第077話 合う
市の日の場所の割り当てに係る申し合わせ(抄)
場所の数 十二
使える刻限 次の各項による
扱う物の品目 三つ
一、場所の数
市の日に置く場所の数は十二としていた。
十二のうち二つは、道に近いところへ置くこととした。増やす場合の手順を、この申し合わせに置いていなかった。増やした例の有無も数えていなかった。
一の二、場所の順
場所の順は、前の市の日に来た者から順に当てる扱いとしていた。来なかった者の扱いは定めていない。当てる者を決めた記載も置かなかった。
決めているのは、その日に早く来た者になる。
二、使える刻限
使える刻限は、朝の六時から昼の一時までとした。
片づけを終える刻限は別に定めていなかった。
一時を過ぎて残った例は、本年に三度あった。三度とも、そのまま置かせている。
二の二、雨の日
雨の日は市を立てないこととしていた。
降り始めた後の扱いは、その日に居合わせた者で決める。決めた例を書き残す扱いは置いていない。書き残すよう言い出した者もいなかった。
三、扱う物の品目
扱う物の品目は三つとした。乾物、青物、繕い物になる。三つのほかを扱う場合の記載は、この申し合わせに置いていなかった。
置くよう言い出した者はいない。
三の二、品目の別を決める者
品目のどれに当たるかは、出した者が自分で決める扱いとしていた。
決めかねた例は本年に二度あった。
二度とも、その場にいた三人で決めている。三人が誰であったかを記した紙は無い。
三の三、繕い物
繕い物として出せるものは、着る物と履物とした。
器と刃物は繕い物に入れないこととしている。入れない理由の記載は、この申し合わせに無い。理由を訊いた例も残っていなかった。
四、銭
銭の扱いは各自によっていた。市として集める銭は無いこととしていた。場所を使う分の銭も取らない。
取らない理由は、この申し合わせに書いていなかった。
四の二、掛けの扱い
その日に銭を渡さない扱いは、出した者と受けた者の間で決めることとしていた。
市として関わらない。
関わらない旨を書き足したのは、字の違う二箇所のうちの一方になる。書き足した年は分からない。
四の三、貸す銭
市の場で銭を貸す扱いを、この申し合わせに置いていなかった。
置かない旨も書いていなかった。貸した例の有無を数えた者はいない。数えるよう言い出した例も残っていない。
四の四、釣り銭
釣り銭を用意する扱いは各自による。市として用意する分は置いていなかった。足りなくなった例は本年に一度あった。
その時どうしたかの記載は残っていない。
五、この申し合わせ
この申し合わせは、常会で読み上げて決めたものになる。
写しは各戸へ回した。
回した年を覚えている者がいない。書き足したところは二箇所で、二箇所とも字が違っていた。
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朝の光は板の隙間から入ってくる。筋は四本で、昨日より上に寄っている。
私は起き上がる。布の下の板は冷たい。
踵の布は緩んでいない。押すと痛い。
当たるところは昨日より狭くなっている。布を解かずに靴を履けるかを試す。爪先から入れると、甲のところで止まった。
紐を一度全部抜いて、通し直す。
通す穴は五つある。全部を通し終えると、布の厚みのぶん紐が余った。端は輪の外へ回す。
腹は空いている。昨日の噛んだものの塩気が、まだ舌の脇に残っていた。水を飲む。
器は昨日の器で、置いた向きのままになっている。
この人は炉の灰を掻き寄せて、上から一度押さえた。赤いところが消える。消えてから、天井の吊るしたものを二つ外した。
取ったのは端の小さい二つになる。外したものを布に包んで、腰の後ろへ差す。向きは横になる。
この人は戸を開けて外を見る。それから振り返って、私のほうへ顎を動かした。
「今日は下の広場で市が立つから飯の心配はしなくていい」
私は靴を履く。右の紐は先に輪を作ってから締めた。
左は輪を作らずに締める。左のほうが早い。
早いのに、私は右から履く。園でそう並べていたためになる。
外は明るい。水の面には昨日より光が乗っている。
道は水の縁から離れて、右へ上がっていく。傾きは緩い。
道の土は昨日の雨を残していない。踏むと乾いた音がする。轍が二本ある。
間は肩の幅より広い。深さは指の一節ぶんだ。
轍の底に草が生えている。あるのは片方の轍になる。
登り切ったところで、家が見えた。数は十四になった。
屋根の色は二種類だ。濃いのが九つで、薄いのが五つあった。私はその並びを覚える。
覚えると、次に見た時に減ったかどうかが分かる。家と家の間は空いている。広いところと狭いところがある。
広いのは三箇所で、三箇所とも道の側になる。一番手前の家の壁に、板が立てかけてある。板は三枚だ。
三枚とも長さを揃えて切ってある。断面は新しい。
道の脇に水が流れている。幅は掌二つぶんだ。流れは速くない。
水の中に葉が沈んでいる。底で動かない。
上を別の葉が通り過ぎた。端から端までに三つ数えるほどある。
水の音は道が上がるにつれて遠くなる。減り方は一定ではない。
曲がりの外側では聞こえて、内側へ入ると消えた。切れたのは三度になる。
三度とも、消えている間が短い。
この人は私の前を歩く。歩幅は私より広い。三歩で私の四歩になる。
私は歩幅を合わせない。合わせると踵に当たった。
「その先の広いところまで行ったらあとは好きにしていろ」
道の先から音がする。人の声で、一人ではない。匂いも来る。
乾いた魚と、それから青いものになる。
青いのは切ったばかりの茎の匂いだ。園の畑の脇で嗅いだものと近い。
道の脇に荷車が二つ止めてある。轅は地面に下ろしてあった。
車輪の外は土が付いている。量は左右で違う。声は重なって聞こえる。
一つずつを分けようとすると、分けたそばから別のが来た。私は分けるのをやめて、全部として聞く。
広場に出た。地面は土で、踏み固めてある。真ん中のあたりが低い。
四角い布を敷いた場所が並んでいる。数えると十一ある。
布の色はまちまちだ。重なるのは二組しかない。
場所と場所の間は人が歩ける幅に空いている。人が抜ける幅になる。
布の下に敷き物を重ねている場所と、直に地面へ敷いている場所がある。重ねているのは四つだ。どれも品物が高く積んである。
広場の端に木が一本立っている。
幹は太くて、私の腕が回りきらない。
枝の張り出しは南へ寄っている。影は場所の二つに掛かっていた。乗った二つは、日の当たる場所より人が少ない。
人は多い。
数えようとして、途中で動かれた。二十を超えたところで、私は数えるのをやめる。この人は私を置いて、広場の向こうへ歩いていく。
「俺は向こうにいるから昼を過ぎたら戸口のところへ来い」
私はその背中を見る。背中は人の間へ入って見えなくなった。日は背中に当たっている。
そこの服が熱い。
熱いのは肩甲骨の間で、そこから下へは来ない。額に汗が出た。
粒は眉のところで止まる。それから横へ流れた。
私は袖で拭かない。擦ると、乾いてから引きつる。私は端の場所から順に見ていく。
一つ目は乾いた魚だ。並べ方は頭の向きで揃えてある。
二つ目は器で、三つ目がまた乾いた魚になる。四つ目には菜が置いてある。根を切ってあって、切り口が白い。
五つ目は布と糸になる。巻きの大きさは三種類ある。
布は畳んで積んである。高さは膝までになる。
一番上の一枚は、角が折れている。先は内へ入っていた。糸の色は八つ数えられた。
八つのうち二つは、近づかないと分からない。六つ目の場所は、木の影の端に掛かっている。影は布の半分に乗る。
影の側と日の側で、布の色が違って見える。同じ布になる。
六つ目のところで、私は止まった。布の上に、乾いた魚を束ねたものが積んである。束は紐で二重に巻いてあった。
その向こうに座っているのは、三日前に私を土間へ入れた人になる。この人は私を見る。見てから、口を開けて笑った。
「あんた、まだこの辺にいたのかい。ちょうどいいよ、手が足りないんだ」
私は近づく。布の端に座るよう、この人は手で示した。私は座る。
地面は温かい。日が当たっていた時間の分、布の下が温い。
女の人は客と話している。話している間、手は動いたままだ。
動いている手は束を寄せて、寄せてから並べ直す。声の高さが変わった。
高くなるのは値を言う時だ。この人が言うのは魚の数と、それから銭の数になる。間に「で」が入る。
三束で幾ら。次に、一束の値を言う。三束で買うと、一束を三つ買うより少ない。
私はその引き算をする。差は二つになった。
客は三束を取った。銭を置いて、置いた銭を女の人が数える。終わると、この人は銭を布の下の箱へ落とした。
音は硬い。次の客が来る。前と変わらないことがもう一度起きる。
三人目の客は菜と替えていった。
銭は動かない。替える時、女の人は菜の束を持ち上げて重さを見る。それから魚の束を三つ出した。
三つ出してから、一つ戻す。その後で客が頷いた。頷いてから、二人とも手を離す。
値は魚の大きさで変わる。大きいほうが高い。
乾き方でも変わって、よく乾いたものが高くなる。私はそれを聞いている。並べていくと、値というものの立ち方が見えてくる。
物に付く数がある。それは物の何かで動く。決めているのは、売る人と買う人の二人になる。
二人が別のことを見ていても、数は一つに落ちる。それから物が動く。私は同じ束を二人の客が別の数で買っていくのを見た。
差は一つだ。
差の理由を、どちらの客も訊かない。女の人も言わない。
客の手は買う前に必ず束へ触れる。当てる場所は上か横になる。
下から持ち上げる客はいない。持ち上げるのは女の人だけだ。
触ってから離れていった客が二人いる。どちらも何も言わずに次の場所へ行った。
女の人は行った先を見ない。手元の束を並べ直している。
並べ直す時、女の人は端を二度叩く。
叩くと、崩れていた列が立った。
立った列の頭は、こちらから見て左を向いている。隣の場所の魚は右を向いていた。
向きの決め方を、どちらの場所も貼り出していない。
園で掲示に出る数は、誰も動かさなかった。あれは上から下りてくる数になる。
ここでは下から立つ。決まると、二人が離れる。
「そこの束を数えとくれ。あたしは指が曲がってるから数が飛ぶんだよ」
私は束を数える。
数える前に、積みの段を見る。段ごとに端が揃っていない。出ている分を、私は指で押し込んだ。
積み方は三段で、下の段が一番多い。下から数える。九、七、五になった。
合わせて二十一ある。数え直す。今度は上の段から数えた。
五、七、九になる。
同じ二十一になった。順を変えても変わらない。
園の給餌の列は、前から数えても後ろから数えても揃った。同じにならなかったのは、歩数と波になる。あれは途中で切れた。
束は切れない。置いてあるものは動かない。
数え終わって、私は顔を上げる。女の人はこちらを見ていた。
膝の上の手は、片方が布を掴んでいる。握ったところに皺が寄った。
見ていたのは、私の手ではなく口のあたりになる。
「いくつだった」
「二十一です」
言うと、女の人は手を膝から離した。
女の人は指を折って数え直す。折った指は、私が折ったのと同じ数のところで止まった。
止まってから、この人は指を開く。その手を膝の上へ置いた。
「合ってるじゃないか。あんた、数はできるんだね。学校でも行ってたのかい」
私は答えない。この人は続けて訊く。答えを待たない言い方になる。
「泊まるところはあるのかい。あの水のほうの小屋なら、あそこは屋根が漏るよ」
私は昨日の夜のことを思い出す。雨は降らなかった。
漏るかどうかは分からない。私は首を横にも縦にも振らない。
この人は私の靴を見た。それから、私の踵の布を見る。
「巻いてもらったのかい。上手じゃないか。あたしが巻くよりよっぽど上手だよ」
答えないでいると、この人は次のことを言った。
「うちの人はね、数が合わないと寝ないんだよ。合うまでずっと起きてるんだ」
言ってから、この人は笑う。
息を三度に分けて出す笑い方だ。私は自分の口の端が動くのを感じる。上がったのは片方で、戻るまでに四つ数えた。
束の一つを持ち上げてみる。重さは掌で分かる。持ち上げると、下の束が動いた。
ずれたのは一つで、そのまま止まる。
止まった位置は元より右へ寄っている。私は指で押して戻した。
押した跡が魚の腹に付く。跡は白くて、周りより浅い。
跡は消えない。私は指を離す。
魚は一束に十二枚だ。数えると、どの束も十二あった。
三つ目まで数えて、私は手を止める。揃っていれば足りる。
紐の結び目は上に来ている。結び方は二重で、端が同じ長さに切ってあった。
「銭は何ですか」
私はそう口に出した。女の人はこちらを見る。それから、可笑しそうな顔をした。
「あんた、それも知らないのかい。物と替えるためのものに決まってるじゃないか」
この人は箱から一枚出して、私の掌へ置く。銭は丸い。
真ん中に穴が空いている。厚みは爪の半分ほどだ。
表に字が三つある。私はどれも読めない。裏には字が無い。
代わりに線が二本ある。交わってはいない。
縁は摩れている。減っているのは表で、裏は角が残っていた。
穴の内は光っている。
重さは石より軽い。
私は銭を返そうとした。この人は受け取らない。
「持っときな。あんたが数えたぶんだよ。返されたって困るんだから」
私は銭を握る。握ると掌が熱くなる。
銭のほうが先に温かくなった。握った手を開いて、また閉じる。
私は銭を掌の真ん中へ置き直す。穴の位置が皺と重なった。
銭を動かすと、皺だけが残る。園で持たされた物は、返す時に数えられた。
係の人は必ず二度数えた。
この一枚を数える人はいない。昼が近い。日は真上に寄っている。
影が短い。女の人は器を出して、汁を注いだ。器は二つで、大きいほうを私へ寄せる。
「食べな。売り物の端っこだけど、こういうのが一番うまいんだから」
汁の中に魚の端が入っている。塩の味は強い。
浮いているものが二種類ある。魚の端と、切った青いものになる。青いのは煮えていて、噛むと繊維が縦に裂ける。
飲むと、喉から胃までの道が温かくなる。熱は下へ落ちてから広がった。
私は器を両手で持つ。持っていると、掌の熱が上がってくる。女の人は自分の器を持ったままで広場の隅を見た。
「あの人らのことは放っときな。市の日はいつもああやって集まるんだ」
私はそちらを見る。
広場の隅に、人が四人立っている。輪にはならない。二人と二人で向き合っていた。
その中に、朝まで一緒にいた人がいる。この人は帳面を持っている。昨日の夜に見た帳面になる。
紐の色が褪せている。
帳面は開かれている。開いた頁を、四人が順に覗いた。
覗く順は右から左だ。一人が見て、それから隣へ渡す。
覗く時間は揃わない。長いのが一人いて、その人だけ二度戻った。戻ったのは頁の下のあたりになる。
四人の服は色が近い。それでも袖の丈は揃っていない。
一番丈の短い人は、腕の内側が出ている。腕には何も書いていない。
四人とも立ったままだ。座る者はいない。足の置き方は四人とも違う。
一人だけ、片方の踵を上げている。渡す時、頁は伏せない。開いたまま横へ移る。
一番端の人が、私のいるほうを一度見た。見てすぐに戻る。
戻ってから、隣の人に何かを言った。長さは短い。
三人目の人が、自分の懐から小さい紙を出した。その紙を頁の横へ置こうとする。すると、二人目の人が手を出した。
手は頁の上に置かれる。指は広げてある。三人目の人は紙を懐へ戻した。
戻してから、頁をもう一度見る。私は器を持ったままでそれを見ている。
頁は遠い。字は読めない。
分かるのは並びの形になる。並びは二列だ。左の列と右の列があって、間が空いている。
左の列の数は長い。
右の列の数は短い。桁を数えてみる。左は四つで、右は三つになる。
一つ違う。同じ行に二つ並んでいるものが、上から順に続いている。行の数は数えられない。
列と列の間には縦の線が引いてある。線は一本だ。
行と行の間に横の線は無い。それでも並びは真っ直ぐに見える。
頁の下は字が詰まっている。上は間が空いていた。詰まっているところだけ、紙の色が濃い。
二人の指の動き方が違う。一人は左の列を上から下へなぞる。
もう一人は右の列を見ている。見る時、左へ目を動かさない。
一つの頁を、二人が違うところから読んでいる。
朝まで一緒にいた人が、頁の一つの行を指で押さえた。押さえてから、こちらを見る。
四人ともこちらを見た。見たのは短い。すぐに頁へ戻る。
戻ってから、一人が何かを言う。声は届かない。朝まで一緒にいた人は帳面へ鉛筆を入れた。
書いたのは短い。
二つか三つになる。
書き終わると、帳面を閉じた。閉じてから、紐の側を揃える。動きは二度になる。
二度目は角のところに掛かる。
四人のうち二人が先に離れた。抜ける時、どちらも手を上げない。
残る一人は、朝まで一緒にいた人と並んで立つ。二人は同じ向きを見ている。向いた先は広場の真ん中ではない。
しばらくして、この人がこちらへ歩いてきた。歩幅は朝と同じになる。
「そこの婆さんの手伝いをしていれば誰も何も言ってはこない」
言ってから、この人は広場の隅へ戻る。途中で一度も振り返らない。
桁を数え終えると、頭の中に二つの数の長さが残る。中身は入っていない。
残ったのは形だけになる。長いのと、それより一つ短いのだ。
私は器の汁を飲む。底に魚の端が残っていた。隅にいた四人のうちの一人が、こちらへ歩いてくる。
一番丈の短い服の人だ。腕の内側が出ている。
この人は布の前で止まって、束を二つ指した。指す時、値を訊かない。
女の人が数を言う。この人は懐から銭を出した。
「あんた数えとくれ。あたしは今こっちの手が塞がってて動かせないんだよ」
私は銭を受け取る。掌に載せて、一枚ずつ布の上へ並べた。七枚ある。
言われた数は六だ。一枚多い。
私は一枚を戻す。戻す時、この人の掌へ載せた。
触れたところが硬い。この人は戻された一枚を見る。見てから、私の顔を見た。
見ている時間は二つ数えるほどになる。それから、この人は束を持って離れた。去る時、何も言わない。
女の人が布の上の銭を数える。数え終わると、六だと言った。
「あんたが数えたなら数え直さなくていいよ。手が空いてても同じことだ」
私は自分の掌を見る。銭の載っていたところに、丸い跡が残っていない。さっき渡された一枚の跡だけが残っている。
女の人が私の名を呼ぶ。
「ほら、なな。こっちの束もやっとくれ。あんたのほうが早いんだから」
私は器を置いて、布の上へ向き直る。向き直ると、日が正面から来た。光は布の白いところで跳ねる。
跳ねた分だけ、魚の色が沈んで見える。
置いた器の底が、布に汁の輪を作った。輪は端が薄い。
私はその上に指を置かない。輪は日に当たって、端から乾いていく。乾いた線が二重に残った。
新しい束が出ている。積み方は二段だ。
下が八つで、上が六つになる。合わせて十四ある。
「十四です」
女の人は数え直さない。そのまま紐の箱を引き寄せた。
引き寄せる時、指は曲がったままだ。第二の関節から先が伸びない。
伸びないのは四本で、親指だけが動く。この人は親指と掌の付け根で物を挟む。挟んでから、腕ごと回して運ぶ。
運ぶ速さは私より遅い。落とすことは一度も無い。私は挟み方を真似てみる。
やってみると、指が余った。残った指を何処へ置くかが分からない。私は指を伸ばしたままにする。
箱の中の紐は二種類で、束に使うのは太いものになる。細いのは口を締める時だ。
この人は紐を切る。鋏は使わない。歯で咥えて引く。
切れた端は真っ直ぐではない。毛羽が残っている。
私は束を並べ直す。頭の向きを揃えると、並びが一つの線になる。
線は布の縁と平行にならない。布が斜めに敷いてある。
私は布の角を引いて、縁を直した。引くと、線と縁が揃う。
揃えていると、女の人がこちらを見た。見てから、また笑う。
「並べ方まで覚えたのかい。あんた、こういうのは覚えが早いんだね」
私はもう一度、口の端が動くのを感じる。今度は両方だった。日が傾き始める。
影が布の端から外へ出た。場所を片づける人が出てくる。端から順に畳んでいく。
畳む音は乾いている。布を打つ音が二度ずつ鳴った。隣の場所の子どもが、畳んだ布の上に乗って座った。
乗ってから、足を振る。振る速さは左右で違う。右が速い。
子どもは私を見る。見てから、指を三本立てた。
私は指を三本立てて返す。子どもは指を五本にする。
立てた指の間は、子どものほうが開いている。私の三本は付いていた。
私は五本にする。子どもは両手を出して、十本にした。
そこで子どもの母親が布を引く。布が動いて、子どもは尻をつく。
尻をついてから、子どもは笑う。母親が背中を叩いた。
女の人は残った束を数える。数え終わると、指で数を作って私へ見せた。指は六本になる。
「六つです」
この人は頷いた。それから束を袋へ入れる。
袋の口を紐で締める。やり方は魚の束と同じ二重になる。この人は袋の口を締めた後、余った紐を切って私へ出した。
紐の長さは腕の一本ぶんになる。撚りは三つで、色は生成りだ。
「靴の紐が切れたら替えな。そのくらいなら持ってて損はないんだから」
私は紐を受け取る。
受け取ってから、二つに折って握った。折り目のところが指の間へ入る。握ると、掌の中で嵩が出た。
「また来な。次の市は三の日だから、あんたも忘れないでおくんだよ」
私は立ち上がる。立つと、座っていた側の腿が痺れていた。痺れは足首まで下りて、それから消える。
引くまでに十を数えるほどある。広場の土は、朝より色が薄い。踏まれた場所だけが白い。
白いところは筋になって、端から端まで通っている。筋は三本ある。広場の外へ出る道は三本ある。
来た道と、水へ戻る道と、もう一本になる。
もう一本は上りになっている。先は木で隠れて見えない。
私はその道の入口まで歩いた。入口の土は、広場の土より黒い。
黒いのは踏まれていないためだと思う。私は入らずに戻った。私は今日の数を並べてみる。
束は二十一と十四。一束は十二枚。場所は十一。
銭は一枚。汁の器は二つで、大きいほうが私の分だった。
帳面の桁は四つと三つ。四人が順に覗いた。汁を飲んだのは一杯で、飲み終わるまでに二十を数えた。
口の端が上がったのは二度になる。一度目は片方で、二度目は両方になる。
数を並べると、並べた分だけ残る。今日は残った。
人が減っていく。残っている場所は四つになった。
畳まれた布は色が分からなくなる。畳むと裏が出る。
裏はどれも生成りだった。今日、私に口をきいた人は三人になる。女の人と、朝まで一緒にいた人と、それから子どもだ。
子どもは口をきいていない。指だけを出した。名を呼ばれたのは一度になる。
呼んだのは女の人だ。呼ばれる前に、私は名乗っていない。
女の人は袋を担いで、広場の外へ出ていく。担いだ側の肩が下がっている。この人の背中は、道の曲がりで見えなくなった。
四人のうちの三人も、もういない。残っているのは朝まで一緒にいた人になる。広場の隅で帳面を懐へ入れた。
入れる場所は左だ。心臓の側ではない。
私は掌を開く。銭は掌の形に温まっている。汗で、字のところが少し曇っていた。
もう一方の掌には紐がある。二つに折ったままだ。折り目は指の間にあって、握ると先が手首の側へ出る。
私は握り直す前に、紐を手首へ二重に巻いた。巻いてから端を挟む。挟んだ場所は、昨日の夜に布の端を挟まれた場所と重なっている。
私は袖の内側へ入れずに、そのまま握り直す。握ると、穴のところに指の腹が入る。回すと、銭が軸で動いた。
回して止めると、字の一つが上へ来る。読めないままだ。
──────────────────
市の日の締めの覚書(抄)
品目ごとの件数 次に記す
取り扱った総数 四十七
その他に計上した数 次項による
一、品目ごとの件数
本日の件数は乾物十九、青物二十一、繕い物七を数えていた。
三つを合わせた数は四十七になっていた。前の市の日の総数は五十二になっていた。減った五つの内訳を、この覚書に記していない。
二、取り扱った総数
取り扱った総数は四十七である。銭の動いた件が三十九を占めていた。残る八件は物と物を替えたものであった。
替えた物の別を記す欄は、この覚書に置いていなかった。
三、場所
使った場所は十一になる。
割り当ては十二で、一つが空いていた。
空いた場所の理由を訊いた者はいない。前の市の日も同じ場所が空いていた。
四、刻限
締めたのは昼の一時十分になる。
十分の超過について書き留めるよう求めた者はいない。超過した回は本年に四度へ及んでいた。四度のうち三度は、この場所の側で起きていた。
四の二、片づけ
片づけを終えた場所は十一のうち十一に及んでいた。残した物のある場所は無い。残した物の扱いを定めた記載は、この覚書にも申し合わせにも無い。
五、品目に当たらない扱い
本日は右の三つのいずれにも当たらない扱いが一件あった。当該の一件を計上した欄の名はこの覚書に無い。書く欄を作るよう言った者はいなかった。
言った例が過去にあったかどうかも、確かめていなかった。
五の二、件数の数え方
一件は物が動いた一度をもって数えることとしていた。
同じ相手と二度替えた場合の扱いは定めていない。
本日は同じ相手と二度替えた例が一つあった。二度を一件として数えたか二件として数えたかの記載は無い。
五の三、数えた者
本日の件数を数えたのは場所を出した者それぞれになっていた。
取りまとめたのは一人であった。取りまとめた者の名を記す欄をこの覚書に置いていない。
六、その他に計上した数
その他に計上した数は一である。




