第5話
死体をインベントリに収納できないかと色々と試したところ、拍子抜けするくらい簡単に収納できた。
手に触れて収納と念じるだけで良いみたいだ。
インベントリ内にはブラックウルフ×13と表示されている。
どうやら13匹も居たらしい。
で、収納する時にまた謎が増えた。
「まさか体温があるとは」
まるで本当に生きていたかのように、ブラックウルフにはほのかな温かさがあった。
これはゲームの時にはなかった仕様である。
「まあ、血が出ていたんだからそれくらいで驚くのも今更か」
そう結論を出した俺は、今度はそのまま軽く走ってみたり跳んでみたりしてみる。
スキルも何もない、軽い動作の確認のつもりであったが、効果は違った。
軽く走っただけなのに、予想していた速さよりも早く走れて勢い余って躓きかけたし、軽く跳んだジャンプは1メートルをゆうに超えた。
まるで重力が減ったかのように。
「確か重力設定は地球と同じだった筈だよな」
そう言えばこころなしか体も軽い気がする。
これもバグの影響なのだろうか。
考えても分からないことは、とりあえずバグと断定して棚上げしておくことにする。
「次はスキルか」
先ほど発動しようとしたスキル【縮地】は発動しなかった。
【地図作成】が出来た事から全く発動しないという訳ではないようだが。
【縮地】とは指定した範囲を一瞬でショートカットできる移動系上位のスキルの一つだ。
だが、単体で使用する場合、動いたあとにクールタイムで少し止まるというデメリットがある。
これは何も【縮地】だけに限る話ではない。
移動補助スキルに限らず、全てのスキルには程度の差こそあれ、クールタイムというものが存在する。
序盤の敵は単体のスキル発動でも十分問題はないが、中盤以降はそうも言っていられない。
スキルを使って倒すことが前提として作られた魔物、だがクールタイムが足を引っ張り上手く活かせないスキル。
そんなジレンマの中、その隙を補うためにプレイヤーが編み出したのがクールタイムに入る一瞬のタイミングで重ねて派生スキルを使うチェインというコンボを繋ぐ技術である。
タイミングはとてもシビアだが、できるようになれば戦術の幅が広がる画期的なものだった。
発見された当初は玄人向けと言われていたこの技術だが、時間を経た今、この技術は初級プレーヤーから中堅プレイヤーへの登竜門と言われ、割とポピュラーになっている。
さて、俺は今からその技術を含めて色々試そうと思っている。
まずは、
———【縮地】。
思考詠唱で縮地の発動を念じてみる―――が、予想していた通りでやはり発動しない。
ここで一つの仮説を立ててみた。
今度は自分が移動するイメージを強く思い浮かべ、もう一度念じてみる。
移動場所は、とりあえず5メートルくらい先でいいか。
———【縮地】。
俺は一瞬で距離を詰めることに成功した。
「なるほど」
自分の仮説が正しかったことに笑みを浮かべる。
単純な話だ。
俺のさっきのスキル発動は、何も考えずにただ漠然と使用しただけだった。
だから上手く発動しなかったのだ。
だが今回は移動先を明確にイメージして使った、
だから発動した。
今ので調子を掴んだ俺は思いつく限りの他のスキルも試してみることにした。
そのまま1時間くらい感覚を掴むべく移動しながらスキルを試して、試せる範囲でどれも問題なく発動することを確認した俺は、いよいよ本番に移る。
言わずもがな‘‘チェイン‘‘である。
いきなり難度の高い事をしようとしても失敗するのが目に浮かぶため、自分が一番慣れ親しんでいるコンボを試すことにした。
そこまで考えた時、遠くの方でスキルにまた【気配察知】の反応があり、敵がこちらに移動してくるのが分かった。
この【気配察知】は、最初にブラックウルフを感知した時の様に、どうやら自動で発動するらしい。
感知範囲は……自分を起点に凡そ100メートルくらいだな。
あとで任意発動できるかも試さないといけない。
そう胸中で呟き、敵に意識を傾ける。
敵の数は―――2か。
ちょうど良い、こいつらには犠牲になって貰おう。
【縮地】を使って最高移動範囲である15メートルを移動し、着地する一瞬のタイミングでスキル【韋駄天】を発動し加速する。
———できた。
高速で流れゆく変わらぬ景色を越えて、敵を見つける。
凡そ100メートルはあった距離を、この間5秒も経過せず移動する。
明らかにゲームの時よりも速く移動できた。
<ガイコツ(剣)>
生前の死者の魂が成仏できずに骨となり蘇ったモノ。
生前に使っていた剣を使いこなす。
その見た目に反して素早い動きをし、敵を一刀の下に切り伏せる。
<ガイコツ(弓)>
生前の死者の魂が成仏できずに骨となり蘇ったモノ。
生前に使っていた弓を使いこなす。
その見た目に反して素早い動きをし、敵を翻弄しながら相手を打ち抜く。
意識を傾けだけで相手の情報を閲覧できるとか、前より便利だな。
やはりアップデート…ないな。
それはともかくとして、
ガイコツシリーズか。
それぞれ違う武器を装備してパーティーを編成する厄介な魔物だ。
お互いがそれぞれの特色を生かしてフォローをし合うため、初級から中堅プレイヤーのパーティー戦用の練習相手として重宝されている。
だが、単独だと上級プレイヤーでも油断したらちょっと危ない敵でもある。
この場合の危ないとはダメージを受けるという意味であり、こいつら程度のダメージなら【自動回復】の方が早く、いくらでも喰らって大丈夫だ。
平均的には4、5匹で出てくるのだが、幸い相手は2匹、問題ない。
「「ケタケタケタケタ」」
ガイコツどもは獲物を見つけて嬉しいのか不気味に歯を打ち鳴らし、ガイコツ(弓)は朽ちかけている弓を構え、ガイコツ(剣)は錆びついた剣を構えてこちらに向かってくる。
相手との距離は凡そ5メートル。
本来ならここで更に【縮地】を使って距離を詰め、倒すところだが、今回はあくまでスキルの実験、ここから色々と試してみる事にした。
「【影縫い】」
相手の影が持ち主を拘束するイメージ。
瞬間、剣を持っていたガイコツの動きが止まり、弓を放とうとしていたガイコツは弓を構えた状態で固まった。
突然動かなくなった自分の胴体を見て戸惑っているガイコツ達を見て、発動したことに安堵する。
ちゃんとイメージしていれば拘束系スキルも問題なく発動するようだ。
拘束時間を超える前にまずは一体片付ける―――【居合い】。
鞘から素早く抜刀された塵芥が抵抗なく剣を持ったガイコツを縦に切り裂く。
ガシャンッ!
纏っていた錆びた鎧と剣が骨ごと地に落ちて動かなくなった。
こいつらみたいに下位のアンデッドは再生する能力を持ち合わせていない為、核を破壊せずともしばらくしたら自然と体力が無くなり消滅する―――ゲーム内では…だが。
一応核を破壊しない様に切り裂いたからそれは自ずと分かるだろう。
そう判断して弓を持ったガイコツに向き直る。
弱すぎて手ごたえがなさすぎるな。
いや、油断はしない方が良いか、今は何が起こるか分からないんだ。
慎重に行動するに越したことはないだろう。
弓を持ったガイコツの、弓を持った腕を念には念を入れて切り飛ばし、拘束時間が切れるまでの時間を計る。
オプション機能が無いため時間が分からないが、別に大体の目安が分かればそれでいい。
ゲーム内の拘束時間は凡そ10秒。
そのまま油断なく塵芥を構え、俺はガイコツ(弓)を見据えた。
10秒経った。
拘束が解ける気配はない。
そのまま更に5秒…10秒…1分と経つが解ける片鱗すら見えない。
ついでに後ろのガイコツ(剣)はピクリとも動かない。
更に時間が経った。
1分は5分に、5分は10分へと変わるが、ガイコツ(弓)は微動だにしない。
おまけに後ろも。
それから更に20分が経つと、さすがの俺も剣を下してただ見守るだけになった。
「いや、さすがにそろそろ解けろよ」
思わずそうぼやいた途端、拘束が解けた。
拘束から逃れたガイコツに慌てて止めを刺す。
こいつは核ごと切り裂いた。
「任意で解除ができるのか」
ゲームにはなかった機能だ。
そもそも10秒程度の拘束を解除なんてする必要が無かったとも言うが。
今のは無意識で呟いたが、俺の心情をスキルが認識したと判断していいのだろうか。
「あとはこいつか」
後ろの核が残っているガイコツ(剣)。
相変わらず微動だにしない。
さすがにここまで経っても動かないところを見ると、もうこれ以上は意味がないだろう。
そう判断し、一応核を破壊しつつ、残骸を回収する。
ガイコツの骨×2
錆びた鎧×2
錆びた剣×1
朽ちた弓×1
「………!」
戦利品を確認していた俺の耳に、突如として何かが聞こえてきた。
「なんだ?」
息を殺し、周りに意識を傾けてみるが、辺りは痛いほどの静寂に包まれている。
「気のせいか」
そう判断して移動しようとした時、
「………っ…」
その声は聞こえた。
「今のは……人の声か?」
俺は目を閉じて、聴覚にすべての意識を集中させる。
「…………くっ!」
今度はより明瞭に聞こえた。
結構遠いみたいだが確かに聞こえる。
スキル【聴覚強化】が発動したようだ。
「…っ、あっちか!」
俺は音の聞こえた方に向かって【韋駄天】を発動した。
高速で流れゆく景色を超えて【多段ジャンプ】を発動し、空を蹴って更に加速する。
………間に合えよ。
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