33話「祈りを願いに、願いを力に3」
ちょっとグロシーンが入っています。
千代ちゃんが叫んだあたりで読み飛ばせば回避できます。
千代は走っていた。
「ハァ、ハァ...」
行き先は分からない。
ただ、あの場所から離れるために走っていた。
「はぁ、はぁ....ここは?」
走り疲れ辿り着いた先はーーーと初めて会った森の中だった。
「...今日は、野宿かな」
千代は暗くなる空を見てそう呟いた。
「い、一応、飲み水もあるし、魔物も見たことないし大丈夫かな」
千代はーーーと話した内容を思い返して一人つぶやいた。
「...明日、会って...謝んないと」
千代は一つの決心をして、野宿の準備を始めた。
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準備を始めてから完成までは早かった。
千代はここに来てから何度も野宿した。
日本への手がかりを探すため徒歩で行ける範囲の場所は全て野宿で過ごしていた。
理由はお金をできるだけ節約するためだった。
遠くに徒歩で行くのは難しいため、そっちにお金を回していた。
落ちた枝を拾い、川にいる魚を獲り、草木をつないで布団を作った。
「これで今日一日くらいは何とかなるかな」
千代の言葉に応える人はいない。
実際、野宿して行った場所にはーーーも同伴することが多かった。
それ故、ーーーと一緒に食材を集め、寝床を作り、朝を迎えていた。
「....」
獲った魚を食べるが千代の味覚は刺激されなかった。
「...味...しないな...」
ただ、空腹を満たすだけのタンパク質。
それだけの物としか今の千代に認識できなかった。
「....もう..寝よ」
そうして、千代は深い眠りについた。
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「...ん?」
千代は周囲の明るさに気づき目を覚ました。
「もう...朝?...ん?」
しかし、それは違った。
「...え?...何で?」
空は明るかった。だが、それは決して太陽の光ではなかった。
「なんで...?だって...あっちは...」
黒い夜空を照らしていたのは...
「村が...村が...燃えてる...」
赤い、赤い炎が作った光だった。
「ッ!」
千代は立ち上がった。
そして、走りだした。
「何で!?何で村が燃えてるの!?」
裸足であることを忘れ、痛みも疲れも忘れ、ただひたすらに走った。
「ーーーちゃんが!まだ謝ってないのに!」
千代は懸命に走った。
そして、辿り着いた先は...
「...何...これ...?」
燃え盛る炎、燃える家々、叫び喚く人々、
地面を染める赤い血、そして...
「何で...こんなところに...」
次々と押し寄せる存在。
次々と人々を殺す存在。
次々と赤く染まる存在。
「...魔物がいるの...?」
魔物は次々と家を壊し、村人を殺し、炎の中に消えて行った。
「急がないと...ーーーちゃんがッ!」
千代は走り出そうとした。
しかし...
「....え?」
千代の腹部から一本の腕が生えた。
「...い!いだあああああぁあぁあぁ!」
一瞬、自分の身に何が起きたかが分からなかった。
だが、認識してしまった瞬間痛みが、熱が直に伝わった。
そして、腕は左右に動いた。
まるで何かを探すように。
「イダイダイダイィィ!アズイアズイいたいイダイあずいィ!!」
腕の動きに合わせ千代の叫び声が響く。
腕の動きに合わせ千代から血が流れる。
「イダイイダイ ダズゲデ アズイいだいィ!」
次に腕は上下に動き出した。
そして...
「イダイイダイイィィィグッ!」
千代の心臓を潰した。
「ゲボッ!...ゴボッ!」
千代の口から血の塊が這い出る。
吐き出た真っ赤な果実は地につけば花を咲かした。
その美しくも残酷な光景を見る前に千代の持つ体の感覚は無くなり、視界はぼやけ、意識を手放してしまった。
そして、手放す意識の中で
謝まりたかった
それが千代が最後に抱いた気持ちだった。




