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人間館 ―絶滅危惧種ヒトの飼育記録―  作者: 智珠
第六章 野生

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第077話 合う

市の日の場所の割り当てに係る申し合わせ(抄)


場所の数 十二

使える刻限 次の各項による

扱う物の品目 三つ


一、場所の数


市の日に置く場所の数は十二としていた。


十二のうち二つは、道に近いところへ置くこととした。増やす場合の手順を、この申し合わせに置いていなかった。増やした例の有無も数えていなかった。


一の二、場所の順


場所の順は、前の市の日に来た者から順に当てる扱いとしていた。来なかった者の扱いは定めていない。当てる者を決めた記載も置かなかった。


決めているのは、その日に早く来た者になる。


二、使える刻限


使える刻限は、朝の六時から昼の一時までとした。


片づけを終える刻限は別に定めていなかった。


一時を過ぎて残った例は、本年に三度あった。三度とも、そのまま置かせている。


二の二、雨の日


雨の日は市を立てないこととしていた。


降り始めた後の扱いは、その日に居合わせた者で決める。決めた例を書き残す扱いは置いていない。書き残すよう言い出した者もいなかった。


三、扱う物の品目


扱う物の品目は三つとした。乾物、青物、繕い物になる。三つのほかを扱う場合の記載は、この申し合わせに置いていなかった。


置くよう言い出した者はいない。


三の二、品目の別を決める者


品目のどれに当たるかは、出した者が自分で決める扱いとしていた。


決めかねた例は本年に二度あった。


二度とも、その場にいた三人で決めている。三人が誰であったかを記した紙は無い。


三の三、繕い物


繕い物として出せるものは、着る物と履物とした。


器と刃物は繕い物に入れないこととしている。入れない理由の記載は、この申し合わせに無い。理由を訊いた例も残っていなかった。


四、銭


銭の扱いは各自によっていた。市として集める銭は無いこととしていた。場所を使う分の銭も取らない。


取らない理由は、この申し合わせに書いていなかった。


四の二、掛けの扱い


その日に銭を渡さない扱いは、出した者と受けた者の間で決めることとしていた。


市として関わらない。


関わらない旨を書き足したのは、字の違う二箇所のうちの一方になる。書き足した年は分からない。


四の三、貸す銭


市の場で銭を貸す扱いを、この申し合わせに置いていなかった。


置かない旨も書いていなかった。貸した例の有無を数えた者はいない。数えるよう言い出した例も残っていない。


四の四、釣り銭


釣り銭を用意する扱いは各自による。市として用意する分は置いていなかった。足りなくなった例は本年に一度あった。


その時どうしたかの記載は残っていない。


五、この申し合わせ


この申し合わせは、常会で読み上げて決めたものになる。


写しは各戸へ回した。


回した年を覚えている者がいない。書き足したところは二箇所で、二箇所とも字が違っていた。


──────────────────


 朝の光は板の隙間から入ってくる。筋は四本で、昨日より上に寄っている。

 私は起き上がる。布の下の板は冷たい。

 踵の布は緩んでいない。押すと痛い。

 当たるところは昨日より狭くなっている。布を解かずに靴を履けるかを試す。爪先から入れると、甲のところで止まった。


 紐を一度全部抜いて、通し直す。

 通す穴は五つある。全部を通し終えると、布の厚みのぶん紐が余った。端は輪の外へ回す。

 腹は空いている。昨日の噛んだものの塩気が、まだ舌の脇に残っていた。水を飲む。

 器は昨日の器で、置いた向きのままになっている。


 この人は炉の灰を掻き寄せて、上から一度押さえた。赤いところが消える。消えてから、天井の吊るしたものを二つ外した。

 取ったのは端の小さい二つになる。外したものを布に包んで、腰の後ろへ差す。向きは横になる。


 この人は戸を開けて外を見る。それから振り返って、私のほうへ顎を動かした。


「今日は下の広場で市が立つから飯の心配はしなくていい」


 私は靴を履く。右の紐は先に輪を作ってから締めた。

 左は輪を作らずに締める。左のほうが早い。


 早いのに、私は右から履く。園でそう並べていたためになる。

 外は明るい。水の面には昨日より光が乗っている。

 道は水の縁から離れて、右へ上がっていく。傾きは緩い。


 道の土は昨日の雨を残していない。踏むと乾いた音がする。轍が二本ある。

 間は肩の幅より広い。深さは指の一節ぶんだ。


 轍の底に草が生えている。あるのは片方の轍になる。

 登り切ったところで、家が見えた。数は十四になった。


 屋根の色は二種類だ。濃いのが九つで、薄いのが五つあった。私はその並びを覚える。

 覚えると、次に見た時に減ったかどうかが分かる。家と家の間は空いている。広いところと狭いところがある。

 広いのは三箇所で、三箇所とも道の側になる。一番手前の家の壁に、板が立てかけてある。板は三枚だ。


 三枚とも長さを揃えて切ってある。断面は新しい。

 道の脇に水が流れている。幅は掌二つぶんだ。流れは速くない。

 水の中に葉が沈んでいる。底で動かない。

 上を別の葉が通り過ぎた。端から端までに三つ数えるほどある。


 水の音は道が上がるにつれて遠くなる。減り方は一定ではない。


 曲がりの外側では聞こえて、内側へ入ると消えた。切れたのは三度になる。


 三度とも、消えている間が短い。

 この人は私の前を歩く。歩幅は私より広い。三歩で私の四歩になる。


 私は歩幅を合わせない。合わせると踵に当たった。


「その先の広いところまで行ったらあとは好きにしていろ」


 道の先から音がする。人の声で、一人ではない。匂いも来る。

 乾いた魚と、それから青いものになる。

 青いのは切ったばかりの茎の匂いだ。園の畑の脇で嗅いだものと近い。

 道の脇に荷車が二つ止めてある。轅は地面に下ろしてあった。


 車輪の外は土が付いている。量は左右で違う。声は重なって聞こえる。

 一つずつを分けようとすると、分けたそばから別のが来た。私は分けるのをやめて、全部として聞く。


 広場に出た。地面は土で、踏み固めてある。真ん中のあたりが低い。


 四角い布を敷いた場所が並んでいる。数えると十一ある。

 布の色はまちまちだ。重なるのは二組しかない。


 場所と場所の間は人が歩ける幅に空いている。人が抜ける幅になる。

 布の下に敷き物を重ねている場所と、直に地面へ敷いている場所がある。重ねているのは四つだ。どれも品物が高く積んである。

 広場の端に木が一本立っている。

 幹は太くて、私の腕が回りきらない。


 枝の張り出しは南へ寄っている。影は場所の二つに掛かっていた。乗った二つは、日の当たる場所より人が少ない。


 人は多い。

 数えようとして、途中で動かれた。二十を超えたところで、私は数えるのをやめる。この人は私を置いて、広場の向こうへ歩いていく。


「俺は向こうにいるから昼を過ぎたら戸口のところへ来い」


 私はその背中を見る。背中は人の間へ入って見えなくなった。日は背中に当たっている。

 そこの服が熱い。


 熱いのは肩甲骨の間で、そこから下へは来ない。額に汗が出た。

 粒は眉のところで止まる。それから横へ流れた。


 私は袖で拭かない。擦ると、乾いてから引きつる。私は端の場所から順に見ていく。

 一つ目は乾いた魚だ。並べ方は頭の向きで揃えてある。

 二つ目は器で、三つ目がまた乾いた魚になる。四つ目には菜が置いてある。根を切ってあって、切り口が白い。


 五つ目は布と糸になる。巻きの大きさは三種類ある。

 布は畳んで積んである。高さは膝までになる。


 一番上の一枚は、角が折れている。先は内へ入っていた。糸の色は八つ数えられた。

 八つのうち二つは、近づかないと分からない。六つ目の場所は、木の影の端に掛かっている。影は布の半分に乗る。

 影の側と日の側で、布の色が違って見える。同じ布になる。


 六つ目のところで、私は止まった。布の上に、乾いた魚を束ねたものが積んである。束は紐で二重に巻いてあった。


 その向こうに座っているのは、三日前に私を土間へ入れた人になる。この人は私を見る。見てから、口を開けて笑った。


「あんた、まだこの辺にいたのかい。ちょうどいいよ、手が足りないんだ」


 私は近づく。布の端に座るよう、この人は手で示した。私は座る。


 地面は温かい。日が当たっていた時間の分、布の下が温い。


 女の人は客と話している。話している間、手は動いたままだ。

 動いている手は束を寄せて、寄せてから並べ直す。声の高さが変わった。


 高くなるのは値を言う時だ。この人が言うのは魚の数と、それから銭の数になる。間に「で」が入る。


 三束で幾ら。次に、一束の値を言う。三束で買うと、一束を三つ買うより少ない。

 私はその引き算をする。差は二つになった。


 客は三束を取った。銭を置いて、置いた銭を女の人が数える。終わると、この人は銭を布の下の箱へ落とした。

 音は硬い。次の客が来る。前と変わらないことがもう一度起きる。


 三人目の客は菜と替えていった。

 銭は動かない。替える時、女の人は菜の束を持ち上げて重さを見る。それから魚の束を三つ出した。


 三つ出してから、一つ戻す。その後で客が頷いた。頷いてから、二人とも手を離す。

 値は魚の大きさで変わる。大きいほうが高い。

 乾き方でも変わって、よく乾いたものが高くなる。私はそれを聞いている。並べていくと、値というものの立ち方が見えてくる。


 物に付く数がある。それは物の何かで動く。決めているのは、売る人と買う人の二人になる。


 二人が別のことを見ていても、数は一つに落ちる。それから物が動く。私は同じ束を二人の客が別の数で買っていくのを見た。

 差は一つだ。


 差の理由を、どちらの客も訊かない。女の人も言わない。


 客の手は買う前に必ず束へ触れる。当てる場所は上か横になる。


 下から持ち上げる客はいない。持ち上げるのは女の人だけだ。

 触ってから離れていった客が二人いる。どちらも何も言わずに次の場所へ行った。

 女の人は行った先を見ない。手元の束を並べ直している。


 並べ直す時、女の人は端を二度叩く。

 叩くと、崩れていた列が立った。


 立った列の頭は、こちらから見て左を向いている。隣の場所の魚は右を向いていた。


 向きの決め方を、どちらの場所も貼り出していない。

 園で掲示に出る数は、誰も動かさなかった。あれは上から下りてくる数になる。


 ここでは下から立つ。決まると、二人が離れる。


「そこの束を数えとくれ。あたしは指が曲がってるから数が飛ぶんだよ」


 私は束を数える。

 数える前に、積みの段を見る。段ごとに端が揃っていない。出ている分を、私は指で押し込んだ。

 積み方は三段で、下の段が一番多い。下から数える。九、七、五になった。

 合わせて二十一ある。数え直す。今度は上の段から数えた。

 五、七、九になる。


 同じ二十一になった。順を変えても変わらない。

 園の給餌の列は、前から数えても後ろから数えても揃った。同じにならなかったのは、歩数と波になる。あれは途中で切れた。


 束は切れない。置いてあるものは動かない。


 数え終わって、私は顔を上げる。女の人はこちらを見ていた。


 膝の上の手は、片方が布を掴んでいる。握ったところに皺が寄った。


 見ていたのは、私の手ではなく口のあたりになる。


「いくつだった」


「二十一です」


 言うと、女の人は手を膝から離した。


 女の人は指を折って数え直す。折った指は、私が折ったのと同じ数のところで止まった。

 止まってから、この人は指を開く。その手を膝の上へ置いた。


「合ってるじゃないか。あんた、数はできるんだね。学校でも行ってたのかい」


 私は答えない。この人は続けて訊く。答えを待たない言い方になる。


「泊まるところはあるのかい。あの水のほうの小屋なら、あそこは屋根が漏るよ」


 私は昨日の夜のことを思い出す。雨は降らなかった。

 漏るかどうかは分からない。私は首を横にも縦にも振らない。

 この人は私の靴を見た。それから、私の踵の布を見る。


「巻いてもらったのかい。上手じゃないか。あたしが巻くよりよっぽど上手だよ」


 答えないでいると、この人は次のことを言った。


「うちの人はね、数が合わないと寝ないんだよ。合うまでずっと起きてるんだ」


 言ってから、この人は笑う。

 息を三度に分けて出す笑い方だ。私は自分の口の端が動くのを感じる。上がったのは片方で、戻るまでに四つ数えた。


 束の一つを持ち上げてみる。重さは掌で分かる。持ち上げると、下の束が動いた。

 ずれたのは一つで、そのまま止まる。


 止まった位置は元より右へ寄っている。私は指で押して戻した。

 押した跡が魚の腹に付く。跡は白くて、周りより浅い。

 跡は消えない。私は指を離す。


 魚は一束に十二枚だ。数えると、どの束も十二あった。


 三つ目まで数えて、私は手を止める。揃っていれば足りる。

 紐の結び目は上に来ている。結び方は二重で、端が同じ長さに切ってあった。


「銭は何ですか」


 私はそう口に出した。女の人はこちらを見る。それから、可笑しそうな顔をした。


「あんた、それも知らないのかい。物と替えるためのものに決まってるじゃないか」


 この人は箱から一枚出して、私の掌へ置く。銭は丸い。

 真ん中に穴が空いている。厚みは爪の半分ほどだ。


 表に字が三つある。私はどれも読めない。裏には字が無い。

 代わりに線が二本ある。交わってはいない。


 縁は摩れている。減っているのは表で、裏は角が残っていた。

 穴の内は光っている。


 重さは石より軽い。

 私は銭を返そうとした。この人は受け取らない。


「持っときな。あんたが数えたぶんだよ。返されたって困るんだから」


 私は銭を握る。握ると掌が熱くなる。

 銭のほうが先に温かくなった。握った手を開いて、また閉じる。

 私は銭を掌の真ん中へ置き直す。穴の位置が皺と重なった。


 銭を動かすと、皺だけが残る。園で持たされた物は、返す時に数えられた。

 係の人は必ず二度数えた。


 この一枚を数える人はいない。昼が近い。日は真上に寄っている。

 影が短い。女の人は器を出して、汁を注いだ。器は二つで、大きいほうを私へ寄せる。


「食べな。売り物の端っこだけど、こういうのが一番うまいんだから」


 汁の中に魚の端が入っている。塩の味は強い。


 浮いているものが二種類ある。魚の端と、切った青いものになる。青いのは煮えていて、噛むと繊維が縦に裂ける。

 飲むと、喉から胃までの道が温かくなる。熱は下へ落ちてから広がった。


 私は器を両手で持つ。持っていると、掌の熱が上がってくる。女の人は自分の器を持ったままで広場の隅を見た。


「あの人らのことは放っときな。市の日はいつもああやって集まるんだ」


 私はそちらを見る。

 広場の隅に、人が四人立っている。輪にはならない。二人と二人で向き合っていた。


 その中に、朝まで一緒にいた人がいる。この人は帳面を持っている。昨日の夜に見た帳面になる。

 紐の色が褪せている。


 帳面は開かれている。開いた頁を、四人が順に覗いた。

 覗く順は右から左だ。一人が見て、それから隣へ渡す。


 覗く時間は揃わない。長いのが一人いて、その人だけ二度戻った。戻ったのは頁の下のあたりになる。


 四人の服は色が近い。それでも袖の丈は揃っていない。

 一番丈の短い人は、腕の内側が出ている。腕には何も書いていない。

 四人とも立ったままだ。座る者はいない。足の置き方は四人とも違う。

 一人だけ、片方の踵を上げている。渡す時、頁は伏せない。開いたまま横へ移る。

 一番端の人が、私のいるほうを一度見た。見てすぐに戻る。

 戻ってから、隣の人に何かを言った。長さは短い。


 三人目の人が、自分の懐から小さい紙を出した。その紙を頁の横へ置こうとする。すると、二人目の人が手を出した。


 手は頁の上に置かれる。指は広げてある。三人目の人は紙を懐へ戻した。

 戻してから、頁をもう一度見る。私は器を持ったままでそれを見ている。


 頁は遠い。字は読めない。

 分かるのは並びの形になる。並びは二列だ。左の列と右の列があって、間が空いている。

 左の列の数は長い。

 右の列の数は短い。桁を数えてみる。左は四つで、右は三つになる。


 一つ違う。同じ行に二つ並んでいるものが、上から順に続いている。行の数は数えられない。

 列と列の間には縦の線が引いてある。線は一本だ。


 行と行の間に横の線は無い。それでも並びは真っ直ぐに見える。

 頁の下は字が詰まっている。上は間が空いていた。詰まっているところだけ、紙の色が濃い。


 二人の指の動き方が違う。一人は左の列を上から下へなぞる。


 もう一人は右の列を見ている。見る時、左へ目を動かさない。


 一つの頁を、二人が違うところから読んでいる。

 朝まで一緒にいた人が、頁の一つの行を指で押さえた。押さえてから、こちらを見る。

 四人ともこちらを見た。見たのは短い。すぐに頁へ戻る。


 戻ってから、一人が何かを言う。声は届かない。朝まで一緒にいた人は帳面へ鉛筆を入れた。

 書いたのは短い。

 二つか三つになる。


 書き終わると、帳面を閉じた。閉じてから、紐の側を揃える。動きは二度になる。

 二度目は角のところに掛かる。


 四人のうち二人が先に離れた。抜ける時、どちらも手を上げない。

 残る一人は、朝まで一緒にいた人と並んで立つ。二人は同じ向きを見ている。向いた先は広場の真ん中ではない。


 しばらくして、この人がこちらへ歩いてきた。歩幅は朝と同じになる。


「そこの婆さんの手伝いをしていれば誰も何も言ってはこない」


 言ってから、この人は広場の隅へ戻る。途中で一度も振り返らない。

 桁を数え終えると、頭の中に二つの数の長さが残る。中身は入っていない。


 残ったのは形だけになる。長いのと、それより一つ短いのだ。

 私は器の汁を飲む。底に魚の端が残っていた。隅にいた四人のうちの一人が、こちらへ歩いてくる。


 一番丈の短い服の人だ。腕の内側が出ている。


 この人は布の前で止まって、束を二つ指した。指す時、値を訊かない。

 女の人が数を言う。この人は懐から銭を出した。


「あんた数えとくれ。あたしは今こっちの手が塞がってて動かせないんだよ」


 私は銭を受け取る。掌に載せて、一枚ずつ布の上へ並べた。七枚ある。

 言われた数は六だ。一枚多い。


 私は一枚を戻す。戻す時、この人の掌へ載せた。

 触れたところが硬い。この人は戻された一枚を見る。見てから、私の顔を見た。


 見ている時間は二つ数えるほどになる。それから、この人は束を持って離れた。去る時、何も言わない。


 女の人が布の上の銭を数える。数え終わると、六だと言った。


「あんたが数えたなら数え直さなくていいよ。手が空いてても同じことだ」


 私は自分の掌を見る。銭の載っていたところに、丸い跡が残っていない。さっき渡された一枚の跡だけが残っている。


 女の人が私の名を呼ぶ。


「ほら、なな。こっちの束もやっとくれ。あんたのほうが早いんだから」


 私は器を置いて、布の上へ向き直る。向き直ると、日が正面から来た。光は布の白いところで跳ねる。

 跳ねた分だけ、魚の色が沈んで見える。


 置いた器の底が、布に汁の輪を作った。輪は端が薄い。


 私はその上に指を置かない。輪は日に当たって、端から乾いていく。乾いた線が二重に残った。


 新しい束が出ている。積み方は二段だ。

 下が八つで、上が六つになる。合わせて十四ある。


「十四です」


 女の人は数え直さない。そのまま紐の箱を引き寄せた。

 引き寄せる時、指は曲がったままだ。第二の関節から先が伸びない。


 伸びないのは四本で、親指だけが動く。この人は親指と掌の付け根で物を挟む。挟んでから、腕ごと回して運ぶ。


 運ぶ速さは私より遅い。落とすことは一度も無い。私は挟み方を真似てみる。

 やってみると、指が余った。残った指を何処へ置くかが分からない。私は指を伸ばしたままにする。

 箱の中の紐は二種類で、束に使うのは太いものになる。細いのは口を締める時だ。

 この人は紐を切る。鋏は使わない。歯で咥えて引く。

 切れた端は真っ直ぐではない。毛羽が残っている。


 私は束を並べ直す。頭の向きを揃えると、並びが一つの線になる。

 線は布の縁と平行にならない。布が斜めに敷いてある。

 私は布の角を引いて、縁を直した。引くと、線と縁が揃う。


 揃えていると、女の人がこちらを見た。見てから、また笑う。


「並べ方まで覚えたのかい。あんた、こういうのは覚えが早いんだね」


 私はもう一度、口の端が動くのを感じる。今度は両方だった。日が傾き始める。

 影が布の端から外へ出た。場所を片づける人が出てくる。端から順に畳んでいく。


 畳む音は乾いている。布を打つ音が二度ずつ鳴った。隣の場所の子どもが、畳んだ布の上に乗って座った。

 乗ってから、足を振る。振る速さは左右で違う。右が速い。

 子どもは私を見る。見てから、指を三本立てた。


 私は指を三本立てて返す。子どもは指を五本にする。

 立てた指の間は、子どものほうが開いている。私の三本は付いていた。


 私は五本にする。子どもは両手を出して、十本にした。


 そこで子どもの母親が布を引く。布が動いて、子どもは尻をつく。

 尻をついてから、子どもは笑う。母親が背中を叩いた。


 女の人は残った束を数える。数え終わると、指で数を作って私へ見せた。指は六本になる。


「六つです」


 この人は頷いた。それから束を袋へ入れる。

 袋の口を紐で締める。やり方は魚の束と同じ二重になる。この人は袋の口を締めた後、余った紐を切って私へ出した。


 紐の長さは腕の一本ぶんになる。撚りは三つで、色は生成りだ。


「靴の紐が切れたら替えな。そのくらいなら持ってて損はないんだから」


 私は紐を受け取る。

 受け取ってから、二つに折って握った。折り目のところが指の間へ入る。握ると、掌の中で嵩が出た。


「また来な。次の市は三の日だから、あんたも忘れないでおくんだよ」


 私は立ち上がる。立つと、座っていた側の腿が痺れていた。痺れは足首まで下りて、それから消える。

 引くまでに十を数えるほどある。広場の土は、朝より色が薄い。踏まれた場所だけが白い。

 白いところは筋になって、端から端まで通っている。筋は三本ある。広場の外へ出る道は三本ある。

 来た道と、水へ戻る道と、もう一本になる。


 もう一本は上りになっている。先は木で隠れて見えない。

 私はその道の入口まで歩いた。入口の土は、広場の土より黒い。


 黒いのは踏まれていないためだと思う。私は入らずに戻った。私は今日の数を並べてみる。

 束は二十一と十四。一束は十二枚。場所は十一。

 銭は一枚。汁の器は二つで、大きいほうが私の分だった。


 帳面の桁は四つと三つ。四人が順に覗いた。汁を飲んだのは一杯で、飲み終わるまでに二十を数えた。


 口の端が上がったのは二度になる。一度目は片方で、二度目は両方になる。

 数を並べると、並べた分だけ残る。今日は残った。

 人が減っていく。残っている場所は四つになった。


 畳まれた布は色が分からなくなる。畳むと裏が出る。

 裏はどれも生成りだった。今日、私に口をきいた人は三人になる。女の人と、朝まで一緒にいた人と、それから子どもだ。


 子どもは口をきいていない。指だけを出した。名を呼ばれたのは一度になる。

 呼んだのは女の人だ。呼ばれる前に、私は名乗っていない。


 女の人は袋を担いで、広場の外へ出ていく。担いだ側の肩が下がっている。この人の背中は、道の曲がりで見えなくなった。


 四人のうちの三人も、もういない。残っているのは朝まで一緒にいた人になる。広場の隅で帳面を懐へ入れた。

 入れる場所は左だ。心臓の側ではない。

 私は掌を開く。銭は掌の形に温まっている。汗で、字のところが少し曇っていた。


 もう一方の掌には紐がある。二つに折ったままだ。折り目は指の間にあって、握ると先が手首の側へ出る。


 私は握り直す前に、紐を手首へ二重に巻いた。巻いてから端を挟む。挟んだ場所は、昨日の夜に布の端を挟まれた場所と重なっている。


 私は袖の内側へ入れずに、そのまま握り直す。握ると、穴のところに指の腹が入る。回すと、銭が軸で動いた。

 回して止めると、字の一つが上へ来る。読めないままだ。


──────────────────


市の日の締めの覚書(抄)


品目ごとの件数 次に記す

取り扱った総数 四十七

その他に計上した数 次項による


一、品目ごとの件数


本日の件数は乾物十九、青物二十一、繕い物七を数えていた。


三つを合わせた数は四十七になっていた。前の市の日の総数は五十二になっていた。減った五つの内訳を、この覚書に記していない。


二、取り扱った総数


取り扱った総数は四十七である。銭の動いた件が三十九を占めていた。残る八件は物と物を替えたものであった。


替えた物の別を記す欄は、この覚書に置いていなかった。


三、場所


使った場所は十一になる。


割り当ては十二で、一つが空いていた。


空いた場所の理由を訊いた者はいない。前の市の日も同じ場所が空いていた。


四、刻限


締めたのは昼の一時十分になる。


十分の超過について書き留めるよう求めた者はいない。超過した回は本年に四度へ及んでいた。四度のうち三度は、この場所の側で起きていた。


四の二、片づけ


片づけを終えた場所は十一のうち十一に及んでいた。残した物のある場所は無い。残した物の扱いを定めた記載は、この覚書にも申し合わせにも無い。


五、品目に当たらない扱い


本日は右の三つのいずれにも当たらない扱いが一件あった。当該の一件を計上した欄の名はこの覚書に無い。書く欄を作るよう言った者はいなかった。


言った例が過去にあったかどうかも、確かめていなかった。


五の二、件数の数え方


一件は物が動いた一度をもって数えることとしていた。


同じ相手と二度替えた場合の扱いは定めていない。


本日は同じ相手と二度替えた例が一つあった。二度を一件として数えたか二件として数えたかの記載は無い。


五の三、数えた者


本日の件数を数えたのは場所を出した者それぞれになっていた。


取りまとめたのは一人であった。取りまとめた者の名を記す欄をこの覚書に置いていない。


六、その他に計上した数


その他に計上した数は一である。

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