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第9話 我らの血が王の道を作るのであれば

「とりあえず……魔物が1匹でいるところへ案内しろ」


 光の矢があらわれた。


 魔人形態になり、ムギンと二人で飛びながら矢の後を追う。


 何度か角を曲がるとゴブリンを発見した。


「デカいな」


 E級のゴブリンにくらべて筋肉質。

 身長は170センチくらいはあるだろう。


 さらに剣まで持っている。


 ゴブリンウォーリア。D級の魔物だ。


「グギャ? グギャウ!」


 ウォーリアは俺の姿を見つけると剣を構えながら走り出す。


 さすがに剣は怖い。

 斬られたくないので余裕を持ってよける。


 振り下ろされた剣をよけることに成功……と思ったが、ザクリという嫌な感触が背中から伝わってくる。


「ミスった……!」


 後ろを振り向くと黒い右翼がばっさりと中ごろから切断されている。


「ゲギャギャ!」


「ぐッ……!」


 翼のケガに動揺したところに追撃をくらう。

 剣をガードした右腕がスーツごとざっくりと斬られる。


 明らかに劣勢な俺を見てゴブリンウォーリアは嗜虐的しぎゃくてきに笑った。


 3度目の攻撃。

 とどめのつもりで振り下ろしてきたであろう剣を今度は左腕でガードする。

 剣が腕に食い込むが骨までは届かない。


 そこで動きをとめたウォーリアの胸めがけて右の貫手を突き入れる。


「グギャア!?」


 爪はゴブリンの皮膚を貫いた。


「……これか?」


 臓器や骨とは違う感触を見つけ、引き抜く。


 確認するとビー玉程度の大きさの魔石だった。


 ゴブリンウォーリアはそのまま地面に倒れた。


『王よ、ご無事ですか?』


「あぁ、ケガも……もうすぐ治る」


 斬られた腕を確認すると、傷口から黒い羽根がこぼれ落ちている。

 その羽根を一枚手に取ると、幻のように消えてしまった。


 傷口はじわじわと閉じていき、最終的には完治してしまった。

 スーツも同じように修復されている。


 背中の黒い翼を確認すると、切断面からカラスの死体がずるりと抜け落ちた。


「なん、だ?」


 そのカラスと引き換えに、俺の翼は急速に復元されていく。


「確か前に言ってたよな、俺の傷はお前らが背負う……みたいなことを」


『その通りでございます。王が支配下においたカラスどもが、王の傷を肩代わりしております』


「傷が深ければ、こいつみたいに死ぬってことか?」


 俺は今しがた翼からこぼれ落ちたカラスの死体を見つめる。


『王が気にされることではございません。我らの血が王の道を作るのであれば、我らは喜んで命を捨てまする』


 俺は別にカラスという生き物が好きなわけではないが、動物全般は好きだ。

 口の中に苦い味が広がるような気がした。


「なるべくケガしないように立ち回るつもりだけど……これからも遠慮なくダンジョンには入るからな」


『もちろんでございます。我らに対する気遣いは侮辱ですぞ』


「そうか。ちなみに、俺が即死するような攻撃をくらった場合はどうなる? 例えば、頭をいきなり吹き飛ばされるとか」


『その腕や翼と同じように癒えるでしょう。そして世界のどこかでカラスが1羽、息絶える……ただそれだけのことでございます』


「そうか……。ん? 結局どういうことだ? この世にカラスがいる限り、俺は死なないってことか?」


『理論上はそうですな……。ともかく、そういった事情もあるので、この世界のカラスたちを支配するのは急務でございます』



 ひとまず地下4階のゴブリンも倒せそうなことがわかったので、今日はもう帰ることにした。


 階段をのぼり3階へ戻ると、さきほど会話したパーティがまだそこにいた。


 槍を持った背の高い男が俺を見て笑う。


「あれ? あんたもう戻ってきたのか。ハハハ、まだ実力不足だったか?」


「あぁ、そんなところだ。あんたらは……失礼、名前を聞いても?」


「あぁ? あぁ、オレは遠藤だ。このパーティ『炎天下えんてんか』のリーダーをやってる」


「そうか。あんたらはここに泊まるのか?」


「おう。この階で……準備運動でもして、明日にはオレたちも4階へ潜るつもりだ。おっさんはE級だろう? 4階以降はD級の魔物が出るって知ってるよな? 甘くねえぞ」


 挑発するような表情の奥に、ちらりと自信のなさが見えた。

 おそらくE級かD級にあがったばかりのパーティなのだろう。



 彼らに別れをつげたあと、今度はカラス形態になってダンジョンをのぼっていった。

 もう今日は魔物を倒す気はない。

 であればカラス形態のほうが楽でいい。


 あっという間にダンジョンの出口までたどり着いた。


 ダンジョンを出る前に、俺の部屋から手頃なサイズの袋をムギンに取ってきてもらった。

 そして、魔石を回収してくれていたカラスたちに出てきてもらい、魔石を袋に入れる。


 ダンジョンを出て、協会の建物へ入った。


「魔石の換金をお願いします」


「あぁ、サラリーマンの人……生きてたんですね。って、なんですこれ?」


「なにって魔石ですが」


「なんでスーパーの袋に入れてるんですか。こんなのに魔石入れてる人なんて見たことないですよ」


 ぶつぶつ言いながら受付嬢は換金処理を進める。


「換金額は合計3万円ですね。かなり無茶なペースですけど、ケガとかしなかったですか? 防具もつけてないみたいですし」


 死ぬリスクを背負って稼げる金額としては少ないような気もするが、E級なので仕方ない。


「ケガはないです。防具はそのうち考えます」


「そうですか……。明日以降も潜るなら、E級の魔石を今日と同じくらいと、あとD級の魔石をもう少し収めるようにしてください。そうすれば探索者ランクをD級にあげられますんで」


「明日はD級の魔石だけ集めようと思ってたんですが、E級の魔石も必要なんですね?」


「ランクをあげるために必要な個数がありますからねぇ。規則ですよ」


 少し予定が狂うけど仕方ない。

 明日も3階までのE級ゴブリンたちでウォーミングアップをしてから4階へ進むか。



 協会を出て、人気のない場所まで移動し、カラス形態へ変化する。


 ふわりと空へ舞い上がる。

 ダンジョン内とは違い、空が広くて気持ちいい。


『道案内』で自分の家をナビゲートさせながら、ぐんぐんスピードをあげていく。


 体感でしかないが、あきらかに普通のカラスが出せるスピードではない。

『カラスの王』でステータスが上昇しているおかげだろう。


 今後、電車などを使わなくても目的地まで一直線に移動できるようになったのはありがたいことだ。



 自分のアパートに戻り、風呂に入ってさっぱりしたところでムギンを呼び出す。


「ムギン……あと、手が空いてるブラッククロウも5羽でてきてくれ」


『ここに』


 カァカァと部屋が少しうるさくなった。


「近所迷惑になるからあんまり鳴かないでくれ。とりあえず1羽はこのアパートの屋根の上で待機、もう1羽はベランダで待機。残り3羽は部屋の中で待機しろ」


 5羽のカラスたちは、カァ? とあまりよくわかってない様子だ。


『もう少し具体的に何をしてほしいか伝えてもよろしいかと』


「そうだな……まずお前、いや、いつまでも『お前』と呼ぶのもめんどうだし名前をつけるか」


 1号、2号……は、さすがにかわいそうか。

 カラスA、カラスB……も、かわいそうか。

 いや、ひとひねり加えれば……。


「お前らは今日からアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーだ」


「「「「「カァ」」」」」


「よし、アルファは屋根の上でこの部屋や俺に対して害をなそうとするものがいないか監視しろ。ブラボーはベランダで同様の任務を」


 ベランダへの窓を開けてやると、アルファとブラボーは外へ出ていった。


「チャーリー、デルタ、エコーは基本的にこの部屋に待機。俺が遠隔でこの部屋から物を持ってきてほしいときとかに指示を出すからそのつもりで」


 部屋のすみに小さなボックスをいくつか置いた。

 魔石用、飲食物を保存する用、スマホや鍵などの小物を置いておく用、などだ。


 チャーリーたちにはここを利用してもらうよう伝えた。



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