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第16話 フラッシュ・フラッドに謝罪を要求する

 SNSに動画を投稿した翌朝、俺は下北沢に来ていた。


 下北沢といえば古着が有名だが、実は小劇場がたくさんあることでも有名らしい。


 そんな数ある劇場のひとつが、過去にダンジョン化した。


 通称マネキンダンジョン。

 マネキンドールという人型の魔物だけが出てくる、1階層のD級ダンジョンである。


 外観は小さな劇場で、もともとは観客が50人も入れば満席になるサイズ感だ。


 あまりうま味のなさそうなダンジョンだが、雨照アマテラスが管理している。


 もっとも、クランリーダーの雨宮氏がこんな低級ダンジョンに来るはずがない。

 下っ端であるフラッシュ・フラッドのメンバーがここの管理を請け負っているというわけだ。


 ネットで調べたところ、このダンジョンは普段は雨照以外の探索者も入れるように解放されているが、1週間に1回は管理者権限でフラッシュ・フラッドが丸一日貸し切りで使うというルールで運用されているらしい。


 今日がその貸し切り日だ。


 カラス形態になった俺とムギンは、マネキンダンジョンの入口が見える位置で待機していた。


「来たな」


 朝が早いため、まだ目が覚め切っていないのか、だらだらとした重い足取りでフラッシュ・フラッドのメンバー3人が歩いてくるのが見えた。


 ツーブロックに刈り上げた男が電子タバコをふかしながら愚痴る。


「ここの管理マジでダルすぎだろ。なんでオレらがこんなしょぼいとこ担当なんだよ」


 ロン毛の男がスマホをいじりながら相づちをうつ。


「まぁ楽だからよくないっすか? ソッコーでマネキンドールぶっ殺した後はだらだらできるし」


 スキンヘッドの男がポケットから出したカギで劇場のドアを開けた。


「ムギン、行くぞ」


『御意』


 フラッシュ・フラッドの3人が劇場に入るのに合わせて、俺たちもドアの隙間をすり抜けて侵入した。


「うぉ!? ……なんだよカラスかよクソが」


「最近、カラス多くないっすか?」


 さすがにバレてしまったが、気にせず劇場の天井近くへ退避する。


 広い。ダンジョン内は、外観から想像できないほどの大ホールになっていた。


 東京ドームくらいありそうな巨大劇場の真ん中に舞台がポツンとあり、舞台以外はすべてフローリングの床になっている。


 舞台の上では、2体のマネキンドールが、なにやら演劇でもしているかのように動いている。

 1体はスーツを着ており男性に見える。

 もう1体は赤いドレスを着ており女性役だろう。


 舞台の下、フロアにはあちらこちらにマネキンドールたちがうごめいている。


 こちらのマネキンたちは全員服を着ておらず、真っ白なのっぺらぼうの人型だ。


 フロアにいるマネキンたちは、ゆらゆらと徘徊していたが、フラッシュ・フラッドの姿に気づくと彼らを襲い始めた。


「チッ……カラスなんかどうでもいい! いつも通り、さっさとやるぞ!」


「「了解!」」


 スキンヘッドが杖をかかげながら、「パラライズ!」と叫んだ。


 彼らの近くにいたマネキンドールは操り人形の糸が切れたかのようにその場に倒れこむ。


 スキンヘッドは、倒れこんだマネキンドールの頭を一つずつ潰しつつ、あらたな魔法を唱える。


「ヘイスト!」


 ツーブロックの男とロン毛の男の体が淡く光った。


 ツーブロックは走りながら手当たり次第にマネキンドールたちの頭を殴っていく。


 パンチ一発で頭を粉砕しているのは、マネキンドールがもろいのか、ツーブロックの力が強いのか。


 ツーブロックとは反対方向へ攻撃をしかけているのはロン毛の男。


 一度に2本の矢を撃ちながらマネキンドールをしとめていく。


 2本の矢は、それぞれ別のマネキンドールの眉間を撃ち抜いて、こちらもやはり1発で倒している。


 ヘイスト――加速するバフの効果もあり、かなりのスピードでマネキンたちを処理している。


 だてにC級パーティではないということか。


 それから数分後、フロアにいるマネキンドールは全滅し、残るは舞台の上でいまだに演劇をつづけている2体のマネキンだけになった。


 あの2体がおそらくボスだろう。

 舞台の外でおきることにいっさい興味がなさそうで、フラッシュ・フラッドの面々が舞台の下まで近づいても見向きもしなかった。


「ソウジ、バフ頼む」


「了解。プロテクション! ヘイスト!」


 ツーブロックの男だけが舞台に上がった。


 舞台の上にいたマネキンドールは演劇をやめて、ツーブロックに襲い掛かる。


 男性型のマネキンはパンチ主体、女性型のマネキンはキック主体の攻撃でツーブロックを攻める。


 隙のないロジカルなコンビネーションでツーブロックを追い詰めていく。


「うぉぉぉッ!」


 ツーブロックの男はボクシング経験もあるため対人戦には強いはずだが、防戦一方になっている。

 プロテクションのバフ魔法がなければキツいだろう。


「ケンジ! あと5秒! 4、3、2、1、今だ!」


「っしゃあ!」


 ツーブロック(ケンジ)が防御態勢をとき、ようやく攻勢に出る。

 マネキンドールたちはさきほどまでの攻撃が嘘のようにツーブロックにタコ殴りにされている。


 マネキンボスが明らかに弱体化したように見える。

 そういえば、フラッシュ・フラッドは3人いるのに1人で戦っているし、何かしらの条件があるのだろうか?


「ダブルインパクト!」


 ツーブロックが男性型マネキンに右ストレートを放つと、マネキンの頭がグシャリと潰れた。

 それと同時に、女性型マネキンのほうも頭が粉砕された。


 ツーブロックのスキルだろう。


「ハァ、ハァ、ハァ……しんど……」


「ケンジ、お疲れ。これポーション」


「おう、サンキュー」


 舞台から降りたツーブロック(ケンジ)はポーションを一気飲みした後、フロアに座り込んだ。


 スキンヘッドとロン毛もその近くに座り、電子タバコを吸い始める。


 もうそろそろいいだろう。


「キロ、出てこい」


 カラス形態の俺から分裂するように、もう一羽のカラスがあらわれた。


 俺は人間形態になり、キロの首にかけてあるカメラのスイッチを入れる。


「奴らとのやりとりを動画に撮っておいてくれ」


『了解』



 鉄骨から飛び降りてフロアに着地する。

 まずは会話をしたいので人間形態のまま彼らに近づいた。


「ん……? 誰だッ!」


 ツーブロックの男が俺に気づき、すぐさま立ち上がった。

 彼の動きを見て他の2人も立ち上がり、すぐに杖や弓を構える。


「今日は貸し切りだぞ! てめぇ、オレらが誰かわかってんのかァ!?」


雨照アマテラスの下っ端だろ?」


「……ッ!? てめぇ……ていうか、マジで誰だよ。スーツってことは協会の職員でもねぇし……まさか警察か?」


「違う。3週間前の夜23時ごろ、渋谷の路上でお前に殴られたサラリーマンだよ」


「はぁ……?」


 フラッシュ・フラッドの3人は顔を見合わせたあと爆笑しはじめた。


「ハハハハハッ! 覚えてるわけねぇだろ、誰だよ!」「なに? 謝ってほしいのか?」「痛かったでちゅ~、謝ってくだちゃ~いってか?」


「察しがいいな。そうだよ、謝ってもらいにきた」


「ハァ?」


 3人は笑うのをやめた。


「まずは謝れ。誠心誠意、土下座しながら謝れば、一発殴るだけでチャラにしてやる」


「おーいおいおい、調子乗っちゃってんねぇ……どうしちゃったのおっさん? ただのサラリーマンがオレらにそんな口きいて生きて帰れると思ってる?」


 フラッシュ・フラッドの3人は、ニヤニヤしながら俺のほうに向かって歩いてくる。


 ツーブロック(ケンジ)が電子タバコの煙を俺に吹きかけた。臭い。


 ロン毛の男が「おっ?」と何かに気づき、俺の首にかかった探索者タグを手に取る。


「おい、こいつ探索者だぜ! しかもいっちょ前にD級だ」


 ツーブロック(ケンジ)も俺のタグを手に取り「ふぅん」と言った後、今度は俺の肩に手を置いた。


「で、なんだっけ? 土下座してほしいんだっけ?」


「あぁ、そうだ」


「土下座すんのはテメェだ、ボケッ! インパクトッ!」


 ツーブロック(ケンジ)は近距離から右ストレートを俺の顔面めがけて放った。


 3週間前と同じ光景だ。

 あの頃のサラリーマンだった俺なら絶対によけられないスピードで迫りくる拳。


 しかもインパクト(スキル)まで使っているので、あの日の拳よりさらに速い。


 だが、見える。


『魔人(八咫烏ヤタガラス)』のおかげか、『カラスの王』のおかげか、俺の身体能力は動体視力もふくめて強化されている。


 避けようと思えば避けられる。


 だが、あえて受けることにした。


「ぐッ……!」


 顔のド真ん中にツーブロックの拳が突き刺さり、俺は後方へ吹き飛ばされた。


 防御力も強化されているので吹き飛ばされるだけで済んだが、サラリーマンの頃の俺であればこの時点で首から上がなくなっていただろう。


 数メートル吹き飛ばされた俺はフロアに背中から着地した。


 マネキンダンジョンの高い天井が見える。

 天井ではムギンとキロが静かにこちらを見ていた。


「あーあ、またやっちまったんじゃねぇの? 何人目だよ」


「別にいいだろ。ダンジョンの中で何人殺そうが捕まんねぇし」


「クラマスにバレたらつるし上げられるぜ?」


「おい、嫌なこと言うなよ。バレねぇって……あー、でもよりによってこのダンジョンで殺しちまったのは痛いな。死体の処理めんどくせぇぞ」


 こいつらは今までに何人、一般人を殴ってきたんだろうか?

 何人、探索者を殺してきたんだろうか?


 天井付近にいたムギンが降りてきた。


『王よ、おたわむれがすぎますぞ』


「そうかな。俺としては真面目な交渉のつもりだったけど……なんにせよ交渉決裂だ」


 出てこい、お前ら。


 そう願うと、体のあちこちから大量のカラスが飛び出した。


「うわっ!?」「なんだ!? カラス?」「そういえばさっきカラスが……って、おい、あいつまだ生きてるぞ!」


 俺は、朝ベッドから起き上がるときよりもゆっくりと立ち上がった。

 これからやることを思うと気が重い。



ダンジョンのギミックがわかりにくいと思います。すみません。

カクヨムのほうでも同じ小説を連載しているのですが、そちらではもう少しギミックがわかりやすくなるように修正しました。話の展開に影響はないですが、気になる人はそちらでご確認いただければと思います。

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