第8話 道案内
「約束の地へと導く力? 約束の地ってなんだよ」
『いえ……失礼しました。我らのことはどうかお忘れください。王はただ、御心のままに進めばよいのです』
「おい、隠し事はなしだぞ」
『いくら王が相手とはいえ、我々にも言えることと言えないことがございます。なにとぞご容赦を……』
ムギンは早口でそう言うと、そそくさと俺の体に突入して姿を消した。
「おい! 出てこい!」
何度か呼びかけたが、ムギンからの反応はなかった。
まぁ今はいい。
どうせ今日は一人で戦うつもりだったので、このまま先へ進むことにする。
と、その前に魔石を集めておく必要がある。
確かゴブリンは心臓のあたりに魔石があるらしい。
「おい、ムギンじゃなくていいから3匹出てこい」
カラスが3匹あらわれる。
「よし。ゴブリンの胸あたりにある魔石を取り出してくれ」
『カァ』
カラスたちはくちばしでゴブリンの胸をつつきはじめた。
ざくざくと肉を切り裂き、なにやら小さなものを加えて俺の前に置いた。
拾い上げると、にぶい色の小さな石だった。
これを協会の受付で渡せば換金してくれるらしい。
「きたねぇなこれ……お前らの巣に持ち帰ることってできるか? また後で呼ぶから、その時に魔石をもって出てきてほしいんだけど」
『カァ』
カラスたちはおのおの魔石をくちばしにくわえて俺の中へ帰っていった。
荷物がかさばらなくて助かる。
さて、先へ進もう。
『カラスの王』により俺の力は予想外に強化されているらしい。
3階までのE級ゴブリンならさくさく倒せるだろうし、さっさと下の階層へ行きたい。
だが目の前に続くのは、はてしなく迷路のように入り組んだ鍾乳洞だ。
いちいちマッピングしながらしらみつぶしに探索する気にはなれない。
「効率……」
カラスで人海戦術もいいが、どうせならダメもとで『道案内』のスキルを試してみるのもいいかもしれない。
道案内というスキル名と、ムギンが口にした導く力。
そこから判断するに、俺を目的地まで導いてくれるはずだ。
目的地は……。
「次の階層への階段まで案内しろ」
どうせ案内役のカラスが飛び出てくるんだろうな、と気を抜いていたら、光の矢が目の前に現れた。
「……!?」
一瞬、俺に対する攻撃かと思い身を固くする。
「なんだよ……驚かせやがって」
よく見ると、矢じりは俺ではなく逆方向に向いている。
俺から発射されたような方向だ。
まるで俺をナビゲーションするかのように前方1メートルあたりに浮いたまま停止している。
この光の矢が俺の望んだ場所へ、すなわち今は「次の階層への階段」まで案内してくれる……と思いたい。
矢を追いかけるように歩き出すと、矢も俺から逃げるようにして前へ進みだした。
最初は慎重に歩きながら追いかけた。
出合ったゴブリンは瞬殺し、魔石はカラスどもにまかせてひたすら進む。
じょじょにスピードをあげ小走りになり、やがて背中の黒翼を使って飛びながら進むことになった。
飛んでいればゴブリンを無視して進むこともできるが、魔石もほしい。
受付に提出した魔石の数もランク上げの判断基準になるからだ。
そのため『道案内』の矢を追いつつも、ゴブリンは見敵必殺で突き進む。
1時間ほどで階段へたどり着いた。
階段に近づくと光の矢は消えた。
「はぁ……なんだか疲れたな」
身体的というより精神的に疲労を感じる。
やはり初の本格的な探索ということで緊張しているのだろう。
キリもいいので少し休憩することにした。
階段の横に座り込んでムギンを呼び出す。
「おい、もういいだろ。道案内は理解したから出てこい」
『ささ、王よ、お飲み物をお持ちしましたぞ』
しれっと登場したムギンは足にペットボトルの水を持っていた。
受け取ると、よく冷えている。
「俺の家の冷蔵庫から持ってきたのか?」
『その通りでございます。今は我しか王の部屋にいませんが、数匹はいつも待機させておくほうがいいでしょうな。荷物運び兼部屋の警備として』
「そうだな。帰ったら配備しよう」
カラスはその時にいる場所から俺のいる場所へ移動できる。
その場合、帰りはまたもとにいた位置に戻る仕組みらしい。
俺の部屋の一角を探索用資材の置き場にしようか。
探索中に集めた魔石もそこに集めておいて、換金のときに出せばいい。
そうすれば俺はずっと手ぶらで探索を続けられる。
水分補給を終えて、水をムギンに返した。
地下2階へ降りて、また『道案内』を使う。
光の矢に従って飛ぶ。
俺が全速力で走るより確実に速い。
体感では時速50キロくらいは出ていそうな気がする。
まだ制御しきれないので全速力ではない。
魔人形態からカラス形態へ変化する。
あたりまえかもしれないがこちらのほうが飛びやすい。
『王よ! やはりそのお姿が一番お美しい!』
ムギンが何かよろこんでいる。
この形態でも出せるスピードは変わらなさそうだ。
ただし、小さなカラスのまま戦闘はできない。
結局、スムーズに戦闘へ移行できる魔人形態へ戻った。
2階に出てくる魔物もゴブリンだけで、1階との違いは少し数が増えたくらいだ。
特に苦戦することもなく2階を攻略し3階へ降りた。
3階のゴブリンは最大5匹の集団で襲ってきた。
それでもやはり俺の適当な喧嘩戦法で十分対処できた。
殴る、蹴る、ぶん投げる。
かぎ爪でひっかく、突き刺す、握りつぶす、踏みつぶす。
探索者というより魔物よりの戦い方だ。
ダンジョンに入って3時間がたったころ、4階へ続く階段が遠くに見えた。
今回の目標地点だ。
本来であればパーティで1日がかりの工程なので、かなりはやい。
『道案内』で最短経路を選びながら魔人形態で飛び続ける。
それが俺の探索スタイルになりそうだ。
「ん? あれは……」
階段からかなり距離のある地点で着地し、人間形態へ戻る。
『王よ、人間が4人おります』
「あぁ、探索者だ。手を出すなよ」
階段の近くで、たき火を囲んで談笑する探索者たち。
男2人、女2人。
まだ俺に気づいていないようだ。
ムギンや魔石用のカラスたちは俺の中に戻ってもらった。
警戒させないように、わざと足音をたてながら彼らに近づく。
数メートルの距離まで近づき、ようやく彼らも気づいたらしく、すぐさま立ち上がり、それぞれ武器を抜いて構えた。
「止まれ! 誰だ!」
槍を持った背の高い男が問いかける。
「探索者の高木だ。下に降りたい、通っていいか?」
高木? 聞いたことあるか? なんでスーツなんだ? ソロか? と小声で相談しはじめる探索者たち。
「タグを見せろ!」
首にかけたタグを見せる。
「なんだE級かよ。警戒して損した。よし、通っていいけど……あんた一人か? 所属パーティは?」
「一人だ。パーティは組んでない。なぁ、あんたらは階段を守る番人かなにかか?」
「は? べ、別にそんなんじゃねぇよ。それよりあんた、今日はどこまで潜る気だ?」
「また質問か……。番人でもないあんたにいちいち全部説明する義理はないよな?」
「チッ……もういいよ、さっさと行けよ」
なぜか機嫌を悪くした男は俺に背を向けて、たき火へ戻っていった。
パーティメンバーたちも微妙な顔をしながら道を開ける。
俺は無言で階段を降り、地下4階へとたどり着いた。
『王よ、奴らは殺しても?』
「なんでだよ。ダメだろうが」
『王に対してあのような無礼な態度、許せませぬ!』
「ふっ……確かにウザかったけど実害はなかったんだから忘れろ」
俺も内心ストレスはたまっていたが、俺よりも先にムギンがキレるので逆に冷静になった。
階段を降りた先は、変わらず鍾乳洞の道が続いている。
とりあえず4階の魔物を1体くらいは倒してから地上に戻ろう。
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