門に置いていない。置かない旨の記載も無い。求めがあった場合は窓口の側で受けることとしていた。
六、本細目の閲覧
本細目の閲覧は当部門の内部に限るものとした。
外部からの申出は本年度に零件であった。
写の交付を受けた部門は二になる。二の部門の名を記す欄は本細目に無い。
──────────────────
朝の光が板の隙間から入ってくる。
筋は四本で、六月より下に寄っている。
私は起き上がる。途中で胃の上が動いた。
動いたのは一度で、そのまま止まる。私は膝を立てて、そこで待つ。
待つ間に唾が出る。量は昨日より多い。飲み込むと、喉の途中で引っかかった。
私は戸を開ける。外の空気は湿っている。息を吸うと、胃の上がまた動く。
今度は止まらない。私は三和土の外へ出て、草の上に膝をついた。
出たものは水になる。色は無い。
量は掌の窪みほどになった。私は口を漱ぐ。器の水は昨日の残りで、生ぬるい。
漱いだ水を吐いて、それから立ち上がった。立つと、耳の奥が一度鳴る。鳴りは短い。
三つ数えるほどで止まった。
草の上の跡を私は見る。土が黒くなっているのは掌ほどの広さになる。
その上に土を掛けた。掛けると跡が消える。均した場所だけ色が違った。
朝に吐くのは今日で六日目になる。数え始めたのは七月八日だ。六日のうち、口まで来なかった日が一日ある。
時刻はどれも近い。
日が板の隙間へ入ってすぐの間になる。
夜のうちに起きた日は三日ある。起きた時は動かなかった。
動かないでいると、胃の上は静かなままだった。起きるのは動かした時になる。
昨日は寝返りを打った拍子に来た。
私は仰向けのまま数を数えた。三十まで数えると、収まる。それから寝直した。
私は炉の脇へ戻って座る。座ると、腿の裏に板の冷たさが来た。冷たさは腿から腰へ上がる。
届くと、腰の奥が重い。
重さは月のものの前と近い。似ているだけで、揃ってはいない。前のは下へ引く重さだった。
今日のものは内側から押される形になる。私は座り方を変える。片方の膝を立てると、押される感じが薄くなった。
胸の脇が痛い。
指を当てると強くなる。触らないでいても、服の当たる分は痛む。
腕を体から離して歩くと、触れる回数が減る。私は袖の内側へ肘を寄せた。
痛むのは両方だ。右が強い。
張っているのは下の縁で、上は前と変わらない。指で押すと、押した形が残る。
残る時間は短い。三つ数えるほどで元へ戻った。
園では月に一度、この場所を測られた。用いるのは巻尺で、上と下の二箇所になる。
二箇所の数を読み上げるのは補助の側だった。数の意味は誰も言わない。
私はいま自分で押している。数は出ない。
腹は空いている。それでも乾いた魚を見ると胃の上が動く。私は魚を見ないようにして、器の水を飲んだ。
水は喉を通る。下りてから、胃の上が静かになった。静かになるのは長くない。
二十を数えるほどで、また上がってくる。上がってくる途中で止まる日と、口まで来る日がある。六日のうち口まで来たのは四日だ。
残る二日は途中で止まった。その日は後で腹が空く。
小屋の天井には、まだ九つ吊るしてある。数は六月から変わらない。
九つのうち二つが端にあって、他より小さい。
片方は糸が二重に掛けてある。私はその二つを見ない。目をやると匂いが立つ。
匂いは前から同じものが下りていた。
前は魚と煙になる。
今日は魚だけが強い。煙のほうは弱くなっている。炉は同じ量を焚いているのに、届く量が違う。
私は炉の灰を見る。赤いところの大きさは昨日と変わらない。変わったのは、私の側になる。
匂いの立つ物を数えてみる。天井の魚と炉の煙、それから器の水と板の埃になる。四つのうち、強くなったのは一つだ。
弱くなったのは二つになる。
残る一つは変わらない。板の埃には匂いが無い。私は袖から一枚の紙を出さない。
広げても書いていないことは分かっている。代わりに、指で数える。
五月二十八日から今日まで。六月が三日と、それから三十日と、七月が十三日になる。
足すと四十六だ。指では足りない。私は板の上に線を引く。
引いたのは炉の灰を指へ付けてからになる。線は五本ずつ束にして引いた。
九束と一本になった。九つに五を掛けて四十五で、それに一を足す。四十六で合っている。
私は板の線を掌で消す。擦ると灰が掌に付いた。
付いた灰を服でこすらない。板の縁で落とす。
園の紙には行が四十八あった。上から下まで数えたことがある。四十九行目が来ない。
来ない日を数えたのは今日が三度目になる。一度目は七月三日で、二度目は七月八日だ。三度とも、数は増えていた。
増え方は一定になる。七月三日が三十六で、八日が四十一だ。
五ずつ増えている。日が五つ経てば五つ増える。当たり前のことを、私は三度とも確かめている。
確かめるのをやめる決まりを、私は持っていない。私は膝を抱えて座っている。板の間の隅の埃が、光の筋の中で回っている。
回る速さは一定ではない。速いのが二つあって、他は止まって見えた。
私は靴を履く。紐を通す穴は五つある。
右の踵の布は六月に取れた。当たっていた場所の皮は硬くなっている。
硬くなった場所の形は楕円だ。長いのが縦になる。
縁と真ん中で色が違う。内側が白い。
押すと痛くない。触ると盛り上がりが分かる。
戸を閉める前に、私は炉の火を確かめる。灰の下の赤いところは掌ほどの広さになる。
上から灰を掛けた。被せると赤いところが消える。私は戸を閉めて、外へ出た。
道は水の縁から離れて、右へ上がる。
傾きは六月と同じだ。草の丈が伸びている。膝の下まであったものが、腿の半ばまで来た。
道の幅は変わらない。踏まれるところだけが低いままになる。轍は六月にあった二本のうち、片方が消えていた。
無くなったのは草の生えていた側になる。
残る一本は深くなっている。指の一節半ほどある。私はその中を歩かない。
縁を踏んで行く。登り切ると家が見える。数は十四で、変わっていない。
屋根の濃いのが九つ、薄いのが五つになる。数え直しても揃っていた。
私は歩幅を狭くして歩く。広くすると、胃の上が動く。
動くのは登りの途中に限られる。平らなところでは動かない。
登りの傾きが強いところで、私は一度立ち止まった。
足を止めると収まる。
収まってから、また歩き出す。三十歩ほどでもう一度来た。
狭くすると歩数が増える。今日は数えない。
道の脇の水は六月より細い。幅は掌一つぶんになった。
底の石が出ている。水の上にあるのは真ん中の二つだ。
水の音は細くなった分、高い。高いのに、遠くまでは届かない。三十歩ほど離れると聞こえなくなる。
六月は五十歩でも聞こえていた。私は歩数で覚えている。広場が近づくと、匂いが来る。
乾いた魚と青いもの、それから土の匂いになる。魚が先に来た。
私は口を閉じて、鼻から息を出す。
そうして歩くと、胃の上が動かない。息を吸う時だけ短くする。詰めると、歩幅がさらに狭くなった。
広場に出る。布を敷いた場所は十二ある。
六月より一つ多い。多い一つは木の影の側にあった。六月に空いていた場所になる。
置いてあるのは器になる。木のものと焼き物が分けて並べてある。並べ方は大きさの順ではない。
深いものと浅いもので分かれていた。深いものが日の当たる側にある。浅いものは影に入っていた。
人は多い。数えようとして、途中でやめた。やめたのは数が動いたからではない。
頭の中で数が続かなくなった。
六月は二十を超えたところでやめた。今日は十二でやめている。
十二まで数えたところで、次の数が出てこなかった。切れたのは初めてになる。
六つ目の場所へ行く。魚を束ねたものが、六月と揃った積み方で置いてあった。
布の色も変わらない。端の擦れているところが広がっている。
広がったのは道に近い縁になる。人の足が当たる場所だ。
擦れた場所から糸が出ている。数は六月の三本から五本に増えていた。
女の人はこちらを見る。見てから、口を開けた。
「あんた、二十日以上も来なかったじゃないか。どこかで寝てたのかい」
私は布の端に座る。地面の温かさは六月より上がっていた。
「二十六日です」
女の人は笑う。息を三度に分けて出す笑い方になる。
「そんなことまで数えてるのかい。あんたの頭は帳面みたいなもんだね」
私は束を数えようとして、手を出した。出した手が止まる。積みの一番上の束から、匂いが上がってきた。
私は手を引く。それから口を閉じて鼻で息を出した。女の人はその手を見ている。
見てから、私の顔を見た。見る時間は前より長かった。二十を数えるほどになった。
「あんた、顔の色が違うよ。青いのと白いのの間みたいな色をしてる」
私は答えない。答えないでいる間に、隣の場所の人がこちらを見た。すぐに戻る。
戻ってから、その人は自分の布の端を直した。曲がってはいないように見える。
答えないでいると、この人は私の頬へ手を当てた。
手は乾いていて、温かい。
当てたのは片方で、すぐに離す。それから、この人は自分の手を見た。
「熱は無いね。熱が無いのに吐くのかい。何日前からそうなってるんだい」
「六日です」
女の人は指を折る。折ったのは三本で、そこで止まった。
折る時、この人は下を向かない。
目は私の顔にある。折った三本は曲がったままの指ではない。動くほうの親指と、その隣の二本になる。
止まってから、指を開く。開いた手を膝の上へ置いた。
「六日ねえ。それで、月のものは来てるのかい。あたしはそういうのを訊くよ」
私は答え方を探す。四十六という数がある。言い方も持っている。
訊かれているのがその数のことかどうかが分からない。
「四十六日です」
女の人は口を閉じた。それから息を一度だけ長く出す。
出した息は笑いの形をしていない。三度に分かれていなかった。
それから、束の上の手を下ろす。下ろした手は膝へ行かない。私の側へ来た。
女の人は私の腹へ手を当てる。当ててから、訊くのをやめた。
手は服の上にある。押さない。
当てているだけになる。当てている時間は長い。十を数えるほどある。
その間、この人の目は私の顔にない。手の甲のあたりへ落ちていた。
手の甲には皺が寄っている。向きは縦になる。
私は自分の腹を見ない。目はこの人の手の甲へ行った。
それから手が離れた。この人の手は自分の膝へ戻る。
女の人は立ち上がる。立ってから、布の端の袋を取った。
「あたしは今日は早じまいにするよ。あんた、ちょっとついておいで」
私は立ち上がる。膝を伸ばすと、下になっていた腿が痺れていた。
痺れは踝の内へ集まって、そこで薄くなる。
引くまでに八を数えるほどある。女の人は束を袋へ入れる。手の速さは六月より上だ。
紐は切らずに、口を折って抱えた。持つと、袋の底が膝に当たる。私はその後ろを歩く。
歩幅はこの人が狭い。狭いのに、私は前へ出ない。そのままでいると、間が一定になった。
間は掌三つぶんになる。この人は一度も振り返らない。振り返らないのに、道の曲がりで速さを落とした。
緩めたのは二度になる。
広場を出て、右へ入る道を行く。道は家と家の間で細くなった。
細いところで、私は肩を壁に触れた。壁は板で、日の当たっていた側が温かい。
三軒目の家の前で女の人は止まる。戸は開いていた。
戸の脇に木の箱が置いてある。
箱の上に紙が一枚あって、石が載せてあった。
紙の字を、私は読めない。字の数は三つになる。
女の人は中へ声を掛ける。声は短い。中から人が出てきた。
年は分からない。髪は後ろで束ねてある。
この人は私を見る。上から下まで目を動かして、靴のところで一度止まった。
女の人が何かを言う。長さは短い。私を一度も指差さない。
この人は頷いた。それから中を顎で示す。私は土間へ入る。
土間は暗い。目が慣れるまでに、五を数えるほどあった。
匂いは草と、それから乾いた土になる。魚の匂いは無い。
無いところへ入ると、胃の上が静かになった。収まったのは戸をくぐってすぐになる。
私は鼻から息を吸う。深くしても、上がってこない。
中は板の間で、壁に棚が三段ある。棚には壺と紙の袋が並んでいた。
壺の数は十四になる。紙の袋は数えられない。重なって置いてある。
壺の口には布が掛けてある。
布のあるのは十四のうち九つになる。残る五つは蓋がある。木で作ってあって、上に印が彫ってあった。
印は壺ごとに違う。揃った印は二つと無い。棚の縁に字が書いてある。
字は薄い。私は読めない。
字の並びは棚の段ごとに長さが違う。上の段が一番長かった。板の間の真ん中に台がある。
高さは私の腰より低い。天板は継いである。線は二本で、間は等しくない。
台の上に秤が置いてあった。秤は皿が二つで、片方に分銅が載っている。分銅の数は五つになる。
この人は私を台の前へ座らせる。腰を下ろすと、縁が胸の下に来た。この人の指は爪が短い。
深爪ではなく、際で切ってある。
指の腹には縦の皺がある。向きは爪と揃っていた。
この人は私の手首を取る。当てた場所は親指の付け根の下になる。
指は三本当てている。当てる強さは変わる。
初めは軽い。途中で一度強くなって、それからまた軽くなった。
当てている時間は長い。三十を数えるほどある。
その間、この人は何も言わない。目は自分の膝へ落ちている。
手を離すと、今度は反対の手首を取った。揃った場所へ、揃った三本を当てる。二度目が短い。
二十を数えるほどで離した。この人は私の瞼を下から押し上げる。それから、顔を戸のほうへ向けた。
明るいほうを向くと、目の奥が痛い。
私は瞬きを我慢する。
我慢は五つ数えるほど続いた。それから手が離れる。
この人は私の瞼を上からも押した。
上と下で挟むようにして、指を動かす。動かす向きは外から内になる。二度で終わった。
この人は私の舌を見た。見る時、匙の柄で下を押さえる。
柄は木で、先が丸い。当たったところが冷たかった。
押さえている間、この人は戸の側へ首を傾ける。明るさを舌へ当てる形になる。
傾けた角度は二度変えた。二度目のほうが浅い。それから匙を引く。
次に、この人は私の唇の端を親指で開いた。
開いたのは片方で、反対は開かない。歯の上のところを見ている。
見る時間は短い。四つ数えるほどになる。
園の獣医室では、口の中を見る前に必ず番号を読み上げた。それから処置の名を言う。
ここでは何も言わない。この人は棚から壺を一つ下ろす。取ったのは上の段の右から三つ目になる。
下ろす時、隣の壺に手が触れた。その壺は動かない。
蓋を回して開けた。回す向きは左になる。中は粉になる。
色は薄い茶で、匂いは草に近い。園の薬湯と同じ側の匂いだ。
この人は匙で粉を掬う。それを秤の皿へ落とした。
分銅を一つ載せる。皿は下がらない。粉を足す。
三度目で釣り合った。水平になったところで手を止める。
釣り合いは一度で止まらない。皿は二度上下してから水平になった。
上下の幅は二度目が小さい。
止まるまでに、六を数えるほどある。この人は分銅を戻す。置く場所は箱の右からになる。
箱の中の窪みは五つで、分銅は五つある。窪みの大きさはそれぞれ違った。粉を紙へ移す。
紙は四角で、角を三度折って包んだ。同じものを七つ作る。七つとも同じ大きさに見える。
作る順は五つある。掬って載せ、釣り合わせてから移し、最後に折る形になる。五つの順は七度とも動かない。
速さも揃っている。
三つ目を作る途中で、この人は一度だけ手を止めた。手が離れたのは秤の側になる。
分銅を一つ持ち上げて、また戻した。それから続きをする。
包み終わると、この人は帳面を出した。帳面は綴じ糸が新しい。
表紙は厚い紙で、角が丸くなっている。落ちているのは四隅のうち二つになる。
二つとも下の側だ。
持つ時に当たる場所になる。
開いた頁へ、この人は何かを書く。長さは短い。
書いてから、私を見た。見てから、また書き足した。
二度目が長い。十を数えるほどある。
私は何を書いたのかを訊いた。この人は帳面を閉じただけで、答えなかった。閉じた帳面を棚の下へ入れる。
仕舞う場所は左になる。それから包みを七つ、私の掌へ載せた。渡す時、指は私の掌に触れない。
この人は右手を出して、指を三本立てる。
それから口のところへ持っていった。私は三本を見る。見てから、頷いた。
この人は頷き返さない。立ち上がって、棚へ向いた。女の人が私の肩に触れる。
それから外を指した。
私は土間を出る。くぐる時、戸の脇の箱の紙をもう一度見た。
石の位置が変わっていない。字も三つのままになる。
外は明るい。目が慣れるまでに、また五を数えるほどあった。
女の人は道の途中で止まる。それから袋を持ち替えた。
「あんた、あの小屋にいるんだろ。あそこは秋になると冷えるんだよ」
私は掌の包みを見る。七つある。
七つの角は全部同じ向きに折ってある。筋は三つずつになる。
掌の上で数え直しても七つある。数え直したのは二度だ。
「これは何ですか」
「飲めば楽になるやつさ。楽になるだけで、治るやつじゃないけどね」
私は包みを袖の内側へ入れる。石の隣に置くと、石より軽い。
軽いのに、袖の重さは増えた。女の人は道を戻っていく。戻る途中で一度も振り返らない。
肩の袋は行きより低い位置にある。持ち替えた分、下がっていた。この人の足音は、砂利のところでだけ聞こえる。
土へ移ると消えた。消えてから、私は十を数えた。終わっても足音は戻ってこない。
私は道の端に立っている。日は西へ寄っていた。
立っている間に、荷車が一つ通る。轅を引いているのは一人だ。
車輪の音は石の上でだけ高くなる。
土へ移ると消えた。通り過ぎた後、道に轍が新しく一本増えている。増えたのは私の側になる。
影は東へ伸びる。私の影の頭は、道の反対の草へ届いていた。
六月に同じ道でこれを見た。あの時は影が短かった。
私は小屋へ戻る道を歩く。歩幅は行きと揃えて狭くした。
今日、私に触った人は三人になる。女の人が二度で、束ねた髪の人が四度だ。三人と数えたが、指を折ると二人になる。
触られた場所を数える。頬と腹と手首の左右、それから瞼と舌になる。六箇所だ。
園では毎月これより多かった。
園の月の初めは上から順に決まっていた。首と耳の後ろから始まって、腕の内側と腰と膝の裏で終わる。順を教わったことはない。
順が先に体へ入っていた。今日は順が無い。頬から始まって、舌で終わっている。
園では触る前に必ず番号を読み上げた。
ここでは何も言わない。
言わないのは変わらないが、園では書いた後に読み上げる人がいた。私は薬の包みを袖の上から押さえる。指を当てると、角が触れた。
角は三つで、折り目が重なっている。合わさったところが厚い。
小屋に着く。戸を開けると、中の匂いが出てきた。
魚が強い。私は戸を開けたままにする。
炉の灰へ水を少し落とす。垂らすと音が立って、それから静かになった。
私は器へ水を汲む。その前に、内を指でなぞった。
底に昨日の乾いた輪がある。二重で、内が濃い。
私は輪を落とさずに水を入れた。注ぐと見えなくなる。
包みを一つ開けて、粉を落とした。
粉は水の面に浮く。それから、端のほうへ沈んでいく。沈み切るまでに、二十を数えるほどある。
沈んだ粉は底で山になる。形は片方へ寄っていた。寄ったのは器の傾きに合っている。
私は器を回さない。
私は飲む。味は苦い。渋みは舌の脇ではなく、真ん中に来た。
飲み込むと、苦さは喉に残る。位置は奥の上になる。
私は水をもう一口飲んだ。飲むと薄くなる。
消えはしない。飲み終えて、器を置く。場所は炉の脇になる。
胃の上は動かない。薬が効いたのかどうかは分からない。
私は板の間に座って、残りの包みを数える。六つある。
六つを袖から出して、板の上へ並べた。置くと、大きさが少しずつ違う。
一番小さいのを端へ置く。一番大きいのを反対の端へ置いた。間の四つを、大きさの順に並べ直す。
直すと、右へ行くほど大きくなる。私はその並びを見ている。
並べ直したのは私で、包みを作ったのは別の人になる。作った人は揃った大きさに作ったつもりでいる。並べると違いが出た。
違いは目方ではない。折り方の重なりの厚みになる。
厚い包みが右へ寄っている。動かしたのは私の手になる。
一日に一つなら、六日になる。二つなら三日だ。
三本の指の意味を、私は決めていない。口のところへ持っていった動きは、食べる形に近い。飲む形とも重なる。
三本が一日の数なのか、一度の数なのかが分かれる。訊く相手はいた。訊いても返らなかった。
私は一日に一つと決める。
根拠は持っていない。残りの六つを、私は袖の内側へ戻す。入れる時、大きさの順は崩れた。
崩れた順を直さない。袖の中では並びが見えない。外の光が板の隙間から入っている。
筋は四本で、朝より低い。
低いのに、幅は朝より広かった。
──────────────────
薬を分ける当番の書付(抄)
本日分けた品 三品
分けた相手の数 十一人
残った量 次項に記す
一、本日分けた品
本日分けたのは三品であった。
吐き気の品と、熱の品と、傷の品になる。三品のほかを分けた例は本月に二度あった。二度とも品の名を書き留めていなかった。
二、分けた相手の数
本日の相手は十一人を数えていた。十一人のうち二人は、同じ者が日を替えて二度求めた分になる。二度を二人として数えたか一人として数えたかの取り決めは、この書付に置いていない。
三、吐き気の品
吐き気の品を続けて求めた例は本年に一件になる。当該の一件について、事由は聞き取っていない。聞き取りは当番の判断によるものとしていた。
定めるよう言い出した者はいない。
三の二、分けた量
当該の一件へ分けたのは七包であった。
一包の目方は二匁とする。
目方を確かめたのは秤によっていた。秤の検めを行った年を記す欄は、この書付に置いていなかった。
四、残った量
吐き気の品の残りは十九包分であった。
定めの量は三十包分であった。下回った旨を何処へ知らせるかの記載は、この書付にも寄合の申し合わせにも無い。
五、当番の別
本日の当番は一人であった。二人で当たる日は市の日の翌日としていた。
翌日を当番の日とした事由の記載は残っていない。
五の二、書き留める者
書付へ書き留めるのは当番に当たった者とした。
書き留めた者の名を記す欄は置いていなかった。字の別で分ける扱いも定めなかった。分けは当番どうしの申し合わせによっていた。
五の三、置く場所
薬を置く場所は土間の奥の棚とした。棚の段ごとに品を分ける扱いとしていた。分け方を書いた紙は棚の縁に貼ってある。
貼り替えた年を記す欄は、この書付に無い。
六、聞き取り
前項三の一件について、事由を聞き取った記載は本書付に無い。
求めた者の側の事情によるものと思われる。




