第13話 公安の監視
「4人組というと……あぁ、炎天下ですか?」
「……! そうです。実は昨日探索から戻る予定だったのですがまだ戻ってきておらず」
「さぁ、2日前に会いましたが、昨日は会ってないですね」
「そうですか」
「今回は2、3日ダンジョンに潜る予定なので、見かけたら報告しますよ」
俺は自分の表情を読み取られる前に、さっさと協会を出た。
午前中いっぱいかけて、地下7階まで降りる。
ゴブリンを無視して移動だけについやしても半日かかってしまった。
7階で1番最初に遭遇したのは5匹の集団だ。
ゴブリンウォーリア2匹が前衛。
ゴブリンメイジとゴブリンアーチャーが後衛。
そして、後衛2匹を守るようにしてゴブリンガードが盾を構えている。
盾は邪魔だが攻撃力はなさそうだから無視。
ウォーリアも遠距離攻撃はないから、カラスたちにまかせていい。
であれば、
「ムギンと俺でメイジとアーチャーをやる。フォックスたちはそれ以外と遊んでろ」
「「「「「カァ」」」」」
フォックスとゴルフはゴブリンガードへ突入した。
ガードはカラスのくちばしを盾で受けとめた。
当然、貫くこともなく、ダメージは皆無。
だが、大きな盾は小回りがきかないようで、2羽のカラスによる連続攻撃に防戦一方となる。
ホテル、インディア、ジュリエットの3羽はウォーリア2匹の周りを飛びながら騒いでいる。
カァカァカァカァと鍾乳洞のダンジョンでは鳴き声がよく響く。
「ゲギャァ! ゲギッ!」
剣をふりまわしても届かないのと、鳴き声のうるささでウォーリアたちは怒り狂っている。
「よし、ムギン。俺たちも行くぞ」
『御意』
ヘイトを買わないようにあえてカラス形態になった俺は、天井すれすれを飛んで敵後衛のさらに後ろまで移動する。
「ゲギィ! ゲギャ!」
カラスたちに夢中な前衛組とは違って、メイジとアーチャーは俺とムギンに目をつけたようだ。
すぐに弓矢と魔法が飛んでくる。
矢はムギンへ。魔法は俺に向かっている。
ムギンは天井すれすれから体をひねりながら一気に急降下し、矢を避けた。
そのままアーチャーに向かって突貫。
「ゲギッ!?」
ムギンのくちばしはアーチャーの目に突き刺さり、そのまま頭をぶち破って粉砕した。
さすが元ボスガラス。
フォックスたちと比べると戦闘力は段違いだ。
俺のほうに飛んできた魔法は石でできた弾丸のようなものだった。
空中で魔人形態になったおれは飛んできた石弾を足のかぎ爪でキャッチする。
「うぉ……!?」
勢いで体が一回転するも、逆にその遠心力を利用し、
「返すぞ」
「ゲギッ!?」
サッカーボールのように飛んでいった石弾はメイジの腹に突っ込んだ。
腹を押さえてうずくまったゴブリンメイジの首を踏み折り、とどめを刺す。
あとはいつもの流れ作業だった。
カラスたちがヘイトを買っている間に、俺が1匹ずつ殺していき、敵は殲滅した。
7階で戦闘経験をつみ、慣れ始めたころには8階の階段までたどり着いた。
その時点で、夜になっていたので階段の近くで眠ることにした。
「階段の近くは魔物が来ない安全地帯になっているらしいけど、一応、寝ずの番をたてるか……。さすがにムギンたちには休んでもらって別のカラスを呼んだほうがいいか?」
『王に名をいただいた我らであれば、いつまでも働けますぞ。現にアルファとブラボーは毎日夜通し監視業務にあたっております』
「あっ。そういえばそうだったな……あいつらのこと忘れてたわ。悪いことしたな。あいつらは大丈夫なのか?」
『ただ監視しておるだけですからな。問題ないですぞ』
俺の住んでいるアパートの屋上から監視してくれているアルファと、ベランダから監視してくれているブラボー。
2羽からは何も報告がないので放置してしまっていた。
まず、アルファに感覚を同期してみると、静かな夜の街が見えた。
「おい、アルファ。特に怪しい人とかは来なかったか?」
『人間。来ない。ネコ。ハト。邪魔。』
「おぉ? しゃべれるようになったのか。ネコやハトは追い払うくらいにしとけよ。殺すなよ」
『了解』
ムギンほどではないが、名づけをすると強さや知能が向上するのかもしれない。
なんにせよ怪しい人物はいないみたいだ。
次はブラボーに同期する。
「ブラボーはどうだ? 特に怪しい人は来なかったか?」
『人間。来ない。人間。窓。見てる。その後。見てない』
「……なに? お前がいる窓を誰かが見ていたってことか? どこからだ?」
『あそこ』
ブラボーが視線を向けたのは、俺のアパートからだいぶん離れた場所にあるビルの屋上だった。
そういえば鳥は目がいいんだったか?
イーグル・アイなんていう表現もよくあるし、おそらくカラスも目がいいのだろう。
「そのビルの屋上に誰かがいて、お前のほうを見ていたってことか?」
『そう。オス。黒い服。王。同じ服』
「……公安か? おい、ムギン、石塚は? 公安の女はどうなってる?」
『あの女は自宅と職場のビルを往復するだけで、王の家には近づいておりませぬ』
あの女が単独で仕事をするわけでもないし、同じチームの中で監視をしているということか。
「ブラボー、アルファも、次にそういう人を見つけたら、すぐ俺に報告しろ」
『『了解』』
公安と決まったわけではないが、ほぼ間違いないだろう。
俺の家を監視しているくらいなら、当然、俺が最近このゴブリンダンジョンに通っていることも把握しているだろう。
まさに今、このダンジョンの中に潜って追いかけてきているかもしれないし、すぐそばにいるかもしれない。
もしかして、『炎天下』の奴らを殺した場面も見られていた……?
「なぁ、ムギン。昨日、俺が探索者を殺したとき、本当に近くには誰もいなかったんだよな?」
『えぇ、誰もおりませんでした。我らは目がいいので、姿を隠す能力を持っている相手でもある程度は見抜けますからな』
「あー、なんか聞いたことあるぞ……たしか紫外線も見えるんだったか。なら大丈夫か」
『ただし……光を調整して姿を隠す程度であれば見抜けるのですが、もっと強力なスキルを持っている者もおりますからな……確実とは言い切れませぬ』
おそらくムギンが言っているのは、事象干渉系スキルと存在干渉系スキルの違いだろう。
光学迷彩のように姿を隠すスキルがあった場合は、光の反射という事象に干渉する。
もし、そこにいる存在そのものを一時的に消すスキルがあった場合は存在干渉系にあてはまる……のか?
このあたりは以前調べたもののあまり理解できなかった。
もしかしたら、もう一つの情報干渉系スキルなのかもしれないが……わからん。
ちなみに俺のように体が変化する魔人スキルは存在干渉系スキルにあたる。
「まぁ、なんでもいいか。ダンジョン内でのもめ事は自己責任だし、今の時点で逮捕されてないのであれば、たぶん大丈夫だ」
『なにがあっても我らが守りますが……今のうちに公安の奴らの弱みでも握っておきましょうか? すでにあの女については一つ弱点らしきものを見つけましたぞ』
「石塚に弱点?」
『えぇ。あの女、家の中では下着姿ですごすのですが、胸の谷間あたりに、何かに貫かれたような傷跡があります。胸が大きすぎて巧妙に隠されておりますが、あれはかなり致命的な攻撃を過去に受けた痕跡であり』
「おいおいおい、ちょっと待て、お前らは何を監視してるんだ! あいつの家に侵入したのか!?」
『いえ、窓の外から確認しただけですが……』
ということは、石塚は下着姿なのに窓を開けて生活してるのか?




