第24話 どうやって隠れていた?
さすがにスナイパーライフルほどの銃撃を至近距離から受けた衝撃は大きい。
頭が再生されるまでに少し時間がかかった。
俺の体からぼとぼとと大量のカラスの死体がこぼれ落ちた。
一度にここまで身代わりのカラスが死んだのは初めてである。
「嘘だろ……頭半分削っても戻るとか反則だろうが……」
「ようやく姿をあらわしたか」
頭が再生しきって視力も戻った俺の目の前にいたのは、2メートルほどの巨大なライフルを抱えてひざまずく一人の男だった。
灰色の軍服を着た長身の男が目を見開いてこちらを見ている。
こんな大きな男と大きな銃が突然あらわれると、手品でも見ているような気分になる。
「あんた軍人なのか? 自衛隊? それとも手品師?」
東堂の姿が見えるようになったのは俺だけではなかったようで、ダンジョン中を飛んでいたカラスたちも全員近くに集まってきた。
あいかわらず晴天のダンジョンだが、俺たちのまわりだけ天気が悪くなったかのように薄暗くなる。
それにしてもカァカァカァカァうるさいな。
「お前らちょっと静かにしてくれ」
俺が声をかけるとカラスたちはぴたりと鳴きやみ、羽音さえもたててはいけないと判断したのか、全員が地上に降りて羽を閉じ、みじろぎもせずこちらを注視している。
俺と東堂を中心にして、同心円状に黒い絨毯でも敷かれたかのような景色。
何か儀式でも始まりそうだ。
「あんたが東堂で間違いないな?」
「へ、へへ……そうさ……。クッソ……しくじった……しくじったのか、このオレが……」
東堂はひきつった笑みをうかべながら、俺の一挙手一投足を見逃さないとでもいうように、まばたきもせずこちらを見ている。
まだ銃口は俺に向けたまま、トリガーに指もかけたままだ。
「あんたに聞きたいことがある」
俺がそういうと、東堂は一瞬泣きそうな顔をした。
「ふぅ……ふぅ…………ぐッ………ハァ、ハァ、ハァ……」
彼は急に体全体を小刻みにふるわせながら、息を荒げはじめた。
「うぅぅぅ……チクショウ……なんでだ…………」
彼は震える手でもたもたとスナイパーライフルを地面に置いた。
「わかった……なんでも聞いてくれ……なんでもしゃべる……ッ!」
「まず、お前のスキルについて聞かせてくれ。どうやって隠れていた?」
「……笑うなよ? 『かくれんぼ』、それがオレのスキル名だ。馬鹿みたいな名前だが、かなりのレアスキルだぞ? 目を閉じている間は他人から認識されないんだ。他人から視認されないし、においも気配も痕跡も全部消えるッ! これがあるからこそオレは安心してスナイパーをやれてる……! なのになんで……」
なるほど、かなり役にたちそうなスキルではある。
俺の隣ではムギンが『不覚ッ』と悔しがっている。
「ん? だが、目を閉じていたら狙撃できないんじゃないか?」
「あー、そうだな……クッソ……わかった、全部種明かしする……」
そうして東堂から聞き出したところによると、彼は『かくれんぼ』以外に、『透視』『遠視』『必中』というスキルを持っているらしい。
彼は『かくれんぼ』で隠れるために目を閉じていても『透視』スキルがあるので、まぶたを透視すれば問題なく視覚を確保できるそうだ。
そして『遠視』を使えば5㎞先の標的もくっきりと見える。
しかも『必中』スキルがあれば、目視可能な対象であれば必ず攻撃が当たるという……。
「つまり、5㎞先のターゲットを確実に狙撃できるってわけか。透視のおかげで、間にある障害物も全部無視して撃てるし、かくれんぼのおかげで狙撃する姿は誰にも認識されない……それはずいぶん反則的な強さだな……」
「そうだぜ、ハマれば強い。遠距離に特化しすぎて近接戦は一般人に毛が生えた程度だけどな。でも、遠距離なら誰にも負けるはずはなかったんだ……!」
「ふぅん……でも、そのデカイライフルを持ち運ぶのも大変だし、隠れるために孤立するし、いろいろとデメリットはありそうな気もしてきたな」
「あぁ、実際、強みを活かせる環境を整えるのがめんどくせぇからな……ダンジョン内だと条件がそろわない限りあまり使えないスキルセットではある。だが、それでもまぁ……狙撃といえば……わかるだろ?」
「ん? ……もしかして、ダンジョンの外で」
「そういうこった。お偉いさんは敵が多い……雨照にもな」
東堂はライフルをなでながら、ギラついた笑顔を浮かべた。
こいつら……まさか、雨照にとって都合の悪い人間を暗殺していた?
今回だって拉致、拷問、狙撃と容赦なく殺しに来ていたこいつらであれば、じゅうぶんあり得る。
それに、確かクラマスの雨宮の父親は政治家だ。
ターゲットは探索者に限らない。
いったい何人が『病気』や『事故』で死んだのやら……。
「な、なぁ、普通は自分のスキルについてこれだけ正直に話す奴なんていないぜ? もうオレが二度とあんたに手を出さないっていう意思は伝わっただろ? オレだけじゃなく雨照は今後いっさいあんたに手を出さないッ! だから……命だけは勘弁してくれよ、なぁ、わかるだろ?」
「今後いっさい手を出さない、ねぇ……」
東堂が雨照全体をコントロールできるかのような口ぶりだが、本当にそんなことが可能なのだろうか?
東堂はA級探索者だ。
普通の探索者パーティであれば確実にリーダーをはれる人材ではある。
だが雨照のクランマスターはS級の雨宮である。
「あんたが雨宮を説得するつもりか?」
「あ、あぁ……! 雨照の中でもオレは幹部だ。雨宮は間違いなくオレの意見なら聞くはずだ」
「そもそもなんで俺を襲った? さっきあんたらの仲間の……角刈りの奴とかトンカチを持ったチビとか……あいつらは、動画を持っているかどうかを聞いてきたけど……」
「そう、動画だ! もとはといえばあんたが悪いんだぜ……フラッシュ・フラッドの連中の動画をネットに流しただろ? あれにうちの雨宮がブチギレて……あのヒス女……」
詳しく聞いてみると、あの動画はSNSでかなり話題になっているらしい。
俺は「雨照にも届けばいいな」という程度の気持ちでアップロードしたため、その後の動向をあまり追っていなかった。
まさか、そんなことになっているとは。
そして、その動画で雨照の評価はかなり下がっており、フラッシュ・フラッド以外のメンバーについてもあることないことSNSで書き込まれていて大炎上しているとか。
「今回、あんたの処分に失敗したって知ったら、次は雨宮が直接動くかもしれねぇ。S級だぞ? ははは……さすがのあんたも終わりだぞ!」
雨宮のスキルはクラン名にもなっている『雨照』。
雨を操るユニークスキル。
雨といえば、ふと就寝前のことを思い出した。
「そういえば、あの時、急に大雨が……」
「そうだ、雨宮だ。カラスの監視が邪魔だったから、ジャミングのために協力してもらった」
「まさか、ここに雨宮が?」
「はっ、来てねぇよ。あんたみたいなD級探索者のために割くような時間はねぇってさ……クソッ、あいつが戦力を読み違えたせいでこんな目に……テメェ、どこがD級探索者なんだよッ! 詐欺だろうが!」
東堂の叫び声にカラスたちが反応した。
黒い波紋が広がるように何百羽というカラスたちが臨戦態勢になる。
「ひっ……オレは素直にしゃべってるんだからカラスたちが暴走しないようにしてくれよな!?」
「聞かれたことに答えていればカラスがお前を殺すことはないだろう」
「本当かッ!?」
「あぁ。で、次は雨宮のスキルについて教えろ。雨照以外にもスキルがあるならそれについても」
「雨照は雨を操る。あんたの家の周りに降ってた豪雨みたいなのは序の口で、もっと範囲も威力も強められるが……なにせユニークスキルだ。クランメンバーですら詳しいことは知らねぇ」
東堂が何かを隠していないか、その目から読み取ろうとしたが純粋な恐怖とこびへつらうような感情しか読み取れなかった。
どうせこいつから情報を抜いたところで、それが嘘だった場合はノイズになるだけだ。
話半分で聞いておくべきだろう。
「じゃあ、雨照以外のスキルは?」
「持ってない……はずだ。ちょっ、待てって! 情報を隠してるわけじゃねぇぞ! 本当に知らねぇ! 俗説の域を超えないが、強力なスキルの持ち主はスキルの数が少ないって聞くし……雨照の強力さを考えると一つしか覚醒しなかったってのは十分ありえるはずだ」
そんな俗説があるなんて聞いたことがない。
そもそも俺はあの日、フラッシュ・フラッドに殴られるまで、探索者のことを見下していた。
探索者なんざになるなんてありえないと考えていたので、探索者についてろくに調べたこともなかった。
俺が知らない探索者の常識はまだまだあるといえるだろう。
仮にその俗説が正しいとしたら、俺の場合はどうだろうか?
俺が覚醒したスキルは3つ。
『魔人(八咫烏)』『カラスの王』『道案内』。
少ないとも多いとも言えない中途半端な数である。
目の前で座り込む東堂を見る。
彼は4つのスキルを持っていた。
俺はたまたま相性のおかげで勝てたけれど、客観的に見ると東堂はA級にふさわしい力を持っているといえるだろう。
そんな彼より1つ少ないスキル数だと考えると、俺もまぁまぁ強力なスキルに恵まれているのかもしれない。
そんなことを考えながら東堂の顔をじっと見ていると、彼はさらにおびえたような表情になった。
「な、なんだよ……もう質問は終わりか? じゃあ、そろそろ解放してくれやッ……!」




