第20話 襲撃
フラッシュ・フラッドへの復讐を果たした次の日、気が抜けたのか1日中だらだらと部屋ですごしていた。
ムギンを筆頭に名前付きのカラスたちを部屋に呼び出し、ルートビアを一緒に飲みながらだらけていた。
『王よ、ルートビアを生産している工場は国の宝です。場所をおしえてくだされ。我々で守りましょう』
「教えないよ。やめろよ。アメリカの会社だから日本の工場だけ守ったって意味ないし」
『アメリカとは海を渡った東にある国ですかな? あの土地のカラスもすでに我らの支配下ですぞ』
PCで世界地図を開きながら、ムギンに見せた。
「アメリカはここだ。そういえば世界中のカラスを支配するとか言ってたな。今、どうなってるんだ?」
『この北の果てや南の果てにはカラスはおりませんでしたが……ほぼすべての大陸を調査し終わりました。遭遇したカラスはすべて支配下に置いております』
ムギンがくちばしでさしたのは北極や南極だった。
さすがにカラスが生きていける環境ではないだろう。
俺は海外にほとんど行ったことがない。
今度、飛んでいってみようか?
「それで、支配すると何の意味があるんだったっけ? 監視の目が増える……だけじゃなく」
『我らの力は王の力そのものですぞ。王はまだ本気で力を使ったことがないため気づいていらっしゃらないようですが、かなり強化されておるはずです』
「そうなのか。明日あたりからまたダンジョンに潜るとするか」
当初目標だった「フラッシュ・フラッドをぶん殴る」は達成されてしまったので、やる気が減少しているのは事実だ。
だけれども、今後、またどんな敵に遭遇するかもわからない。
はやめに自分の力のコントロールを学び、探索者ランクもあげておくのが吉だろう。
その日の夜、寝る準備をしていると、急に外から激しい雨音が聞こえはじめた。
「天気予報では雨なんて言ってなかったけど……ゲリラ豪雨か?」
俺は自分の頭のなかというか胸のなかに問いかけるようにしてアルファとブラボーに話しかける。
「アルファ、ブラボー。雨だけど大丈夫か? あまりにきついようなら監視はやめて入ってきていいぞ」
『大丈夫』『大丈夫』『でも見えない』『あんまり見えない』
脳内に直接、アルファとブラボーの返答が聞こえた。
「雨が強くて視界が悪いってことか? だったらあんまり意味ないし入ってきても……」
俺が窓を開けようとすると、ムギンがそれを止めた。
『王よ、それは我々に対する侮辱ですぞ。アルファとブラボーは自分の仕事をまっとうする責任と能力がありまする』
「そうか……なんか、俺よりよっぽどお前のほうが王に向いてそうだな」
『そ、そのようなつもりでは!』
「わかってるって。じゃあ、アルファとブラボーはひきつづき監視を頼む」
深夜、窓が割れる音で目が覚めた。
『王よ、ご無事ですか!?』
ムギンが騒いでいるが、俺はまだ寝ぼけている。
俺の腹のあたりからカラスが1羽ずるりと出てきた。
死んでいる。
パジャマがわりに来ていた服を確認すると、小さな穴が開いていた。
窓は粉々に砕けて室内に飛び散っている。
「ムギン、部屋の中に敵は?」
『おりませぬ。遠距離からの攻撃と思われます!』
「遠距離……ライフルか何かで腹を撃たれた?」
アルファとブラボーに状況を尋ねようと窓に近づいたその時、突然窓の外から侵入者が現れた。
それと同じタイミングで部屋のドアのほうからも侵入者が入ってくるような音がした。
「パラライズ!」
侵入者がスキルを唱えると俺の体が淡く光った。
俺の体から麻痺状態のカラスがこぼれ落ちた。
パラライズを唱えた侵入者の後ろから2人組の男が現れる。
彼らは俺を殴り倒し、すみやかに手足を縛り始めた。
『王よ、どうなさいました!? なぜ抵抗しないのです!』
声に出さず脳内で指示を伝える。
『ここで抵抗して全員倒したら、こいつらの目的とかがわからないだろ? まずは捕まってこいつらのアジトにでも連れて行ってもらおうと思ってな』
『なるほどそうでしたか。脅かさないでくだされ。では我々はどうすれば?』
『大人しくしてろ。こっそりついてこれるようならついてこい』
『御意』
男たちは俺を肩に担ぐと、アパートの外にとめてあった黒いハイエースに乗り込んだ。
ハイエースの中は運転席と助手席以外のイスがなく、広い空間になっている。
拉致犯の探索者たちは俺をハイエースの床に転がし、武器をつきつけてきた。
「変な気は起こすなよ。いつでも殺せる。よし、出してくれ」
「了解。スムーズだったな。雑魚すぎだろ」
「あぁ、聞いていた話だともっと手こずると思ったんだけどな……しょせん探索者になって1カ月にもみたないルーキーってことか。修羅場をくぐってねぇとこんなもんさ」
車がどこかへ向かって走り出した。
頭の中で、ムギンに問いかける。
『ムギンたちは全員無事か?』
『我らは全員窓から逃げました』
『そうか。俺が乗っている車を追いかけてこい』
途中から目隠しと猿ぐつわもつけられたので、どこを走っているのかわからなかったが、10分から20分ほどたったあたりで車が停車した。
目的地についたようだ。
また俺は探索者たちの肩にかつがれて移動する。
『王をかついだ人間たちは、広い草原のある敷地に入っていきます』
『草原? ダンジョンってことか?』
『いえ、魔物は見えませぬが……。あっ、草原の真ん中にゲートが見えます。おそらくダンジョンかと』
そこまで説明されてピンときた。
移動にかかった距離から推測すると、おそらくここは東京競馬場だ。
いや、元東京競馬場であり、現在はホースダンジョンと呼ばれる馬系の魔物が出るダンジョンだ。
『ムギンたちは上空で待機しておけ。あとで呼ぶ』
『御意』
外は豪雨の音でつねにうるさかったが、ダンジョンの中に入ると、とたんに静かになった。
ダンジョン内に入っても探索者はしばらく無言で歩き続けた。
ダンジョンの奥まで運んでから拷問にでもかけるつもりだろうか?
このホースダンジョンは馬系の魔物が出るということしか知らないので、いまどんなフィールドを歩いているのかはわからない。
少なくとも迷路のようなタイプではないことは確実だろう。
なぜなら、彼らは全然スピードを落とすことなくまっすぐ歩いている。
そういえば先ほどから戦闘しているようなそぶりもない。
魔物がいないのだろうか。
そんなことを考えながら大人しくしていた。
体感で1時間ほどたったころ、ようやく彼らは停止した。
少し離れた所から男の声が聞こえる。別の仲間もダンジョン内にいるらしい。
「よぉ、待ちくたびれたぞ」
「うるせぇよ。それより東堂さんは?」
「あぁ、もうスタンバってるから始めていいってよ」
俺を担いでいた探索者は、俺を地面に投げ捨てた。
「ぐッ……」
「はぁ、疲れたぜ。なんでオレがこんなおっさんを運ばなきゃなんねぇんだよ。若い女とかならテンションあがるのに」
「ダッハッハ! やっぱ拉致班は変態だな」
「うるせぇよ。それより準備はいいか? 目隠しと猿ぐつわを取るぞ」




