第5話 公安との会話、そして決意へ
公安と聞いてビビったのか金髪男たちと職員は抵抗せず、俺が車に乗るのを見送った。
車に乗る直前に、ムギンたちに指示を出す。
『ムギン、手下どもを使って、あの金髪野郎のパーティをこっそり追跡できるか?』
『承知しました。追わせます。我はこのまま王を上空から追いかけます』
黒い車の後部座席に乗ると、公安の女は俺の隣に座った。
運転席には黒スーツを着た男がおり、俺たちが着席したのを確認すると何も言わず車を発進させた。
「で、どこに行くんです? このまま逮捕されるんですか、俺」
「あはは、そんなことはないですよー。今日はご挨拶だけ。これ名刺です」
名刺には『公安第五課 第二係 石塚しずか』と書かれていた。
「第五課はダンジョンや探索者の監視、対策をしてて……わたしの所属している第二係は探索者の監視ですねー」
探索者の監視?
まさか、すでに俺は監視対象になっている?
昨日、探索者登録したばかりだぞ?
「探索者全員を監視してるわけじゃないですよね? 俺が何かしましたか?」
「いえいえ、まだなにも。ですがスキルが問題なんです。魔人スキル、お持ちですよね?」
スキルがバレている。
一瞬、スキル覚醒の儀式につきあってくれた酒井さんを疑ったが、その考えをふりはらう。
そもそもダンジョン協会が探索者のスキルを把握してないわけがない。
おそらく、鑑定用のプレートをさわった時点でデータベースに登録されるはず。
そしてダンジョン協会と公安……というより国がつながっているということ。
「魔人スキルが監視理由なんですか?」
「えぇ、といっても一概に危険なスキルだと断定しているわけではありませんよ? 人体がそのまま変化するぶんリスクが読めないので念のため……。いまだにわからないことが多いですからね」
石塚は苦笑いし、「それだけじゃないですけどね?」と続けた。
「さきほど見ていましたが、ブラッククロウを操ることもできるみたいですね? こちらは『カラスの王』の力だと推測しますが……このスキルも珍しいですよねー」
「やはり珍しいんですか? 『道案内』はどうです?」
もう何もかもバレているなら聞けることを聞いてしまおう。
「それも我々のデータにはないですね。読んで字のごとくと考えると危険ではなさそうなので、そこは注視していませんが」
「魔物を操るようなスキルの持ち主は俺以外にもいるんですか?」
「えぇ、いますとも。例えば『虫遣い』というスキルの持ち主がいますね。蚊、ハエ、ゴキブリ、なんでも操るそうです。ふわー、想像しただけでゾワゾワしてきました!」
石塚がぶるぶると体をゆらした。
確かに、強い弱い以前に遭遇したくない。
俺も虫は苦手なほうだ。
「俺が操るのはただのカラスじゃなく魔物のカラスですが……あのスキルを使うと逮捕されるとかありませんよね?」
「えぇ、即逮捕とはなりませんよ。ただし、そこは他のスキルと一緒で、他人を害するような使い方をすればもちろん犯罪ですからね? あまり大々的に使うのはよしたほうがいいでしょう」
「それでいうなら、さっきは野次馬がいる場所でカラスをけしかけたように見えたはずですが、まずかったですかね?」
「うーん、わたしもお仕事ですし、今日あった件は上に報告しますが……わたしが見る限り、正当防衛の範囲内でしたし、お相手のかたがたもそこまで重傷をおったわけではないですから……心配しなくて大丈夫ですよ」
車が停止した。
場所は俺が住むアパートの前だ。
スキルだけじゃなく家までバレているのか。
さすが公安。最悪だ。
俺は無言で車を降りる。
「お話できてよかったです。今後とも長いお付き合いになりそうですね」
「俺は二度と会いたくないですが」
「あはは、ではまた」
石塚は最後まで笑顔だった。
車が角を曲がり視界から消えたところで、俺は自分の部屋に入りカギをかけた。
ベッドに腰かけ、すぐさまムギンを呼び出す。
「おい、ムギン。いるか?」
『ここに』
俺の体から一羽のカラスが飛び立ち、机の上に着地した。
一般的なカラスと見分けがつかないがムギンだろう。
「今の車も後をつけてくれ。奴らの拠点を知りたい」
『すでに数羽、追わせております。途中、事故に見せかけて殺すこともできますが?』
「はぁ……。あのなぁ、人間はそう簡単に殺しちゃいけないんだよ」
『ですが、あの女は王を無理やり拉致したのですぞ!?』
確かに、あれは一見俺を面倒ごとから救うように見せつつも、半強制的な拉致だった。
もし仮にあの石塚という女が強力なスキルの持ち主なら、車内で殺されていてもおかしくない。
あまり深く考えず誘いに乗ったのは間違いだったか?
でも、あの場であれ以上金髪野郎や協会職員と話すほうがめんどうだったしな……。
「殺していいのは敵だけだ。あいつらはまだ完全に敵ってわけでもないだろ」
『なるほど。それが王の御意思というわけですな。であれば、ダンジョンにいた下品な金髪のオスたちは完全なる敵。もう殺しても?』
「うーん……」
あの金髪どもは、俺としてももう完全に敵であり、『ぶん殴るリスト』には載っている。
だが、やはり殺すほどではない。
どういうときに俺は人を殺すだろうか? と考え始めたとき、俺は自分で自分に驚いた。
殺すという選択肢が自然と自分の中に発生していたからだ。
サラリーマンをしていたときは、そんなことを考えたことは……あったけど、実際に実行しようとは思わなかった。
『王よ、どうされました?』
「いや、ちょっと待ってくれ。今大事なことを考えてる」
探索者をやりはじめてわかった。
探索者はいつでも人を殺せる。
そして、実際にダンジョン内で密かに殺しに発展したことは多々あるのだろう。
なんならダンジョンの外でも、ちょっとしたきっかけで殺し合いに発展することはあるはず。
このままいくと、俺もいつか必ず人を殺すという予感がある。
何も考えずに探索者をしていれば、いつの間にか自分も、俺を殴ってきたあの探索者たちみたいになってしまうのではないか?
それは嫌だ。
あんな奴らと同レベルに落ちるなんて許せない。
そうならないためにはルールが必要だ。
「ムギン、お前らにも守ってほしいルールがある。まずルールその1、人間が相手の場合、絶対に先に手は出さない。これを覚えてくれ」
どれだけイラつく相手でも、口喧嘩でおさまるならそれでいいだろう。
『ずいぶんと王は寛大ですな。承知しました。王の言葉はすでに我ら全員に響いております。そして王の指示は絶対。これ以降、我々が人間相手に先制攻撃をしかけることはございません』
「あぁ、だが、やられたらやり返す。そこでルールその2、目には目を歯には歯を……って言っても伝わらないか。要するに、反撃は等価であること」
一発殴られたからといって、それだけで相手が死ぬまで殴るのは違う気がする。
『承知しました。ですが、人間の一発と我々の一発は差がありすぎるのでは?』
「それはその時の状況次第だ。とにかくやりすぎないこと。攻撃を受けたからといって、いきなり殺すのはなしってことだけ覚えてくれればいい」
『承知。それが王の国の法ですな。ところで王よ、もし敵が殺意をこめて攻撃してきた場合は……』
「あぁ。ルールその3、殺意には殺意を。その時は殺す。人間であってもな……ただ、殺すタイミングは基本的に俺が指示を出す。暴走はやめてくれよ? まったく……さっきはどうなるかと思ったぞ。お前ら呼ばなくても出てこれるのかよ』
金髪野郎たちとやりあったとき、俺が呼んでもないのに勝手に体から飛び出してきた。
いつでもどこでもあんなことをやられると困る。
『御意。基本的にはその通りにいたしますが……どうしても譲れない場合はお約束できませんな』
ムギンがカラスの顔でニヤリと笑った……気がした。
こいつはなんでこんなに過激派なんだろうか。
『ところで王よ。そもそも王の目的はなんですかな?』
「目的?」
『えぇ、まずは世界中のカラスを支配下におさめるというのは既定路線。その後の話でございます』
「おい、そんな既定路線聞いてないぞ?」
『なにをおっしゃいますやら。すでに配下の者たちは近隣の街へ到着し、支配を広げはじめておりますぞ? 魔物でもないカラスなど一晩あれば我らの前にひれふすことになりましょう』
「おい! だから勝手に動くなっての……。絶対人間には手を出すなよ?」
またしても暴走するカラスどもに頭を抱えたが、あながち間違った方針ではないのかもしれない。
ムギンたちのように俺の手足となって動いてくれるなら、手下は多ければ多いほどいい。
『それで王よ、王の目的地はどこにあるのでございましょう? カラスの支配と並行して、人間の支配が目的ですかな?』
「目的か……」
人間の支配なんて何の興味もないが、あらためて問われると返答に困る。
あの日、俺を殴った探索者たちを殴り返すこと。それが目的であることに変わりはない。
だが、そんなことが俺の目的と考えると……なんだか自分がひどくしょうもない人間に思えてきた。
暴力こそ正義。その考えで言うなら、アマテラスの奴らを殴り返して終わりというわけにはいかないだろう。
おそらく今後、あいつら以外に、まさに今日からんできたような探索者がことあるごとにわいてくるはず。
キリがない。
なら、強くなるしかない。
誰も俺に手を出したがらないような存在にならなければいけない。
ただ……。
俺は目の前にいるムギンを見つめた。
ムギンもつぶらな瞳でおれを見返す。
俺もこいつらも、あんまり強くはなさそうなんだよな……。
「そうだな……決めた。俺は世界一強い探索者……ではなく、世界一敵に回したくない探索者になる」




