第15話 フラッシュ・フラッドの悪行三昧
ゴブリンダンジョンを出て、協会の受付で魔石を提出する。
「これは……C級魔石!? 高木さん、もしかして9階まで行ったんですか?」
「えぇ、ジェネラルからとった魔石です。探索者ランクはC級にあがりますか?」
「ほんとに行ったんだ……。まぁ無事なようですし? 別にいいんですけどね」
「はぁ。で、C級には……」
「あぁ、まだあげられませんよ」
あがる条件を詳しく聞いた結果、あと2個C級の魔石が必要とのこと。
なら、ゴブリンジェネラルをあと2回倒せばいいのかというと、そうではない。
それぞれ異なるダンジョンで手に入れたC級魔石を3個提出する。
それが条件だ。
その後、探索者ランクアップの審査が協会内で行われ、許可が出ればはれて俺もC級探索者になれる。
「なかなかめんどうですね。とりあえずこのダンジョンでやることは終わったんで、明日からは来ないと思います」
「そうなんですか……。あっ! そういえば、炎天下のみなさんには会いましたか?」
「あぁ、いえ、今日も会いませんでした」
「そうですか……。あ、魔石の換金が終わりましたよ。そのまま振込でOKですか?」
「はい。ちなみにいくらでした?」
「190万円ですね」
「……ッ!? そう、ですか……。探索者って儲かるんですね」
ダンジョン協会から出て、人気のない場所でカラスに変化し、家路についた。
それにしても、たった数日でこんなに稼げるようになるとは予想外だった。
というより、お金のことを何も考えていなかった。
殴られて、入院して、会社をクビになって……いろいろあったけど、俺の頭のリソースを一番奪っていたのはやはり怒りだ。
殴られた怒り。ナメられた怒り。
それらに脳が支配されていたせいか、今後の生活についての現実的なプランが何もないまま探索者になってしまっていた。
サラリーマン時代とは比べ物にならないほど稼げるようになったので結果オーライではある。
「金も入ったし、ちょっと寄り道して買い物するか」
『王よ、我はルートビアを所望します』
「あー、いいんだけど、たぶん売ってないだろ。あれってどこにでも売ってるもんじゃないんだ。不人気だから」
『なんですと!? ぐ、愚民どもめ……あの飲み物の素晴らしさが理解できんとは……』
ルートビアはAnazonで注文することをムギンに約束した。
家に到着し、さっそく購入したものを開ける。
『王よ、それはなんですかな?』
「カメラっていうもので、動画を撮れる」
カラスでも背負えるほど小さなカメラを電気屋で買ってきた。
俺は意識を遠くに飛ばし、雨照の3人組を監視しているカラスたちに感覚共有をする。
「うわ……3画面はまだちょっとしんどいな」
3人組を監視するということで、3羽をつけていた。そのため、俺の視界は3分割された映像が見えている。
それぞれ角度は異なるものの、見ている対象は同じだ。
カラスたちの視界にうつっているのは、どこかの道沿いにある居酒屋だった。
その居酒屋のテラス席のような場所で、騒いでいる男たちがいる。
見覚えのあるツーブロックの男、ロン毛の男、スキンヘッドの男。
フラッシュ・フラッドのメンバーだ。
それぞれ女をはべらして、気持ちよさそうに酒を飲んでいるところらしい。
この騒ぎようだとまだまだ宴は続くだろう。
「おい、お前ら聞こえるか? 3羽とも監視をきりあげて、俺のとこに来い」
『『『了解』』』
ムギンとは違って片言のような返事が聞こえたかと思うと、俺の体から3羽のカラスが飛び出した。
バサバサと俺の住む小さな部屋を飛び回った後、ムギンの近くに着地した。
「よし、よく来た。お前らに名前を与える。まずお前は……Jの次だから、キロだ」
『キロ。了解』
「で、お前は、リマ。お前はマイク」
『リマ』『マイク』
『『了解』』
「うん。で、お前らのうち一人にはこれをつけてもらう」
おもちゃみたいに小さいカメラをキロたちに見せると、首をかしげた。
ムギン以外のブラッククロウたちは全員同じスペックだろうし、誰に着けても変わらないだろう。
「キロ、ちょっとこっち来い」
『了解』
カーボンファイバーできたヒモをカメラに通し、そのヒモを次はキロの体に結び付ける。
胸のあたりにカメラがくるようにしつつ、羽の動きを邪魔しないように調整すれば……。
「できた。これでちょっと部屋の中を飛んでみてくれ」
キロは感触を確かめるように部屋の中を2周飛んでまわった。
『問題。ない』
「よし。じゃあ今後は、これをつけたまま奴らの監視を続けてくれ」
キロ、リマ、マイクはふたたび俺の体を通って、雨照の3人組たちの監視に戻っていった。
24時間カラスと感覚共有しているのも疲れるし、映像を回収して分析するほうがいいだろう。
それから数日の間、フラッシュ・フラッドを監視した結果、まぁ出るわ出るわ。
奴らはどこへ行っても問題を起こしていた。
ダンジョンの外で女をナンパし、断られたら「ブスが調子乗んなよッ!」などと暴言を吐く。
夜道で通りがかったサラリーマンにからんで、殴りかかる。
挙句の果てには、ダンジョンの中で探索者を待ち伏せし、殺し、金目のものを奪うなんて行為までしていた。
狩場が被って邪魔だったからとか、もめ事になったからとか、何かしらの理由があって殺したわけではない。
ただ、金を稼ぐのに効率がいいから、ストレス発散したいから、という短絡的な思考で犯行におよんでいた。
キロ、リマ、マイクが集めてくれた映像を部屋でチェックしながら、俺は困惑していた。
「奴らの弱点でも見つかればと思って映像を集めたが、こんなにひどいとはな」
『このようなゴブリン以下の生き物がなぜ生きているのですか、王よ』
「まぁ、これでもそこそこ強いほうだし、雨照の名前のおかげかな」
スキルに覚醒した探索者を取り締まるためには、警察側もスキルに覚醒している必要がある。
だが、そんなに都合よく警察志望の人たちが荒事にむいたスキルに覚醒するものでない。
そのため、どうしても人手が足りず、結局探索者同士のもめ事は探索者同士で決着をつけるべし、という風潮ができあがっている。
そのため、巻き込まれたくない野次馬や警察はこいつらを放置しているのだろう。
それに、なんといっても雨照の持つ権力が強すぎる。
クランマスターである雨宮美花は日本でも数人しかいないS級の探索者だ。
彼女の所属するクランに「あなたのところの探索者が迷惑行為をしていましたよ!」と抗議するにはなかなか勇気がいる。
目をつけられるくらいなら、見て見ぬふりをすることを選ぶ人がほとんどだろう。
それに、彼女の父親はダンジョン利権にからむ大物政治家というのもやっかいだ。
雨照にとって都合の悪いニュースを書いた記者がいつの間にか消息不明になっていた、なんて噂もある。
まぁ、そんなこと俺にとっては知ったこっちゃない。
いくつかの動画を匿名でSNSにアップロードした。
もちろん彼らのパーティがフラッシュ・フラッドであること、所属しているクランが雨照であることもわかるようにハッシュタグをつけることも忘れない。
これでフラッシュ・フラッドだけじゃなく雨照のみなさんも反省してくれるだろう。




