第11話 炎天下
ゴブリンダンジョン地下4階。
ここからはゴブリンウォーリア、ゴブリンアーチャー、ゴブリンスカウトが出てくる。
3匹でチームを組んで徘徊しているのが嫌らしい。
剣を持ったウォーリアに対処していると、いつの間にか背後に回り込んでいたスカウトにナイフでやられる。
なんとかその二匹に対処していると、さらに遠くからアーチャーが弓で邪魔をしてくる。
何度か遭遇して覚えたパターンだ。
俺はケガをしてもカラスたちのおかげですぐに治るので、ゴリ押しで一匹ずつ倒していくことも可能だろう。
だが、それでカラスたちが傷つくぐらいなら、最初から仲間として戦ってもらったほうがいい。
敵を見つけたら、すぐに斥候としてカラスたちに突撃してもらうことにした。
「まず目を狙え」
フォックスたちは動物のカラスよりは強いが、魔物としては弱い。
D級のゴブリンウォーリアたちが相手では軽傷をおわせるのがせいいっぱいだ。
だが、さすがのゴブリンも目を狙われると嫌がるのか、フォックスたちへの対処を優先する。
そのすきに、俺がサクサクと殺していく。
どうやらかぎ爪になった手は握力がことさら強くなっているらしく、ウォーリアの頭を手でつかむと簡単に粉砕できてしまった。
目をつぶされて手をふりまわすしかなくなったスカウトも足の爪でひとなですれば首が飛ぶ。
最後に残ったアーチャーは翼の勢いで繰り出した飛び蹴りで壁にぶち当てて終わりだ。
じょじょに効率化しつつ4階を突き進んでいると、何度目かの戦闘中に異変が起きた。
それまで静かだったムギンが警告を発したのだ。
『王よ、人間が来ました』
「なに?」
ムギンの視線を追うと、鍾乳洞の薄暗い通路の先に人影が見えた。
4人組、槍を持った男が影から顔を出した。
「チッ……あいつらか。めんどくさい」
昨日、からんできたパーティ『炎天下』だ。
『どうしますか?』
「今はいい。ひとまずゴブリンどもを片付けてからだ」
魔人形態もカラスたちも見られてしまったので、開き直ってさっさとゴブリンたちを皆殺しにした後、チャーリーたちに魔石の回収を指示した。
「カァ」
地面に倒れたゴブリンの胸をつつきはじめたチャーリーたちを見て、戦闘が終了したと判断したのだろう。
炎天下のメンバーたちがこちらへやってきた。
「よぉ、お疲れ! 見てたぜ今の戦い」
「そうか」
「なぁ、その体なんなんだ? なんてスキルだ?」
スキルは探索者の生命線。
聞かれて答えるわけがないし、そもそも聞くのはマナー違反だ。
「なぁ、別に減るもんじゃないしいいだろ? そのカラスたちもあんたのスキルなのか?」
「さぁな」
チャーリーたちが魔石を回収し終えた。
「じゃあな。俺はもう行く」
「はぁ? おい、ちょっと待てよ。先輩の質問にはちゃんと答えたほうがいいんじゃねぇのか?」
探索者としては先輩だろうけど、年齢でいうと俺より年下に見える。
「カラスは俺の仲間だ。もういいだろ、どいてくれ」
「まぁまぁ落ち着けって。あんたなかなかやるみたいだし、オレらのパーティに入らないか?」
槍を持ったリーダーらしき男は、悪気のなさそうな顔で、そう言った。
あたりを見渡すと、いつの間にか炎天下のメンバーは俺をかこむように立ち位置を変えていた。
全員がニヤついた顔で俺の返答を待っている。
このパーティに俺が入った未来を想像してみる。鳥肌が立った。
「断る」
「なんでだ? D級パーティだぜ。あんたまだE級だろ? オレらの仲間になれば今日にでもD級にあがれるんだぞ」
「俺は自分の力だけでもD級にあがれる。メリットがない。お断りだ」
「なら、そのカラスをレンタルしてくれないか? 索敵とかに使えそうだし」
レンタル。
確かにそれなら、いつかやってみてもいいかもしれない。
自分以外の探索者たちの戦い方を学べるかもしれないし、自分の身を危険にさらすこともない。
なんらかのメリットはあるだろう。
もっとも、どれだけ金をつまれようが、こいつらには貸したくない。
「断る」
「はぁ……なんなんだよ、お前さっきから。調子乗んなよ、クソがッ!」
男は八つ当たりするように槍を振り回した。
「カァ!」
「チャーリー!」
槍は近くで待機していたチャーリーの首を切り落とした。
チャーリーとのつながりのようなものが消えた。死んだのだろう。
「ぷっ、なんだよチャーリーって。そいつの名前か?」
炎天下のメンバーたちは全員笑っている。
「なぁ、今、お前は何をしたんだ?」
「ハハハ……あぁ? なんだよ、カラス一匹死んだくらいで怒ってんのか?」
「死んだじゃなくて、お前が殺したんだよ、俺の仲間を。パーティメンバーを」
「このカラスがパーティ? 友達がいなさすぎて頭がおかしくなったんじゃねぇの?」
まだ彼らは笑っている。
俺は頭が真っ白になった。そして、その後すぐに怒りも悲しみも消えていた。
「わかった。一人でいい」
「あぁ? 一人って? 何言ってんだよ」
「お前らの中から誰か一人の命を差し出せ。そうすれば許して……いや、許せはしないが、この場は収めてやる。理性的な俺に感謝しろ」
「ハァ~!? こんなカラス一匹と人間の命が釣り合うわけねぇだろ!」
さすがに炎天下の奴らも笑うことをやめ、とまどったような表情を見せ始めた。
俺は槍の男に問う。
「お前がリーダーか?」
「あ? そうだけど?」
「お前の右腕でもいい。お前の右腕を今ここで切り落としたうえで、土下座して謝るならそれでもいい。それが飲めないなら、やはり誰か一人に死んでもらう」
「ハァ~? あのなぁ、たかだかカラス殺されたくらいでガタガタうるせぇんだよ。意味わかんねぇこと言いやがって。おいっ、お前ら、もう行くぞ」
「待て、話は終わってない」
「チッ……うっせ……ってなんだそれ!?」
「なにがだ……あぁ、これか」
急に驚いた顔をするので、何かと思ったが、なんのことはない。
いつの間にか俺の顔が魔人形態になっていたようだ。
視界の下半分に黒いくちばしが見える。
「きゃあー! バケモノ!」
炎天下の女メンバーがさわぎだした。
リーダーの男は俺に向かって槍をかまえる。
「で、どうするんだ? お前が右腕を置いていくのか? それとも誰か死ぬか? 俺はどっちでもいい」
ブツリ、と音を立てながら何かが俺の腹を通過した。
下を見ると、腹から矢が突き出ている。
後ろをふりむくと、炎天下の女が弓をかまえていた。
こいつがうったのか。
「おい、どういうことだ?」
「エリカ、よくやった! エンチャント・ファイア! くらえッ!」
リーダーの男は付与魔法の使い手だったらしい。
炎につつまれた槍が俺の胸を貫通する。
胸のあたりから炎が全身に燃え広がっていく。
「グッ……!」
槍が引き抜かれ、蹴り飛ばされた。
俺は地面に倒れこむ。
「へっ……バカなおっさんだぜ。ダンジョンの中で、ソロ探索者が生きていけるわけないだろうが……! こういうこともあるから来世ではちゃんとパーティ組めよ! ハッハッハッ!」
「ねぇ、こいつの死体どうすんの?」
「放置でいいだろ。4階までくるヤツなんてめったにいないし、ゴブリンが処分してくれるだろ。E級のくせに調子に乗って4階に挑んだおっさんは無事返り討ちにされましたとさ……ってストーリーだ」
炎天下のメンバーは地面に寝転がった俺を見下ろしながら何やら会話を続けている。
この醜い生き物たちはなんなのだろうか?
俺でなければ死んでいた。
こいつらはいつもこんなことをやっているのか?
やはり探索者は、こんな奴らばかりなのか?
『王よ……』
そばにやってきたムギンが静かに話しかけてきた。
無表情のカラスでしかないが、その感情は痛いほどに伝わってくる。
「ムギン、こいつらを逃がすな」
『御意。者ども、出あえ出あえ! 敵の退路を防ぐのだ!』
俺の体から爆発するような勢いで大量のカラスが飛び出した。
「きゃぁ! なに!? なに!?」
「生きてんのかこいつ!?」
「ぐわッ! 伏せろ!」
カラスたちの勢いで俺の体についていた火も消えたようだ。
矢もいつの間にかなくなっている。誰かが抜いてくれたらしい。
胸に空いた穴もふさがっている。
だが、俺の体のかたわらには、治療のために命を差し出してくれた数羽分のカラスの死体が転がっていた。
俺は体の感触を確かめながら立ち上がる。
「おいッ、こいつ生きてるぞ!」
燃えてボロボロになったスーツも自動で修復されはじめている。
「なんなんだよこいつッ……おい、全員逃げるぞ!」
「無理! カラスが……カラスが道をふさいでて通れないよ……!」
胸と腹の穴がふさがったことを確認した俺は、まず弓を持った女の首をへし折った。
「きゅグッ……ィ…………」
「きゃーー! エリカッ! いやぁー!」
「てめぇー! なにしやがるッ!」
リーダーではないほうの男が剣で俺を襲ってきた。
軌道がバレバレ。ゴブリンウォーリアより剣の扱いが下手だ。
軽く剣を避けたあと、男の頭を握りつぶした。
「きゃぁー!」
さっきから叫んでばかりの女はおそらく魔法つかいだが、腰に装備している杖も握らず腰を抜かして地面に座り込んでいる。
ちょうどいい位置にあるので、足の爪で女の頭をもぎ取った。
残るはリーダーの男ただ一人。
「待て待て待て待てッ! ごめんって! あ、あやまるから……」
男は槍を手放し、土下座をしはじめた。
「なぁ、あやまる! 見逃してくれよ……金が欲しいのか!? 全財産やるから!」
男は体をぶるぶると震わせながら泣いている。上目遣いが気持ち悪い。
「右腕は?」
「は? み、右腕ぇ……?」
「あぁ、最初に言っただろ。お前の右腕か、誰か一人の命か選べって」
「あ、あぁ……悪かったってぇ……オレがバカだった! なぁ、反省してるし、これ以上はもういいだろぉぉ……」
「このごにおよんで右腕がおしいのか?」
「いや、クソッ……わかったよぉ……右腕もやるよぉ……だから、命だけは……」
「最初からそうすれば誰も死なずにすんだのにな……もう遅いけど」
「え?」
男の頭をふみつぶすと、グシャリという音をたててつぶれた。
「ムギン、目撃者は? 近くに人はいるか?」
『おりませぬ』
「そうか。ありがとう。ところで、こいつらの死体はどうしようか……」
『我らはカラス。死体処理のプロですぞ?』
「なるほど……まかせた」
『御意』




