第23話 スナイパーはどこにいる?
「どこに行った?」
カラス形態のまま上昇し、あたりを見渡すと、ホースダンジョンの出口へ向かって全力疾走する2人組が見えた。
カラスたちに襲われているが盾と魔法であしらいながら必死に逃げている。
カラスのふりをしながら近づくと彼らの会話が聞こえた。
「ハァハァ……出口、遠すぎる!」
「でも、カラスは、雑魚で、助かりますねっ」
「こんなことになるなんて、割に合わないよ……ッ!」
「で、でも、ほんとに、いいんですかっ!? 東堂さん、ほっといてっ」
「あの人は、隠れるの、得意だし、なんとかなるって」
スナイパーの東堂を残してこいつらは撤退するつもりらしい。
とりあえずもうアイアンメイデンはこりごりなので、魔法使いの女から殺す。
俺はなるべく高いところまで上昇した後、インメルマンターンのような軌道で急降下する。
弾丸のように魔法使いの後頭部に突入した。
アイアンメイデンの壁とはくらべものにならないもろさだ。
俺は体ごと彼女の頭を突き抜けた。
悲鳴すらあげず、女が崩れ落ちた。
「はッ!? おい、嘘だろッ!?」
盾の男が一瞬足をとめたが、原形をとどめない女の頭部から即死を悟り、ふたたび走りだした。
カラスたちが盾使いに対してちまちまと攻撃を加えているが、そもそも防御力が高いタイプなのか、盾以外の部分への攻撃もあまり効いていない様子だった。
俺は魔人形態に変化し、盾使いに殴りかかる。
彼は即座に反応し、体の半分を隠すような大盾でガードした。
「なにッ!? お前まだ生きて……しかも、無傷だと!?」
この盾をぶち抜くのはアイアンメイデンよりも疲れるだろう。
俺は空を見上げた。
このダンジョンの天井はかなり高いらしい。
少なくとも、さきほど上昇したときに天井にぶつかったりしなかったし、どこまでも青い空が続いているだけだった。
「実験しよう」
「実験……? 何言ってんだお前……」
俺はゆっくりと盾使いに近づき、おもむろに盾を両手でつかんだ。
そして、そのまま黒翼をはためかせる。
ふわりと浮く体。
盾使いと大盾の重量を合わせると100㎏近くありそうなので、難しいかと思われたが、意外とすんなり持ち上がった。
「おい……おいおいおいぃぃッ! やめろッ!」
「なんでだ? 空を飛べるんだぞ? なかなかできない経験だ」
そんなに嫌なら盾を手放せばいいのに、と思うが、この盾が彼の生命線でもある。
手放すという選択肢はないのだろう。
盾使いと一緒にどこまでも上昇していく。
だいたい100メートルくらいは上昇しただろうか。それでもまだ天井にたどり着かなかった。
「お願いしますお願いしますお願いします……」
盾使いは顔面蒼白で盾にしがみついていた。
「さすがにこの高さから落とされると死ぬのか?」
「わ、わからないよッ、そんな経験ないし……なぁ、頼む! なんでもしゃべるから地上に戻ってくれぇ……」
「あんたも雨照だよな? このダンジョンにいるのは、あと何人だ?」
「あ、あぁ、雨照だよ。残ってるのはボクと東堂さんだけだ……拉致班もやられたし……さっきの女の子いただろ? 彼女もボクも東堂さんのパーティメンバーだ。東堂さんはスナイパーで……さっきからあんた撃たれてるのになんで無事なんだ……」
「東堂ってやつは強いのか?」
「つよい、つよいよッ、A級だよ……それに狙撃に特化したようなスキルをいっぱい持ってるしね……。あと、詳しくは知らないけど姿を隠すスキルも持ってるんだ。ユニークスキルだって言ってた」
姿を隠すユニークスキル。おそらくこれのせいでムギンたちがまだ場所の特定をできていないのだろう。
それに、狙撃に特化したスキルというのも納得だ。
現に、今も数十秒おきに撃たれている。
それも、的確に急所ばかり。
いい加減うざったくなってきた。
「ねぇぇぇ……もういいだろぉ? いっぱいしゃべったじゃん……おろしてよぉ……」
「わかった。おろしてやる」
「ほんとかいッ!? ありが……ッ! あぁぁぁ!!!! 嘘つきぃぃぃ!!」
俺が盾から手を離すと盾使いはなにやら叫びながら落ちていった。
地上に激突する寸前でなんらかのスキルを使ったようだが、うまくいかなかったのか血反吐をぶちまけた後はピクリとも動かなくなった。
「残り一人か……」
俺がムギンを呼び出すと、体からふわりと1羽のカラスが飛び出た。
「ムギン、状況はどうだ?」
『ももももも、申し訳ございませんッ! 王のお手をわずらわせる前にしとめようとしましたが、いまだに……いまだにその場所すらつかめず……』
「いや、気にするな。どうやら特殊なスキルを持っているらしい」
上空から見渡してみても、やはり東堂らしき影は見えない。
人海戦術ここに極まれりというくらい大量のカラスが捜索しているのに見つからないとは。
「まさか、すでに逃げたとか……?」
『それはないかと。入口と地下2階への階段はふさいであります』
確かに、そのあたりにはカラスがネズミ一匹通さないというくらいにひしめき合っていた。
自分ひとりになったため東堂は戦いを変えることにしたのか、先ほどまでひんぱんに発生していた銃撃がぴたりとやんでいる。
俺もカラスたちも今は攻撃を受けていない。
「俺たちがあきらめるまで隠れるつもりか……はたまた、一発逆転のチャンスをまだ狙っているのか」
雨照の連中と戦闘をしている間、東堂から何度も銃撃を受けた。
体感では、東堂が持っているライフルの攻撃力自体は大したことがない。
スキル『カラスの王』で強化された俺の肉体は、普通の人間の何倍、何十倍の耐久力がある。
そんな俺の肉体を貫通するような弾丸なので、強いことは強いだろう。
だが、それでも既製品のスナイパーライフルの範囲を超えていないのではないかと考えている。
仮にA級探索者である東堂が攻撃力を上昇させるようなスキルを持っていたとしたら、少なくとも俺の体に大穴を開けるような攻撃をしかけているはずだ。
この期に及んで生かしたまま捕えようという考えは持っていないだろうし……。
ここまで撃ちまくっておいて、今さらスナイパーライフル以外の攻撃手段もあるとは考えにくい。
仮に東堂がいままで以上の破壊力を持つ攻撃手段を持っているとしたら、気軽に使えないほどのリスクがある……とかだろうか?
『王よ、もっと自分の力を信じてくだされ。敵のネズミが何をしようが、王には勝てませぬ。王は真正面から堂々と攻めればよいのです。それが王道というもの』
「……それもそうか。俺はうだうだと考えすぎる癖がある」
スキル『道案内』を使い、たずねる。
「さっきまで俺を撃っていたやつはどこにいる?」
光の矢が目の前にあらわれた。
矢はどこか遠くを指し示している。
矢の導きに従い、ひたすらに続く草原の上空を飛んでいく。
体感で数キロメートルほど進み、ようやく光の矢の角度が変わり始め、地面を向き始めた。
そして、ついにダンジョンのとある地点にたどり着き、地面に降り立つと、なにもない草むらが広がっていた。
やはりその場所には誰もいない。
だが、俺が矢の指し示すあたりに手を伸ばそうとすると、
「クソがぁぁぁ!!!!」
急に真正面から大声と銃声が聞こえた。
腹、胸、頭に衝撃が走る。




