第4話 もめ事
「俺の体を通るってどういう意味だ?」
『王の支配下にある我々は、いつでも王の体を通じて王の元へ参ります。ほれこのように……』
ボスガラスがそう言うと、俺の体のありとあらゆるところからカラスが飛び出してきた。
「なんだ……ッ!?」
痛みはない。
ただひたすら、俺の腕や脚や胴体からカラスが生み出されて、飛んでいく。
「もういい! やめろ!」
『お分かりいただけましたかな? 王がこのダンジョンを出た後でも、同じことが可能です。いつでもお呼びください』
「出てきてどうするつもりだ? 俺の言うことならなんでも聞くっていうのか?」
『その通り。王のためなら我ら一同、命を捨てます』
もしブラッククロウをいつでも召喚できて、指示通り動いてくれるならかなり戦術のはばが広がる。
「なるほど。これから世話になるだろう。よろしく」
『おまかせください。さっそくこのダンジョンを出た後に我をお呼びください。王の護衛をいたしましょう』
ダンジョンの中で戦うときだけでなく、普段の生活中でも護衛をしてくれるのはありがたい。
「わかった……けど、まず呼び出すのはお前以外のやつになるだろうな」
『なぜです、王よ!?』
「デカすぎるんだよ」
他のブラッククロウは普通のカラスと同じくらいの見た目なので、街中のカラスにまぎれこませれば騒ぎにはならないだろう。
だが、このボスは体長2メートルほどある。
こんなバケモノが街中に現れたらすぐに討伐対象になってしまう。
『だ、大丈夫です、王よ。このようにすれば……』
ボスガラスがそう言うなり、彼の体がはじけ飛び、大量のカラスに分裂した。
カラスたちはほうぼうに飛び去り、やがてその場には他のカラスたちと同じサイズになったボスガラスが残っていた。
『これであれば大丈夫なはず! 王よ、くれぐれも我を、このムギンを第一に呼び出すようにお願いしますぞ!』
「わかったわかった……」
ボスガラスあらためムギンに別れを告げて、俺はダンジョンを出た。
ひとまず『カラスの王』の効果らしきものを確認できたので、もうここに用はない。
協会の受付に戻ったことを報告しにいこうか、と思ったその時、声をかけられる。
「待ってたぞ、おっさん。てめぇ、覚悟はできてんだろうなァ?」
「またあんたらか……」
協会でからんできた金髪男のパーティだ。
さっき俺をつけてダンジョン内に来ていたが、カラスたちに襲われたせいか、あちこち血だらけになっている。
「てめぇがあのカラスどもを操ってオレらを襲わせたんだろ? こっちはケガしたんだぞ、どう落とし前つけんだ!?」
「はぁ……証拠でもあるのか?」
「おめぇはカラスの近くにいたのに襲われてなかっただろ? それが証拠だよ!」
証拠としては弱いと思うが、こいつらからすればそう見えたのかもしれないな。
「どちらにせよ、ダンジョン内の出来事は探索者の自己責任だ。俺があんたらの八つ当たりにつきあってやる必要はない」
「八つ当たりだァ!?」
金髪の男は腰にさげていた剣を抜いて俺につきつける。
彼の仲間たちも全員武器を抜いた。
「……ここでやるつもりか? もうダンジョンの外だぞ?」
「当たり前だ! 中に入ったらまたてめぇが魔物をけしかけてくるつもりだろうがッ!」
結局こうなるのか……。
そこまで強くはなさそうだが、腐ってもD級。
E級の俺よりは格上。
魔人形態になっても5人に囲まれた状態から勝てる気はしない。
かといってムギンたちを呼び出せば、やっぱり俺が魔物をけしかけたのかと思われるし……。
『王よ、我らを呼んでくだされ!』
突然、脳内で声がする。
『ムギン、お前、出てきてなくても会話できるのかよ』
金髪男が剣で俺に斬りかかる。
ムギンの声に気をとられていた俺はよけるのが間に合わず、仕方なく腕でガードする。
「痛……くない……?」
今、確かに腕を斬られたはず。
斬られた感触があった。
しかし痛みがない。
腕を確認すると、確かに肉が切れていた。
しかし、血の代わりにこぼれ落ちたのは黒い羽根だった。
肌が修復され、さらには切り裂かれたスーツまでもが逆再生されるかのように元の状態に戻りはじめる。
俺と金髪男は思わず目を見開いて見つめあった。
「はぁ? てめぇ、まさか治癒魔法の使い手かッ!?」
彼らよりも俺のほうが驚いているだろう。
混乱しつつも、脳内でカラスたちに聞いてみる。
『おい、ムギン。どうなってるんだ俺の体は? お前らが何かしたのか?』
『王の痛みも苦しみも我らが背負いまする……それよりも、こやつら許せませぬ! 王を害するものは敵である! ものども、出あえ出あえッ!』
バサバサバサッ――と音を立てて目の前が暗くなった。
カラスだ。視界をおおいつくすほどの量。
俺の体から勝手にカラスたちが飛び出している。
カラスたちはそのままの勢いで探索者たちに襲い掛かる。
「うわッ! こいつ、やっぱりこいつがカラスを操ってやがる! お前らなんとかしろ!」
「きゃあ! タケシがなんとかしてよ!」
「クソッ! 雑魚どもが……離れろ……!」
俺を置いてけぼりにして、カラスたちと金髪男たちが争いはじめる。
「おい、お前ら勝手に……」
『王よ、ご安心くだされ。必ずこやつらを殺し尽くしてごらんにいれましょう! お前たち、こやつらを生きて帰すでないぞ!』
「おい、殺すなっての。お前らやめろ」
俺の声を聞いたカラスどもはピタリと攻撃をやめ、俺を守るようにして待機態勢に入った。
金髪男たちは態勢を立て直しつつも、カラスが気になるのか、俺をにらみつけたまま攻撃はしてこない。
沈黙が場を支配している。
静かになって気づいたが、いつの間にかまわりには野次馬たちの人だかりができていた。
そして野次馬たちをかき分けて前に出てきたのは協会の受付にいた男性職員だった。
「ちょっと、またあなたたちですか! もめ事は困りますよ! 今すぐやめなさい!」
「うるせぇ! このおっさんが魔物をけしかけてきやがった! こいつが悪いんだよ!」
「なんですって!? ちょっとあなた、彼の言ったことは本当ですか?」
職員はうんざりした顔で俺に問いかけた。
「はい? あなたは……あんたらは、本当に役に立たないな。ことが終わってからのこのこ現れて……」
「否定しないんですね? そのカラスたちが証拠じゃないですか」
いまだに俺を守るようにして待機するカラスたちの姿を見ると何も言えなくなる。
『お前ら、いったん解散しろ。こっそり上空で待機できないか?』
『御意』
ムギンたちは、いろいろな方向へ飛び去っていった。
「ほらっ! 今の見ただろ? こいつが操ってるんだって!」
「いいですから、あなたも少し黙っててください。とにかくダンジョン外でのもめ事は協会があずかります。反抗するなら探索者タグのはく奪もありえますよ」
男性職員は俺たち全員を見渡した後、ひとまず野次馬たちを解散させた。
『王よ、この偉そうな男はなんなのです? こやつも殺しますか?』
『殺すな殺すな。そのまま上空で待機してろ』
この場に残っているのは、俺、金髪男のパーティ5人、協会の男性職員だけになった。
あらためて職員は俺をにらみつける。
「あなた……高木さんでしたか? さきほどのブラッククロウを操っていたのはあなたのスキルで間違いありませんね?」
「……確かに操ることは可能だ。けど、ダンジョン内で彼らが襲われたのは俺のせいじゃない。かつ、ダンジョン外で先に手を出してきたのはあいつらだ。俺はそれに対処しただけ。正当防衛でしかない」
「そんな言い訳が通用するとお思いですか? さきほどブラッククロウが彼らを攻撃していたのを見ました。ダンジョン内でも同じように命令したのだと考えるのが妥当では?」
「お前らは自分の信じたいものしか信じないのか?」
「なんですって!?」
協会職員と一触即発になりかけたその時、俺たちの近くに一台の車がとまった。
黒いセダンの後部座席から降りてきたのは黒いパンツスーツを着た女だ。
身長160センチくらい。眼鏡。黒髪を後ろでまとめている。
何のへんてつもない地味な女だった。
しいていうなら胸が大きくて、探索者には向いていなさそうだなと思った。
その女が俺たちの元へやってきた。
「あのー、ここから先の話は我々があずかりますので、みなさまお引き取りくださいー」
「はい? あなたなんなんです? ダンジョン協会の職員である私に命令する権限があるんですか?」
「失礼しました。わたし、公安5課の石塚ですー」
「公安!?」
石塚と名乗った女は俺の顔を見て、ニコリと笑った。
「高木さん。車を用意しているので、ご一緒いただけますか?」




