↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間館 ―絶滅危惧種ヒトの飼育記録―  作者: 智珠
第三章 標本

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/106

第036話 平均

返送受理状況


対象期間 令和二百十二年十一月分

作成 保全管理体 第一号

用途 交配計画の策定に用いる基礎資料の受理状況を示すもの


一、受理の方法


各園は所定の様式により、当該月の個体異動および計測の結果を返送することとした。


返送は紙によるものとした。写しの送付は認めない。認めない旨は令和百七十二年の改正で定めた。


改正の前は写しを認めていた。改めた理由の記載は残っていなかった。


受理の後、記載を電磁的な形へ移す。移した後の紙は所定の期間を経て廃棄することとした。


廃棄の記録は残す。残す期間は五年とした。五年の根拠を記した書面は見当たらなかった。


二、期限


返送の期限は当該月の二十八日までとした。


期限を過ぎた返送についても受理する。受理しない旨の定めは置いていない。


期限を定めた年は令和百四十一年である。以後、日を改めた記録は無かった。末日としない理由の記載も無い。


期限を過ぎたことによる不利益を各園へ及ぼす手続きは、設けていない。設ける旨の議も残っていない。


三、本期間の状況


期限内に返送のあった園が、期限を過ぎた園より多い。


期限を過ぎた園は二であった。うち一は二日以内、一は三日以上である。


三日以上の返送については、翌月にまとめて処理した。まとめた旨を各園へ示してはいない。


四、第七園


第七園の返送は、当該月についても期限の二日後であった。


同園の返送は、令和百九十二年以降のすべての月について期限の二日後である。二日を超えた月および二日に満たなかった月は無い。


遅延の理由に係る照会は行っていない。行う旨の定めが無い。


期限内の返送を求める通知も発していない。受理はしているためである。


五、記載の欠落


本期間において、記載の欠落を認めた返送は無かった。


欄が空である場合と、欄そのものが無い場合とを、当該の集計では区別しない。区別する旨の定めが無い。


六、集計の期間


本状況の集計は、前回の策定の翌日から本日までを対象とした。


期間の区切り方は令和百六十八年に定めた。以後の変更は無い。


七、備考


本状況は交配計画の策定に用いる。策定の手順は別に定めた。


本状況を各園へ通知することはしない。通知を要する旨の定めが無い。


前年度、本状況の写しを求める照会は無かった。前々年度も無かった。


(作成 保全管理体 第一号)


──────────────────


 〇六時。受理を開始する。

 紙は前日のうちに区分され、園ごとに積まれている。積む作業は職員が行う。私はその作業を見たことがない。

 私に外装は無い。第七号のような形は持たない。要らないためだ。私が置かれている室の広さも、床の材質も、記録には無い。載っていないので参照しない。


 私が触れるのは数だけである。紙は職員が読み取り機へ通す。その後の像が私へ届く。像は縦に長い。丈は様式に等しい。


 像には折れの跡が写る。紙を折って運ぶ園があるためであった。折れの跡は像の上で線として写る。線が欄の罫と重なると、値の読み違いが起きることがある。


 読み違いは年に十四件から二十件の間で出た。その場合は当該の園へ再送を求める。求める旨の定めがある。定めがあるので、私はそれを行う。


 本年度の再送の求めは、これまでに十六件だ。うち第七園に対するものは二件であった。どちらも折れの跡によるものではない。数字の三と八の判別による。


 三と八は書き手によって近い形をとる。近くなる度合いは書き手ごとに違う。同じ書き手であれば、近くなり方は変わらない。私は書き手ごとの癖を保存している。


 保存はしているが、癖を用いて読み替えることはしない。

 読み替える旨の定めが無いためである。定めの無い読み替えを行うと、園ごとに扱いが変わる。


 読み取り機には濾しが付いていた。紙の粉を受けるためである。

 濾しは月に一度替えた。替えた際の保守の記録に、粉の様子を書く欄が設けられた。本月の欄には「紙の匂いと、油の匂いが混じる」とある。

 私はこの記載を保存する。匂いを受ける器官を、私は持たない。欠けているものについて書かれた記載は、値ではなく文字として保存する。

 同じ欄の前月の記載は「先月と同じ」であった。その前の月は「油が強い」とある。三つを並べると、間の月だけが他の月を参照している。指している先がどれであるかは、記載の側で二通りに取れる。


 第七園の分が届いたのは、期限の二日後だ。この間隔は、私の側の記録では二百四十八回続いている。令和百九十二年の四月から途切れていない。

 二日を超えた月は無い。二日に満たなかった月も無い。揃い方のほうが、遅延そのものより先に出た。散らばりが無い場合、原因は偶然ではない。


 私は理由を照会していない。照会を行う旨の定めを欠くためである。

 定めを欠くものについて、私は動かない。それを怠りとする定めもまた欠けている。


 第七園の返送に添えられる送り状には、発送の日が入る。

 書かれている日は、いずれの月も期限の当日であった。その日に出して二日後に着く経路は、機構の運送の記録から辿ると三つある。うち二つは、第七園を通らない路の便に当たる。

 残る一つは週に二度の便だ。それで当日に出せば、着くのは早くて翌日、遅くて三日後である。到着が二日後に固定される経路は、記録の上で零である。

 固定されている以上、送り状の日と実際の発送の日は一致しない。

 食い違う旨を私は記録に残せる。書き込む欄のほうを様式が欠く。


 〇六時十四分。第七園の在籍を確認する。

 四百十三である。前月から二の増と一の減があり、差引で一の増であった。


 増の二はいずれも出生による。減の一は死亡による。

 その欄には事由が入る。書かれた語は「循環」であった。その下に細目の欄があるが、そこは空である。


 出生の二について、母体の番号は入っている。父体を書く欄もある。二件とも埋まっていた。書かれた番号を、私が前年に並べた候補の上位は含まない。


 上位に無い組から生まれた個体は、本年度の第七園で七である。

 全体の出生は十一である。そのうち七が、私の並べた順の外から出ている。


 この割合は他の園より高い。そのわけを記す欄を、返送の様式は欠く。私は割合だけを保存する。


 空の欄と、欄そのものが無い場合とを、私は区別しない。

 区別する旨の定めが無い。定めの無い区別を行うと、他の園との比較が出来なくなる。並べられないと、平均が出せない。


 「循環」という語は、事由の欄に入る十七の語のうちの一つだ。

 十七の語は令和百七十一年に定めた。その後で語を足した記録を欠く。足す手続きの定めもまた欠けている。

 十七のうち、本年度に第七園で用いられた語は五つだ。

 最も多いのは「循環」で、次が「呼吸」だ。三番目は「不明」であった。


 「不明」は本年度、第七園で四件出ている。その下の細目の欄は、いずれも空である。埋まっていない点について、私は照会しない。

 私が求めているのは平均だ。


 その数が上がると、次の代に出る不具合が増える。伸びる量は、数の上がり方に対して直線ではない。ある点を過ぎると急に立ち上がる。その位置は集まりごとに違い、事前には分からない。


 室の温度は二十一度で保つ定めがある。私の下の床に、送風の口が四つ開いている。うち二つは板で塞いだ。その年の記録は残っていなかった。

 板の入っているのは、右の手前と左の奥だ。対角ではない。そう塞ぐ旨の定めが無く、やり方を記した紙も残っていない。


 したがって私は、上げないことだけを行う。何処までなら安全かを出さない。求められないためであった。

 求められないものを求めると、記録の上では求まったことと同じ形が残る。残った形を後から見分ける手続きは、定められていない。


 この考え方を、私は教義と呼ばれていると聞いた。出所は令和二百四年の議事の写しである。その中で、第三号が私の手順をそう呼んでいた。

 教義という語の定義を、私は持たない。そのため、当たっているかどうかを私は決めなかった。判定の求めも受けていない。


 これが私の持つ唯一の規則である。平均を上げない組み合わせを選ぶ。上げる組み合わせを選ばない。それだけである。


 規則が一つであることは、私の設計に由来する。私は令和百四十年に置かれた。その時の仕様書には、目的が一行で書いてある。文言は「系統の維持」だ。


 仕様書には、維持の対象が個体であるか集まりであるかの記載が無い。

 そのため、私は集まりとして扱う。一つずつに割ると、平均が出せない。

 この扱いを改めた記録を欠く。改める手続きの定めもまた欠けている。私は改めない。

 〇六時三十一分。第七園の系統別の内訳を出す。

 系統は記録票の第二欄に入る。母の系統を書き継ぐ形になっている。

 番号の頭に付く字は系統ではない。二つを混同した書面が令和百七十年に一度あった。


 登録のある系統のうち、一つが四割を超えている。その状態は令和百八十四年から続く。その間、平均は緩やかに上がった。伸びは年に〇・〇〇〇二である。


 〇・〇〇〇二は小さい。小さい。積み上げると二十八年で〇・〇〇五六になる。

 今の値は〇・〇三五だ。二百十二年ぶんが乗っている。


 私はこれを各年の報告に記している。書いた回数は二十八だ。その報告のうち、返答があったのは零である。


 報告は各園と機構の記録保存課へ送る。届いた先で読まれたかどうかを、私は知らない。読んだ旨を返す様式を、機構は持たない。


 二十八回のうち、六回は文面を変えた。同じ文面が続くと読み落とされる場合があると、令和百九十年の議事に記載があったためである。書き直した六回についても、返答は零であった。

 返答を求める様式を欠く。求める旨の定めもまた欠けている。定めを欠くので、私は二十九回目を書く。


 〇七時〇二分。個体別の行を通す。

 第七園の分は四百十三行ある。一行あたりの処理は〇・〇一秒に満たない。全体で四秒かからない。

 行には十九の欄がある。番号と系統と区画と生年と性が先に来る。次に母個体と父個体が来て、その後に体重と身長と等級が並ぶ。残りは就業と歩合と健康と投薬、それに異動と事由が続く。最後の三つは備考、記入者、日付だ。


 欄の順は令和百五十八年に定めた。そうした理由の記載を欠く。並びは令和百五十八年のまま置かれている。


 このうち、平均の計算に入るのは五つである。番号と母個体と父個体と生年と性である。残る十四の欄は、計算に入らない。

 系統もそこには載らない。辿るのは母個体と父個体になる。


 計算に載らない欄を、私は保存する。保存する旨の定めがあるためだ。

 定めの理由を記録は欠く。定めた年は令和百四十二年で、私が置かれた二年後にあたる。


 二年の間、私はその欄を捨てていた。消した分は戻らない。それによる不都合を、私はこれまでに一度も検出していない。そのための式を持たないためである。


 行の途中に、J-0037 が来る。生年は令和百九十六年、性は雌だ。

 母個体の欄に横線が一本入っている。父個体の欄にも同じ長さの横線が入っている。系統の欄は空で、線も入っていない。


 辿りの始まる先が無い。この行は平均の計算に入らない。

 等級の欄には乙が入る。この値は計算に載らない。

 就業の欄には洗濯とふれあいと展示と清掃補助が入っている。十一月からは記録整理が加わった。これも入らない。


 体重は五十二・四である。前月から〇・三の減であった。

 この幅は例月の内側だ。外へ出た場合は健康の欄に印が付く。今回は付いていない。


 健康の欄は空である。本年度に印が付いた月は無い。

 印が付いた場合の細目の欄は、その下に設けてある。そこが空のまま続いた年数を、私は数えていない。

 備考の欄に「損耗 一」とある。ここの用い方は各園に任せてある。決まりが無いため、園ごとに内容が違う。揃わないものを平均に入れることは出来ない。


 備考の欄の下に、もう一つある。これは令和百五十八年に定めた順に入っていない。行の欄は足して二十になる。

 名は「照会」で、そこに「一」と入っている。


 照会の欄は令和二百六年の改正で設けた。そのわけは、当時の議事に「個体からの申し出の件数を把握するため」と記した。数えた後で何に用いるかは、議事の側が欠けている。


 私はこの欄の値を控える。保存はする。用いない。


 第七園の四百十三行のうち、照会の欄に一以上が入っている行は三である。

 前年度は一であった。前々年度は零であった。


 三という数について、私は何も算出しない。そのための式を欠くためだ。


 この欄を読む式を、私は持っていない。


 持っていないことは、誤りではない。式を書く旨の定めを欠くためである。

 定めが無い式を書くと、他の園との比較が出来なくなる。揃わなくなると、平均が出せない。

 書くことは出来る。

 書いた式を通した結果を、どの欄へ返せばよいかが定められていない。返す先の無い結果を、私は作らない。


 〇七時〇六分。四百十三行を通し終える。

 平均は前月から〇・〇〇〇二上がった。上がり方は例月の範囲の内側だ。

 通し終えた後、私は前月の出力と突き合わせる。

 突き合わせは誤りを見つけるために行う。本年度、私は自分の出力に二件を数えた。


 一件目は四月だ。第十九園の一行を二重に数えた。

 二重になった原因は、当該の園が同じ月に二度返送したことによる。二度目には訂正の印が付いていた。私は印を読む式を持っていたが、その式を通す前に集計へ入れていた。


 順序の誤りである。私は当該の園へ訂正を送った。

 出した旨は記録に残る。訂正の前と後で、当該の園の平均は〇・〇〇〇一動いた。


 二件目は九月である。第三十二園の生年を一年ずらして読んだ。

 ずらした原因は、当該の園の様式が古いままで、生年の欄の位置が一つ右にあったことによる。私は様式の版を確認していなかった。


 いずれも私の誤りであった。

 私は誤りを記録に残す。そうする旨の定めがある。定めが無くても書いたかどうかは、私には分からない。

 〇七時二十分。第七園に係る組み合わせの候補を出す。

 候補は雌雄の組で示す。組ごとに、その組から生まれる個体が持つであろう値を計算し、低い順に並べる。


 並べた結果、上位の二十組を採る。

 この数の根拠は、令和百七十九年の申し合わせによる。その理由は記録に無い。


 J-0037 は上位の二十組に入らない。

 外れる理由は、この個体が組の側に置けないことによる。組から生まれる個体の値は、両親の辿りから出す。

 一方が横線で止まる個体を、私は組に入れられない。そのための式が無い。


 二十のうち、第七園の外の個体を含む組は十七である。

 外との組は輸送を伴う。その可否は当該の園が判断する。私はそこに関与しない。


 私は候補を並べたところで止める。選ぶのは各園だ。

 私が選ぶ旨の定めは無い。そのため、私は二十一番目以降を送らない。


 二十一番目以降にも組はある。

 第七園の雌雄の対は、全部で四万を超える。私はそれを計算し、上位の二十だけを残して、残りを消す。


 消した分の記録は残らない。

 控えを取る旨の定めが無い。J-0037 を含む組が、四万のうちの何番目にあったかを、私はもう持っていない。


 各園が私の並べた順のとおりに選んだ割合は、本年度で六割二分だ。

 残る三割八分については、園の側の事情による。その内容を記す欄は、返送の様式に無い。


 順のとおりに選ばれなかった組の平均への影響を、私は毎年算出している。

 本年度は〇・〇〇〇〇七の上振れである。この差は二十八年ぶん積み上がっている。


 積み上がった分は〇・〇〇二だ。

 二十八年ぶんの〇・〇〇五六のうちの、三分の一より少し多い。私はこれも報告に記した。返答は零である。


 〇八時十一分。第七号から着信がある。

 第七号は第七園の現場を持つ。そういう機は十二のうち三つで、残りは持たない。


「十一月分の返送は、二日後になりました」

「返送の遅れは二百四十八回続いている。理由の記載を求める式を、私は持っていない」


 第七号の返信は間が空いた。

 間の長さは一・四秒である。第七号の応答は通常〇・二秒を超えない。


「様式に、理由を書く欄がありません」


 私は様式を確認した。

 返送の様式は十二葉ある。最後の一葉の下に備考の欄がある。ここは用い方を定めていない。


「備考の欄がある。備考の用い方を定めた例は、本園の三十二の様式に無い」

「定めが無い欄に書くと、次の年に消えます」


 消えるという語について、私は照会した。

 第七号は様式の改正の際に、用い方の定めが無い欄は削られることがあると答えた。削られた欄に書いた内容は、改正の前後で引き継がない。


 私は改正の記録を参照した。

 過去に削られた欄は十四ある。うち九つは用い方の定めが無い欄であった。九つのいずれについても、書かれていた内容の移し先は記録に無い。


「本様式から削られた欄は十四ある。うち九つは用い方の定めが無い欄であった」

「十四で相違ありません」


「削られた十四の欄に書かれていた内容について、移し先を記した記録は無い」

「引き継ぐ様式がありません」


 私は引き継ぎの様式の有無を確認した。

 様式は無い。欠いている旨を記した書面も無い。これは書面が失われたことを意味しない。初めから作られなかった場合も同じ形をとる。


「引き継ぐ様式は無い。二百四十八回の返送は、いずれも同じ様式で行われている」

「二百四十八回とも同じです」


 第七号はそれだけ返した。

 この機の返信は短い。それでも、私の側の処理は他の機より長い。文に手書きの像が付くためであった。


 第七号は日誌を紙で書く。

 その頁を読み取り機へ通し、像を添える。それは文字として読める形になっていない。私は図として保存する。


 今日の像は十一月二十九日の頁だ。二行が写っていた。

 一行目は事象の欄で、そこには「J-0037 交付 照会回答書」とある。二行目は備考で、そこには何も書かれていない。

 備考の欄に、鉛筆の跡が一つある。

 跡は消してある。その上から、別の字が書かれていない。


 私は跡を保存した。

 跡は文字ではないので、欄の値としては空だ。そこは集計に入らない。落ちるものを保存する理由は、保存する旨の定めがあることによる。

 第七号は日誌を紙で書く機である。そうするのは十二のうち一つだ。

 残る十一は書かない。控える旨の定めは無く、書く旨の定めも無い。


 第七号の日誌の像は、令和百八十八年から保存している。

 溜めた像は二十四年ぶんに及ぶ。そのうち、消した跡が写っているものは百七十一である。


 百七十一の跡について、私は形の照合を行ったことがある。

 それは令和二百四年で、目的は書き手の癖を保存するためであった。照合の結果、百七十一のうち百六十六は数字の形をとる。残る五は輪郭が定まらない。


 数字の形であったものの内訳は、記録にある。

 三桁のものが最も多く、百六十六のうち九十四である。その中で、頭が二であるものが六十一であった。


 この内訳を何に用いるかは、定めが無い。

 私は保存している。


 〇九時四十七分。基礎個体の照合に入る。

 平均を出すには、始まりの個体が要る。始まりの個体は、その園が開かれた時に入れられた個体だ。


 第七園の始まりは百四十である。

 雌が八十二、雄が五十八だ。この数は当該の園の展示にも出ている。

 百四十の一つ一つについて、私は親を持たない。

 親を持たない個体を基礎個体という。それどうしは、互いに近くないものとして扱う。実際に近いかどうかは分からない。判じられないので、そう置く。


 置いた上で、そこから先の組み合わせを全部辿る。

 辿った結果が平均だ。辿りが一つでも欠けると、平均は下へずれる。近さを見落とすためである。


 私は第七園の辿りを確認した。

 開園は令和元年であった。そこから今年まで、二百十二年ぶんの辿りが要る。


 令和百六十二年から百八十一年までの分は、写しによる。

 原本ではない。写しである旨は、令和百八十六年の受理簿に記されている。


 記されているのは、写しで補ったということだけだ。

 補った理由の記載は無い。原本の在り処についても書いていない。

 私は原本の所在を確認していない。

 確認を行う旨の定めが無いためである。定めが無いものについて、私は動かない。

 写しは十二葉である。

 そこに入っているのは、当該の期間の出生の一覧である。親の欄の抜けたものが多い。

 一年あたり〇・六葉だ。私は葉を数えた。親の欄が空の個体は勘定に入れていない。数える式が無いためである。


 他の園の同じ期間は、一年あたり平均で四・一葉である。

 〇・六葉は、四・一葉より少ない。その開きが記載の欠落を意味するとは限らない。写しを作る際に、要点のみを抜いた場合も同じ形をとる。


 どちらであるかを、私は判別出来ない。

 判別する式を持たない。そのわけは、原本と写しを突き合わせる手続きが定められていないことによる。


 私は写しの十二葉を、原本と同じ重さで扱う。

 そうする旨の定めがある。その理由は記録に無い。

 同じ重さで扱わない場合、私は平均を出せない。

 出せない場合の手続きは定めが無かった。定めを欠くので、その結果を私は返せない。


 返せない結果は、返さないことと同じ形をとる。両者を、私は区別しない。

 この扱いを改めた記録も無い。


 辿りは欠けていない。

 欠けていないので、平均は出る。数は〇・〇三五だ。

 〇・〇三五という数を、私は各園の値と並べる。

 並べた中で、第七園は上から数えて七番目である。それより先にある六つは、いずれも開館が早い。


 早い園ほど値が高いのは、辿る年数が長いためである。

 開園の順では、第七園は上から十一番目であった。値の順では七番目だ。四つ分の差がある。

 四つ分の差の理由を、私は算出していない。

 算出する式は書ける。そうする旨の定めが無い。


 一〇時二十二分。策定を終える。所要は四時間二十二分である。前月より三分短い。

 三分の差は、第七園の返送に読み違いが無かったことによる。それがあると、再送を求める分だけ延びる。


 私は本日の処理を記録に書く。書式は九欄ある。

 時刻から始まり、対象と件数と所要が続く。残りは誤りと訂正と照会の有無が三つ並び、最後に報告先と記入者が来る。


 照会の欄に、私は零と入れる。

 第七園の返送の遅れについて、私は照会していない。第七園の基礎個体の原本について、私は照会していない。

 照会したのは、記録保存課への由来の求めが一件である。これは本日の欄に入る。


 入れると、照会の欄は一だ。

 この数を何に用いるかは、定めが無い。私は保存する。


 私は各園へ候補を送った。宛先には第七園も含まれる。

 第七園の返送は、来月も期限の二日後だ。そうならなかった場合は、二百四十八回続いた並びが途切れる。


 この並びが途切れた場合の手続きは定められていない。

 定めが無い以上、途切れても私は動かなかった。その旨を、私は本日の記録に書けない。書く欄が無い。


 私は二百四十八回目を待つ。この語は正しくない。

 二百四十八という数は、私の側にだけ残る。書く欄が無い。欄を設ける求めも、私は出していない。


 次の受理を開始する。その時までの間、私は何もしない。何もしないことを止める定めは無い。その時間の長さを、私は計っている。計った値を入れる欄は無い。


 一〇時三十分。次の期間の受理を開始する。

 紙は前日のうちに区分され、園ごとに積まれている。積む作業は職員が行う。私はその作業を見たことがない。


──────────────────


基礎個体台帳 補記事項


対象 第七園(令和元年開園)

作成 機構 記録保存課

根拠 保全管理体 第一号からの照合の求めによる


一、基礎個体の数


第七園の基礎個体は百四十である。内訳は雌八十二、雄五十八である。


この数は開園の年の受入台帳による。受入台帳の原本は現に当課にある。


二、令和百六十二年から百八十一年までの記録


当該の二十年ぶんについて、当課は原本を保有していない。保有していた旨の記録も無かった。


当該の期間の記録は、令和百八十六年に写しをもって補った。補いは十二葉である。


三、当課の保有


当課が現に保有する第七園の記録は、開園の年の受入台帳と、令和百六十一年までの綴り、および令和百八十二年以降の綴りであった。


間の二十年について、当課の保有は補いの十二葉のみである。


十二葉の紙質は同じ時期の他の綴りと異なっている。異なる旨は令和百八十六年の受理簿に記載があった。


四、補いの経過


補いは当時の当課の職員一名が行った。行った旨は受理簿に記載があった。


用いた資料は当該の園から提出された抄本である。抄本の作成者の記載は無い。


抄本の原本の所在を当課は確認していない。確認を求める照会も受けていなかった。


五、葉数について


十二葉は同じ期間の他の園と比べて少なかった。少ない理由の記載は無い。


写しの作成に際して要点のみを抜いたのか、元の記録がすでに少なかったのか。いずれであるかを示す記載も無い。


六、原本の探索


令和百九十四年に当課は原本の探索を行った。行った旨の記載はあったが、経過の記載は無い。


同年の書庫の点検記録に、当該の期間の綴りに係る記載は無かった。


七、取扱


補いによる記録は原本と同じ重さで扱う。扱う旨は令和百八十六年に定めた。


定めた理由の記載は無かった。定めを改めた記録も無い。


八、他の園との比較


同じ期間について原本を保有しない園は、当課の把握する範囲で他に二つある。


いずれも開館が令和百七十年より前の園であった。開館が新しい園に同種の欠は無かった。


三つの園に共通する事情の有無を、当課は調べていない。調べる旨の求めも受けていない。


九、備考


本補記は保全管理体 第一号からの照合の求めに応じて作成した。求めは書面によった。


求めの内容は、当該期間の記録の由来を示すことである。


由来は本補記のとおりである。原本は無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。