第103話 老爺の名前
物件の引継書
一、引継の件数
本書は個体の私物を当園が引き継ぐ際に作成した。作成の日は令和二百十五年一月十六日である。
本日の引継の件数は五になる。引き継いだ先は当園の保管の室とした。引き継ぐ先を選ぶ基準は当園の内規による。
本書に物の数を記す欄は置いてある。物の別を記す欄は置いていない。
本年度の引継は二十六件であった。
二十六件とも数のみの記載になる。物の別を記した例は当園の綴に一件も無い。別を記す扱いを定めた記載も、当機構のどの定めにも見当たらなかった。
物件の重さを記す欄は本様式に無い。大きさを記す欄も置いていなかった。数以外の記載を求める欄は、本様式の何処にも見当たらない。
二、引き継いだ者
当該の物件を引き継いだ者の欄は本様式にある。当該の欄には職の名を記した。氏名を記す欄も置いてある。
引き渡した者の欄も本様式にあった。当該の欄は番号による。名を記す欄は置いていない。
引き渡した者のうち一名は当園において最も低い番号の者であった。
当該の者の在籍の年数は本日の時点で八十七年になる。記録票の備考には、収容時の所持品が一点と記してあった。処分の記録は当園の綴に無い。保管の記録も無かった。
当該の者の在籍の年数を確かめた記録は当園の綴にある。確かめた者の欄は空であった。確かめた日は令和百二十八年と記してある。
当該の者の番号は当園において最も低い。番号の付け方は当機構の定めによる。付け直した例は開園以来零件であった。
三、返還
返還の手続は当園の内規にあった。返す事由の欄は二つの選択になっている。
二つの選択は、本人の申出による場合と、当園の判断による場合である。本日の返還は前者によった。当園の判断による例は本年度に零件である。
返した件数は一であった。
返還を記す欄は本書にあった。当該の欄には件数のみを記した。返した日と時刻を記す欄も本様式にあり、本日の十六時四十分と記入した。
返した物件を後に引き継ぎ直す手続は当園の内規にある。用いた例は開園以来零件であった。零件である旨を記す欄は当該の内規に置いてある。
本書の写しは当園の綴へ一部を保存する。保存の年限を過ぎた本書の綴は、当園において閲覧の対象としていない。保存の年限は三年とした。年限の後の扱いは当部門の別の定めによるものであった。
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夜の廊下に車輪の音がした。幅は細い。二日前の五つと一致する車輪だと思う。
数は一つだ。押している者も一人しかいない。
足音の間隔は広い。歩幅の長い人の間隔だと思う。
九十九日で、夜に台車が通ったのは二度あった。
二度とも器の台だった。あちらは幅の広い車輪を持っている。細い車輪が夜に通るのは、今日が初めてだった。
台車は突き当たりのほうから来た。私の戸の前を通る。通り過ぎる時、上に何か載っている音がした。
紙の擦れる音だと思う。
紙の音は薄い。二日前に聞いた掲示の紙より薄い。その紙が何枚か重なっていて、それが台車の揺れで擦れている。
揺れは板の材の変わり目で大きくなる。
七歩のところと、十九歩のところだ。七歩のところで、擦れる音が一度大きくなった。
その後で、落ちる音がした。軽い。床に当たってから、少し滑った。
滑った先が、私の戸のほうだった。下の隙間は一センチ半ある。滑ったものは、その隙間へ入ってきた。
入ったのは紙だ。一枚ではない。
綴じてある。糸が見える。糸は二本切れていた。
私は指で引いた。全部は入らない。厚みが隙間より少し大きい。
半分ほど入ったところで動かなくなる。止まったのは背で、綴じが厚くなっている。
台車は止まらなかった。押す者は落としたことに気づいていない。音は戸口のほうへ抜けて、突き当たりの向こうで切れた。
厚みを、私は指の腹で測った。指の腹の三分の一ほどになる。房の板の一枚が指の腹二つぶんある。その六分の一に当たる。
厚みの中に、層がある。紙の枚数だと思う。
縁から数えると、目で取れるのは十四までだった。十五から先は重なって出てこない。
重なる境は、二日前に床の映りで見た境と一致する。
あの時は八行目で切れた。今は十五枚目になる。境の位置は物によって替わる。
私は入った半分を見た。
灯は消えている。
廊下の非常の灯だけが、隙間から細く入る。細い灯でも、色は分かった。
紙の面に色がある。三つある。
左が濃い。真ん中が薄い。右はその間に入った。
濃いところと薄いところの間に、細い線が横に引いてある。
線の上に、白い点が並んでいた。点は大きさが揃っていない。並び方は線に沿っていた。
私は数えた。点は十一ある。
うち三つは他より大きい。大きい三つは線の左へ寄っていた。
線の下にも何かがある。灯の細さでは形が出ない。出るのは濃さの差だけになる。
線の下が濃い。
濃いところと薄いところの境が、線の位置に重なる。線が境として引いてあるのだと思う。
紙は古い。縁が丸くなっている。色の面は擦れていて、擦れた部分だけ下の白が出ていた。
点の並びを、私はもう一度左から数えた。二度目も十一だった。
三度目もそうなる。三度そろえば、私はこれを置く。
置くというのは、控えの中の位置を決めて、毎日は数え直さないという意味だ。置いた分は今日で十八になる。二日前は十七だった。
大きい三つの位置も測る。左の端から数えて、二つ目と五つ目と六つ目にあった。
間は一つと二つだ。等しくない。この並びは、後から作れない。
匂いがある。
古い紙のものだ。埃とは別になる。埃は乾いていて、これは少し湿っている。
私は二度嗅いだ。二度目のほうが濃い。鼻を近づけた分だけ濃くなる。
糊の時とは逆の出方をしていた。
紙の湿りは指でも分かる。指の腹を当てると、しばらく跡が残る。長さは三を数えるほどになる。房の板に指を当てた時より長い。
湿りは面の全部に等しくあるわけではない。縁のほうが強い。
縁は空気に当たる面が広い。その分だけ、外の湿りを吸う。
吸った紙は反る。始まりは縁で、真ん中へは届かない。この紙の反りは、上の縁だけに出ていた。下の縁には無い。
下の縁は台車の板に当たっていたのだと思う。当たっていれば空気が来ない。来なければ吸わず、吸わなければ反らない。
私はもう一度引いた。動かない。押しても出てこない。
半分入ったところで、紙は止まったままだった。
半分の中に、線の下の濃い部分がある。幅は面の三分の一ほどになる。
これは目で割った数だ。器で測った数ではない。
目で割る時、私は面を四つに折る形で見る。
四つに割れば、半分と四分の一が同時に取れる。
四つに割った時の一つ目と二つ目の間に、線が入っていた。入っている位置は、上から数えて五分の二のあたりだった。
四分の一より下で、半分より上だ。その間になる。
その半分を、私は見た。三つの色と、線と、十一の点。それだけが見える。
残りの半分は廊下の側にある。そちらに何があるかは取れない。
廊下の側にあるのは、紙の背から先になる。
背には綴じの糸が通っている。
糸は二本切れていた。切れた位置は上から二つ目と、下から三つ目にあった。
切れた糸の端は、片方だけ残っている。長さは指の四分の一ほどになる。
もう片方は無い。抜けたのだと思う。抜けた糸は戻せない。
綴じの穴は五つある。
糸が通っているのは三つで、通っていないのが二つになる。通っていない二つの穴は、縁が広がっていた。広がるには何度も引かれることが要る。
私は控えを回した。五十七ある。三つ足す。
色の数と、点の数と、切れた糸の数を足した。
六十だ。この数になったのは九十九日で初めてになる。一日に三つ足した日も初めてだ。
三つ足したのは、色と点と糸になる。三つとも数で取れた。
残った二つは取れない。匂いと、湿りだ。
匂いは濃さで比べられるが、濃さの単位を私は持っていない。湿りは指の跡の残る長さで測った。三を数えるほどになる。
三を数えるほどというのは、私の呼吸の三つぶんだ。呼吸は日によって速さが違う。動くものを単位にすると、後で合わなくなる。
合わなくなったものが、九十九日で六つある。六つとも、体を単位にしたものだった。
小さいものは眠っている。生まれてから三十五日になった。
体重は昨日で四千四百グラムだ。二日で百ぶん増えている。
増え方は一日あたり五十グラムになる。前の帯より上がった。
前は四十七だった。四十七から五十へ、二日で動いている。
顔を寄せた。
息が当たる。幅は指一本ぶんのままだ。二日前から替わっていない。
器の音がしない。夕の器は特別管理区画に無い。特別管理区画は二食で、九十九日とも動いていない。
動かないものの数は、控えの深いところに十四ある。うち房の外の数は三つだけになる。灯の消える順と、換気の間隔と、廊下の材の変わり目だ。
今日、四つ目が入る見込みになった。台車の車輪の幅になる。見込みは数ではない。
控えへ入るのは、二度目に等しい幅を聞いた日だと思う。
私は寝床へ戻らなかった。紙のところにいる。
明日になれば取られる。紙のところにいると、床の冷えが膝から来る。
膝の下に布を折って入れた。折る回数は三度で、厚みは指二本ぶんあった。
三度折ると、冷えの来るまでの長さが変わる。折らない時は十を数えるほどで来る。
三度折れば、四十を数えるほどまで延びた。四倍になる。
四倍という数は、九十九日で二度出た。一度目は器の量を替えた時になる。等しい数が別のところで出ても、同じことを指しているとは限らない。
夜の間、私は三つの色を見ていた。長く見ると、色の境が分からなくなる。境は線ではなくて、少しずつ移る幅になっている。
移る幅は指の半分ほどだ。左から右へ、濃さが落ちていく。
下がり方は一定ではない。真ん中のあたりで一度止まる。
止まる位置に、細い筋がある。これは色の側ではなく、紙の側の折れだと思う。折れた紙は、後から色が乗らない。
夜は二度切れた。板の上にいたのだと思う。寝床では三度切れる日が多い。
板の上では二度になる。二度のほうが浅い。
浅い眠りの後は、朝に体の右が痛む。
位置は肩から下へ十センチのところになる。位置は九十九日で移っていない。動かない痛みは、体の目盛りとして使える。
目盛りの数を、私は控えの深いところに置いてある。深いところは八つある。どれも体の側になる。
房の数は深いところに一つも入っていない。
灯が点いた。六時になる。
点く順は区画ごとに決まっていて、私の廊下は三番目だ。灯の下で、色は夜より薄く見えた。
灯の側だと思う。紙は替わっていない。
薄く見えても、三つは三つのままだ。左が濃くて、右が薄くて、真ん中がその間になる。薄く見える幅を、私は目で測った。
夜の濃さを十とすると、今は七ほどになる。これは目で決めた数だ。器で測った数ではない。
目で決めた数は、後から動く。九十九日で四度動いた。
どの度も、二度目に見た時のほうが小さくなっている。初めに見た時が強く出るのだと思う。ここまでで、これは控えの浅いところへ置く。
朝の器が来る前に、廊下で声がした。台車の音はしない。足音だけだ。
足音は二人ぶんだ。突き当たりから来る。一人は歩幅が長い。
もう一人は短い。後者が少し遅れる。
歩幅の長いほうの足音を、私は前にも取っている。二日前の夜に通った靴だ。
底の縁が片方だけ減っていて、右の外が薄い。減り方は今日も替わっていない。
短いほうの足音は初めてになる。踵から着く歩き方で、音が二つに割れる。
二つの間は短い。間が短ければ、体重の掛かる時間も短くなる。
軽い人だと思う。ここまでで、これは浅いところへ置く。
二人は私の戸の前で止まった。それから、しばらく何も言わない。長さは八を数えるほどだ。
それから、歩幅の長いほうが声を出した。
「本日の引継は五件です。物の別を記す欄が本様式に無いため、件数のみの記載になります」
四十字だ。手順と定めの名の両方がある。
この言い方の声を、私は九十九日で三度聞いた。三度とも一つの帯に入る。
もう一人は答えない。そのままで、屈む音がした。膝が床に当たる。
紙が動く。
廊下の側へ引かれた。速さは遅い。破らないように引いている。
引く力は一定だった。速さも替わらない。一定の速さで引く時は、相手が抵抗しないことを見込んでいる。
私は抵抗していた。指を三本、紙の面へ当てている。三本の下で、紙が少し撓んだ。
幅は指の腹ほどあった。
撓んだところで、引く力が一度止まった。
止まった長さは二を数えるほどだ。
二は短い。
それでも、止まったことは残る。
私は指を離した。持ったままだと破れる。離した後、紙は隙間から出ていった。
出ていく時、色の面がこちらを向いた。こちらへ来たのは、私が見ていた面と別だった。裏にも色がある。
別の面の色は二つだ。
三つではない。
二つのうち一つは、こちらの面の左と濃さが重なる。
もう一つは白に近い。
二つの色の上に、丸いものが一つある。
丸いものは白い。
位置は面の上のほうで、端に寄っていた。紙は隙間から完全に出た。その後で、廊下の側で持ち上がる音がした。
持ち上げる時の音は二つあった。
紙が床から離れる音と、腕の袖が擦れる音になる。袖の擦れは布の厚いほうの音になる。薄い布は擦れても音を出さない。
厚い布を着ているのは職の側になる。個体の側の布は薄い。そちらの音を、私は自分の腕で確かめた。
動かしても音は出ない。
私は格子の目へ寄った。下から三段目まで口が届く。その位置から、私は声を出した。
「絵ですか」
四字だ。
返事は来ない。
そのままで、紙をめくる音が二度した。
めくり方は遅い。
紙が古いのだと思う。
古い紙は速くめくると裂ける。
破らない速さでめくると、音が長く伸びる。
伸びる音を、私は四度数えた。
うち三度は長さが揃った。
四度目だけが短い。
短い一度は、めくらずに戻したのだと思う。戻す時は伸びが要らない。その分だけ音が短くなる。
めくる音の間に、息の音があった。息は短い。
吸って、止めて、吐く。止める長さは三を数えるほどあった。
止める息を、私は控室で聞いたことがない。
控室の息は止まらない。止まる息は、目が紙の上で動いていない時に出る。動かない目は、一点を見ている。
一点を見る長さが、三度とも三だった。三度そろえば、私はこれを置く。置いた分は今日で十九になる。
その後で、別の声がした。低い。歳の入った声になる。
八十七日目まで、私はこれを週に一度聞いていた。
「返してもらったよ。あれは箱の中に入れておくものではない」
二十七字だ。二文ある。
この人はいつも二文で言う。一文で終わったのを、私は一度しか聞いたことがない。
二人称は入っていない。この人の言葉に、あなたも君も入らなかった。九十九日で一度も入っていない。
私は次を待った。長さは十を数えるほどだ。十を過ぎたところで、二本目が来た。
「海は三つの色をしておった。近いのと遠いのと、その間だ」
二十六字。二文ある。
帯の中になる。二本とも収まった。
二本の間の間は十だった。
九十九日で聞いたこの人の間は、いつも八から十二になる。今日の十は真ん中に入る。真ん中の間は、次の一本が用意してある時に出る。
用意してあるというのは、前に言ったことがあるという意味だ。初めて言うことの前には、もっと長い間が入る。
十四から十八になる。私はこの言葉を知っている。
視聴覚室の上映の後に、十一人が残った日に聞いた。あの日から数えて二百八十六日が経つ。
あの日、この人は今日と等しい数を言った。三つの色。朝は二つ。
七つに一度の波。五つの魚。三隻の船。
私は一度で覚えた。できた事由を、あの時の私は考えなかった。
今の私は数えている。紙の面には三つの色がある。
私が見ていたのは、その面になる。あの日、聞いていたのは十一人になる。
私は十九人と控えた日もある。上映の始まりが十九で、終わりに残ったのが十一だった。
十一という数を、私は今日もう一度取った。紙の面の点が十一ある。この二つは、一日の私の中で隣にならない。
片方は人で、片方は点だ。
隣にならないものが並んだ時、私は間に何を置くかを決める。今日は決められない。この種のものを、私は形にしておく。
形にしておくというのは、確かめられる日まで崩さない置き方のことだ。そのままで、私は次の一行を控えへ入れた。
紙のほうが、話より先にあった。紙は古い。
縁が丸くて、綴じの糸が二本切れている。色の面は擦れていて、下の白が出ている。擦れるには年が要る。
年の数を、私は取れない。分かるのは、私が見た日と、この人が話した日の順だけになる。順は決まっていた。
私が見たのは今日で、この人が話したのは二百八十六日前だ。その順ではない。紙が作られた日と、この人が初めて話した日の順になる。
紙が作られた日を、私は知らない。そのままで、擦れの深さだけを控えへ入れた。
六十に一つ足す。六十一だ。
擦れの深さは数ではない。数でないものを入れたのは、これで四度目だった。
擦れの深さは、指では取れない。目でも取れない。分かるのは、擦れた部分から下の白が出ているかどうかだけになる。
出ている場所は面の三箇所だ。左の下と、真ん中の上と、右の縁になる。
三箇所とも、指の当たる位置に近い。持つ時に当たる場所から先に擦れる。
持つ人は右で持ったと思う。右の縁の擦れが一番広い。
広さは指の腹の二つぶんほどになる。そこまで擦れるには、何度も持たなければならない。
何度という数を、私は取れない。そのままで、擦れの広さだけを控えへ入れる。足音が動いた。
二人ぶんだ。今度は歩幅の長いほうが先になる。行きと順が重なる。
二人は突き当たりのほうへ行った。途中で、紙をめくる音がもう一度した。
その一度は伸びていない。速い。
速くめくると裂ける。破れたかどうかは、音では取れない。
足音が遠くなった。突き当たりの向こうで切れる。その後、廊下は換気の音だけになった。
朝の器が来た。八十ミリリットル。量は替わっていない。
私は四回に分けた。三回目で止まる。長さは十を数えるほどになる。
匙の器は十八回で底に当たった。回数は先月から替わっていない。拭いてから、私は控えをもう一度回した。
六十一ある。今日の分は四つ入った。
四つのうち三つは、紙の面から取った数だ。
四つ目は擦れの深さになる。深さは数ではない。控えの中では隣の三つと並ばない。
並ばないものを、私は浅いところへ置いた。浅いところは十九になる。
二日前より一つ増えた。増えた一つが、いつ深いところへ移るかは分からない。移らないまま残るものが、今のところ十二ある。
四つのうち三つを、私は継ぎ目へ付けた。先は三本目になる。そこには昨日まで二つ付いていた。
今日で五つになる。
五つは目盛りの一つに入る数だ。継ぎ目の目盛りは六つずつで割ってある。
六つ目が入れば、次の目盛りへ移る。動かす前の状態を、私は覚えておく。
移った後で数え違えないように覚えておく。九十九日で二度、移る時に数え違えた。
二度とも一つ多く数えている。私は敷居のほうを見た。
埃の帯に、細い筋が二本付いていた。二日前には無かった筋だった。
筋の幅は指の四分の一ほどだ。二本は平行になっている。
間は指一本ぶん。紙の背の厚みと合う。
合っても、一つの物が付けた筋とは限らない。台車の脚でも等しい幅は出る。私は台車の脚を見ていない。
見ていないものを、私は控えへ入れない。控えるのは筋の幅と本数だけになる。
筋は日が経てば埃で埋まる。速さは三日ほどだった。
消えるものを、私は今日のうちに二度見た。二度目に見た時、灯の位置が動いていた。その分だけ、筋の見え方が浅くなる。
浅くなっても、二本は二本のままだ。私は二本を控えの深いところへ移した。置いたのは器の位置の隣になる。
そこにあるものは、九十九日で一度も動いていない。そういう場所へ置くと、思い出す時に一番先へ出てくる。
器の位置の隣には、九十九日目の朝に置いた数がある。あれは戸の下の隙間の高さになる。一センチ半あった。
二本の筋と、一センチ半が隣り合った。二つとも紙に関わる数になる。この種の数が控えの深いところで隣に来たのは、これが初めてだ。
初めてのことは、置いた日を一緒に控える。置いた日は百七日目になる。
日は番号のように出てくる。管の縁を、私は一つ叩いた。
返事は来ない。向こうが眠っている時刻だと思う。
管の縁の冷たさは、朝が一番強い。
強さは灯の点く前から点いた後まで替わらない。下がり始めるのは昼を過ぎたところになる。下がり方は一日あたり指の腹一つぶんほどあった。
感じという言い方を、私は控えに使わない。控えに入れるのは数だけだ。それ以外は、控えの外の板の端へ置く。
板の端には今日で十七ある。
叩いた指が冷たい。冷たさは離した後も少し残った。
長さは十を数えるより短い。二日前と替わっていない。
小さいものが動いた。今日の一度目だ。
左が先になる。三十五日のうち、左が先の日は二十九日ある。
私は腕の内側へ入れ直した。布の沈みは指三本半ぶんだ。二日前と深さが重なる。
沈みの深さを、私は五日ごとに測る。測る日を決めてあるわけではない。思い出した日に測る。
今日は思い出した。紙の厚みを指で測った後だったのだと思う。
指で測ったものが二つ続くと、三つ目が出てくる。三つ目は板の継ぎ目だった。
七つの目盛りは動いていない。五つ目に六つ付いたままになる。
私は五つ目のところで手を止めた。止めるのは二日前と等しい位置だ。
位置が重なれば、止める長さも重なる。長さは八を数えるほどだった。八を数え終えてから、私は手を継ぎ目の端へ移した。
板の端には、置いた分がまとめてある。十七ある。うち一つは、二日前に入れた名前だ。
名前は音でできている。三つある。今日の紙は音を持たない。
あるのは色と点と糸の数だけになる。音と色は控えの中で別の場所にある。別の場所にあるものを並べる手を、私は持っていない。
持っていないままで、私は二つを近くへ置いた。寄せても、線は出ない。
これは二日前に確かめてある。控えの深いところは、今日で十六になった。
二本の筋と、擦れの広さが入った分だ。深いところへ二つ同時に入れたのは、九十九日で三度目だった。
三度とも、入れた二つは一つの物から取っている。一つから二つ取ると、後で片方を消す時に、もう片方の位置が分からなくなる。
分からなくなったものが、九十九日で一つある。器の縁の欠けの位置だった。消した後、隣に何を置いていたかが出てこない。
板の端の十七は、どれも数にならなかったものになる。数にならないものを板の端へ置く扱いは、九十七日目に決めた。それまでは控えの外へ捨てていた。
捨てたものが幾つあったかは、私にも取れない。取れないので、その数も板の端にある。板の端には、板の端の数までが並んでいる。
九時を過ぎた。
廊下の換気の音が高くなる。間隔は四十秒になる。三度数えて、三度とも合った。
合った後、私は目を閉じた。閉じても、三つの色は残っている。
残り方は物に近い。左が濃く、右が薄く、真ん中はその間だ。
境は線ではない。少しずつ移る幅になっている。
移る幅の中に、細い折れが一本あった。折れた紙には、後から色が乗らない。
近いところと、遠いところと、その間。
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保管票
一、保管の件数
本票は当園の保管の室に納めた物件について作成する。作成の日は令和二百十五年一月十七日である。
本日の保管の件数は四であった。納めた者の欄には職の名を記した。納めた時刻は十時十四分である。
保管の件数を記す欄は本様式にある。物の別を記す欄は置いていない。
本年度の保管は二十五件になる。
二十五件とも数のみの記載であった。件数と別を照らす欄は本様式に無い。
二、保管の場所
保管の場所は当園の保管の室とした。室の中の位置を記す欄は本様式にある。当該の欄には棚の段のみを記した。
棚の段は三段である。本日の四件はいずれも二段目に納めた。段を選ぶ基準を記した記載は、当園の内規に見当たらない。
保管の年限は五年とした。
年限を経た後の扱いは当部門の別の定めによる。年限の起算の日を記す欄は本様式にあり、当該の欄には本日を記入した。
本票の写しを納めた者へ交付する扱いは当園の内規に置いていない。交付を要しない旨の記載も置いていなかった。
本票に記した棚の段と、物件の大きさを照らす欄は本様式に置いていない。段を移した例は本年度に二件あった。移した事由を記す欄は当該の内規にある。
三、摘要
前日の引継の件数は五であった。本票の保管の件数は四になる。
差は一である。差の生じた事由を記す欄は本様式に置いていない。前日の引継書の返還の欄に、件数が一と記してあった。
返した物件は保管に当たらない。したがって本票の対象にならない。返還を記す欄も本様式には無かった。
本票の作成に要した時間は十二分であった。要した時間を他の例と照らす欄は本様式に置いてある。当該の欄は本日の時点で空である。
当該の者の記録票の備考は本日の時点で書き直していない。備考の記載は収容の日から替えていないものであった。




