第31話 スーパースペシャルウルトラハイパーレアスキル
『王よ、あの女がまた来ましたぞ』
「あぁ、そういえばもうすぐ延長3か月の期限か」
ムギンたちと俺は、とある山奥の神社で生活していた。
渋谷ヒカリエを破壊したあと、家がないし、金もないのでカラスたちに住処を探してもらった結果、ここを見つけた。
本当は新宿御苑に住めれば楽だったけれど、あの居場所は雨照や野次馬どもにバレているのでさわがしくて嫌になってしまった。
その点、ここは人里が離れすぎていて誰も来ないので気に入っている。
本気を出せば戦闘機ほどのスピードで飛べる俺なら街中からこの場所までひとっ飛びだが、公安のやつらは近くまで車でやってきて、そのあとは徒歩でここまでくるしかない。
前回は、えっちらおっちら山登りをしてここまで来たらしく、汗だくだった。
だが、今回は違うようだ。
廃墟同然の神社上空には騒音をまきちらす黒いヘリコプターがホバリングしていた。
無駄に広い境内にヘリコプターが着陸する。
ドアを開け降りてきたのは公安の女、石塚だった。
「どうも高木アタルさん。お迎えにあがりましたー」
「その表情なら、何かしらうまくいったようだな」
「そうなんですよっ! さ、行きましょう。みなさんお待ちかねです」
「結果だけ聞かせてくれればよかったんだが……」
俺が雨照に提示した和解条件は、「一ヶ月以内に、俺にまつわる情報すべてをネット上から削除すること」と「俺の情報を知った人間の記憶を消すこと」の2点だ。
期限の延長はあったものの、それを今から実行してくれるらしい。
だが、この場所ではできないので、移動するとのこと。
めんどうだが、ここ数か月のごたごたがこれで収まるというなら、ついていってもいい。
「さぁ、乗ってください!」
俺は自分で飛べるので、ヘリコプターに乗る必要はない。
先導さえしてくれれば、十分ついていけるスピードは出せる。
だが、実は前から一度ヘリコプターに乗ってみたいという願望があった。
探索者になる前なら、こんな怖い乗り物に乗るなんて考えられなかったが、今の俺であれば、たとえヘリが墜落しようが爆発しようが生き残れる。
いい機会なので、石塚の言葉に逆らうことなく、ムギンと一緒にヘリコプターに乗り込んだ。
ムギン以外のカラスは神社で待機してもらう。
移動中、石塚がなにやら話しかけてきたが、適当に受け流しつつ、俺はしばし空の旅を楽しんだ。
自分で飛ぶのとはまた別のワクワク感があり、年甲斐もなくはしゃいでいる自覚がある。
山や田んぼばかりの田舎の景色から移り変わり、家がふえていく。
最終的にたどり着いたのは、かつて俺が拉致されて連れ込まれた府中の競馬場――馬系の魔物が出るホースダンジョンだった。
「雨照が管理してるダンジョンだろ? あいつらの罠じゃないってのはあんたが保証してくれるってことだよな」
「もちろん。今日は私以外にも公安や国選探索者がいますからね。もしものときはお任せくださいー」
もしものときは公安も巻き添えにしてズタボロにしてやろうと心に決めつつ、ダンジョンの中に入る。
ダンジョンの中は、地平線が見えるほど遠くまで草原が広がっている。
相変わらず雲ひとつない青空だ。
ピクニックか昼寝でもしたい場所だが、それに似合わない存在もいた。
まず、雑に整列した大集団が目に入る。
ざっくり目測で1000人ほどの集団。
雨照だ。
集団の最前列には長い黒髪とパッツンの前髪が特徴的な美人がおり、よく目立っている。
ただし、腕を組んで「私、イライラしてます」と言わんばかりの態度で、見た目の美しさが台無しになっていた。
クランマスターの雨宮である。
その態度に反省の色が見えない。
今すぐにでも殺したいところだが、わざわざ調整してくれた公安の顔に免じて、いったんやめておく。
雨照はバックオフィスの人間も全員集まっているようで、明らかに探索者としてはやっていけなさそうな見た目の人たちもたくさんいた。
最初の一か月という期限が過ぎて以降、だいたい100人くらいの人間を殺したので、おそらく残った雨照のメンバー全員がここに集まっているのではないだろうか。
その大集団の周りに、彼らを警護するためか、彼らから俺を警護するためか、警察の人間が多数配備されていた。
公安石塚とともに雨宮が立っている場所まで歩いていく。
「遅いッ! こっちは1000人以上いるのよ? こうやって待つだけでいったいいくら人件費がかかると思ってるの? 1分1秒を惜しんでさっさと来なさい」
「はいはい、雨照のみなさま、おはようございますー。こちらは高木アタルさんです。本日は仲良くお願いしますねー」
のんびりした石塚の声に毒気を抜かれることもなく、さらにヒートアップしそうだった雨宮をとめたのは雨照の探索者たちだった。
「雨宮さん、おさえてください! これで終わりになるんですよ? もうこれ以上被害を増やしたくないんですッ」
ともすれば刺し違えてでも止めるぞといわんばかりに武器に手をかけた雨照の探索者たちの姿を見てさすがに冷静になったのか、雨宮は歯を食いしばりながら沈黙した。
その隙に石塚は話を進める。
「それでですね、こちらが本日の第二の主役というべき人物で……台湾からお越しいただいた劉さんですー。このお方こそ、高木アタルさんの要求をすべて解決するスーパースペシャルウルトラハイパーレアスキルの持ち主なのですー」
石塚がジャジャーンと言いながら紹介したのは、小さな女の子だった。
身長150㎝にも満たないていど。
髪の毛は強いくせ毛で、鳥の巣のようになっている。
劉さんは、俺にむかってペコリとおじぎした。
その拍子に、分厚いレンズのメガネが少しズレた。
俺も会釈する。
彼女は探索者のように頑丈そうな服は着ておらず、シャツにカーディガンという図書館司書のような格好だった。
未成年に見えるほど若々しいが、多分20歳はすぎているだろう。
態度に落ち着きを感じる。
「劉です。今日はよろしくお願いします。通訳はいませんが、ここにいるほとんどが覚醒者なのでワタシの言葉も通じていますよね?」
「はいー、通じておりますー。アタルさんも、彼女が日本語を喋ってるように聞こえますよね?」
「あぁ、普通に意味を理解できる。こんな感じなのか」
ダンジョンでスキルに覚醒した者は、お互いの言語が異なっても意味を理解できるようになる。
これは共通的な翻訳スキルのようなものらしい。
覚醒後に外国人と会話するのはこれがはじめてなので、不思議な感覚だ。
「では、劉さん、さっそく説明をお願いしてもよろしいですか?」
「はい。まずワタシには戦闘能力はありません。なので護衛を連れてきてます。彼女はアメリカのS級探索者メアリーさんです。脅すつもりはありませんが、かなり強いので皆さん荒っぽいことはやめてくださいね」
劉さんの隣に立っているのは金髪をオールバックにした白人女性だった。
第一印象は「デカイ」だ。
身長はここにいる誰よりも高いので190㎝ほどだろうか。
黒いタンクトップにデニムのショートパンツをはいているので、腕も脚も丸見えなのだけど、そのどちらも筋肉がミチミチに詰まっていてプロレスラーのようである。
腕と脚には、ところどころタトゥーがはいっている。
メアリーさんは強面だが、意外とチャーミングな笑顔でみんなに手を振った。
「ハロ~。手加減は得意だから安心していいよ~ん」
石塚はあわてて補足する。
「ちょっと適当なこと言うのはやめてくださいー! みなさん、本当に彼女に逆らったら死にますから、どうか劉さんに手をだすのはやめてくださいね! もしものときは、まず公安のメンツで止めに入るので、メアリーさんも一旦ステイでお願いしますーっ」
俺は彼女のことを知らないが、どうやら有名人らしく、雨照のメンバーたちはざわついている。




