第070話 四十八行
飼育の届出(月次)の欄の一覧(抄)
一覧の作成の刻 令和二百十四年四月一日
欄の総数 二十三
記入を要しない欄 六
一、一覧の性質
本一覧は、届出の用紙に置いた欄を上から順に並べたものであった。用紙そのものの写しは本一覧に添えていない。添える扱いは当部門の判断によるものとした。
求められた例は本年度に一件であった。当該の一件については、口頭で欄の名を読み上げている。読み上げた者の名は残していなかった。
読み上げに要した時間は四分であった。
時間を記す欄は本一覧に設けていない。
二、欄の別
二十三の欄は、届出の別に係るものが四、個体に係るものが十二、飼養の場所に係るものが四、その他が三である。その他の三は、備考、受付の印、整理の番号とした。整理の番号は窓口で付す。
付す順は受け付けた時刻の順によるものとした。
前年度に順を検めた例は一件であった。
三、記入を要しない欄
記入を要しない欄は六であった。
うち四は窓口が記入する。残る二は第二回以後の届出において記入を要しないものとした。第一回で記入した内容が変わった場合の扱いは定めていない。
変わった旨を書き添えた例は本年度に二件ある。二件とも受理した。書き添えの位置は二件とも余白であった。
余白の位置は上と下で分かれている。
四、健康の状態の欄
健康の状態の欄は三項とした。体重、食欲、その他の順になる。その他の項について、中身は一つの欄へまとめて記入させる扱いとした。
分ける欄を置くよう求められた例は本年度に三件であった。その他の項に記入のあった届出は、本年度に十九件であった。記入の文言は控に写さず、件数のみを月ごとに集計している。
五、記入の主体
本届出は相手方が記入するものとした。
個体の側から出せる様式は本一覧に無い。この点は相手方への説明の対象としていない。説明した例の記載は残っていなかった。
個体の側から記入の申出があった例は、本年度に零件である。零である旨を検討した記載も無い。
六、提出の先
提出の先は居住区分の窓口とした。園は写しを受け取らない。受け取る扱いは当部門の所管の外にあるものとした。
求めた例は本年度に零件であった。
窓口から園への通知は、区分の変更に係るものに限るものとする。本年度の通知は二件になる。
七、期限
第一回の期限は引き渡しの日から十四日以内とした。第二回以後は毎月の末日までになる。期限を過ぎた届出は本年度に七件あった。
七件とも受理している。
七件の遅れの日数は、最も短いもので二日、最も長いもので十九日であった。日数を集計する欄は本一覧に無い。受理しない場合の扱いは窓口の長の判断によるものとした。
判断を要した例は前年度に一件であった。
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腰の後ろが重い。骨の内側で、動かない重さになる。
布団の上で膝を立てると、重さは腹の底のほうへ移った。速さは息を吐く一つぶんになる。もう一度立てると、同じところへ戻る。
膝を立てた角度は、伸ばした時から数えて三十度ほどになる。角度を浅くすると重さは薄くなった。
深くすると戻る。境は膝が腹に近づく手前にある。
体温は掌で額を測ると分かる。
今日は掌のほうが冷たい。園では朝の測りが六時三十分で、器具は耳へ入れる形のものだった。この家に器具は無い。
窓の外はまだ薄い。硝子の下の縁が先に明るくなっていた。順は下から上になる。
天井の側の端まで来るのに、数えて八十ほどかかった。
起き上がる。上げた腰の下で、布の上に丸い染みがある。
径は掌の半分ほどだ。縁は濃くて、真ん中が薄い。
指で触れると、縁のところだけがまだ乾いていない。渇いた場所は硬くなる。
硬さは布の目の側に出る。目に沿って触ると引っかかりが四つあった。
私は布団を剥がして、敷布を見る。
敷布にも移っていた。二枚目の染みは一枚目より小さい。位置は指の三本ぶん下になる。
三枚目は無い。畳の側まで抜けてはいなかった。畳を指で押すと乾いている。
押した場所は元へ戻るまでに二つ数えるほどかかった。
園ではこの朝に決まりがある。順は三つあって、どれも体から始まる。一 布を外して畳む。
折るのは縦に三つ、横に二つになる。二 洗面へ行って、番号の書いてある箱から一つ取る。
三 出てきてから、当直の係へ告げる。言うのは五字で決まっている。
私は一を始めた。布は昨日と同じ厚みで、外すと畳の目が三本見える。
縦に三つ折る。その時に、端の一枚が半分ずれた。
園の布は端に糸が一本通してあって、その糸を目安に折る。この家の布に糸は無い。
目安の代わりに畳の目を使った。目の三本目で折ると、園の折り目と幅が合う。
ずれた分を戻して、もう一度折る。
今度は揃った。横に二つ折って、部屋の隅へ置く。向きは折り目を壁へ付ける。
二へ行く。この家の洗面は台所の隣で、戸は引いて開ける。戸の下に隙間があって、床の板が二枚ぶん見える。
箱を探した。棚は二段で、上に硝子の瓶が四つ、下に袋が三つある。袋のどれにも番号は無い。
字は刷ってあるが、園の箱の字とは形が違う。
園の箱は木で、蓋の上に二桁の数が焼き付けてあった。数は室ごとに違う。私の室の箱は十七で、置き場所は入口から三つ目の棚の下段になる。
この家の棚は木の色が明るい。板の厚みは指の一本ぶんで、園のものより薄かった。
棚の板と壁の間に隙間がある。幅は爪の一つぶんになる。
私は三つの袋を順に持ち上げる。重いのは真ん中のものになる。
中で細かい音がした。粒ではなく、紙の擦れる音だった。
左の袋は軽かった。振ると音は一度しかしない。中身が一つか二つになる。
右の袋には硬いものが入っている。振ると角が布へ当たる。回数は三つ数える間に五つある。
開けてよいかを訊く相手が、この時刻にはいない。私は袋を戻した。
水を出す。冷たい。
手首の内側で温度を測ると、指の先より遅れてくる。石鹸は白くて角が丸い。匂いは園のものより甘くなる。
園の石鹸は角が四つとも立っていて、匂いは薬に近い。
使う順も決まっている。順は手、布、器の三つで、器は別の石鹸を使う。この家の洗面に石鹸は一つだけになる。
水は出しはじめが一番冷たい。二十数えると温度が上がった。上がった分は指で分かるほどで、湯にはならない。
洗う。布は薄い色になって、水は下へ行くほど薄くなった。絞る。
回数は四になる。四回目で、落ちる水が透ける。
絞る向きは両手を逆にして回す。園で教わった向きは右の手を手前へ回すほうだ。逆にすると布の目が縦へ寄った。
寄せると水が早く落ちる。
落ちた水は排水の口へ回って消える。口の格子は四つに割れている。
その一つに髪が一本引っかかっていた。私のものではない。長さが違う。
鏡は洗面の上にある。私の顔が映る位置は、額から顎までだ。
顔は昨日と変わらない。頬の右に、寝ていた時の線が一本残っている。
線は上から下へ走っていて、途中で一度切れる。切れた場所は頬の骨の上になる。指で押すと線は薄くなった。
離すと戻る。戻るまでに三つ数える。
三へ行く。当直の係へ告げる、の三だ。
園では告げる先が廊下の端の机に座っていた。机の上に簿冊が一冊置いてあった。
告げると、係は簿冊を開いて何かを書いた。要する時間は五数えるほどになる。
書き終わると、係は顔を上げない。次の者が来るまで手を止めていた。
私は廊下に立つ。
この家の廊下は五歩ぶんで、突き当たりが階段になる。告げる相手は上にいる。上にいるのは、この家の三人だ。
階段の一段目に足を掛けてみる。その足は上げない。上げる前に、上で戸の開く音がした。
出た場所は二階の奥になる。
私は足を下ろした。下ろした場所は掛ける前と同じ板の上になる。
園の五字を口の中で作ってみる。声には出さない。
二度作って、二度とも同じ形になった。五字は園の紙の上にある語で、この家の紙にあるかどうかを、私は知らない。
台所で音がした。水が細く始まって、それから止まる。
女の人が出てくる。手に布巾があって、右の端だけが濡れている。
この人が私を見る。それから廊下の床を見る。床には何も落ちていない。
「あら、どうしたの。こんなところに立って、あなた、寒くはないの」
女の人が言う。私は部屋の側へ半歩下がった。
この人が部屋を覗く。隅に置いた布が見える位置になる。
覗いてから、この人は一度息を止めた。止めた時間は二つ数えるほどだ。
布巾を持った手が下がる。
止まった先は腰の高さになる。もう片方の手が上がる。上がる途中で一度速さが落ちて、それから最後まで来た。
それから、私の腕に手を置く。触れた場所は肘の少し上になる。
「まあ。あなた、来たのねえ。言ってくれればよかったのに、ねえ」
女の人が言った。声はいつもより高い。語尾のところで一度切れる。
この人が私の手を取って、洗面へ入る。棚の下の袋を出す。出したのは真ん中の袋で、私が持ち上げたものだった。
袋を開けると、白いものが並んでいた。数は上から見て八つある。一つ取って、私の掌へ載せる。
その時に、この人の指が私の指の間に触れた。
触れた時間は短い。離れてから、この人は自分の指を一度握って開いた。
袋の口は帯で留める形になっている。帯の色は薄い青で、端が少し反っている。
留め直す時に二度やり直す。一度目は帯が布の外へ出た。
「これを使うのよ。使い方はね、あとでちゃんと教えてあげますからね」
女の人が言う。私は掌の上のものを見た。
上から見ると角が四つとも直角になっている。厚みは端のほうが薄い。指で挟むと、真ん中だけが少し戻った。
厚みは指の半分より薄い。片側に紙が一枚貼ってあって、端が折り返してある。
園のものは形が違う。長さは近いが、こちらのほうが幅が広い。
この人が洗面を出て、階段の下から上へ声を掛ける。声の中身は短い。
上で音がする。九段目が鳴って、翔太が下りてきた。
下りる速さはいつもの半分になる。段の途中で一度止まった。止まった場所は上から四段目で、そこから下は一段ずつ来る。
「なんだよ。まだ寝てたのに」
翔太が言う。この子の髪は右の側だけ立っている。
女の人がこの子の肩に手を置いて、居間のほうへ向ける。向けてから、二度背中を押す。強さは撫でるのと変わらない。
「あなたは向こうにいてちょうだいね。少ししたら朝ごはんにしますからね」
女の人が言った。翔太は振り返らずに居間へ入る。
戸が閉まる。閉まる音は二度に分かれた。
私は洗面に残った。
女の人が水を出して、私の布を受け取る。それから後で、この人は一度も顔をしかめない。手の速さも変わらない。
水は私が出した時よりも温い。捻る向きを見ていると、この人は左へ多く回していた。回す量は指の一本ぶんほど多い。
温度の差は掌で分かる程度になる。
洗う手つきは私のものと違った。絞る回数は二で、力は強い。
二回で落ちる水が透ける。私の四回より少ない。
布は物干しの内側へ掛けられた。場所は日の当たらないところになる。留めた挟みは二つで、間は掌の三つぶん空いていた。
朝の器は四つ並ぶ。私のぶんは右の端になる。卓の縁からの距離も動いていない。
今日は私の器の横に、小さい椀が一つ足された。中は白くて、湯気が出ている。
「これはね、体を温めるものよ。あなた、今日はゆっくりしていていいの」
女の人が言う。私は椀を持った。手を二つとも当てると、掌が先に温まる。
中身は甘い。甘さは昨日の茶色いものより薄い。飲み込むまでの間は、他の三つと変わらなかった。
椀の底には粒が沈んでいる。
数は七つで、大きさはどれも爪の半分より小さい。箸で寄せると一つずつ動く。寄せてから、まとめて口へ入れた。
椀の縁には欠けが一つある。欠けの位置は右の側で、口を付ける場所から指の二本ぶん離れていた。
男の人が新聞を畳んで、卓の端へ置く。畳み方は縦に二つになる。畳んだ面の上に湯呑を載せた。
載せた場所は紙の折り目の上になる。
「出るのが早い。八時十分に家を出る」
この人が言った。それから器を持ち上げる。
翔太が私のほうを見た。それから、女の人のほうを見る。
「こいつ今日どっか行くの」
翔太が言う。女の人は首を横に振る。振った回数は二だった。
「今日はお家にいるのよ。あなたも学校から帰ったら静かにしていてね」
女の人が言った。翔太は口を開きかけて、それから閉じる。
この子は器の中の白い粒を三口で食べた。いつもは五口になる。
箸を置く音がした。置いた場所は器の右で、いつもは左になる。
八時十分に男の人が出る。玄関の戸が開いて、閉まった。
翔太は八時二十分に出る。九段目は今朝も鳴らない。
家の中が静かになる。台所の水の音だけが残った。
私は長い椅子に座っている。
腰の重さは朝より下へ来ていた。押すと硬さがある。あるのは骨の内側で、皮膚のところではない。
座り直すと重さの場所が少しずれる。ずれる幅は指の二本ぶんになる。膝を揃えると戻った。
揃えたままでいると、太腿の裏が布に沈む。
窓の外では風が出ている。庭の草が同じ向きへ倒れて、それから戻った。
倒れる周期は数えられない。数えようとすると、途中で向きが変わる。
九時を過ぎて、女の人が二階へ上がった。二階にいた時間は十二分ほどになる。
下りてくる時、この人は両手に何も持っていない。九段目は鳴った。
台所で湯を沸かす音が始まる。
始まってから止まるまでに、私は百四十まで数えた。止まった後で、この人は湯呑を二つ出す。使ったのは一つになる。
私の前に置かれたのは、朝の椀と同じ形のものだった。中身は湯だけになる。面に、天井の灯の形が丸く映っている。
動かすと縁から崩れた。
午前の十時に、女の人が居間の抽斗を開けた。下から二段目になる。
抽斗の中には紙の束が入っている。束は三つで、輪ゴムで留めてあった。輪ゴムの色は二つが茶で、一つが白になる。
白い輪ゴムは他の二つより太い。掛かっている数も一本ではなく二本だった。二本は交差していて、交差の場所が束の真ん中から少し上へずれている。
抽斗の底には紙の粉が溜まっていた。指でなぞると跡が付く。
跡は端まで届かない。抽斗の奥の側に、なぞった跡の古いものが二本ある。
この人は白い輪ゴムの束を出して、卓の上へ置いた。それから上の一枚を取る。取った紙には罫が細かく入っていた。
輪ゴムは外さずに、上から一枚だけ抜いた。束の角が少し立つ。
立った角は元へ戻らない。この人は掌で二度押さえた。
束の厚みは指の一本ぶんになる。
枚数は上から見ても分からない。横から見ると、紙の色が上のほうと下のほうで違っていた。下のほうが濃い。
「今日はね、月末の届けを書くのよ。あなたも隣に座っていてちょうだいな」
女の人が言う。私は椅子から下りて、卓の左へ座った。
座る時に、椅子の脚が畳を二度擦る。擦った跡は残らない。畳の目が一度沈んで、それから戻った。
紙の欄は縦に並んでいる。数えると二十三ある。上の四つは埋まっていた。
字はこの人の手のものになる。
欄の高さは揃っていない。上から五つ目までが低く、そこから下が高くなる。
二行入る欄と、一行で終わる欄に分かれる。分かれ目は上から五つ目にあった。
罫の色は薄い緑だ。紙の色は白より少し黄に寄っている。
右の下に小さい枠が二つある。どちらも空で、片方に薄い丸の刷りが入っていた。
この人は上から順に書いていく。
書く速さは欄によって変わった。番号の欄が一番速い。場所の欄で一度止まる。
止まった時に、この人は台所のほうを見た。それから手が戻る。書いた字は四つで、四つ目だけが枠から少し出た。
筆は先の細いものになる。押す強さは行の頭で強く、終わりで抜ける。細くなった場所は紙の裏から見ると分かる。
裏返す手つきは無い。
途中で手が止まった。止まった場所は上から十四番目の欄になる。
欄の名は三つに分かれていて、下の一つが広い。この人はそこへ何か書いた。書いた字の数は六つになる。
書く前に、この人は筆の先を紙から離したまま二度動かした。空で動かした形と、実際に書いた形は違う。空のほうが長い。
書き終えてから、この人は指の腹で字の上を撫でた。向きは左から右になる。
字は擦れない。乾いていた。
書いてから、この人は束の下のほうへ手を入れた。出したのは別の紙で、こちらは折り目が四本ある。開くと縦に長い。
「どこへ書けばいいですか」
私は訊いた。
女の人はこちらを見て、それから紙の上を指した。指の先は私から見ると逆さになる。
「あなたが書く欄はね、この紙にはありませんのよ。私が書きますからね」
女の人が言った。それから紙を私の側へ少し寄せる。
寄せた紙には、横の線が上から下まで引いてあった。線と線の間に字が入る。字は二種類で、左が日付、右が短い記号だった。
紙の質は届けのものより厚い。角は四つとも丸くなっている。
深さは上の二つが浅く、下の二つが深い。持たれていた場所が下になる。
左の端に縦の線が一本ある。線から日付までは字の一つぶん空いていた。右の記号は、線から数えて紙の縁に近いところへ並ぶ。
行は詰まっている。上から下まで数えると四十八になる。一番上の日付の年に、私は十三だった。
私は指を紙の上へ置かない。目だけで下へ追った。追う速さは一行につき一つ数えるほどになる。
途中で二度、追う場所を見失う。どちらも行の間隔が詰まっているところになる。詰まっているのは上から十九行目から二十四行目までの六行だ。
六行は他より高さが低い。書いた者が同じかどうかを、字の形では分けられない。
右の記号は同じものが多い。違うものが上から七行目と、三十行目と、四十一行目にある。違う三つは、他より一画多い。
女の人が紙を戻した。
その時に、指が四十八行目の下の余白を押さえる。余白は指の三本ぶん空いている。行はそこで終わっていた。
「これはね、園から一緒にいただいた紙よ。あなた、大事にしないとね」
女の人が言う。それから紙を折り直して、束の下へ戻した。
折り目は四本のままだ。増えていない。
この人は届けの紙を封筒へ入れて、封をせずに卓の端へ置いた。入れる時に紙を一度縦に折る。折り目は真ん中より少し上になった。
封筒の色は薄い茶で、窓口の名が刷ってある。
昼の器は三つになる。翔太が学校で、男の人が勤めのためになる。私のぶんは右の端で、位置は変わらない。
三つのうち一つは女の人のぶんで、この人は立ったまま食べた。その時間は座っている時より短い。私の半分ほどになる。
卓の上には封筒が置いたままだ。窓口の名の刷りは黒で、上の縁が少し掠れている。
掠れは同じ場所に二度ある。刷りの版のほうに何かが付いているのだと思う。
午後、女の人が物干しから布を取り込んだ。乾き方は端が速い。畳む手つきは朝と同じで、縦に三つ、横に二つになる。
取り込む時に、この人は布を一度光にかざした。かざす高さは目の位置になる。
透けた場所は真ん中で、そこだけ他より明るい。染みの跡は残っていなかった。
私はそれを見ている。
園の畳み方と同じ数になる。教わった覚えはない。数が同じであることは、この人の手のほうから出ている。
三時に、この人が私の部屋へ来る。手には白いものの袋があった。
「使い方をね、教えますからね。あなた、覚えたら自分でできますからね」
女の人が言う。この人は袋を畳の上へ置いて、一つ取り出した。
紙をはがす。はがす向きは端からで、音は乾いている。折り返した部分を開いて、両側へ広げた。
開くと幅は倍になる。
はがした紙は細長い。長さは掌の一つ半で、片側に薄い線が印してあった。
線は端から端まで通っている。折るための線ではない。
この人は自分の掌の上でそれをやってみせる。手の動きは四つに分かれた。
一つ目が紙をはがす。二つ目が広げる。
三つ目が置く。四つ目が押さえる。
四つの間隔は同じではない。二つ目と三つ目の間が一番長い。
長い分は一つ数えるほどになる。この人はそこで一度こちらを見た。
私は同じ順でやってみた。三つ目のところで、紙の側が指に付く。付いた分を剥がすと、端が少し折れた。
この人が新しいものを一つ出す。二度目は三つ目で止まらなかった。
「そう、上手よ。あなた、覚えるのが早いのねえ。もう大丈夫ですね」
女の人が言った。それから袋を棚の下の段へ置く。段の高さは私の腰になる。
この人が部屋を出る。戸は開けたままにしていった。
開いた幅は掌の二つぶんになる。廊下の光がその幅で畳の上へ入る。入った光の端は、私の膝の手前で止まっていた。
夕方、翔太が帰ってくる。
九段目が鳴って、そのまま二階へ上がった。下りてきたのは五時十分になる。手に何も持っていない。
上にいた時間は四十分ほどだ。その間、床の鳴る音が三度した。三度とも同じ場所で、机のあるあたりになる。
この子は居間の入口で止まった。それから、私のほうを見る。
「なんかあった。母さんが変」
翔太が言う。私は椅子の布の縫い目を見ていた。
この子は長い椅子の左の端に座って、掌を二回鳴らした。鳴らしてから、自分の掌を見る。それから鳴らすのをやめた。
私は立たなかった。動かずにいると、この子はもう一度掌を見る。見る時間は一度目より長い。
指を開いて、それから閉じた。
「やっぱいい。今日はなし」
翔太が言う。それから立ち上がって、台所のほうへ行った。
夜、私は布団の上に座る。石は枕のところにある。
新しい布が敷いてあった。朝のものより厚みがある。厚みの差は指の半分ほどで、色は同じ白になる。
敷いた向きは私が朝に外したものと同じだ。端の縫い目が頭のところへ来ていた。
縫い目の糸は白で、布より少し太い。指でなぞると数えられる。
棚の下の段に袋がある。中身は八つから二つ減って、六つになった。
袋の口の帯は、私が留めた形で止まっている。反った端の向きも変わっていない。
袖の折り返しへ指を差し入れた。紙は動いていない。折り目の数も三本で止まっている。
石を持ち上げ、置いてあった場所へ戻す。
布に円い跡が付く。跡の縁は前より浅くなっていた。撫でると消える。
今日の数を並べる。染みが二つ、絞った回数が四と二、袋の中身が八から六へ。届けの欄が二十三で、埋めた欄がそのうち十九になる。
椀の底の粒が七つ、階段の段が九つ、廊下が五歩。翔太が上にいた時間が四十分で、床の鳴った回数が三だった。
紙の行は四十八だ。一画多い記号が三つで、上から七、三十、四十一の行にある。
四十八は割り切れる。二つずつでも三つずつでも四つずつでも余りが出ない。六つずつでも八つずつでも余りが出ない。
割り切れないのは五つずつと七つずつになる。
園でこの朝に告げた回数を、私は数えていない。数えておく決まりが無かった。
腰の重さは夜になって下がった。押すとまだ硬い。ある場所は骨の内側で、指の届くところではない。
仰向けになると重さは薄くなる。横になると片方へ寄った。
下にしたほうへ寄る。向きを替えると、寄る場所も動く。
口の中で五字を作ってみる。声には出さない。この家でその五字を言う相手は、今日も一人もいなかった。
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記録票(写)(抄)
記載の初回 令和二百十年五月
記載を欠いた回次 次項に掲げる
再検の要否 次項に掲げる
一、本票について
本票は当部門が個体ごとに備える票の写であった。引き渡しの際に相手方へ交付する四点のうちの一点になる。写の作成は引き渡しの前日とした。
以後の記載を写へ及ぼす扱いは置いていない。相手方からの追記は、当部門の受ける事務の外にあるものとした。申出の様式は定めていない。
二、記載の初回
本個体に係る記載の初回は令和二百十年五月である。
当該の月の日は票に記していない。日を記さない扱いは本票の様式によるものであった。様式は令和二百二年の制定で、以後の改正は三度になる。
初回の記載は当部門の内部の資料として扱っていた。相手方へ示した例は本年度に四件であった。
三、記載の回数
引き渡しの前日までの回次は四十八である。うち記載のあるものは四十五回になる。四十五回はいずれも当部門の施設内で行ったものであった。施設外で行ったものは零回になる。
本個体は引き渡しの前日まで施設内に在った。
回数の合計は欄外へ記さず、必要のつど数える扱いとした。本項は写の作成の際に数えたものであった。
四、記載を欠いた回次
記載を欠いた回次は三である。第八、第三十一、第四十二の各回になる。
欠いた理由は当部門の他の簿冊で確かめる扱いとした。
当該の三回について、他の簿冊にも記載は残っていなかった。欠けた回の前後で記載の様式は同一であった。様式の差を検めたのは写の作成の際になる。
五、記号
本票の右の欄には所定の記号を用いる。記号は二種で、一種が通常、一種が再検を要するものになる。再検を要する記号の付された回は三である。
第七、第三十、第四十一の各回になる。再検の実施の有無は次回の記載をもって確かめる扱いとした。当該の三回の次回は、いずれも通常の記号であった。
六、再検の要否
本票の写の交付をもって、以後の記載は相手方の側の事務とした。当部門は写を受け取らないものとしている。再検の欄に記載のある回については、次回の検診までに再度の受診をさせること。




