第14話 ゴブリンジェネラル
公安の石塚に関する衝撃ニュースを聞いた次の日、地下8階を攻略した。
出てくる魔物は7階と変わらなかったため、効率化をはかりながらスピード重視で進んだ。
結果、2時間で走破した。
そして、いよいよ9階へ足を踏み入れる。
「広いな……」
鍾乳洞のようにでこぼことした薄暗い空間ではあるが、今までとかなり毛色が違う。
8階までは人が3人通れるくらいの洞窟が延々と続いていた。
ところが、9階はドーム状の広い空間になっていた。
学校の体育館くらいの広さはあるだろうか。
ドームのちょうど真ん中あたりにはゴブリンの集団が待機している。
E級のゴブリンも含め、ここまでの道のりででてきたゴブリンたちが陣形を組んでいるのだ。
まず前衛として、盾を構えたゴブリンガードが10匹ほど整列している。
そのすぐ後ろにはゴブリンウォーリアがやはり10匹ほど剣を構えて、今か今かと待機している。
そのさらに後ろではメイジとアーチャーがおり、弓や杖を構えている。
そして、その後ろには今まで見たことない大きさのゴブリンが1匹、腕を組んでこちらをにらみつけていた。
「デカイ……2メートルくらいありそうだな。あの真ん中の奴が……」
『ゴブリンジェネラルですな。手下どもを指揮する力を持っております。やっかいですぞ』
ゴブリンジェネラル。
C級の魔物である。
あの日、俺を殴った雨照の奴らがC級探索者ということもあり、このダンジョン内での目標として定めた相手だ。
こいつを倒せるなら、奴らも倒せるはず。
このダンジョンの集大成のようなものだ。
もっとも、このさらに下、地下10階にはB級のゴブリンキングがいるので、ダンジョン自体は終わりではない。
だが俺がぶん殴りたいのはゴブリンキングじゃない。雨照だ。
ひとまず、今日、あのゴブリンジェネラルを倒せたら区切りとしていいだろう。
「さて、どう攻めるか」
『王であれば、一人でも倒せると思いますが……損耗を減らすのであればフォックス以下5羽だけでなく、さらに召喚するのがよいかと』
「そうだな、一度にどれくらい召喚できるのかの実験もかねて、やってみるか」
相手のゴブリンはだいたい30匹くらい。
ならひとまず100匹で攻めてみるか。
「お前ら、出てこい」
俺の中にいるカラスたちに意識を通じて命令すると、体中からカラスが次々とあふれ出した。
カラスたちはそのまま9階ホールの上空を旋回しはじめる。
暗雲がたちこめるように、ホールの上を埋め尽くすカラスたち。
ただでさえ薄暗いダンジョンがさらに暗くなった。
『王よ、我らも行きます。作戦はどのように?』
「俺は最初からゴブリンジェネラル狙いでいく。お前らはジェネラル以外が俺のほうに来るのをおさえてくれ」
『御意』
ムギンとフォックスたちも飛び立ち、上空のカラスたちに加わった。
俺も魔人形態ではなくカラス形態に変化し、カラスたちの中に姿を紛れ込ませる。
「ゴギャ! ゴギャルガ!」
突然あらわれた大量のカラスにゴブリンたちはキョロキョロとしながらどうすればいいのか迷っている様子だった。
それに対し、ジェネラルがなにやら指示を出したかと思うと、ゴブリンたちはきびきびと動きだした。
メイジとアーチャーは上空のカラスたちに魔法と矢で攻撃を始める。
ガードたちがそれを守り、ウォーリアは地上に近づいてきたカラスにむかって猛烈に攻撃し始めた。
ジェネラルはゴブリンやカラスたちの様子を冷静に観察しながら、大剣を構えてじっとしている。
カラス形態のときの俺はムギンやフォックスたちと変わらない見た目をしているので、どこに俺がいるのかはわからないはず。
ムギンたちがちまちまとゴブリンを攻撃してくれているおかげで、いい感じに戦場がさわがしくなってきた。
ジェネラルの指示もあまり機能していないようで、しだいにジェネラルが孤立しはじめる。
もうそろそろ頃合いだろうか?
俺はあらためてジェネラルを観察する。
身長2メートル、筋肉のつきかたからして力もかなりあるだろう。
そしてなんといってもあの大剣。
あれでバッサリやられると、さすがの俺も再生に時間がかかりそうな気がする。
いったい俺の代わりに何羽のカラスが死ぬことになるのやら。
ジェネラルは大剣を右手だけで持っている。
そこが狙い目か。
俺は急降下しながら魔人形態へ変化した。
「グギ……? ッ!? ゴギャア!」
「遅い」
接触する直前でジェネラルに気づかれたが、俺のほうが一足早かった。
右足のかぎ爪でジェネラルの右腕を握りしめ、左足のかぎ爪でジェネラルの首を握りしめることに成功。
「硬いな……ッ!」
防御力も高いのか、いつものゴブリンのように握りつぶすところまではいかなかった。
ジェネラルはなんとか右手にもった大剣で俺を攻撃しようとしているが、俺の足の力のほうが強かったようだ。びくともしない。
「グルガァッ!」
「おっと」
空いている左腕で殴られたが、翼のガードが間に合ったおかげでたいしたダメージはなし。
「はぁ……やっぱり目だな」
「ギギ……!? グギャアァァ!?」
結局、一番やわらかそうな目を狙うことになる。
なんだか戦闘のたびに目を狙う猟奇的な変態野郎になってしまったような気分で、少しテンションが下がった。
右手の中指をジェネラルの目に突き刺した。
魔人形態のおかげで黒いかぎ爪が、いともたやすく眼球を割る。
長く伸びた指とかぎ爪はジェネラルの脳みそまで届いたようで、ぐりぐりとかき混ぜてやると、全身を痙攣させた。
ジェネラルはそのまま地面に倒れこんだ。
「終わり。あとは作業だな。ムギン!
もう倒していっていいぞ!」
『御意! 遊びは終わりだ! 者ども行くぞ!』
残ったゴブリンは、カラスたちがヘイトを引き付けてくれているので、俺は後ろから楽々と殺していくことができた。
ムギンもいいペースで倒していっている。
あの体のサイズでD級ゴブリンを倒せるのは大したものだと思う。
3分後、9階ホールで生きているのは俺とカラスたちだけになった。
「よし、お疲れ。チャーリー、デルタ、エコーは魔石を回収してくれ」
「「「カァ」」」
「ムギン、何羽やられた?」
『5羽ですな。名前付きの者たちは全員無事です』
「そうか……」
一休みした後、興味本位で地下10階へ降りてみることにした。
攻略するつもりはないが、どんな感じか見学するくらいならいいだろう。
階段を下り、10階に降り立つと、そこにはどこまでも続く荒野のような世界が広がっていた。
地面は9階までと同じ鍾乳洞の岩肌が延々と続いている。
ところが、上を見上げると天井がない。
空だ。どこまでも続く曇り空が広がっている。
荒野にはなにもない。
前も後ろも地平線のむこうまで岩の地面が続いている。
「なん……だこれ……ダンジョンなのか、これが?」
『王よ、あちらに砦のようなものがございまする』
「なに?」
ムギンの視線の先を目で追うと、たしかにはるか向こうに城というより砦と呼んだほうがよさそうな建物が見えた。
灰色の岩でできた無骨で不細工な砦だ。
「あそこにいるんだろうな、キングが」
『ほっほっほっ、我らが王を差し置いてキングを名乗るとは生意気ですな。ひとつ懲らしめてやらねば』
ゴブリンキングはB級の魔物だ。
それに加えて、あの砦にはジェネラルを筆頭にゴブリンたちがわんさか待ち構えているのだろう。
今の俺の力だと、だいぶんゴリ押しでなんとか行けるかどうかという感触だ。
「いつか気が向いたら行くかもしれんが、今日じゃない。帰るぞ」
『なんと。で、次はどこへ行きますかな?』
C級のゴブリンジェネラルも倒せることがわかった。
であれば、もうここに用はない。
「決まってるだろ。雨照のクソ野郎どもにお礼参りだ」




