第10話 雨照の3人組
カラスたちの配置が決まったところで、次はムギンにたずねた。
「公安の様子はどうだ?」
『例の女の家は判明しましたが、公安のビル自体はやはり中を確認することができず……』
例の女というのは、俺に名刺を渡してきた石塚氏のことだろう。
「その女のスキルとかはわかるか? 俺に接触してきたときみたいに、外で仕事することもあるだろう。その時にスキルを使った形跡は?」
『スキルも不明です。荒事にでも巻き込まれない限りスキルを使うこともないでしょう』
「俺や俺の家を探る様子は?」
『それも今のところありませぬ』
「そうか……」
特にこちらが問題を起こさない限り積極的にからんでくることもないらしい。
引き続き警戒は必要だが、優先度を下げよう。
それよりも本命は雨照のほうだ。
「雨照の様子は?」
『クランの拠点である渋谷ヒカリエに出入りする探索者はすべて監視をつけております。現時点で約200人ほどですな』
「200か。さすがに多いな。しかも探索者だけかつ、近場のメンバーだけでそれくらいか。おそらく遠方のメンバーは立ち寄らないし、監視できてるのは半分以下と考えると……500人くらいはいそうだな」
それに加えて、バックオフィスや経営幹部も合わせると関係者は1000人以上でもおかしくない。
大企業みたいなものだ。
個人で相手にするのは馬鹿らしい。
そんな大きな組織に所属しているせいで、俺を殴った3人も気が大きくなっていたのだろう。
しかも、雨照のやっかいなところは、その組織の大きさだけじゃない。
強さだ。
『雨照』のクランマスターである雨宮は日本でも数人しかいないS級の探索者らしい。
カラスたちが身代わりになってくれることもあって、俺は死ににくい体になった。
もしかしたらS級と戦っても生き延びられるかもしれないが……。
S級の雨宮や、クラン全体に目をつけられるのは避けたほうがいいだろう。
あくまでひっそりと、あの3人組だけを相手にして落とし前をつけさせる。
「雨照の探索者の中に3人組の男はいたか?」
『はい、主に3人で行動しているオスの集団が2つあります』
「見てみるか」
俺の中に意識を集中すると、カラスのネットワークのようなものを感じる。
それに対して『雨照の3人組はどこだ?』と問いかけると、すぐに『カァ』と返答があった。
返答があったのは2か所だ。
まず、1か所目に意識を集中すると、コンビニの駐車場でたむろする3人組の男が見えた。
「うーん、こいつらじゃないな。次だ」
2か所目に意識をやると、次は薄暗い路地で電子タバコを吸っている男たちが見えた。
「……ッ! こいつだ……こいつだよ……覚えてるぞ、その顔……」
『見つけましたか、王よ』
「あぁ、よくやってくれた。この3人に対する監視を増やしてくれ。こいつらの行動パターン、得手不得手、すべて丸裸にしてやれ」
『御意。現時点でわかっていることとして、こやつらのパーティ名はフラッシュ・フラッド。リーダーは刈り上げの男で、ボクシングをたしなんでおり、スキルも素手の格闘に向いたものが発現しているようです』
「こいつか……」
ツーブロックのような刈り上げた髪型をした男の顔を確認する。
あの日、残業の帰り道。
俺を殴ってきたのはこいつだ。
そういえば、綺麗にアゴに一発もらって気絶したっけ……。
ボクシングの技術のせいだったのか。
「で、他のメンバーは?」
『長髪の男は弓系スキルの持ち主で後衛担当。残る一人、スキンヘッドの男はバフ・デバフを使い二人を支援する魔法使いです』
「なるほど。まともにやりあうにはめんどくさそうな相手だな……パーティのランクは?」
『C級ですな』
C級というと……さきほどまで俺が潜っていたゴブリンダンジョンの9階に出るゴブリンジェネラルがC級だったはずだ。
「ゴブリンジェネラルを倒せるようになって、探索者ランクがCに上がったら、リベンジ戦といこうか」
『この3人が王の敵ですか。殺るのですかな?』
「いや、いきなりそれはない。まず謝らせて、一発殴らせてもらうつもりだけど……相手の出方しだいではありうるかもな」
翌日も朝から奥多摩のゴブリンダンジョンへ向かった。
受付で手続きをした後、ダンジョンへ入り、周りに誰もいないことを確認する。
背中から翼を生やし、手足をかぎ爪に変化させた。
「よし。ムギン出てこい」
『ここに』
ついでに俺の部屋に待機してもらっていたチャーリー、デルタ、エコーも呼び出す。
バサバサと俺の体から飛び出した3羽のカラスは行儀よく俺の前に着地した。
「チャーリーたちは俺が殺したゴブリンの魔石を回収しながらついてこい」
「「「カァ」」」
黒翼で飛びながら、『道案内』の矢を追いかける。
最短距離を進みつつ、道中で出会ったゴブリンは皆殺しにしていく。
全速力で飛ぶとさすがに魔石の回収が間に合わないので、ほどほどのペースで1階、2階、3階とどんどん下っていく。
昼前には4階に続く階段へ到着した。
階段のそばにはたき火の形跡が残っているだけで、人影はない。
昨日出会った『炎天下』とかいうパーティはいないようだ。
チャーリーたちを待ちながら、少し休憩することにした。
ムギンに俺の部屋から水と魚肉ソーセージを取ってきてもらい、一緒に分けあって食べた。
「4階からはさらに5羽のブラッククロウを呼び出して戦闘の手伝いをしてもらおうと思うんだけど、空いてるヤツはいるか?」
『いくらでもおります。王のためなら、世界中のカラスが集まりますぞ』
「世界中って、まだ日本すら支配しきれてないのにおおげさな……って、もしかして」
『まだ残党がおりますゆえ途中ですが、日本のカラスはほぼすべて支配下となりました。また、国外にもすでに部隊を向かわせております』
「聞いてないぞ……」
詳しく確認すると、日本はもうすでに北海道も沖縄も含めて在野のカラスを支配ずみらしい。
さらに、近いところでは韓国や中国にはすでに上陸して、支配を広げ始めているのだとか。
ムギンの予想では、1か月もあれば世界中のカラスを支配できると豪語している。
とりあえず、余裕はあるそうなので5羽のカラスを呼び出した。
「「「「「カァ」」」」」
「よし、お前らは……どうせ今後も呼ぶだろうし名前をつけとくか」
Eまで使ったから、次は……フォックストロットか?
長いな……フォックスでいいか。
カラスなのにキツネみたいでモヤっとするけど、まぁいいだろう。
「お前らはフォックス、ゴルフ、ホテル、インディア、ジュリエットだ」
「「「「「カァ」」」」」
「作戦らしい作戦は特になし。基本的に俺がメインで戦うから、お前らは隙をついて攻撃したり、挑発して敵の邪魔をしてくれ」
『王よ、我はどうすれば?』
「ムギンはたぶんこいつらより強いよな? ならまだ出番はなしかな。こいつらの補助くらいじゃないか?」
『そんな、ご無体な!』
「よし、チャーリーたちも追いついたし、もうそろそろ行くか」
ムギンをなだめすかしながら、カラスたちとともに地下4階へ降りていった。




