第21話 拉致、尋問
目隠しと猿ぐつわをはずされた俺は、まぶしさに目を細めながらあたりを見渡した。
青い空。ひたすらに続く草原。
そして俺を囲む探索者たち。
時間的にまだ夜のはずだが、真昼間のように明るい。
やはりダンジョン内であることには間違いないようだが……魔物がいないフロアということか?
俺を囲む探索者は9人。
女が2人いる。杖を持っているが腰にさしたままだ。
それ以外の男たちはそれぞれ武器や杖を手に持って、俺につきつけている。
「手足をしばって動けなくなった俺に対して、えらく厳重な警戒だな? ビビッてるのか?」
「チッ……誰が喋っていいって言った!?」
声からして俺をかついでいたヤツだろう。
角刈りの男が俺の腹を蹴り上げた。
「うッ……。はぁ……。お前ら誰だ?」
「黙れ! 質問するのはこっちだ。おいやれ」
「こ、こいつ、強気だね。や、や、やりがいあるね」
かなり背の低い男が手に持っていたトンカチで俺のすねあたりを強打した。
骨にひびが入ったかもしれないが、カラスたちに痛みを肩代わりしてもらっているので、俺は何も感じなかった。
「俺の腹を撃ったヤツもこの中にいるのか?」
「こ、こいつ、効いてないね? む、無視、する、するな!」
チビの男は顔を真っ赤にしながらトンカチで俺の体中を叩き始めた。
「おいおい、まだ殺すなよ!」
角刈りの男に羽交い絞めにされたチビは不満そうな顔をしている。
さすがにダメージの許容量をこえたのか、俺の体からカラスの死体が2つこぼれ落ちた。
「スキルかッ!?」
男たちはすぐさまカラスに剣をつきたてた。
「なんだ……? このカラス……もう死んでる? これだけか? まぁいい。それよりお前、こいつを見ろ」
角刈りの男はスマホの画面を俺に見せる。
そこには俺がアップロードしたフラッシュ・フラッドのリーダーが土下座をしている動画がうつっていた。
「この動画を投稿したのはお前だな?」
「なるほど、あんたら雨照の関係者か」
「そうだ。やっぱテメェか。テメェのせいでうちのイメージだだ下がりなんだよ! どうしてくれるんだッ!」
角刈りの男はまたしても俺の腹を蹴り上げた。
「そ、そ、そいつを痛めつけるの、ボク、ボクの役目だね」
「うるせぇよ、わかってる。でだ、高木アタル。テメェに聞きたいことはただ一つ。この動画以外にまだ雨照に関わる動画を持ってんのかっつー話だ」
「動画?」
「あぁ、また新しい動画でもあげられたら、さすがにうちのクラマスもブチギレだ。オレたちも困ってんだよ。まさかすでに新しい動画を投稿しましたなんて言ったらどうなるかわかってんだろうなァ?」
フラッシュ・フラッドの醜態がおさめられた動画は全部アップロード済で、他にはもうないのだが……俺は困惑していた。
「そんなことを聞くためだけに俺を拉致したのか?」
「テメェ! 質問に答えろやッ! おい、やれ!」
「りょう、りょ、了解ッ」
チビの男がまたしてもトンカチをふりあげる。
こんどは俺の腕をおさえつけて、指にトンカチを振り下ろした。
数本が変な方向に曲がり、骨折してしまった。
だが、俺の指はすぐに元に戻っていく。
「な、なに? なに、この人、へ、変だよ! すき、すき、スキルだね」
チビ男はなぜか嬉しそうに興奮しはじめたが、角刈りのほうは表情に余裕がなくなりはじめている。
俺はふたたび周りを見渡した。
近くにいるこの9人以外に人影は見えない。
魔物も見えない。
障害物もないため、おだやかな草原が地平線まで続いている。
「も、もう、我慢できないなボク」
チビ男がいつの間にか手に持っていたのは釘だった。
彼は釘を俺の太ももに打ち込んだ。
「す、す、すごい! 全然痛くないの? パ、パ、パラライズにかかってる?」
少し後ろで見守っていた魔法使い風のローブを着た男が、「パラライズは重ね掛けしてるけど、痛覚まで消えるわけじゃない」と答えた。
ローブの男は続けて、「東堂さんに一発撃ってもらいましょうよ。なんだかこいつ、不気味だ」と角刈りの男に言い寄った。
角刈りの男は舌打ちをしながら、スマホを取り出し、どこかへ電話をかけはじめた。
「お疲れ様です……えぇ……えぇ、そうなんすよ。いや、まだ殺すのは待ってください、適当に一発お願いします」
彼が電話でそう言うやいなや、ブスッという衝撃とともに俺の腹を何かが通り抜けた。
撃たれた?
部屋で寝てたときと一緒の奴だろう。
撃たれた場所からは血まみれのカラスが一羽こぼれ落ちた。
カラスと引き換えに、俺の傷は癒えていく。
角刈りの男は電話をしたまま俺の服をめくり、腹の傷を確認した。
「クソッ、ダメです東堂さん。当たったけど、すぐ治療されちまう……いや、待ってください、もうちょっとこっちでなんとかしてみますんで」
角刈りの男が電話を切る。
東堂というのが、部屋で俺の腹を撃ったヤツなのだろう。
俺を囲んでいるこいつらから離れた場所にひそんで狙撃しているようだ。
だが、撃たれた方向を探してみても草原しか見えなかった。
ただのスナイパーライフルかそれともスキルかはわからないが、どちらにせよダンジョンの外からの攻撃ということはないだろう。
俺はさきほどから一番気になっていたことを聞いてみる。
「魔物がいないけど、ここはダンジョンなのか?」
角刈りの男は苦虫をかみつぶしたような顔をしながらも、ニヤリと笑った。
「そうだぜ。1階はすべてが安全地帯っていう激レアダンジョンさ」
「へぇ、そんなダンジョンもあるんだな」
「しかも、ここは雨照が管理しているダンジョンだからクランメンバー以外は立ち入り禁止。つまり、お前がいくら泣き叫ぼうとも助けは来ないってわけだ!」
「誰も来ないのか……それは俺としても都合がいいな。お前ら、出てこい」
俺の体から爆発するかのように大量のカラスたちが飛び出していく。
俺のまわりだけ夜になったかのように暗闇が広がっていく。
カラスたちは、俺を囲んでいた探索者たちを通りすぎてダンジョン内に広がっていく。
カラスたちは探索者の横をただ通りすぎるだけでなく、くちばしやかぎ爪で少しずつ削り取っていった。
「ぐぁッ!? ふせろ!」
「きゃぁ! うぎッ……無、理……」
近接戦に強いタイプではない探索者も混じっていたようで、すでに肉をすべて食われ骨だけとなった者もいる。
そのような混乱のさなかでも、どこか遠くにいるスナイパーは冷静なようだ。
手足をしばられたまま地面に横たわる俺の額と心臓を正確に撃ち抜いてきた。
額と心臓からカラスの死体がこぼれる。
俺もカラス形態に変化し、体の自由を得た後、魔人形態に変化する。
服装もパジャマがわりのジャージから黒スーツに換装された。
「ムギン、それからフォックス、ゴルフ、ホテル、インディア、ジュリエット、いるか?」
『ここに』 『『『『『ここに』』』』』
「お前らはさっきから俺を撃ってきてるスナイパーの位置を特定しろ」
『御意』




