シンデレラの回想2
ひとまずこの話で回想終了です。
2016/4/10一部改変。
家族となってどれくらいの時間が経ったか。
姉達をアスタルテ姉様、シア姉様と呼ぶほど仲の良い姉妹として過ごしていたある日の事である。
父が事故で亡くなった。
あまりにも突然の家長の死に家族は涙した。
だが悲しんでいてもお腹は減るし疲れれば眠くなる。
寂しさや悲しさは確かにあったが、それでも悲しんで泣く体力を使うより家事や仕事に体力を使わなければ、食事が出来ないし洗濯物が溜まってしまう。
私達は、生きているのだから。
そして今後の生活の事も考えていかなければならない。
そういった事に関しては、家族揃って逞しかった。
元々『旦那元気で留守がいい』を地で行っている家族だったので、いなくなったことに関してはさほど問題は無かった。
おまけに、姉様達は元々質素な暮らしをしていたのでさほど大きな問題に発展する事は無かった。
ただ、生活は今までのようにはいかなくなる。
だからこそ節約のために、森の中へ入って採集作業に勤しむようになったのだった。
しばらくして、なぜか周囲から『生き神様』と崇められるようになったのは、未だに謎である。
コツコツと節約節制を心がけながらも使うところには使う。
そんな生活を続けてはや幾年。
気付けば私達姉妹は、揃って結婚出来る年になっていた。
私より姉二人はこのままの状態が続けば確実に嫁ぎ遅れと言われるようになってしまうのに、一向に浮いた話が一つも入ってこない。
だが直接聞こうものなら心配する必要は無いわ、と軽くあしらわれるに決まっている。
シア姉様に関しては、いつだったか気になる男性が居るという話は聞いた事があったのであまり心配はしていない。その後がなんだかはっきりせずうやむやにされているのが少し気になるけれど、それよりも。
最大の問題は長姉のアスタルテ姉様だ。
もしくは我が家最大の懸案事項と言うべきだろうか。
シア姉様との共通認識は、とにかく鈍い。
この一言に尽きるのである。
通りすがりに視線を向けられているのにも気付かないほどなのだ。
一時はあえて無視しているのかとも思ったが、後にまったく気付いていないだけという事が発覚した。そのとき、一部よからぬ企みから手を伸ばそうとした不届き千万な輩も存在したのだが、こちらはシア姉様と共に協力して排除していたのでなんら問題は無し。
何故あれほどまでに自分の恋愛方面に鈍いのかが分からなかったが、私達の婚期を最重要項目として掲げているので自分にそんな目が向けられているのは一切視界に入って居ないのだろう、というのがシア姉様と話し合った結論だった。
悪女を目指す、と家族の前で宣言したのはほんの思いつきからだった。
姉様は目つきの鋭さから敬遠されがちなせいなのかもと思い、ならばと考えに考えた末の方法が『悪女』だった。
虐められている人を見れば、誰だって手を差し伸べたくなるもの。姉様はパッと見は虐める側に見られがちだが、時折見せる弱弱しい部分を見れば誰だって手を差し伸べたくなるに違いない。
そう考えた末の宣言だったが、あっさり姉達に却下されてしまった。
色々と理由を考え出して説明しても、なかなか色よい返事がこないことに半ば諦め、代替案も考えなければと思っていたとき。
「それじゃあテストしましょうか」
この言葉で問答はひとまず終了となった。
まず手始めにと、悪女の笑い方をかつて劇で見たのを思い出しつつ真似したのだが、姉達に「なぜ疑問系?」「甘いわね」などと即座にダメ出しされた。
他にも色々とやっては見せたのだが、結局すべて失敗に終わってしまった。
シア姉様には「大根」と最後通牒を付き付けられ、アスタルテ姉様は「大根は煮てよし焼いてよし。いざとなったら武器にもなるわね」というコメントに困る感想をいただいたのである。ついでにその夜のおかずは大根料理のフルコースだったのはイジメでしょうか。
ともかく完膚なきまでに叩きのめされ、それでも諦め切れず縋るように姉様達を見つめていると、アスタルテ姉様が少し困ったように目じりを下げた。この姿を表に出してくれれば落ちる男もいるだろうに、と本気で考えていると、代替案として示されたのが『ごっこ遊び』だった。
そして見本として見せてもらった貴族女性の立ち居振る舞いに笑い方。
お姉さま、素敵です、綺麗です、どこまでもついて行きます!
とまあごっこ遊びをするのは何の問題も無かった……のだと思うのだけれど、どこで何を間違ったのか。
気付いたときにはすでに、周囲には『末の妹を虐める意地悪な姉達』という間違った家族の関係が浸透してしまっていたのである。
その後の誤解を解くために奔走したのは、もうさらっと流していい過去の話であろう。
誤解を解くためにがんばった結果、私達の演技が人気になったのは誰も予想だにしていなかった。
定期的に劇をやるのにはさほど抵抗は無かった。
だが恋愛方面にはからっきし鈍い長姉を狙う男達に関してはまったく別問題。
シア姉様と共に篩いにかけた。それはもう厳しい目で。
強攻策を取ろうとした愚か者には、強制的に退場してもらった。
力ずくでどうこうしようとする輩に情けや容赦、ましてや手加減なんて言葉は不要である。
幾人かは見所があったのでとりあえず姉様の所へ行く事を黙認したのだけれど、そこはやはり姉様だった。
なぜか私達を狙う輩と誤解され、結局出会いの場は流れてしまったのである。
姉様の出会いを何とか工面しようとするも、全てが失敗に終わってしまった。
だが失敗の理由は、一概に姉様一人の鈍さが原因とは言いがたかった。
最近になってもう一つ、姉様をこっそりと見守る後援者達の存在が一番の婚期を遅らせる原因なのでは、と最近真剣に考えるようになっていた。
たかが一介の市民の演劇に後援者が、と驚かれるかもしれないが、知らないうちに私達姉妹はかなり有名になっていたのだ。
だがそれを差し引いても、アスタルテ姉様限定の後援者達は一味も二味も違うのだ。
聞いた話によると、どうやら後援者達の大半が姉様と同じ時期に学校に通っていたことのある貴族子女達なのだそうだ。
その上、どの人もが名前を聞けば即座に「ああ、あの有名な」と返答が来るほどの地位を持つ方々だった。
どういう理由から姉様がそんなに慕われているのかはさっぱりわからなかったけれど、姉様を慕う彼女達は真剣だった。
姉様に、大真面目に、誑されていた。
原因も結果も理由も、はて?さて?さっぱり?な状況にも関わらず、だがはっきりしているのは、彼女達は真剣に姉様を防護すべく動いている、ということただ一つ。
姉妹である自分達にも向けられる視線は、時折恐怖を覚えるものもあったのだが、それはさておき。
そんな周りの思惑そっちのけで、アスタルテ姉様はいつも通常運転。
とある日の出来事も、姉様にとっては当たり前の出来事だった。
「あら、お久しぶりね。サリーシャ」
アスタルテ姉様が嬉しそうにそう声をかけたのは、観客の中にまぎれていた見た事もない一人の女性だった。
その名前には聞き覚えがあった。
アスタルテ姉様の後援者の一人であり、そして侯爵令嬢という身分の女性である。
だがアスタルテ姉様が声をかけた人物とかつて見た事のあるサリーシャ様との姿が結びつかず、他の誰もが首を傾げている中、アスタルテ姉様はそんな周囲の状況を気にすること無く会話を続けていた。
「今日はまた一段と変わった格好で来たわね。だからそんな似あわない格好で無く、いつも通りかいつも以上に着飾って来てちょうだいと言っているじゃない」
「ど、どなたとお間違えで」
不安そうにうろたえる相手を、だがアスタルテ姉様は優しく抱きしめ「何をとぼけているのよ」と呆れたように言ったのである。
「そんな格好をしたぐらいで私があなたを見間違えると思ったら大間違いよ。あ、そうだ。あなたも丁度いい所に来たわ。試作品があるのよ。ちょっと来なさい」
そう言うが早いか、見知らぬ女性は強制的に連行されていってしまったのであった。
もし人違いであれば、どうなることかと半ば不安になりながら二人が消えてしまった扉を見つめていると、扉の奥から「キャー」とか「おま、お待ちなさい!!」とか悲鳴のような声が上がっていたが、アスタルテ姉様の「あら、綺麗な肌ね」とか「あら、ピッタリ。胸も成長してるわね」などといった言葉から無理に押し入った場合の被害が予想できたので、生還するまで静観するしかなかった。
そしてようやく静かになり扉が開くと、そこからは可愛らしい衣装に身を包んだ見慣れた女性の姿がヨロヨロと出てきたのである。
「ほ、本当にサリーシャ様だったんだ」
「クッ、またしても」
涙目でアスタルテ姉様を睨み付けるサリーシャ様の姿に、だが周囲の男性陣は現れた可愛らしい女性の姿に目を奪われていた。
「うんうん。私の見立てに間違い無いわね」
アスタルテ姉様は、自分の作った衣装を着たサリーシャ様の姿に満足そうな笑みを浮かべ頷いていた。
悔しそうにアスタルテ姉様に色々と言っているサリーシャ様だったが、衣装のせいか怖さ半減、可愛らしさ爆発状態。それを眺めるアスタルテ姉様は笑顔でご機嫌状態。
そんな二人のやり取りが周囲の注目を集めていることに先に気づいたサリーシャ様は、顔を青くしたかと思うや顔を真っ赤にして「お、覚えてらっしゃいぃぃぃ~~~~~!!!」と意味不明な捨て台詞と共に走り去ってしまった。
「またいらしてね。今度も新しい衣装を用意して待ってるから~」
いつも通りの別れの挨拶に、周囲の観客達は最後に面白いものが見れたと満足そうに去って行った。
後日。
「姉様。シア姉様」
「なに?」
「何故サリーシャ様はあんな格好でいらっしゃられるのですか?」
「…………最初は秘密」
「はい?」
「次は意地」
「意味が、ちょっと」
「今は挑戦」
「…………えーと」
悪意があっての訳ではないのは理解できた。そこから色々と思考を廻らせ、もしかして、という回答を口にした。
「あの、最初はこっそり見に来ていて、その時に変装を見破られた事から意地になって、今では変装をいかに見破られずにいられるか挑戦している、という事なのですか?」
まさか、という思いのままの言葉に、だがシア姉様は一つ頷き「正解」と言った。
「補足。あの方が筆頭」
そう言い置いて去って行ったシア姉様の背中を眺めながら、「へ?」と間の抜けた声が出た。
筆頭。
それはアスタルテ姉様を見守る会の筆頭ということだろう。
アスタルテ姉様、一体どういう交友関係を築いているのですか!?
思わぬ疑問が噴出したある日の出来事でした。
とまあ、そんなこんなな日常を過ごしていた私達は、王宮からの招待状を受けた事をアスタルテ姉様から知らされたのである。
その後の出来事は、もう割愛させてください。
異様な気合の入ったアスタルテ姉様のドレス攻撃。
それ以上に気合が入っていたのが、義母さまのダンス教室と立ち居振る舞いの矯正講座。
舞踏会近くまでのスパルタに、姉妹揃って魂抜けそうになったけれど、ほぼ完璧な仕上がりとなりました。
そして私のために作った力作よ、と満面の笑みでアスタルテ姉様に言われて差し出された衣装の一式は、正直売った方がいいお金になるのでは、と思ったのは一生の秘密です。
最高傑作なのよ、という言葉と共に久しぶりに姉様の胸に押しつぶされた出来事は、もう蛇足です。
こんなのでいいのかなぁ?
とりあえずサリーシャのその後の様子をちょこっと。
***
「くやしぃぃぃ~~~!!!」
「お嬢様。本日の衣装もとてもお似合いでございますよ」
地団太を踏みそうな様子の令嬢に、傍に控える侍女は冷静なコメントを返した。
「……衣装に、着られてない?」
「いいえ。あの方の用意されている衣装は、毎度の事ながらすばらしいの一言に尽きます。むしろ、別の心配を……」
最後の一言はあまりにも小さかったために、令嬢の耳には届かなかった。
「ならいいわ。じゃあ、このまま散策に……」
「やあやあ、今日も君によく似合う衣装に身を包んでどこへ出かけようとしているのかな」
「ヒィッ!!!」
唐突に現れたのは、腐れ縁というか幼馴染というか、当人が未だ認めたくない婚約者だった。
「(ああ、やっぱり捕まったか)。ではお嬢様、これにて失礼します」
「え!?(み、見捨てないでっ)」
「あまり遅くならない時間に帰してくださいね(無理です。諦めてください)」
「当然だよ。じゃあ行こうか」
令嬢と侍女の視線の会話に気づいている婚約者は、そんな事を気にするでなく問答無用で令嬢を連れ出したのだった。
***
ってな感じですかな。
ちなみに、令嬢のお部屋には今まで貰った服のコレクション部屋があります。




