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AIは敗戦を知っている  作者: E


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第四十四章 届いた警告

一九四二年一月二十三日夜


タラカンから出たバリクパパン攻略船団は、輸送船隊の十六隻を中心に編成されていた。バリクパパン沖で上陸を進めるその船団には、その夜、日付と敵の隻数まで書かれた警告が届いていた。


「二十四日未明、米海軍駆逐艦四隻が接近するおそれあり。船団の近くまで侵入し、魚雷および砲撃による夜襲を行うとの申告あり」


輸送船十六隻の名簿と、攻撃の原因を分けた被害の一覧も添えられていた。南阿丸は空襲、敦賀丸は潜水艦。米駆逐艦の夜襲で失われるとの申告があるのは、須磨ノ浦丸、辰神丸、呉竹丸の三隻だった。


第四水雷戦隊司令官の西村 祥治少将は、軽巡洋艦「那珂」でその文を読み直した。那珂を旗艦として複数の駆逐艦をまとめる部隊で、攻略部隊を運ぶ船の水上護衛を担っている。前日に内地から届いた知らせには、情報の出所が確認できないことも、以前の申告が結果と一致したことも、併せて記されていた。


すでにオランダ軍機の攻撃で船団に被害が出ている。今夜も警戒すべきものは、空と海中と海面にあった。出所不明の申告だけで、護衛態勢をただちに大きく変えるわけにはいかない。だが、米駆逐艦四隻が来るという情報を持った以上、海面の艦影を見る目は変わる。


西村は、輸送船が錨を下ろして上陸作業を進める泊地の周囲について、第二根拠地隊からの連絡にも目を通した。司令官の廣瀬 末人少将は、掃海艇で機雷を除き、哨戒艇や駆潜艇で周囲を見張り、潜水艦を警戒する部隊を率いている。西村の水上護衛と並んで、泊地周辺の安全を確保する役目だった。


「今夜は敵駆逐艦による夜襲の情報がある。不明艦影を認めたら、敵艦の可能性を特に考慮しろ。確認と通報を急げ」


西村の指示は配下の艦艇へ伝えられた。警告の真偽はまだ分からない。現地で動く者が、見たものから判断するしかなかった。


その紙が佐世保からここへ届くまでには、いくつもの机を通っている。


* * *


前日の一月二十二日。黒馬 禎との面談を終えた司令長官・谷本 馬太郎中将の手元には、本人のメモと、佐世保鎮守府参謀長・山口 儀三郎少将がまとめた申告記録があった。


従来の六件の一致に続き、第五十二播州丸も予告どおり沈んだ。警告は判断する側まで届いたが、行動の変更にはつながらなかった。


黒馬本人の身元も、どうやって知ったかも、依然として分からない。その男が今度は、二日後のバリクパパン沖を告げている。


当時、東京には海軍省と軍令部があった。海軍省が人員や装備、予算など組織を支える仕事を扱う一方、軍令部は作戦と用兵を扱う。佐世保鎮守府司令長官の谷本に、南方で行動中の護衛部隊を直接動かす権限はない。だが、作戦を扱う側へ情報を上げることはできた。


谷本は、作戦を扱う軍令部第一部の部長、福留 繁少将へ電話をつながせた。


「谷本です。福留少将、急いでお伝えしたい情報があります」


黒馬という民間人の名を出し、軍事・外交・民間航空機事故にわたる六件の一致と、第五十二播州丸の経緯を説明した。


受話器の向こうから、福留の声が返る。


「情報源は、今も分からんのですか」


「分かりません。本人の身元も完全には確認できていません」


谷本は不明点を伝えたうえで、黒馬のメモに沿って新しい申告を説明した。


二十三日の航空攻撃で南阿丸が沈没し、辰神丸が損傷する。二十四日未明には、オランダ潜水艦K-XVIIIの雷撃で敦賀丸が沈む。


その後、米海軍駆逐艦四隻が船団の近くまで入り、魚雷と砲撃で夜襲する。須磨ノ浦丸、辰神丸、呉竹丸の三隻が沈没し、第37号哨戒艇が大破する。球磨川丸と朝日山丸には、砲撃による損傷が出る。


輸送船十六隻のうち五隻を失い、十一隻が残る。ただし、残る朝日山丸と球磨川丸には損傷がある。谷本は夜襲の三隻だけを抜き出さず、黒馬から聞いた全体を伝えた。


「黒馬は、現在の船団や護衛の配置、現地の命令は知らないとはっきり言っています。こちらから配置を指図する材料ではありません。しかし、結果が出るまで手元に置ける情報でもありません」


しばらくして、福留の声が戻った。


「電話の話だけで作戦を変えることはできません。記録と申告を正式に送ってください。出所が分からない点も付けたままで」


「承知しています」


「作戦の側へ、警戒すべき情報として流します。現地の配置を見て何をするかは、そちらの指揮官が決めることです」


電話のあと、谷本は山口を通じ、メモと申告記録、過去の一致と不明点をまとめた資料を正式に送った。


福留も、軍令部の第一部で受け取ったものを命令に書き換えなかった。聯合艦隊司令部へ、記録を伴う警戒情報として回したのである。聯合艦隊は海上の主要な作戦部隊を統べ、その先には南方作戦の指揮を担う側があった。


第二艦隊司令長官の近藤 信竹中将は、南方部隊を率いていた。情報はその系統から、蘭印方面の攻略を担う第三艦隊司令長官、高橋 伊望中将へ進む。佐世保の民間人が口にした日付は、ここでようやく、現地を動かせる側の手元に近づいた。


高橋は、出所と現在の配置が不明であることを確かめた。そのうえで、過去の実績と、攻撃別の被害予告に目を通した。


「輸送船団を守る側へ渡す。こちらの警戒情報として扱わせろ。現在の配置に照らす判断は現地に任せる」


西村と廣瀬は、輸送船十六隻の名簿と被害予告を受け取った。二十四日未明、米駆逐艦四隻が船団のすぐ近くまで入ってくる。その情報を持って、二人は夜を迎えた。


* * *


一月二十三日夜、バリクパパン沖。


空襲で南阿丸が失われたあとも、船団は上陸を続けていた。沖に停泊する輸送船から舟が岸へ向かい、周囲では第37号哨戒艇などが警戒に当たる。船の明かりは抑えられ、見張りは暗さの中に目をこらした。


西村は敵水上艦艇への注意を命じたまま、潜水艦への警戒も緩めなかった。廣瀬の側でも、泊地周辺の艇へ米駆逐艦四隻による夜襲のおそれを知らせていた。どちらか一つの脅威だけを見て済む夜ではない。


日付が二十四日に変わってほどなく、オランダ潜水艦K-XVIIIの魚雷が「敦賀丸」を襲った。船が沈む。その被害も申告には記されていた。だが潜水艦の現在位置までは分からず、警戒している海を魚雷が抜けてきた。


「潜水艦を追う。だが船団側の水上警戒は解くな」


西村の命令で、護衛の一部が対潜の対応へ向かった。輸送船を守る海面には間が生じる。それでも、米駆逐艦四隻が接近するという警告は残っていた。泊地周辺の見張りは、海面上の艦影にも目を配り続けた。


未明、不明の艦影が複数、泊地の近くへ入ってきた。味方の護衛が行き来する海で、すぐには敵と断定できない。だが今夜は、米駆逐艦四隻が来るという情報がある。敵かもしれないという疑いが、被害の報告を待たずに強くなった。西村は艦影の確認を急がせ、その方角へ護衛を向けさせた。


「誰の艦か確認しろ。応答を待つ間に、輸送船へ水上敵の警報を送れ」


警報は輸送船へ伝えられた。すべての船がすぐに動けるわけではない。上陸の最中で、沖には舟もいる。米艦はすでに近かった。


護衛が十分に近づく前に、爆発が起きた。「須磨ノ浦丸」が被雷し、暗い海面に火が上がる。米駆逐艦四隻は船団の間へ入り、魚雷を使っていた。続いて「辰神丸」も被雷して海へ傾く。第37号哨戒艇にも魚雷と砲弾が届き、大破して戦列を離れた。


警告が届いていても、夜襲を消せたわけではなかった。


だが、爆発が起きてから初めて水上の敵を探し始めたのではなかった。先に伝わった艦影の報告で、護衛はすでに向きを変えていた。西村は水上艦への対応を急がせ、廣瀬の部隊も敵艦の位置を伝える。対潜の対応は続いている。それと並んで、船団へ入り込んだ四隻を追う動きが始まっていた。


米駆逐艦は魚雷を放ったあとも、船団の中で針路を変え、別の船へ攻撃を重ねようとした。そこへ護衛の砲火が近づいた。最初の接近で味方の可能性だけを考えず、敵駆逐艦を疑って動いた。その分、米艦が船団内で攻撃を続けられる時間は短くなっていた。


「呉竹丸」の甲板では、砲声が近づくたび、船員が暗い海へ目を向けた。史実では、夜襲の後半にこの船も魚雷と砲撃で沈められていた。だが今夜、米艦の一隻がさらに輸送船へ寄ろうとしたときには、護衛が水上戦闘に入り始めていた。米艦はその砲火に対処しながら離脱を急ぎ、呉竹丸へ有効な攻撃を加える機会を失った。呉竹丸は上陸の作業をいったん止めたが、沈まなかった。


米艦を捕らえて沈めたわけではない。船団には火が上がり、海には人がいる。助けを求める声と、敵を見失ったという報告が続いた。西村は被害の確認と救助を命じた。


夜が明け始め、被害の報告が集まった。球磨川丸と朝日山丸は損傷し、第37号哨戒艇は大破していた。呉竹丸は、浮いている船の側に残った。


出港時の十六隻から失われたのは、空襲の南阿丸、潜水艦の敦賀丸、夜襲の須磨ノ浦丸と辰神丸の四隻だった。予告では十一隻になるところが、この朝は十二隻残った。


第一分隊では、りぱぷーる丸、日照丸、愛媛丸、朝日山丸、日帝丸、球磨川丸の六隻。第二分隊では、はばな丸、漢口丸、帝龍丸、呉竹丸、金耶摩山丸、藤影丸の六隻である。朝日山丸と球磨川丸は損傷を抱えていたが、失われた船とは分けて数えられた。十一隻と十二隻の差は、呉竹丸の一隻だった。


黒馬 禎は、まだ佐世保でこの結果を知らない。彼の査定も終わっていない。谷本にも福留にも、夜の現場の細部が直ちに届いたわけではなかった。


呉竹丸では、止めていた上陸の作業を再開するため、船員たちが甲板へ戻っていた。四隻が失われた海に、それでも一隻は残った。


戦闘結果の第一報が、現地から上級司令部へ送られ始めた。詳しい被害は、確認のたびに続報となる。その行く先には、戦闘前に中央まで届いた黒馬 禎のメモと申告があった。


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