表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

第4話

「おーおー、うじゃうじゃ居るな」

 下に降りた俺は、今度は余りの敵の多さに思わず感嘆の吐息を漏らす。


『ガルルルルルル!!』

 直径3メートルの道にざっと見ただけで10匹は居るだろう。

 ちょうどブラックウルフの平均くらいの群れだ。

 というか全部ブラックウルフである。

 奴らは縦に2、3匹ずつくらいの感覚で並んでいた。


 なんとなく原因を察した今日この頃である。


 だが、迷宮と考えると通路でこの数は異常だ。

 偶に部屋にあるトラップで出る魔物の混成軍団(モンスターハウス)で見るのなら分からないでもない。だが、通常通路に出現する魔物の数は迷宮の通路の広さにもよるが、多くても平均的に3、4匹である。


 隙間なく配置している今の状態は異常と言っても過言ではない。

 というより、そもそも魔物が階層を移動するなんて初めて聞いた。


 今の俺のバグ状態と関係あるのか?


 まあそれはともかくとして、いくらなんでも居すぎじゃないか?

 しかも全部、獣。


 間違いなくあいつ(ネメア)の所為だな。


 そんな事を考えていると、痺れを切らした先頭の1匹が飛び出したのを皮切りにして、ブラックウルフたちが俺に襲い掛かって来た。

 俺はそれに対し、落ち着いて塵芥を鞘から抜き放つ。


「【縮地】」

 俺は一瞬で距離を―――詰められなかった。

 スキルが発動しない…!?


「グルァアア!」


「ちっ」

 ブラックウルフの噛みつきをかわし、塵芥で横一線に薙ぎ払う。

 ブラックウルフは胴体を分断され、血をまき散らしながら(・・・・・・・・・・)地に落ちる。


「血だと…?」

 奴らは、動揺する俺に考える隙など与えないかの如く、群れで襲い掛かる。

 次々飛びかかってくるのを、かわし、時には迎え撃ち、だが余裕をもって対処していく。

 こいつら如きの猛攻など、上位プレイヤーであったコクランの敵ではない。

 流れ作業の様に、長年積み重ねた技術を淡々と発揮して、処理していく。



 俺は混乱していた。


 確かに俺がやっていたのは昨今では珍しくも何ともないVRMMO———バーチャルリアリティである。

 だが、処理速度や情報量の関係で血の情報を一々表現する余裕なんて無かった筈だ。

 死体がポリゴン片になって消えないのもおかしい。


 どうみても本物だ。


 こんな生々しいグラッフィク表現を俺が気絶している間に再現が可能になったのか?


 いや、それはいくらなんでもありえない。


 1日…いや、仮に1週間倒れていたとしよう。

 だが、それでもそんな短時間でここまで進化できる訳がない。


 どうなっている?


 気がつけば、絶え間なく迫って来ていたブラックウルフの群れは、すべてが(むくろ)となって転がっていた。

 こんなに気が散っていても無意識に染みついた動作が体を動かし、俺は敵を(ほふ)っていた。


 周囲に漂う(おびただ)しい数の死の臭い。

 それは正しく―――本物だ。


 不思議と嫌悪感の様なものはない。


「匂いのグラフィックで血の表現なんて無かった筈だが」

 血の匂いを表現するゲームなど、あのFPSゲーでも倫理面の観点から規制対象である。

 硝煙の臭いやダメージシステムもそうだが、R指定されたゲームでも人体に影響を及ぼすとして禁止事項だ。


 可能性とし浮かぶのは、何らかのバグの影響で諸々のリミットが外れている。

 もしくは何らかのアップデートにより新しく追加された機能。

 あと思い浮かぶのは、ありえないだろうが大穴で異世界トリップ…それぐらいだ。


 我ながら単純な思考回路で、他にも可能性はあるのかもしれないが今の俺にこれ以上は浮かばない。


 まず、常識的に考えてアップデートが浮かぶ。

 だが、先ほど述べたように倫理観点の問題からこの可能性は低いだろう。


 異世界トリップなど論外だ。

 ネタで思い浮かんだようなもので真面目に考えるのもアホらしい。


 一番可能性があるのは今の俺のステータスから判断して何らかのバグだろう。


 そう自己分析し、俺は先ほどのスキルの事について考える。


 スキルの不発。


 スキルの発動方法は2種類ある。

 声に出して発動する詠唱型と頭の中で発動する思考詠唱型だ。


 声に出す詠唱型はいわゆる初心者が使う使用方法だ。

 イメージが出来ない初心者がスキル誘導を頼りに使う。

 スキル誘導とはスキルを自動でアシストしてくれるシステムの事で、玄人プレイヤーはこれをアシストなしで発動する。


 思考詠唱は中堅の上位で使える奴は使え、上級者はできて当たり前、寧ろできる事が上級者への一歩と言われている技術だ。

 思考詠唱とは頭の中でスキル発動をイメージし、なおかつその処理に思考と体が追いつけるか否かで決まる、中堅から上級プレイヤーへの登竜門―――いわゆる壁だ。

 ここでプレイヤーはまず躓く。

 スキルのイメージをしながら体は別の動作をしなければならず、上手く動けないのである。


 例えるなら、右と左で違う動きをするような感じだ。

 因みに、ピアノ等両手を別々に動かすことに普段から慣れているプレイヤーは例外で、割と簡単にできるようだ。


 だが、そういった例外を除き、他の奴らはまずここで苦労して挫折していくのだ。


 俺もこれには苦労した。

 覚えるのに大体1月くらいはリアルでも意識しながら生活し、やっとできるようになった。

 今思えばいい思い出である。


 そんなスキルだが、俺が今使った発動方法は詠唱型だ。

 スタミナが不足していない限り失敗はありえない発動方法である。


 スタミナ不足。


 それもありえない。


 俺みたいに廃人プレイをしている奴が、碌にスキルを使っていない今の状態でなる訳がない。

 可能性としてネメア戦が思い浮かぶが、最後にエリクサーを飲み、全快状態で【真名解放】をしている為、その可能性は極めて低いだろう。

 俺の【真名解放】の代償は体力ゲージであり、スタミナは使わない。

 移動に使ったその他諸々のスキルを含めてもそんなに使っていないのだ。

 よって、その線は消える。


 ならば、なぜ発動しなかった?


 思えば、あの勝手に体が動くような感覚、違和感があるスキル誘導がなかった。 


 どうなっているんだ?



「とりあえず、思いつく限りの検証を一からしてみるしかないか」

 幸い回復アイテムは豊富に残っている。

 無くなっても類似効果のある緊急用アイテムを使えばいい。


「ボス戦前に色々やることができたな」

 俺はそう呟いて周りの惨状を見渡す。


 まずはこの死体をどうするか、だな。















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ