第073話 濡れる順
居住区分の別に係る取扱要領(抄)
区分の別 第一から第四
境とする線 道の中心線
区分の外にある土地 次項に記す
一、区分の別
区分は四つとした。第一から第四までの番号による。番号の順は、区分を設けた年の順とした。
区分の別は世帯の登録によって定まる。土地の側の別は、世帯の登録の集まりから起こしたものになる。起こした年は区分ごとに違う。
第四の区分が最も新しい。設けた年は令和百八十八年であった。設けた際の判断の記録は当窓口に残っている。
判断をした者の欄は、当時の様式に無かった。
二、境とする線
境は道の中心線によるものとした。中心線は道の幅の半分の位置とした。幅の測り方は別に定めてあった。
道の幅が途中で変わる場合の扱いは、当該の道の等級による。等級を定めた表は当窓口にある。表の作成は令和百六十二年であった。
以後の改めは行っていない。
改めるよう起案した記載も残っていなかった。
三、区分の外にある土地
いずれの区分にも属さない土地がある。面積は当窓口の把握で四十一ヘクタールになる。把握は図面の上での測定による。
現地での測定は行っていない。行う旨を定めた記載も無かった。当該の土地を区分へ属させる手続は別に定めた。
定めの番号は本要領に記していない。手続によった例は開設以来一件である。その一件は令和百七十三年であった。
以後の例は無い。
四、整備の計画
道路・街灯・給水その他の整備は、区分ごとの計画によるものとした。計画は五年ごとに立てることとしていた。前回の計画は三年前に立てている。
前項の土地については、計画を立てていなかった。
立てない旨を記した書面も残っていない。
五、飼養する個体との関係
飼養する個体の所在は、相手方の世帯の区分によるものとした。
個体の側に区分を付す扱いは置いていない。付す扱いを設けるよう起案した例は前年度に一件あった。当該の起案は保留のままである。
保留の理由を記す欄は、起案の様式に置いていなかった。
六、窓口の取り扱い
本要領に係る事務は居住区分の窓口が行う。窓口の開くのは平日の九時から十七時までとした。平日以外の取り扱いは当直の者による。
当直の者が行い得る事務の範囲は、別紙に十一件を挙げてある。十一件のうち、区分の外にある土地に係るものは無かった。挙げなかった理由の記載も無い。
七、区分の変更の届出
世帯の区分が変わる場合は届出を要する。
届出の期限は事由の生じた日から十四日以内とした。本年度の届出は二十六件であった。二十六件のうち、期限を過ぎたものは四件になる。
過ぎた場合の扱いを定めた記載は本要領に無い。四件とも受理していた。
八、図面
区分の図面は当窓口に一部備えてあった。縮尺は五千分の一とした。図の中の点線は境を表すものとしていた。
点線と道の線が重なる箇所については、道の線を上に刷ってある。重なった箇所の数は数えていない。図面の刷り直しは十年ごととした。
前回の刷り直しは八年前になる。前回までに書き入れた手書きの訂正は、刷り直しの際に写していなかった。写さなかった箇所の数も残っていない。
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坂は上りきるまでに二百六十歩ある。上の三十歩が一番急になる。
急なところでは、踵より爪先のほうが先に着いた。順が変わると、足の裏の当たる場所も変わる。
上りきると、道が平らになる。
息は吸うほうが短い。吐くほうは、吸うのの倍ほど続いた。園の運動場を五周した後もこうなる。五周がどれだけの長さかを、私は聞いていない。
喉の奥が乾いている。乾きは口の中より奥のほうが強い。唾を集めて飲むと、一度は楽になった。二度目は集まらない。
手の甲を頬へ当てる。頬のほうが冷たい。当てている間に、手の甲の側が冷えた。
千五百六十で塀が終わる。最後の一枚には、上の縁に金属が乗っていない。跡の穴が二つ残っている。
穴の間は掌の幅ほどある。私は指を入れなかった。
塀の先は畑になる。畝は道と同じ向きに並んでいた。畝の間の土は掘り返してある。
土の匂いが上がってくる。園の花壇の匂いより濃い。掘った後の土は、掘る前より匂う。
畑の端に、木の枠が伏せて置いてある。枠の中は空だ。枠の板は四枚で、一枚は色が新しい。
新しい一枚は釘の頭が出ていた。出ている高さは爪の三分の一ほどになる。
虫が鳴いている。声は道の左で起きて、右からは聞こえない。
一匹の鳴く間は、三つ数えるほど続いた。止むと、次のが少し離れたところで鳴く。二匹が重なるのは十度に一度ほどになる。
園の運動場でも夜に鳴いていた。あちらは硝子の内側まで届かない。音は運動場の柵の内側で止まる。
水の音もする。畑の向こうの低いところから来る。細いが止まらない。
千七百二十で、道の右の街灯が終わった。
終わった先は両側とも何も立っていない。足元が見えなくなる。
私は歩幅を変えなかった。変えると、数が合わない。
千九百で、空を見た。星が出ている。数は数えない。星を数えると歩数のほうが落ちる。
二千で、腹が鳴った。音の前に胃の上のあたりが縮む。胃が縮んでから音になるまで、三つ数えるほどある。
夕方の器のぶんは、私の器で百八十グラムほどになる。園の一度ぶんは四百三十だった。差は二百五十だ。
二千五十で、道の右に家が一軒あった。
窓が一つ点いている。窓は二階で、下の階は暗い。硝子の内側に布が掛かっていて、中は分からない。
色も分からない。灯だけが橙に見える。
中で人が動いた。人が動くと布に映るものが変わる。映るものは真ん中から左へ動いて、右へは戻らない。
三度そうなって、四度目は無かった。
音は聞こえない。窓は閉まっている。
私はその窓を見ながら十歩ぶん歩いた。十歩で角度が変わって、布の面が細くなる。面が細くなると、映るものは見えなくなった。
家の前に郵便を入れる箱が立っている。箱の上に札が二枚並べてあった。札には字が刷ってある。二枚とも三字だ。
字は同じではない。二枚目の一字目が、一枚目の一字目と同じ形になる。
箱の投入の口には、雨よけの庇が付いていた。庇の下は乾いている。
二千百で、道の左に低いものが並び始めた。近づくと石になる。高さは膝の下までで、間は二歩ずつある。
石の上は平らではない。掌を置くと、真ん中が少し高い。真ん中は滑らかで、縁のほうは粗い。
縁だけが削れていない。手を置く場所が決まっているのだと思う。
三つ目の石には、上の面に穴があった。指の太さで、深さは一節ぶんになる。中は乾いている。
六つ目にも同じ穴がある。間の石には無い。
私は穴のある石を二つまで数えて、その先は見なかった。
袖の中の石は、この道の石より軽い。持ち上げると指が三本で足りる。
丸くはない。下の面が平らで、上が丸い。平らな面には細い筋が二本入っている。二本は交わらない。
石は肘の内側に当たっている。歩く間、その場所は動かなかった。袖の口を一度絞ってある。
絞った跡は布の折り目として残った。折り目は二本ある。
二千二百で、頬に何か当たった。
冷たい。当たった場所は左の頬の上のほうになる。
次が来るまでに、五つ数えるほどある。次は手の甲だった。
三つ目は肩に来る。四つ目からは、数えるところではなくなった。
音が変わる。土の音と、石の音と、それから草の音が三つに鳴っている。
草の音が一番細かい。
私は立っている。
園では降り始めると係の人が来た。運動場から中へ入れる時刻が決まっている。時刻は掲示の三枚目にあった。
入れる前に、頭の上へ手をかざす人がいる。かざす手は掌を下へ向けていた。
かざした手の下は、私の頭より広い。粒が当たるのは肩になる。
中へ入ると床が乾いている。床の上で、係の人が布を配った。布は一人に一枚で、大きさは掌四つぶんになる。
髪を拭くのは自分でする。背中は届かないところがあり、そこは乾くまで置いた。布は返す時に数える。数えるのは係の人で、私は並ぶだけになる。
園で私の頭に落ちた粒の数を、私は知らない。数えたことが無い。
私はその場に立って、道の先を見る。先は暗い。
振り返っても同じだ。灯は一つも無い。
十を数える。それから、十をまた数える。三度目の十で、髪が頭に貼り付いた。
貼り付くと、耳の上が重くなる。重さは片方へ先に来た。
服の肩が濡れる。布が肌に着いた。そこから冷える。場所は肩と、それから背中の上のほうになる。
袖の内側は、まだ乾いていた。
歩き出す。
歩数は二千二百までなら覚えている。そこから先が繋がらない。
数えようとすると、雨の粒の数と混ざる。合わせたものは数にならない。
私は数えるのをやめた。
やめると、足の裏の当たりが残る。当たりは石で、四角い継ぎ目の幅は指の半分ほどある。継ぎ目に水が溜まり始めた。
溜まった水は端から溢れる。溢れる向きは道の低いほうになる。
靴の底が滑る。踵の外の側で滑って、内の側は滑らない。踵の減り方は左右で違っていた。
右の靴の中に水が入った。場所は甲の上の、紐の穴の並びの下になる。左はまだ入っていない。入るまでに二十歩ほどあった。
紐が緩んでいる。
濡れた紐は太くなる。穴の中で動かない。それでも輪の側だけが下がっていた。
私は道の端へ寄って、片方の膝を立てる。その膝に肘を乗せた。
結び目を解く。解くと、輪が先に落ちた。速さは乾いている時より遅い。
紐を引く。引くと水が出た。場所は穴の縁になる。
上から順に締め直す。締めると音がしない。乾いている紐は締める時に鳴った。
輪を二つ作る。暗くて、輪は見えない。
私は左右の輪を指で挟んだ。根元から先まで動かす。
輪の大きさは、指で確かめた。左右で同じだった。
二重にする。結び目は濡れていると固くなる。締める間は柔らかい。
左も同じにする。左の輪は右より先が長い。差は爪の半分ほどになる。
立ち上がる。爪先を石へ二度当てた。当てると水が飛ぶ。
飛ぶ先は前になる。
私は歩き出した。歩幅は座る前と同じにする。
雨は強くなったり弱くなったりする。強い時は音が一つに聞こえた。弱い時は落ちる場所ごとに音が分かれる。
そちらのほうが長い。
道の右に、屋根のあるものが見えた。近づくと、柱が四本で、屋根は片方へ傾いている。
中に板が渡してあった。板は二枚で、間が指の幅ほど空いていた。
柱の間の幅は、両手を広げた長さより少し狭い。四本のうち一本だけ、下の端が土に埋まっている。埋まっている高さは指の二本ぶんになる。
残りの三本の下には、四角い石が敷いてある。石は柱より一回り大きい。角は四つとも欠けていた。
私は屋根の下へ入った。
入ると、音が上から来なくなる。横からと、それから足元から来る。
屋根の低いほうの縁から水が落ちる。落ちる筋は五つある。五つのうち二つは細くて、途中で切れた。
板に座る。座ると、板の縁が腿の裏へ当たった。高さは家の上がり口より上になる。
板の下に土が溜まっている。土は乾いている。指を入れると、細かいのが爪の間へ入った。
土の上に空いた缶が一つ倒れている。口の側が私のほうを向いていた。中には何も入っていない。
板は釘で留めてある。釘の頭は五つ見えた。五つのうち三つは板の面と同じ高さで、二つは出ている。
その二つは、間が板の幅ほど離れていた。
柱の下のほうに錆がある。錆の匂いは、園の水飲みの栓と近い。あちらより強い。
乾いている日の栓は、これほど匂わなかった。指で触ると、赤いものが指紋の溝へ入った。落とすには擦る必要がある。
屋根は金属の板で、継ぎ目が三本ある。継ぎ目の下で音が違った。
屋根の下は乾いている場所と濡れている場所に分かれる。線は私の座った位置から二歩ぶん外にある。
柱の一本に、金属の札が留めてあった。上と下の二箇所で留めてある。
札の字は薄い。指でなぞると、彫ってあるのではなく刷ってあると分かった。
柱の裏に紙が貼ってある。紙は二枚で、上が大きい。
上の紙は時刻の表だった。数が縦に並んでいる。二列で、左の列のほうが数が多い。
一番下の数は二十一時十分になる。一番上は五時四十分だ。
左の列と右の列で、数の数が違う。左は二十一、右は十四になる。差は七だ。
右の列の上に、字が二つある。読める。土と日だと分かる。
今日は土曜だと思う。園にいた時は、月曜の朝に洗濯の当番が回ってきた。金曜の夜の次は土曜になる。
右の列の一番上も五時四十分だった。両方の列で同じ数はこれだけになる。
二十一時十分は過ぎている。次に来るのは五時四十分だ。
下の紙は表ではない。字が横に並んでいる。
区分、という字がある。その下に一から四まで数が並んでいた。数の横には道の名がある。道の名は読めるものと読めないものがあった。
一番下の行だけ、道の名の欄が空いている。
行の下に図がある。四角で、中に線が何本か入っていた。線の太さは二種類ある。太い線が三本、細い線がその倍ほどある。
太い線の上に、字が添えてあった。字は横に寝ている。
図の真ん中を、点の並んだ線が縦に通っている。点の間は同じ幅だ。私は指でその線をなぞった。なぞると紙が少し波打つ。
点の線は太い線の一本と重なっている。その部分で、点が太い線に隠れて見えない。
図の下の隅に、小さい字で長さが書いてあった。読める形は数と、それから記号が一つになる。
図の右の下に、色の付いていない部分がある。四角の内側で、そこには線が一本も入っていない。
私はその行を見た。数の欄は空だ。
自分の番号を探した。頭に字が一つ付いて、後に数が四つ並ぶ形になる。その形は紙の何処にも無い。
紙の下の隅に、窓口の名と時刻が刷ってある。九時から十七時までになる。いまはその間に入らない。
雨の音が変わった。
屋根を打つ音が細かくなる。すると、屋根の下の音が聞こえるようになった。私の靴の中で水が動いている。
足を上げると音がする。下ろすと止まる。
外から別の音が来た。
金属の音で、二拍ずつ鳴っている。近づくと間が短くなった。
自転車だった。屋根の下へ入ってくる。乗っている人は上下とも雨具を着ていた。雨具は黄色で、頭まで覆っている。
この人は自転車を柱へ立てかけた。それから袖の水を絞る。
絞った水は板の外へ落とす。落ちた場所に丸い跡が残った。跡は土の色が濃くなったところで、縁は決まっていない。
この人の手は大きい。指の背に細い傷が二本ある。二本とも同じ向きに走っていた。
雨具が匂った。ゴムの匂いで、園の手袋と近い。あちらより厚い匂いだった。
「そこの端は屋根が切れてる」
この人が言う。指は差さない。
私は座ったままで二歩ぶん内へ寄った。寄ると、腿の裏の当たる場所が板の継ぎ目に変わる。
「止みますか」
私は訊いた。
「四時を回れば止む。毎年こうだ」
この人は自転車の荷台の紐を掛け直した。荷台には四角い箱が二つ載っている。箱の角は布で包んであった。
「四時ですか」
「風が北へ回れば、もっと早い」
それから、この人は何も言わない。板の反対の端に座って、箱の布の結び目を確かめている。
手は右で、結び目は四つあった。どれも同じ形に見える。
私は袖の内側へ指を入れた。
石は肘に当たっている。紙は二枚で、上の一枚が湿っていた。端の一寸ほどで、真ん中は乾いている。
私は下の一枚を出した。折り目は一本になる。
開くと、紙は掌より少し大きい。字は刷ってあって、薄い。屋根の下は暗いが、道の向こうの灯が一つ届いていた。
当たる場所は板の右の端になる。私は紙をそこへ持っていく。
数は三つある。並びの間が空いていて、桁は三つと二つと四つになる。
三つの数の間の空きは、字の一つぶんより広い。三箇所とも同じではない。左の空きが少し広かった。
真ん中の数は、字が他より太い。刷った時の力だと思う。裏から見ると、その二字で紙が盛り上がっている。
三つの数の下に行がある。行は五つで、上から四つ目に線が引いてあった。
線はまっすぐだ。手で引いたのに曲がっていない。定規を当てたのだと思う。
線の下の字は読める。四字ある。線の上には何も書き足していない。
私は線の上を指でなぞった。インクは乾いている。紙が少し凹んでいた。凹みは線の幅より細い。
残りの四つの行には線が無い。四つとも字の並びは同じ長さになる。
私は紙を折り直した。折り目は一本のままにする。袖の内側へ入れ直すと、石の隣で止まった。
自転車の人が立ち上がる。
箱を一度持ち上げて、置き直した。置き直すと、荷台の紐が鳴る。
この人は雨具の頭を被り直して、屋根の外へ出た。それから自転車に乗る。金属の音がまた二拍ずつ鳴った。
音は道の左のほうへ遠くなる。速さは一定だった。
屋根の下に私だけになる。
肩が震え始めた。震えるのは息を吸う時で、吐く時には止まる。震えない間のほうが短い。
膝を寄せると、震えの幅が小さくなった。小さくなるだけで、止まらない。
服は背中が一番濡れている。触ると、布と肌の間に水がある。押すと動いた。先は腰のほうになる。
そこまで来た水は、止まって温かくなる。
掌を灯のほうへ向けた。
指の腹が白い。平らではなくて、細かい筋が寄っている。筋の向きは指の長さと同じ向きだ。
親指の腹が一番寄っている。小指はあまり寄っていない。触ると、筋のあるところだけ柔らかい。
両手を並べた。右のほうが寄り方が強い。右の袖を先に絞っている。
園の洗濯室で長く水に入れた日も、こうなった。あの時は指の先で止まった。今日は付け根まで来ている。
私は掌を閉じて、また開いた。開くと、筋は同じ場所に残っている。
歯が二度鳴った。鳴ったのは上と下が当たる音で、園の食堂の器の音と近い。あちらより小さい。
私は数を立て直した。屋根の下の板の枚数から始める。板は二枚だ。
柱は四本。屋根から落ちる筋は五つ。紙は二枚。時刻の表の数は、左の列が二十一で右の列が十四になる。合わせて三十五。
区分の紙の行は五つ。そのうち欄の空いた行が一つ。
数えたものを順に並べると、二、四、五、二、三十五、五、一になる。
並べても何も出ない。それでも数は落ちなかった。
板の上で膝を抱える。抱えると、袖の紙の角が肋へ当たった。場所は右になる。
靴は脱がない。脱ぐと、履く時に紐を解くことになる。
足の指を靴の中で動かした。動かすと水が指の間へ入る。温かい。水が私の温度になったためだ。
雨の音が細くなった。それからまた太くなる。強い時間のほうが短い。
屋根の縁から落ちる筋が、五つから三つになった。うち一つは途中で切れる。
道の向こうの灯が揺れている。動いているのは灯ではなく、間の雨のほうだ。
私は板の上で足を組み替えた。組み替えると、腿の裏の当たる場所がまた変わる。板の継ぎ目は指の幅ほど空いていて、そこが冷たい。
空が薄くなり始めた。
薄くなるのは道の先からになる。東だと思う。園の運動場も、明るくなるのは食堂からだった。
雨の音がまた細くなる。それから止んだ。
止むと、屋根から落ちる筋が残る。筋は二つになった。
私は板から下りた。下りると、足の裏が石に着く。石は冷たい。靴の中の水より下にある。
屋根の外へ出る。
匂いが上がってきた。土の匂いで、昨日の昼のものと違う。昨日の昼は、これほど上がってこなかった。
草の匂いも混ざっている。草のほうが先に来て、土のほうが後から来た。
園の花壇にも水を撒いた。朝の七時で、量は決まっている。撒いた後の匂いは、これより薄い。
何処かで鳥が鳴き始めた。鳴いているのは木のあるあたりで、一羽ではない。
初めの一羽は節を三度繰り返す。次のが応えると、最初のは繰り返さなかった。
道を流れた水は端へ寄っている。寄った先は溝になる。溝の蓋は無い。
溝を覗く。水が動いている。向きは道の低いところになる。水の面には泡が浮いていて、泡は縁の草のところで止まる。十を数えるうちに消えた。中には紙のようなものが一つ挟まっている。
挟まっているものは、水を吸って崩れていた。字は残っていない。
私は手を入れない。
溝の縁の石は角が丸い。水の当たる面だけで、道に向いた面は角が立っていた。
その面に、細い草が生えている。草は根元だけが土から出ていて、上は水の中にあった。沈んだ部分は色が薄い。
道の右側に街灯が並んでいる。並びは十四歩ずつだった。ここまでの道と同じ間になる。
灯は上から順に消えていく。向こうから消えて、手前が残った。
三つ目の柱は、上が暗い。灯の器は付いている。中が暗い。
近づくと、柱の上の器に硝子が入っていた。硝子の中は暗い。器の下の縁に、水が一筋垂れている。垂れた跡は柱にも残っていた。
跡は上から下まで続いている。途中で細くなる場所が二箇所ある。
私は柱の下を見た。番号の札は付いていない。付けた跡の穴が二つある。穴の間は掌の幅ほどになる。
塀の終わりの穴と、間が同じだ。
私は柱から一歩離れた。
柱の面には、上のほうに横の筋が一本ある。深さは爪の入る幅になる。筋の中に土が溜まっていた。溜まった土は乾いている。
その筋を次の柱で探した。そちらには無い。
足を止めて、右の靴の先を地面へ押し付ける。押すと水が縁から出た。出る場所は甲の縫い目の下になる。
左も同じにする。左は出る量が少ない。右から先に水が入っていた。
靴下は水を吸ったままになる。指を動かすと、布が爪先の側へ寄った。寄った布は元へ戻らない。
甲のところに、紐の跡が横に付いている。跡は三本で、間は指の幅ほどになる。
道は先で下りになる。手前に、木が三本並んでいる。どれも同じ高さではない。真ん中が一番低い。
木の葉から水が落ちている。落ちる間は、雨の時より長い。一つ落ちてから次までに、五つ数えるほどある。
落ちる場所は下の土で、そこが穴のように窪んでいた。三本の木の下にそれぞれある。
下りの先に、屋根が見えた。数は七つある。七つとも高さが違う。一番向こうが低い。
遠いためだと思う。
屋根の向こうに白いものが横に長く続いている。動かない。雲だと思う。下の縁が赤い。
端から三分の一ほどで、残りは白いままだった。
空は薄くなっている。星は二つ残っている。数えたのは二つで、その先は探さなかった。
下りの手前で一度止まった。止まって、来た道を見る。
道は真っ直ぐではない。二度曲がっていて、二度とも右へ曲がっている。曲がりの外の側だけ、草が短い。
短いところは幅が二歩ぶんある。誰かが通っている幅だ。
私は歩き出す。歩幅は昨日と同じにする。
道の面はまだ濡れている。乾き始めたところと、まだらに分かれていた。乾き始めたのは石の真ん中で、継ぎ目は濡れたままになる。
乾いた部分の色は、濡れた部分より白い。
靴の中の水は、歩くと前へ寄った。爪先が冷たい。
十歩で、水の音が小さくなった。
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当夜の巡回及び降雨の記録(抄)
巡回の区域 区分の内側
巡回の始めと終わり 二十二時と四時三十分
降り始めから止むまで 次項に記す
一、巡回について
当夜の巡回は当直の者二名で行った。区域は区分の内側とした。区分の外にある土地は巡回の対象としていなかった。
対象としない旨は当直の心得に記してある。心得の作成は令和百七十九年であった。以後の改めは一度である。
改めた箇所は、巡回の回数に係る一項になる。
二、巡回の回数
当夜の巡回は二回とした。一回目は二十二時から二十三時四十分まで、二回目は三時十分から四時三十分までであった。一回目と二回目の間の取り扱いは、当直の心得に記していない。
記させるよう起案した例も無かった。
二回の巡回の間に当窓口を空けた時間は、本記録に記していない。
三、降雨について
降り始めは二十三時四十分、止んだのは四時十分であった。
雨量は当窓口の器で十九ミリになる。前年度の同じ月の一日あたりは四ミリであった。器の置いてある場所は庁舎の屋上とした。区分ごとに器を置く扱いは無い。
区分の外にある土地に係る雨量は、当窓口では把握していなかった。
四、街灯について
二回目の巡回において、点いていなかった灯を一基認めた。位置は第二の区分と第三の区分の境の側になる。
当該の一基について、取り替えの記録は残っていない。前回の点検の記録も無かった。点検の周期を定めた記載は、当窓口の書面に見当たらない。
五、当夜の申し出
当夜、区域の内で受けた申し出は零件になる。
零件である旨を上へ報告する扱いは置いていない。零の日を数えた表は当窓口にある。表の作成は月ごととした。
六、前日の受理との関係
前日、当窓口は所在不明の届出を一件受理している。当該の件と本記録との関係を記す欄は、本記録に置いていない。置くよう起案した記載も残っていない。
七、区分の外にある土地
当夜、区分の外にある土地について当窓口が受けた連絡は無かった。連絡を受けた場合の取り次ぎの先は、当直の心得に記していなかった。当該の土地に係る事務は、平日の窓口の取り扱いによるものとした。
当直の者が行い得る十一件に、当該の土地に係るものは含めていなかった。
八、添えたもの
本記録に添えたものは、雨量の器の読みの写一枚である。写の作成は当直の者による。灯に係る写真の添付は行っていない。
添付を要する旨の定めも無かった。当該の一基の柱に付いているのは、留め具二つのみ。




