第二十ハ話 二度目
鬼は地響きを鳴らしながら村まで近づいてきている。僕は鬼に不意打ちの一発を当てる為、建物の角で待機していた。
角から顔を覗かせ鬼の位置と数を確認する、先程倒した鬼とは違い青や緑の肌をした鬼も見える。
先程の赤い鬼とは何か違うのだろうか、肌の色以外は先程の鬼と変わりはないようだが……。
鬼の数は確認した所9体、絶望的な数字だ。
不意打ちで一体倒れせば良い所だが、それでも残り八体を相手にしなければならない。
だがこのままでは村はおろか、森を降りて別の集落も襲われるかもしれないと考えると逃げることは出来ない。
そして遂にその時が来た、村に入ってから隊列を組んだ鬼達は分散し各々が村を壊しまわっている。
そのうちの一体が僕の方へと近づいてきたのだ。近くには別の鬼は居ない、一体ずつ不意打ちで倒すことが出来れば数のアドバンテージは無い。
僕はバレないように建物の影を使い、近づいてくる一体の鬼の背後へと周ると建物を登っていく。ここでパルクールが役に立った。
屋根に着くと鬼の後頭部が既に目の前にある、僕は先程の赤鬼の要領で倒すことに決めた。
短剣に炎を纏わせ首へ一撃を入れ炎を流し込む。いくら硬い表皮を持っていようとも耐えることの出来ない一撃。
僕は屋根を蹴り短剣を前に突き出し飛ぶ、体長に見合わず遅い動きのおかげか一発で成功する。
首に刺さった短剣から炎を流し込み炭化させていく、だがここで誤算があった。今倒そうとしている鬼が咆哮を上げたのだ。
その咆哮は悲痛の叫びの様に聞こえる、だが実際は違う。他の鬼達へと知らせる役割を持っていた。
「これはまじでやばいんじゃないか……」
鬼の首に乗っていて高い視線だからこそわかった。
村中を壊しまわっていた鬼たちが一斉に僕が居る場所へと向かってきている。
慌てて目の前の鬼を最大出力で炭化させると飛び降り一旦逃げようとしたが遅かった……、既に僕を取り囲むように鬼達が立ち塞がっている。
しかも統率の取れた動きだ、巨体のせいで戦闘中の攻撃の邪魔をしないように数体は後ろに下がって待機をしている。
股をくぐり逃げようとしても後方に控えた鬼達が邪魔をして無事に逃げれる事は出来ないだろう。
「やってやろうじゃないかッ!!」
土壇場の状況、ここで二回目の死、いやそれ以上死ぬかもしれない。死ぬのは怖いし痛い、だが僕は死ぬことは無い。
周りに人は居ない、ならば不老不死の異能力を最大限に活かした戦いをしようじゃないか。
僕は異能力を使用する、狙うは手に持った武器を燃やすため。
しかし一個ずつ燃やしていては時間がかかる、初めての試みになるが僕を中心とした辺り一帯を燃やし尽くす為にイメージしていく。
イメージは爆炎、火炎放射器の様な一点集中ではない、爆弾の爆発の様な周囲を巻き込む炎。
僕の中で何かが溜まっていく、それと同時に襲いかかる喪失感。異能力の使用限界が近づいているのかもしれない。だが僕は異能力を酷使していく。
腹の辺りに溜まった何かはどんどんと膨れ上がっていく、そして僕は開放した。
開放と同時に視界が赤に染まる、爆音を鳴らし半径10m内が炎や熱風で焼き尽くされていくのを僕は爆炎の中で視認していた。
鬼にはさほどダメージは無いだろう、爆炎の中でも立っているが皮膚は少し火傷していっているようだ。手に持った武器も燃え炭へと変わる。
爆炎も数秒後には収まる、僕の周りは地面すら焦げている程の熱量だったらしい。
しかしここからが本番である、爆炎で数体は殺せたらと思っていたが一体も倒れていない、そして異能力を酷使しすぎたせいか頭痛が酷く視界が霞む。
その一瞬の時間、鬼の攻撃に僕は気付かなかった。後方に居た鬼が僕めがけ腕を振り下ろしたのだ。
足が動かない、これは死ぬ……そう思った時僕の目の前に一人の男が現れた、その男の背中は見覚えがある。
「待たせたなッ」
腹に響くような低い声、後ろからでもわかる筋肉の付いた体、目の前に居るのは金剛さんだった。
僕を押しのけ振り下ろした腕の真下に立つと腕をクロスさせ頭上にあげる。鬼はそのまま攻撃を続行し金剛さんに直撃した。
だが金剛さんは鬼の一撃を耐えている、足元の地面は割れ陥没している事から鬼は手加減したわけではないようだ。
「フンッ!」
力むように声を出し、逆に押し返していく金剛さんは鬼以上に鬼に見えた……、化物だ。
鬼も金剛さんを先に潰しとかなければと考えたのだろう、四方八方から迫りくる腕を体一つで受け切る。
僕があそこに居たら潰されミンチになるような攻撃だ。
「優、俺には決定力がない。攻撃は俺が引き受ける、その間に鬼を倒してくれ」
金剛さんのあまりにも馬鹿げた防御力に僕は今やるべきことを忘れかけていた。
いくら圧倒的な防御力があっても限界は来る、永遠と受けきれるものではない。ならば早くしなければ。
僕は炎剣を使おうとするが酷使しすぎた影響で異能力の制御が上手くいかない。
オイル切れのライターの様な小さな炎が短剣を包み込む、これでは鬼は倒しきれない。
死んでも構わない、倒れてもいい、ただ今僕に出来るありったけを短剣に込めていく。
頭痛が止まらない、体が軋むように痛い、金剛さんの背中がぼやけ目が霞む……、だが僕はそれでも異能力を酷使していく。
だが非情にも短剣を包み込む小さな赤い炎は次第に色が薄れていく……。
「消えないでくれ、お願いだ」
赤い炎は消え去った……、僕は諦めようとした炎が使えないのでは僕では倒せない……。だが炎は消えてなどいなかった。
短剣は淡く光っている。夜だからより光が際立、炎はまだ消えていないという事を霞んだ視界でも視認できた。
僕は驚いた、赤い炎はより熱量を上げ蒼い炎へと色を変えている、『蒼炎の剣』中二病臭い名前だが気に入った。
「ガハッ」
血反吐が出る、血が喉に絡みつき呼吸がし辛い、頭痛はより酷くなり上手く動けない。
金剛さんは一人で鬼と戦っている。歩くことすら困難な状況だが僕が諦めたら誰が皆を助けれるだろうか……、今戦わずして両親の後を引き継ぐ事など出来ない。
震える足を力いっぱい叩き無理やり震えを抑える、頬を手で叩き気合を入れ直し僕は歩き出す。
短剣のデメリットであるリーチを伸ばす為に僕は再びイメージしていく。
蒼炎は短剣から刃の様な形を維持したまま刃先へと突き出ていく、僕が持っている短剣の刃渡りは20cm程だが今は突き出た蒼炎を合わせ40cm程まで伸びていた。
このリーチがあれば霞む視界の中でも鬼に当てる事が出来る、躱すことの出来ない攻撃は諦め金剛さんに頼るか、不老不死を活かそう。
一歩……また一歩と鬼へと近づいていく。
だが一歩進む毎に視界は赤く染まっていく、血涙を出しているが僕は気が付かない。
「優ッ!大丈―――」
金剛さんの声が途中で途切れる、耳もイカれてしまったのだろうか。
だが意識を手放すことだけは絶対にしない、鬼の目の前まで来ると蒼炎の剣を振り下ろした。
音は一切聞こえない、だが柄から伝わる感触でわかる。鬼の頑丈で分厚い肌が裂けていく感触。
赤い炎を纏っていた時とは比べ物にならないほどの斬れ味だ。
鬼の足は綺麗に焼き切られる、鬼はバランスを崩し地面に倒れた所を僕は切り刻んだ。
何度も、何度も何度も……、鬼が死ぬまで斬り続ける。
一体を倒せば次へ移動し斬りつける。
だが次の瞬間、喪失感に襲われる。左腕の感覚が無くなる、動かそうとしても動かない左腕。
鬼の攻撃をまともに喰らったのだろう、僕の左腕は消失していた。だが痛みは無い、既に感覚は麻痺していた。
僕は歩みを止めず鬼を殺し続けていく、そして最後の一体を倒した。
やり遂げたのだ、村の皆を助けた。
その事を実感したと同時に僕は地面へと倒れた、今更になって痛みが襲いかかる。
異能力を酷使し、腕を失い、流れ出した血は既に致死量である、立っていたことが不思議なほどだ。
そのまま静かに意識を手放した、僕は人生で二度目となる死を迎えるのであった―――。
ヒーローは遅れて駆けつけてくるッ!桃太……いや金剛さんッ!
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