第12話 D級昇格
『炎天下』たちが逃げないように退路をふさいでいたカラスたちは、ムギンの号令で一気に炎天下メンバーの死体に群がった。
まるで溶けるようにして肉が消えていく。
骨もくちばしで細かくくだいてカラスたちの腹のなかへ消えていく。
数分後、武器や服だけがそこに残されていた。
「服はさすがに食えないか」
『腹を壊しまする』
「手分けして運んでくれ。ゴブリンたちにプレゼントしよう」
『道案内』で「最短経路から外れた位置にいるゴブリン集団」を見つけ出し、カラスたちにそこまで炎天下の装備を運んでもらった。
ゴブリンたちは突如あらわれたカラスの集団に混乱していた。
服や槍だけ残してカラスたちが去っていくのを見て、さらに困惑しているようだった。
カラスの目を通してこっそり観察していると、ゴブリンたちは炎天下の防具を身に着けたり、槍をふりまわしたりしはじめた。
お気に召したようだ。
「さて……チャーリーの死体はどうしようか……」
炎天下の後処理が終わったあと、そこに残ったのは槍で殺されたチャーリーの死体だ。
魔物だからといって魔石を抜き取るのも違う気がする。
かといってこのまま放置して他の探索者に魔石を抜かれるのはもっと嫌だ。
「ムギン、どうすればいいと思う?」
『放置すればダンジョンに吸収されますが……王がよろしければ復活させることも可能です』
ブラッククロウにそんなスキルはなかったはずだが、これも俺のスキルの影響だろうか。
「具体的にどうすればいいんだ?」
『我らは王の代わりに命を捨てまする。それと同様に、誰か別のカラスを犠牲にしてチャーリーは復活させることができます』
「結局、世界のどこかでカラスが死ぬってわけか」
俺はあらためてチャーリーの死体を見る。
はっきりいって、チャーリーと他のカラスの違いはよくわからない。
なにせこいつらと一緒にすごした日がまだ浅い。
仮に、1年ずっと一緒にすごせば、ちょっとした癖や鳴き声の違いで判別できるようになるかもしれないが……。
今死んでいるチャーリーとは別のカラスを呼び出して、そいつにチャーリーと名付ければすむ話ではある。
だが、なにか違うなという気もする。
名前を付けるというのはやはり特別な行為なのだろう。
愛着がわいてしまっている。
「起きろ、チャーリー」
「……カァ!」
チャーリーは何事もなかったかのように、起き上がった。
俺が望んだ。
見知らぬカラスより、目の前のチャーリーの命を選んだのだ。
「ムギン、それにアルファからジュリエットまでの10匹は、今後死んでも他のカラスを犠牲にして蘇るようにしてくれ」
『御意。王がそう望むなら、その通りになるでしょう』
炎天下とのやり取りでざらついた心を静めるため、無心でダンジョン攻略を進めた。
4階を抜けて5階へ突入。
5階ではゴブリンたちは5匹の集団になって襲ってくる。
フォックス、ゴルフ、ホテル、インディア、ジュリエット、ちょうどこちらも5羽いるので、まず1羽で1匹受け持ってヘイトを買ってもらう。
カラスたちがゴブリンをおちょくりながら攻撃を避けている間に、俺が1匹ずつ殺していく。
チャーリー、デルタ、エコーも投入すればもっと効率的になるのかもしれないが、この3羽はあくまで魔石回収班として役割をわけた。
『道案内』で階段までの最短経路を飛びながら進み、ゴブリンを見つけたら殺す。
作業のように戦闘をこなし、気づいたときには7階の階段まできていた。
「止まれ。ちょっと休憩しよう」
さすがに疲れたので、チャーリーたちに俺の部屋からカルパスとノンアルコールビールを持ってきてもらった。
酒は好きだがさすがにダンジョン内で酔う気にはなれないのでノンアルだ。
運動の後に塩辛いカルパスと冷たいビールはかなり効く。
「はぁ……うまいわ。……なんか悪いな、お前らは何か食べたり飲んだりしないのか? 持ってきていいぞ?」
『魔物ですから基本的に飲食は不要ですが、もしよろしければ、王が昨日部屋で飲んでいたルートビアなるものを所望します……!』
「あぁ……。えっ? あんなもん飲めるのか? いや、俺は好きだけど……」
『えもいわれぬ香りがいたしました』
あの湿布みたいな匂いは俺も好きだけど、動物が飲んでも問題ないのだろうか。
チャーリーたちにお願いしてルートビアを持ってきてもらった。
プルタブを開けるとダンジョン内にひろがる甘ったるい湿布臭。
鍾乳洞のでこぼことした地面に、ちょうどよさそうなくぼみを見つけたので、そのくぼみにルートビアをそそいでやる。
『おぉ、では王よ、遠慮なくいただきまする』
ムギンだけでなくチャーリーからジュリエットまでの8羽も一緒になって飲み始めた。
『やはり! この香り、この甘さ、すばらしい飲み物ですぞ、王よ!』
「カァカァ」「カァ」「カァ!」
「そ、そうか……」
休憩を終えて、地下7階への階段を降りる。
ここからはまた新しい魔物が出る。
「『道案内』、1匹で活動している魔物の場所まで案内しろ」
あらわれた光の矢にしたがい進んでいくと、ローブを着たゴブリンを発見した。
手には杖を持っている。
「ゴブリンメイジ。魔法を使うらしい。ひとまず俺だけでやるから下がってろ」
『こういうときは王のほうこそ、下がるべきなのですが……』
しぶるムギンを無視して、俺だけ飛び出した。
遠距離攻撃が主体なら、近接戦に持ち込みたかったが、ムギンたちとの会話でこちらに気づかれていたようだ。
あと数メートルというところでメイジの魔法が発動した。
「ゲギャギャ!」
ソフトボール大の火球が俺めがけて飛んでくる。
だいぶん飛行にも慣れてきた今の俺であれば、空中で火球を避けることも可能だ。
しかし、少し思うところもあり、あえてそのまま体で受けた。
「やっぱり……燃えるのはスーツだけか」
炎天下のリーダーに火をまとう槍で刺されたときも、スーツは燃えていたが体に生えた羽毛は燃えていなかった。
「ゲヒ!?」
火球をくらいつつも減速せず、そのままゴブリンメイジの頭をつかんで地面に叩きつける。
頭はスイカのように破裂した。
「なぁムギン。八咫烏って火に強いのか?」
『申し訳ございません。我もそこまでは存じておりませぬ』
「そうか。まぁいいや。とりあえず7階の様子見もできたし、今日はもう帰ろう」
帰り道ではゴブリンを無視するつもりなので、魔人形態からカラス形態に変化した。
その後、最短距離でダンジョンの入口に向けて飛び続けた。
さすがに地下7階まで来てしまうと、戻るだけで大変だ。
もうそろそろ泊りでの活動も視野に入れていいかもしれない。
外に出るとすでに夕方だった。
ダンジョン横の協会で魔石を提出する。
受付はいつものあまりやる気のなさそうな女性だった。
「わぁ、結構魔石ありますね。ソロでこれはすごいですよ」
「そうなんですか? それより、こんだけあればD級にあがりそうですかね?」
「余裕であがりますよ。タグをお借りしますね」
数分後、Dと刻印された探索者タグが返ってきた。
「おめでとうございます。このペースで行くとC級もすぐいけそうですね。その前に死ななければですけど」
「死ななければって……」
「ダンジョンは何が起こるかわからないし、いくら強くてもパーティは組むべきだと思いますけどねー」
受付嬢は、めずらしく少し強い口調だった。
そういえば、炎天下の連中も『ダンジョンの中で、ソロ探索者が生きていけるわけない』だの、『来世ではちゃんとパーティ組めよ』だのと言っていた。
結局、パーティである彼らはソロの俺に殺されてしまったわけで、あまり説得力はないが。
「ソロでもパーティでも死ぬときは死ぬでしょう」
「はぁ……そんなに他人を信じられないんですか?」
「信じている仲間くらいは俺にもいるんで。じゃ、今日は帰ります」
翌日もまた朝からダンジョンへやってきた。
前日に微妙な空気になってしまった受付嬢がいないことを祈ったが、祈りは通じなかった。
「おはようございます、高木さん」
「……おはようございます。毎日勤勉ですね」
「それはこちらのセリフですが? それより、すみません……ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
受付嬢は、俺をからかうような表情から一転して、顔を曇らせた。
「はい、なんですか?」
「昨日、ダンジョン内で4人組のパーティを見かけませんでしたか?」




