第19話 雨照:緊急会議
雨照側の話です。
明日からまた主人公側の話に戻ります。
日本最強と言われるS級探索者、雨宮美花。
彼女が率いるのは、やはり日本最強、そして日本最大のクランである『雨照』だ。
A級やB級探索者も多数所属し、いくつものパーティが日本各地で活動している。
探索者だけでも数百人が所属しており、バックオフィスの人員も含めると、雨照の関係者は1000人を超えるという。
それほどの人数を収容するためには必然、クランホームも巨大化する。
彼らは、渋谷ヒカリエの17階から34階を独占し、クランホームとして利用していた。
そんな渋谷ヒカリエの33階、大会議室。
この日、クランマスターの雨宮を筆頭に、雨照の上層部が集まっていた。
A級ダンジョンへの探索に匹敵するほどの緊張感が会議室にただよっている。
部屋の中央には大テーブルがあり、上座には大和撫子という言葉をそのまま形にしたような、凛とした佇まいの美女が座っている。
クランマスターの雨宮だ。
背中までとどく黒髪は絹のように美しく、前髪は神経質なほどの直線を描いて切り揃えられている。
その美しさでも隠し切れないほどの不機嫌さが目から読み取れる。
彼女の左隣には、灰色の軍服を身にまとった長身の男が座っている。
雨照の中でもトップクラスの実力を持つA級探索者、東堂だ。
彼はニヤついた表情で、会議室のスクリーンに映った映像を見ている。
その他、法務部、広報部など、各部門の代表者が机を囲んでいる。
雨宮は、大きなため息をついた後、横にいる東堂をにらんだ。
「それで、フラッシュ・フラッドのメンバーには連絡がついたの?」
「いいや、まだだぜ? っていうか、十中八九アイツらはもう死んでるだろ」
「チッ……! 死ぬなら勝手に野垂れ死ねばいいのに……なんでよりによって、あんな映像が出た後に死ぬのよッ!」
バンッ、と雨宮が机を叩き、東堂以外のメンバーがビクッと肩をふるわせた。
会議室のスクリーンでは、現在とある映像が繰り返し再生されている。
フラッシュ・フラッドのメンバーが女性をナンパし断られたあげく暴言を吐く映像。
彼らが道ばたでサラリーマンを殴る映像。
ダンジョン内で探索者に危害を加えている映像。
そして、ついさきほど入手した最新の映像では、フラッシュ・フラッドのリーダーである久保田ケンジが土下座をしながら誰かに命乞いをしている様子が映っている。
東堂はハハッと声をあげて笑った。
「あんな雑魚ども、どうでもいいだろ? また新しい奴らをスカウトすればいいじゃねぇか。雨宮ちゃんはなんでそんなイライラしてんだ?」
「もとはと言えば、あなたがあんな馬鹿を採用したせいでしょうが!」
「あいつらはあれでもバランスが取れたいいチームだったんだけどなぁ。あっさり殺されるとは思えねぇが……ま、探索者なんてそんなもんさ」
「もういい! で、あなたの配下から聞いた話だと、この映像が撮られたと思われるマネキンダンジョンからカラスが出てきたって?」
「あぁ、そうらしい。それ以外に、いつもと違う様子はなかったとさ」
「カラスなんてどこにでもいるけど確かにダンジョン内にいるのはおかしいわね。なにかつかめたの?」
雨宮の対面に座っていたスーツの男性が軽く手を挙げた。
雨宮の父親は国会議員をしており、その秘書を務めるのがこの男である。
「そこから先については先生から情報をいただいております」
「さすが辻本さん。パパはなんて?」
「ダンジョン協会に問い合わせると、3週間ほど前に登録した探索者が怪しいのではないかということでした。スキルデータベースに、カラスという単語で検索をかけて判明したそうです」
辻本が手元のパソコンを操作し、会議室の大スクリーンに資料を映し出した。
おそらく監視カメラに写っていた姿をひきのばしたのであろう、画質の悪い写真が表示される。
黒いスーツを着た男性だ。
写真の横には、名前やスキル名も映されている。
「名前は高木アタル。探索者ランクはD級。スキルは『魔人(八咫烏)』『カラスの王』『道案内』を持っているようですが、類似例がなく詳細は不明です」
「ふぅん、魔人ならまぁまぁ強いってところだけど……ヤタガラス? あの古事記に出てくる?」
「それも不明ですが、なんでもカラスに変化したとのことです」
「強いのかよくわからないわね……。道案内はともかく、カラスの王っていうスキルは?」
「こちらも不明ですが、この高木アタルは新宿御苑のカラスダンジョンに顔を出したことがあるそうです。ダンジョンの外で他の探索者とトラブルになり、その際、カラスを操っていたとの情報を職員から得られました」
ふたたびスクリーンでフラッシュ・フラッドのリーダーが土下座をしているシーンが再生される。
彼の命乞いをかき消すほどの音量でカラスの鳴き声が聞こえている。
雨宮は顔をしかめた。
「やはりマネキンダンジョンの中でここまで大量のカラスがいるのは明らかにおかしい。この高木という探索者で間違いないでしょうね」
「カラスに関係するスキルの持ち主なんて、彼一人しかいませんでしたから、ほぼ間違いないかと」
「彼の住所は?」
「府中です。一人暮らし。家族はいません」
会議に参加しているメンバーは、なぜそこまでわかるのか? というような目で辻本を見る。
「都合がいいわね。東堂」
「なんだ?」
「あんたの部下の責任なんだからあんたが始末をつけなさい」
「へいへい。もう殺っていいのか?」
東堂がニヤリと笑いながらたずねると、雨宮が答える前に、広報の代表をつとめる女性が声を上げた。
「ちょっと待ってください! 高木アタルがもし別の動画をしかけていたら? 死んだあとにまた爆発したら火消し担当が過労で死にますって!」
雨宮は苦笑いで広報担当に問いかけた。
「そっちの問題もあったわね。SNSの動画は削除できたの?」
「大本の投稿とアカウントはすでに削除しました。ですが、インプレ狙いの別アカウントが再投稿しまくってますよ……。もう止められません。いたちごっこです……」
「チッ……とにかく人の噂も七十五日っていうし、対応し続けて。で、この高木アタルはまだ消しちゃだめなの?」
「えぇ、できるなら生きたまま確保して、他に爆弾がないか吐かせてからにしてください」
東堂が声をあげて笑った。
「ひゅー、広報ちゃんが一番過激だねぇ! って、おいおいそんな目でにらむなって。目の下のクマもすげぇから怖ぇんだよ」
「殺す殺す殺す殺す……誰のせいで睡眠時間削ってると思ってんの? 殺す殺すころ」
東堂と広報が一触即発となる中、パンパンっと雨宮が手をならした。
「はいはい、まとめるわよ。辻本さんは引き続きパパと連携をとって情報収集をお願いします。広報部は引き続きSNSの火消し。東堂は高木を生きたまま確保」
東堂が席を立ちながら問う。
「逃げられるくらいなら、殺してもいいんだよな?」
「えぇ……殺っちゃって」
広報代表が頭を抱えるが、雨宮は無慈悲に命令して会議をしめた。




