第25話 戦争
「な、なんだよ……もう質問は終わりか? じゃあ、そろそろ解放してくれやッ……!」
「解放といえば解放か」
俺は右腕を無造作に振り抜いた。
パンッ、と東堂の頭がはじけ飛び、周りにいたカラスたちに血が降り注いだ。
狙撃、暗殺に特化したスキル構成である東堂の肉体はもろかった。
雨照の襲撃は、これで本当に終わりだろうか?
「『道案内』、このダンジョン内に雨照のメンバーはまだいるか?」
黄色の光が目の前で矢の形を作ったかと思うと、すぐに消えた。
案内先が存在しないということか。
ふぅ、とひとつため息をついた後、カラスたちに指示を出す。
「お前らは死体の片づけをしろ。服や装備はどうするか……いつか売ったり使ったりできるかもしれないし……」
『それでしたら、どこか遠くの山奥にでも保管場所を確保しておきましょう』
「山って……まぁ、いいやそれで」
カラスたちはいつものように死体をキレイさっぱり食べてしまった。
残った服や装備は、カラスたちが協力しながら運んでいる。
とあるカラスが東堂の服をつかんだまま俺の体に突入した。
カラスは服と一緒に俺の体の中に消えていった。
「体内に異物混入されたみたいで気持ち悪いな……。これ大丈夫なんだよな?」
『あくまで王の体を通って元の場所へ帰っただけでございます。問題ございません』
次のカラスは女魔法使いが使っていた杖を足につかんだまま俺の体の中へ。
「さすがに大盾はムギンに頼まないと無理じゃないか?」
盾使いが使っていた大盾は人間が持ち運ぶのも大変なほどの大きさと重量だ。
『いける』『集合』『服』『のせる』
カラスたちが盾のまわりに集まり工夫していた。
まず盾使いの服を地面に広げた。
次に、十羽ほどのカラスが協力して盾をひきずり、少しずつ移動させていく。
そして、ついに服の上に盾を乗せきった。
カラスたちは盾の乗った服をつかんだまま浮上した。
そのまま俺に向かって飛んでくる。
「おい、本当に大丈夫だろうな?」
眼前にせまる大盾に思わず目をつぶった俺だったが、衝撃はやってこない。
目を開けると盾とカラスたちは消えていた。
うまく入ったらしい。
味をしめたカラスたちは、東堂が使っていた長さ2メートルはありそうなスナイパーライフルまで同じように持ち運び、俺の中へと消えていった。
そんなこんなで、すべての証拠を隠滅した後、ダンジョンに残っているのは俺とムギンだけだった。
他のカラスたちは全員元の場所へ帰っていった。
「さて、俺たちも帰るか」
『時間がわかりませんな。もう外は朝でしょう』
俺はカラス形態になり、ムギンと二人でホースダンジョンから飛行しながら出た。
ダンジョンの外に雨照の残党がいるということもなく、すっかり太陽が昇って明るくなった空を飛んで帰る。
我が家であるアパートが眼下に見える位置に来たところで異変に気付いた。
アパートの周りに野次馬が集まっており、パトカーや消防車までとまっている。
「はぁ? マジかよ……なんか焦げくさいと思ったら……」
『王のすみかが……許せぬ……!』
アパートが火事になっていた。
すでに鎮火しているが、俺の部屋があった場所は黒くすすけた残骸になっている。
カラス形態のまま、割れた窓から中に入ると、アルファからチャーリーまでの5匹が出むかえてくれた。
『ごめんなさい』『やられた』『死んだ』『殺された』『負けた』
アルファたちに聞いたところ、俺が拉致された後、侵入者たちに抵抗したそうだが、奮闘むなしく殺されてしまったそうだ。
だが、名前付きのカラスには生き返るように許可を出していたので、生き返ることができた。
だが、何度立ち向かってもかなわず、結局雨照の奴らの好きにさせてしまった。
部屋の中はすべて燃えかすになっていた。
布団も本も何もかも燃えるものはすべて燃え尽きていた。
だが、いくら燃えかすになったといっても、あまりにも物が少ないことに気づいた。
たとえばPCを置いていた場所には燃えかすすらなかった。
雨照の奴らが荷物を持ち出した……?
そういえば、他に動画がないか気にしていたし、PCを回収したのか?
ただの動画、それだけのために俺の部屋に侵入し、俺を拉致し、俺の財産を没収し、俺の家まで燃やしたっていうのか?
「理解した……理解したよ。俺が甘かったんだ。敵は徹底的に潰すべき、なんだな。今さら気づいたよ」
『王よ、もはやこれは戦争ですぞ』
「戦争。そうだな。ただ……俺は奴らと違って理性的な人間だ。そうだろ?」
『そうですな。というより、いささか理性的にすぎます。甘すぎるくらいに甘いですぞ。我らはもっと苛烈な王を求めております』
「……やるときはやるよ。とりあえず、まず宣戦布告をしにいこう」
俺とムギンは自宅から飛びたち、新宿御苑にやってきた。
警備するべき家がなくなってしまったので、自宅待機組だったアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーも一緒だ。
勢いにまかせて敵の本拠地――渋谷ヒカリエに向かってもよかったが、深夜に拉致されて、そのまま戦い続けて朝になったので眠い。
このまま宣戦布告に向かう気分じゃなかったので夜まで寝ることにした。
元新宿御苑は現在カラスダンジョンとなっている。
ムギンはそこのボスだった。
「今はどうなってるんだ? 別のボス個体がリポップしてるのか?」
『いいえ、我がボスのままです。倒されていないので当然でございます』
「突然ボスが消えたダンジョンか。ダンジョン協会があわてて調査してるんじゃないのか? 異常事態だーとか言って」
『愚民どもがなにをしようとも、王が気にすることではございますまい』
ムギンの案内で連れてこられたのは、御苑内にある中国風の建造物だった。
池のほとりにたたずむ赤い瓦屋根の建物で、お寺のような構造で壁があまりない。
中に入ると木陰になっていて涼しかった。
『ここは我がよく寝床にしておりました。王にとってはせまいですが、昼寝をするくらいであればよいでしょう』
「ありがとう。俺はちょっと寝るよ。雨照への宣戦布告は深夜に行う。お前らも適当に休憩しててくれ」
しっかり眠った後、カラスたちに指示を出し準備をいくらかしてむかえた深夜。
午前2時、丑三つ時。
闇夜にまぎれて俺たちはふたたび雨照の拠点である渋谷ヒカリエまでやってきた。
上空にはおびただしいほどのカラスが飛び交っている。
ムギンとカラス形態の俺も、カラスたちにまじって上空から渋谷ヒカリエを見下ろしていた。
「作戦通り、まずは俺とムギンでやるぞ」
『御意』




