第二十四話 三人の英雄
あれから僕達は何度もチーム戦の練習をしていく。
だが一向に上達の兆しはない、何がいけないのだろうか見当もつかない。
周りので練習しているチームを見るが、どのチームも上手く立ち回り同士討ちをせずに動いている。
何が違うのか皆で観察しているが全員わからない様子だ。僕達は頭を悩ませていると僕達の方へ一人近づいてくる。
「よ、よぉ仁……それと皆も、練習捗ってるか?」
「親父……か、それがな上手くいかないんだ」
「どれ俺に見せてくれ」
どうやら剣心さんは既に学校に来ていたらしい。
二人の会話はぎこちなさを感じるが、前みたいに顔を合わせれば嫌悪する様な仲では無い。
そんな二人を僕は羨ましく思う。
剣心さんが来てから僕達は再び練習風景を見せる。
先程同様で同士討ちやぶつかったりで連携が乱れ、無理やり合わせようとすると動きが阻害さえぎこちなくなる。
正直、剣心さんの前で見せるのは恥ずかしい。だが見せなければ教えてもらうことは出来ない。
「うーん、そうだな。まずは―――」
剣心さんは僕達に助言していく。
まず愛莉の速さに前衛である僕と仁がついていけていない事が一番。だが長所は使うべきだと考えている。
ならばどうするかだが、仁と僕が愛莉の速さに引っ張られ通常通りの動きが出来ていないことが問題だという。
無理に自分の速度を上げ付いていき周りを確認する余裕ができなくなっている。結果同士討ちや味方同士でぶつかったり失敗する。
僕と仁の役割は詰め時や引き時を見極め相手に攻撃を仕掛ける事もあれば防御に徹する事もある。臨機応変な立ち回りが求められる立場。
そして愛莉だが一人で前に出すぎている。それで相手を一方的に混乱させる事が出来るのならいいが必ずしもそうとはいかない。
一人で特攻し、孤立した所を狙われれば仁と僕のサポートも間に合わない。そして愛莉が一番周りを把握する必要がある。
最前線で掻き乱す事も必要となるが、あくまでも後衛である二人を活かすための戦い方が一番だと感じたからだ。
後衛の遠距離での異能力は最大の武器になる。その異能力の邪魔をしていると剣心さんは考えているらしい。
次に後衛だが、渚はまだ異能力を使っていないからわからない。
拓哉は重力操作が適用される範囲の制限、それと事前に後衛なら後衛をと味方に知らせておくことも重要だ。
知らせておけば見えない範囲内にも入らないように気をつけることが出来るだろう。
「とりあえずはこんな所かな、しかし仁が太刀を持てば動きも変わるんじゃないか?」
「そっか、今は太刀がないから模擬刀でいいか……」
「まぁ太刀を使う想定をしておいてほうがいいな。通常の刀よりも刀身が長いから優君は間合いに入らないようにしなければいけなくなるよ」
「はい、わかりましたッ!」
僕達は助言をしてくれた剣心さんへと一礼する、そして再び練習へと戻った―――。
結果から言えば多少マシになった程度だが、まだ初日だ焦らずに練習を重ねていこう。
午後の授業も終わり今日の学校は終了した。
放課後、僕と仁は一緒に歩いている。向かう先は金剛さんの家。
以前、仁が金剛さんと会いたいと言っていて確認したら了承が出たので向かっている。
「金剛さんってどんな人なんだ?」
「うーん、厳しい人?かな。けど僕に色々教えてくれるし優しくもあるのか」
「なんかふわっとした感想だな。まぁいいか」
「それより着いたよ、ここが金剛さんの家」
「おぉこれが……意外と普通だ」
この家を普通と言える仁のほうが異常だ……。
金剛さんの家は都内にあるにも関わらず大きい、これを普通と言える仁の家はどんな大きさなのだろうか。
それもいつかわかることだろう、僕達は家の門をくぐり金剛さんが待っている庭へと向かう。
庭に入ると金剛さんはトレーニングをしていた。
僕より重そうなバーベルをいつものように軽々と何度も持ち上げている。
だがそれも僕達が来たことに気づいたのか無造作に地面に置く。地面に置いた衝撃で土に少し埋まったのを僕は見逃さなかった……何キロあるんだあれ。
「よぉ、来たか。そいつがこの間言っていた……」
「柳生 仁です。金剛さんに会える事を楽しみにしてました」
「あぁ、剣心とこの息子か。昔に何度か会ったことあるが覚えてないか」
「親父を知っているんですか?」
「今も時々話をするほどには仲がいいぞ、それで今日はどうしたんだ?」
「実は―――」
仁は金剛さんに質問攻めをしていた。その質問を聞けば聞くほど耳を疑う内容だ。
一人で犯罪者数人の異能力を受け止めただとか、三人の英雄と呼ばれていたのかだとか色々。
噂も含まれていたが8割は本当の事だったらしく仁は興奮していた。僕は二人の会話を話半分で聞いていると、ある人の名前に体が反応した。
「今誰って……」
「ん?龍二と大河の事か、そういえば同じ名字だが……まさか」
僕は二人の名前を知っていた、そして同じ名字。金剛さんも昔自衛隊で仕事をしていた。
何故早く気付かなかったのだろうか。その二人の名前は僕の両親と一致している、同一人物なのかは詳しい話を聞かないとわからないが、二人の名前が同時に出るという事は同一人物で間違いないだろう。
「僕の両親……かもしれないです」
「そうか、そうだったのか、優には何か繋がりを感じるとは直感で思っていたがそういう事だったのか」
「どうか、僕に二人の……二人の話しを聞かせてください」
金剛はすぐに頷くことは出来なかった。二人とは深い縁、そして優が昏睡状態だった十年間にあった出来事。
一つずつ言葉を絞り出しながら話していく。遠い場所を見ながら過去を思い出している金剛の姿は何処か切なげな表情をしていた―――。
今から話されるのは多くの人々を助けた三人の英雄の話―――。
◇◇◇◇
2040年、世界各国に降り注いだ無数の隕石。多くの人々を殺し街や自然を破壊した後の話。
日本は混乱に陥っていた。突然の災害により自衛隊は各県を周り救助活動に明け暮れる毎日。
倒壊した建物で下敷きになった人を助けては避難所への誘導を主に混乱の沈静化に全力を尽くしていた。
そしてある人々にある異変が起こる。異能力の発症である、異能力は全ての人々に発症し混乱は加速した。
混乱に乗じ犯罪を犯すもの、動物の変異により人が怪我をする事件が多発する。
そこで国は自衛隊に要請しある部隊を作ることとなる。全国から集められた精鋭達、その中に彼ら三人は居た。
金剛 敦、伊藤 龍二、妻である伊藤 大河の三人である。
三人を中心として作られた部隊で犯罪者の鎮圧に努めていく。そんな三人にも異能力が発症していた。
国は後の対異能力協会の試運転として部隊に異能力を使用を許可する。
月日は流れ毎日忙しく働いているある日の事、事件が起きた。異能力による殺人事件である。
避難所に避難していた人を殺す愉快犯、犯罪者は罪を重ねていくごとに増長していった。
そこで駆り出されたのは部隊の中でもトップである三人が選ばれる。
「相手の異能力は確認されているか?」
「まだ掴めていない、ただ殺傷能力が異常に高い事だけは確かだろう」
「それじゃ金剛の異能力が役に立ちそうじゃない、私達を守ってよね」
大河は明るく金剛の背中を叩いて言葉を投げかけた。
金剛の異能力は硬化、強度は凄まじく刃物は一切通さない程の硬さとなる。
そして硬化し鍛錬により培われた筋肉から繰り出される一撃の破壊力は分厚い鉄板ですら軽々とへこませるほど。
「期待に答えれるよう頑張るよ、それじゃ行くか」
ここが二人の分岐点であった。
もしここで行くことを辞め、月火と優が待つ場所へ帰ればまた結果は変わっていた。
今回の事件に動員された人数は三人、少数による犯罪者の無力化が任務。
犯罪者の行動パターンから現れるであろう場所は複数にまで絞られる。
その犯罪者は基本、避難している人が少ない避難所に現れては人を殺して回っている。
そして行動範囲から絞られた場所へと三人は移動した。顔もまだ判明していない犯罪者、だが大河の異能力がここで役に立つ。
大河の異能力、それは『未来予知』。思考した出来事の複数の未来が瞬間的に脳内に流れる。
その中には正解があるとは限らない、だが的中率は9割を越していた。これが大河が抜擢された一番の理由だ。
今回の事件で場所が複数に絞れたのも大河の異能力によるものである。
「ここか、鬱々としているな」
「こんな状況じゃ無理もないだろうな」
「それじゃ張り込みと行きますか」
三人は服を着替えている、一目見て自衛隊ですと主張した服装では犯人は警戒して出てくるはずがない。
あたかも避難民であるという体を装い避難所へと潜り込んだ。
ここで犯人が現れればいい、だがこの方法も後手に回る結果になる可能性は高い。
一時間、そして二時間と時間だけが流れる。
避難所では炊き出しが行われているが参加はせずに周囲の警戒をしていく。
そんな中、一人の怪しい人物を発見する。挙動不審な男、炊き出しにも参加せずに顔を覆い隠す様な大きなマスクを付けている。
周りの人はその男を警戒していない。皆は炊き出しが行われているから無理もない。
その男はコソコソと隠れるように建物の裏へと入っていく。
三人は男の後をつける、どんどん奥へ奥へと進んでいき男は立ち止まった。
何がゴソゴソと不自然な動きをしていると思っていたら男の首が膨れ上がっていく。
首から口へと膨らみは移動し、男は口から何かを吐き出した。
「ヒッ……、人だよねあれ」
大河は小声で確認するように二人に問いかける、信じがたいことだが人の体内から人が出てきた。
カエルを丸呑みにする蛇を彷彿そさせるそれに嫌悪感が増す。
男の口から出てきたのは女性だ、意識は無く唾液まみれになったその体に男が触れようとした時、龍二は誰よりも早く飛び出していた。
「おい、お前ッ!」
「ヒッ」
男は声に反応するように振り向くと顔が顕になる。
男の皮膚には鱗が生えており目には瞬膜があり細長い舌が口から出ていた。
蛇男、何かB級映画に出てきそうな化物が目の前に居る。大河は身震いをしその場から動くことが出来なくなっていた。
だが龍二は更に男との距離を詰める、その龍二の体は徐々に変化していく。
背中からは二対の翼が生え歯は鋭く鋭利に、肌は蛇男同様に鱗に覆われ始める。
蛇、と言うにはおこがましい姿、その姿は蛇というより龍である。
唸り声を上げながら駆け出す足は徐々に地上から離れ翼が上下に動き出す。
犯人はその姿に一瞬身を仰け反らせるが、すぐに龍二の攻撃に備えて防御の構えをした。
蛇とはいえ鱗は防御力を上げる、犯人は攻撃に耐えられると判断して行った行為だろう。
だが龍二は止まらず鋭利な歯で防御した腕ごと噛みちぎる。
犯人は声にならない悲鳴を上げる、痛さに悶え蹲っている所に金剛が近づき連行した。
女性はその数時間後に目を覚まし事情聴取をした所、やはり男から連れ攫わていた。
こうして無事、初任務は完了する。
この事がきっかけとなり様々な異能力事件が任務として三人に与えられる事となる。
東京都だけではない、他県へ行き事件を解決して周る日々。
時には殺人犯を捕まえ、時には放火魔を捕まえて全ての任務を遂行していく内に三人は噂として一般人にも広がり始める。これが後に伝説の三人と呼ばれるきっかけとなった。
だがある日、金剛が犯人と交戦した時、再起不能な負傷をしてしまう。
再起不能なレベルに陥り入院生活を余儀なくされた、勿論前線からも身を引く結果となる。
金剛が居ない穴を埋めるように数人が動員され、任務は続行され続けた。
金剛も病室の中で二人の武勇伝を聞くことが最近の楽しみになっていた、しかし聞けば聞くほど自分の不甲斐なさに絶望していた。
月日は流れある日、今日も二人が来るであろう時間になったが、二人の姿が見えない。
数日が経ち、数週間が経つが二人は一向に現れない。嫌な予感がする、金剛は自衛隊本部に電話をかけ二人の無事を確かめるが返答は曖昧なものだった。
だが病室でも噂が流れ始める、二人の死である。
任務中に発生した事故による死亡らしいが金剛は信じなかった。予知能力を持つ大河、そして圧倒的な力を持つ龍二のペアが簡単に死ぬはずがないと、そう思っていた。
しかし現実は違った。それは退院後に二人の墓を訪れてはっきりとわかった。
墓に掘られた二人の名、金剛は墓の前で自分が居なかったことへの後悔に泣き崩れた―――。
こうして多くの人々を助けた三人の英雄の物語は幕を閉じたのであった。
三人の英雄の話、金剛さんがリタイアした後、何が起こったのか……。
日間ランキングありがとうございます。これからも頑張って書いていきます!




