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第3話 カラスの王

 探索者登録をした日の夜、自分のスキルについてあらためてネットやSNSで調べてみた。


 まず『魔人』系のスキルの持ち主は世界中でちらほらいるらしい。

 ネットで出てくるのは狼人間、竜人、巨人なんていうあからさまに俺より強そうな奴らばかりだった。

 そのほかにもエルフ、ドワーフというのもいるらしい。


 また、『カラスの王』と『道案内』についても調べてみたが、情報は見つからなかった。


 もしかしたら似たスキルに覚醒した探索者もいるかもしれないが、公開していないのだろう。


 やはり自分で試行錯誤するしかないようだ。


 ということで、翌日、俺は朝から新宿御苑しんじゅくぎょえんに向かった。


 ここは通称カラスダンジョンと呼ばれ、カラス系の魔物しか出てこない。


 ボスにさえ手をださなければE級魔物ばかりの初心者用ダンジョンだ。


 だからだろう、御苑横にある協会の建物に入ると、ロビーには若い探索者が多かった。


 彼らは、スーツ姿の俺を見て鼻で笑ったり怪訝な顔をしたりしている。


 反応を無視しながら受け付けに向かおうとすると、行く手をはばむようにして数人の男女がやってきた。


 5人組。男3人、女2人。全員20歳を少しすぎたくらいだろうか。


「おーい、おっさん。こんなとこでなにやってんの? 迷子?」


「えー、でもこの人、首に探索者タグぶらさげてるよ?」


「うわっ、ほんとだ。しかもE級じゃん」


 一番最初に声をかけてきた金髪の男が俺のタグを勝手に触り、そう言った。


 これだから探索者は……と思ったが、俺も今は探索者だ。

 なら探索者の流儀で返答するしかない。


 俺は金髪男のタグを手に取り確認する。Dと書いてある。


「D級か。パーティ組んで……D級?」


「オイッ、てめぇなに勝手に触ってんだ殺すぞッ!」


 金髪は激昂して胸ぐらをつかんできた。

 シャツがしわくちゃになる。


 これはもう殴ってもいいのか? 正当防衛になるか? と考え始めたところで、受付の中にいた男性職員が声を張り上げる。


「コラッ、そこ! 協会内でのもめ事は処分の対象ですよ!」


「チッ……おい、おっさん覚えとけよ」


 金髪は捨て台詞をはきながら仲間とともに建物を出て行った。


 俺は彼らの顔を忘れないよう脳に焼きつけた。

 これで俺の敵リストは8人になった。

 この調子で敵が増えていくと俺の記憶力が持たないのでなんとかしたい。


 気を取り直して、受付でカラスダンジョンへの入場手続きをする。

 さきほど声をかけてくれた男性職員が対応してくれた。


「一人で入るんですか? パーティを組むことをおすすめしますが」


「一人ですね。今のところパーティを組む予定はないです」


「そうですか、ではこれで手続きは完了です。入場を許可します。……それより、さきほども言いましたが協会の中でもめ事は厳禁ですから、以後、お気をつけください」


「それは彼らに言ってください。先にちょっかいをかけてきたのはあちらなので」


「それにしても、あしらい方があるでしょう? とにかく気をつけてくださいね」


「はぁ……」


 どうも協会の職員は事なかれ主義なようだ。

 少なくとも俺の目からすると公平な機関に見えない。



 協会から出て、新宿御苑カラスダンジョンに入ると、綺麗な公園が広がっていた。


 ここは開放型のダンジョンで、もともと公園だった敷地がそのままダンジョンになっている。

 公園内には、あちらこちらにカラスの魔物『ブラッククロウ』が飛んでいる。


 見た目は街中にいるカラスと変わらないため油断しそうになるが、人間を見ると襲ってくるらしい。


 だが……、


「襲ってこないな」


 俺の姿を見たブラッククロウたちはカァカァ鳴きながら近寄ってくるものの、それだけだ。

 近くの木にとまり、そのまま大人しく待機している。


 これが『カラスの王』の力なのだろうか?


 次は、『カラスの王』を使うぞ、と念じてみたが特にブラッククロウたちに反応はなかった。


 とりあえず襲われないのであれば、このままボスのところまで行ってみようか、と考え始めたその時、遠くから声が聞こえた。


「おいっ、おっさん! そこで止まれや!」


 さっき協会内でからんできた金髪の探索者とその仲間たちだ。


 もめ事を起こすなと注意されたばかりなのになぜからもうとするのか……。


 いや、そういえばダンジョン内のもめ事は探索者同士で解決するんだったか?

 もうここはダンジョンの中。

 あいつらが何をやってきても協会職員がとめに来ることはないのだろう。


「はぁ……しつこいな」


 まだ距離があるので無視して進むことにした。


「おいっ、待てコラァッ! って、うわっ、なんでブラッククロウが襲ってくんだよ!?」


「きゃあ! ちょっとタケシ、なんとかしてよ!」


「あいつが通ったときは襲ってこなかっただろうが! なんでだよ、クソッ……うわぁ!」


 ……何も聞かなかったことにしよう。


 数分歩くと、日本庭園エリアにたどり着いた。


 そこの上空にはひときわ大きなカラスが飛んでいた。

 体長2メートルくらいはありそうだ。


「あれがボスか……ブラッククロウキングだったっけ? こいつのほうが俺よりよっぽどカラスの王だな」


 その立派な姿に少し感動していると、ボスカラスが急降下し、俺の前にズシリと着地した。


「……ッ! やるのか……?」


 俺も魔人形態になり、ファイティングポーズをとる。


 ボスは俺をまっすぐ見つめながら、野太い声でガァガァと鳴いた。


『我らが王よ。お待ちしておりました』


「ん? 声が……」


『我の声が聞こえますか、王よ』


 ガァガァという鳴き声と同時、副音声のような声が脳内にひびく。


「お前……もしかして喋れるのか?」


『おぉ! やはり王だったのですね! どうか我らをお導きくだされ』


 ボスガラスはそう言いながら頭を下げた。


「ちょっと待て。お前はここのボスだろう? 俺たち人間を見ると襲いかかってくるんじゃないのか」


『人間ですか。えぇ、探索者とかいう愚民どものことですな。あのような者たちと王を一緒にするなどありえませぬ!』


 俺も探索者だが……。


「ここに来るまでにブラッククロウたちが襲ってこなかったのは、俺が『カラスの王』だからか?」


『その通りでございます。やはり王の自覚があったのでございますね!』


「いや、よくわかってない。その王ってのはなんなんだ?」


 いつの間にか、俺とボスガラスの周りには新宿御苑中のカラスが集まり始めている。

 やはり大人しく見守るだけで、襲ってはこない。

 いったん俺は魔人の状態から元の姿へ戻った。


『王は我らを導くものでございます。我らはただ頭を垂れるのみ』


 ボスガラスの真似をするかのように、周りの雑魚カラスたちも頭を下げる。


『王こそ我らの帰る場所。我らの巣。我らの城。我らの国でございますれば』


「なにを言ってる……」


『今、王の国には誰もいません。ですが我らが参りました。以後、我らが王の身を守ります』


「身を守る……って言っても、どうやって? たしか魔物はダンジョンから出られないだろ?」


 この新宿御苑は公園なので天井がない。

 カラス型の魔物であればどこへでも飛んでいけそうなものだ。


 しかしそれは無理な話。


 原則として、魔物はダンジョンの中に閉じ込められている。

 こいつらも敷地を出ることはできないはず。


『いいえ。王こそ我らが巣、と申しました。王の体を通れば我々は外へ出ることができます』


 俺の体を通る……?


 何かとんでもないことを言ってないか?


 もし仮にそれが成功したら……ダンジョン崩壊……スタンピードでは?



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