第二十五話 二人の思い
金剛さんは涙を流しながら僕の両親の話をしている。
悔しそうな表情、思い出しながら自分の不甲斐なさを……、友人である二人を助けられなかった無能さを嘆きながら。
それでも金剛さんは話し続ける、僕の事情を全て知っているから辛い思いをして話すのだ。
辛い過去を思い出させて申し訳ない気持ちが芽生えるが、それでも僕は目を逸らさず最後まで聞き終える。
二人は国の為に、人々の為に命すら惜しまず戦い続けていた事を、知っている人物から直接聞くことが出来た。僕はやはり両親の様な人になりたいと心の底から思う。
助けてもらった人達にとって英雄だろう、ただその話を聞き僕のような感情に芽生える人もいる。
僕と同じ志を持つ人達からも英雄として今後も語り継がれるだろう、そうなる事を僕は願う。
金剛さんは話し終え深呼吸をし息を整える。
徐々に冷静になっていくと、再び僕と目を合わせる。
「優、本当にすまなかった。俺がもっと上手くやっていれば……」
「いいんです、両親は最後まで自分の信念を曲げずに戦い続けていた事が聞けて良かったです」
本心からの言葉である。金剛さんも僕と両親を重ねているのか、ただ頷く。
ふと、僕の両親の話になって忘れていたが仁はどうしているのだろうか。僕は横にいる仁を見る。
何か考え込むように手を顎に当て真剣な表情をしていた。
「仁、どうした?」
「いや、まさか三人の英雄の話に出てくる二人の息子が優だとはな。成長速度が早いのも頷けるな」
「そうだな、優を見ていると龍二を思い出して仕方がない、前から何か引っかかりがあったがそういう事だったのかしれないな」
金剛さんの表情は柔らかいものへと変わっていた。その表情に僕は父の姿が重なる。
「よしッ、龍二に負けないよう鍛錬を始めるか」
「えっ」
「はいっ、俺もがんばります!」
「あ、今の流れでやると思っていなかった……」
こうして新しく仁を加え、三人による地獄の鍛錬が始まった―――。
鍛錬も夕方になると終わり、僕と仁は金剛さんに一礼し家を出ていく。
帰る方向は逆なのですぐに仁と別れ一人で橙色に染まった帰路を歩いていく。
月火はもう帰っているのだろうか。帰っているのなら今日聞いた話を教えてあげたい。
今思うと最初に僕が異能力校に行くと言った時、月火は『お兄ちゃんも考えることは一緒』と言っていた。
月火は僕と同じく亡き両親の背中を追い志半ばで亡くなってしまった後を継ぐという事を。
だが月火と僕では歩み道が違ったという事だろう。僕は学校へ通い両親の様に戦って人々を助けたいと思っている。
そして僕とは違い、月火は大人になって学校の先生をしている。何故先生をしているのかはわからない、帰ったらもう一度聞いてみることにした。
帰る頃には既に日が暮れていた。
アパートの前に来ると既に部屋の明かりは点いており月火はもう帰っている事がわかる。
僕は内心ドキドキしていた、月火に両親の事を伝えるべきなのだろうかと帰り道ずっと考えていたからだ。
月火は二人の死を受け入れられていない気がする、だが伝えるべきだろうという事もわかる、そんな事を思考していたらいつの間にかアパートの前に着いていたのだ。
だがいつまでも外に居るわけにもいかず、僕は取り敢えず月火が待つ家へと足を運んだ。
鍵を取り出し扉を開けると良い匂いが漂ってくる。最近月火は料理を真剣に覚え始めまともに食べられるような料理を作れるようになってきた。
僕が帰ったことを月火も気づいたのか、足音が近づいてくる。
「お兄ちゃんおかえり、今日も金剛さんの所に行ってきたの?」
「うん…、それでさ月火に話さなくてはいけない事があるんだ」
「どうしたの改まって、食べながらでもいい?」
「いや、食べた後話すよ、料理が覚めるのも嫌だし」
「そう、わかった」
僕達は食事を始める。
だが二人に会話はない、終始無言の食事。月火は僕が先程言った内容が気になっている様子。
しかし食事を終えてゆっくりと話がしたい。この話は僕達にとって重要なことなのだから。
二人の食事が終え食器を片付けると、僕達は対面して座った。
今から話す事は金剛さんが話してくれた内容、その全てを月火にも教える。
両親が何をやってきていたのか、その全てを―――。
「そっか……、人伝いに少し話しは聞いてたんだけど……やっぱりそうなんだね」
「月火は知っていたのか」
「うん、けど信じられなかったんだ。あの強いお父さんと賢いお母さんがそう簡単に死ぬはずが無いってどうしても何処かで思ってたの」
「僕もそう思う、けど金剛さんは……」
「当時一緒に居た人が言ってるのなら間違いないのかもしれないね」
月火は冷静さを保っているように見える。
だが内心は違うのだろう、月火の目は少し潤んでいた……。
「それと聞きたいことがあるんだけど、前にさ僕が異能力校に行くって言った時に言っていた事覚えてる?」
「お兄ちゃんも一緒なんだねって言った事?」
「それ、あの時は秘密って言ってたけど何故かどうしても気になるんだ教えてくれないか」
「恥ずかしいけど……わかった、私はね―――」
月火は鼻声になりながらも、僕の問に真剣に答え始める。何故、先生として働いているか、それは月火の異能力にあった。
月火の異能力は『念写』、自分の考えを絵として表す能力である。戦闘でもサポートでも役に立つ事が出来ない異能力。
今まで月火は僕に異能力を教えてくれなかった理由がこれである、僕は両親の様になれるが月火は違う、ならばどうすれば世の為になるのか考えた。
そして考えて出した結論は先生である。若者に勉学を教え生存率を高める、すると必然的に生徒が人々を助ける機会も増えると考えた。
直接的な手助けは出来ない、だが間接的ならばと考えた結果、今先生という立場にいる。
その話しを聞き、僕は関心した。
直接助けを求める人に手を差し伸べるのだけが全てではないという事だ。
最初は僕と同じ様にサポートや戦闘をして両親の後を追いかけたかったのだろう。
「ってことなんだけど……」
「全然恥ずかしいことじゃない、立派じゃないか」
「けどお兄ちゃんみたいに私も戦えたらっていつも思うの」
「月火が戦う事が出来る異能力だったら僕は心配で仕方がないから、兄としては嬉しいけどな」
「でもお兄ちゃんだって、お父さん達みたいに……」
「二人は尊敬してる、背中を追いかけていれば怪我もするし痛い思いもする、けど僕は死なない。僕は皆を……そして月火を守る」
「言っても無駄だよね……わかった、けど無理は駄目だからね」
「約束するよ」
僕は月火と絶対に破ってはならない約束を交わした。
今日、両親の話しをし、月火が何故いま先生をやっているかも聞けた。
ならば僕は僕に出来ることをしよう。皆を守り月火を守る、怪我をしても骨折しても死にかけても立ち上がる。
そんな死なない英雄に僕はなろう―――。
少し重い回が続いています、次話くらいで少しまったり回がくるかも?
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