08 崩れる氷俐
ヒソヒソ、ざわざわ、ねえご存知? ええあのこと、この間のこと……周囲の潜めた声は、聴覚から入り込んでメルカの視界一面にノイズ効果をかけるようだった。
「ねえ、お聞きになりました? ロマリウス公爵令嬢のこと……」
「ええ、聖人の……アルマロスさんと、随分と親密でいらっしゃるとか」
「考えてみれば、そうなるのも仕方がありませんわよ。いくらカミラ様とシェーラ様のことがあったからって、ケムエルン侯爵令息はいつもああいった態度でいらして」
「どんなに好きでも、いつかは気持ちも尽きるというもの」
「それにあの日の、アルマロスさんと寄り添う姿……まるで恋物語の姫君と騎士でしたわ」
「ケムエルン侯爵としてはどうお考えなのでしょうね」
「お相手が聖人とはいえ、流石に外聞というものが……」
ピーチクパーチク、世の女子というものはどうしてこうも噂を好むものなのか。
Aクラスの教室へ向かう間だけでこうなのだから、食堂などに行けば絶対に穴でも開きそうなほど噂の的として視線が集中することは間違いない。
そんなわけでメルカは昼休み、食堂は避けて、学院の中でも奥まった場所にある庭園のガゼボの1つでミカエルと食事をし、作法等の勉強を教えることにしている。
放課後の図書館も同じことであるので、放課後もやはり庭園の方へ行くことになる。
そもそも、放課後に図書館を利用していたのは、もちろん適した場だというのはあったが、主目的はメルカがトールの姿を遠目で確認し、下校時のストーキングのタイミングを逃さないためだった。
しかしメルカの2年強続けてきた登下校ストーキングは、交友会前の図書室でのトールとの諍いを機に止められている。
ミカエルが強固に反対しているのだ、交友会以後は特に。
交友会後、トールと話をしたいから、とメルカはストーキング再開をミカエルへ打診したのだが、ミカエルは首を横に振り、却下した。
「あの形相、あの剣幕の、しかも暴力に走る男の前に、俺がメルをほいほい行かせると思う?」
「トール様は今まで一度もわたくしに暴力を振るったことはありませんわ。ミカにはその、本当に申し訳ないことでしたけれど……それに、わたくしが何か酷くご不興を買ってしまったようなのですから、謝罪にいかなくては」
「必要ないね。今までもいつも嫌がってたって話なのに、その上あんな暴言を吐いてくるような男には、メルの顔を見せるのももったいない」
「わたくしのことなんて」
「なんて、から先を言ったらメルにも怒るよ。前世で俺がどれだけ辛い思いをしたか分かる?」
前世の件については、ミカエルはもちろんメルカの非でもないとはいえ、そこを突かれるとメルカは大人しく頷かざるを得ない。
渋々いつもと同じ時間に起きては男子生徒寮の方向を見るだけ見てトールを想うという、何かの宗教の礼拝みたいな朝夕を過ごしているメルカであった。
しかしこの状況がいつまでも続くのはマズい、致命的なのである、文字通りの意味で。
いや、メルカが登下校ストーキングを再開したところで解決する見込みのある問題でもないので、こうとなっては何か別の解決策を考え出すより他にはないのだけれど、それがメルカの恋心に沿うかとなるとまた難しい。
あっちを立てればこっちが立たず、とは言うけれど、メルカの現状としては双方ともに立てられていなかった。
朝、Aクラスの教室に着くと、最前列で資料を捲りながら書き物をしているトールの背中が見える。
ここ最近ほど、同じクラスで良かったと感じたことはない、ひとまず朝は必ず姿を見ることが出来るからだ。
ただ、トールはメルカと目が合うと、やはり交友会の日のような殺意に近い憎しみのこもった視線でメルカを睨む。
トールを怒らせることは本意でない、そんなわけでメルカはなるたけトールの視界に入らないよう、後方ストーカー面、コソコソと隅からトールを見ては萌えと切なさでため息つくのであった。
今のメルカにとって気がかりなのはトールの健康状態である。
トールは今までと同様に完璧なレポートを提出し、予習を欠かさず、その上で将来宰相職を継ぐための布石として議会宛てに提出する政策法案を練ることも続けているようなのだが、黙々と作業に俯く顔色は悪く、目もいつもの冴えた集中を欠いているように見え、時折無意識だろう、苛立ち紛れに整った髪をかき乱している。
心配過ぎる!
嫌われぬいているメルカが何かしたところで火に油を注ぐ結果になるだろうと弁えていなければ、火事場の馬鹿力を発揮して有無を言わせずトールを保健室へ担ぎ込んでいるところだ。
闇魔法に強制的に相手の意識を奪う魔法はあるけれども、犯罪者以外に使うのは違法である。
色んな意味で、トールに休息を強いるため使える手段ではない。
何も出来ない無力感に、メルカがトールの背中を見つめながら雨に打たれた小犬のような顔をしていると、隣から声がかかる。
「メルカ様、少しよろしいでしょうか」
意志がしっかり籠っていると感じられる、ハスキーな声だ。
紫がかった黒髪を、前世の悪役令嬢ものではお決まりらしかった縦ロールにくるくる巻いてハーフアップにしている、少しつり目がちながらも知性の滲んだ紫色の瞳が美しい女生徒、ユリエラ・リリスベル侯爵令嬢である。
「ユリエラ様、どうなさいましたか?」
実はユリエラは、メルカの唯一、ギリギリ、友人と言えなくもない、おそらく、多分、友人と呼んで嫌がられることは少なくともないだろう、つまりは希少な女友達であった。
勉強は最低限、社交もトールのストーキングに全ツッパしているメルカとは違って、この国の国母にさえならんという心構えを説かれて育ち、クリスほど突き抜けてはいないものの、文武両道才色兼備を武器として、学院でも実家に利する派閥を形成している、貴族令嬢の中の貴族令嬢、令嬢の鑑と言える人物だ。
美人だが顔立ちが強く見えがちで、異性から煙たがられることが多いあたり、損をしがちというか、『聖ヒロ』原作ゲームにおいてもヒロインへ真っ当な注意をしているだけなのに悪役令嬢と位置付けられてしまっている、苦労の多いお人である。
『聖ヒロ』は元の開発コンセプトから足の出た色物ゲームではあったものの、ルートによっては卒業パーティーでの悪役令嬢の断罪シーンはしっかり発生するようシナリオが組まれていた。
Web小説における乙女ゲーム概念というコンセプトの面目躍如というべきか、そこさえ入れとけば何しても良いと思っていたのか、ともかくWeb小説での鉄板そのものの断罪シーンだった。
今世のメルカの唯一の女友達になってくれている奇特さからも察せられる通り、ユリエラは生真面目で面倒見が良い、前世日本でいうところの委員長タイプである。
学院の生徒の名前や実家の情報はすべて頭に入っているとの噂があるほどの社交力、スカウターがあれば53万とか出るかもしれない。
前世からメルカがユリエラの立ち位置に深く同情していたこともあり、ユリエラはユリエラで半分不審者に足をつっこみかけている令嬢もどきのメルカを案じてくれたこともあり、細くはあれど2人の間には友情めいたものが発生している。
それで、交友会の日、メルカが頼ろうとしたのはそのユリエラの持つ人脈と知識であった。
ユリエラの選出した生徒であれば、性別問わずミカエルの良い友人になってくれるだろうと考え、ユリエラの居たテーブルへ向かう途中で……ああなったわけである。
今日のユリエラは陰で取り巻きと呼ばれている友人たちは連れず、1人でメルカの元へ来たようだった。
「ご依頼されていた件について、よろしければと」
そう言って、メルカへ、複数人の名前とその実家の簡単な情報の書かれた書類が挟まっているファイル1冊を差し出す。
「まあ、ユリエラ様、こんなにご丁寧に……ありがとうございます」
ファイルを受け取ったメルカは顔を明るくし、大事に鞄へ仕舞う。
ユリエラには交友会の日の後、交友会での目的であったミカエルの友人周りについて相談していたのだ。
トールへのストーキングの時間がなくなった分、ユリエラとのお茶会の時間をとれたというのは皮肉なことであった。
先ほどの書類に書かれてあったのは、派閥や実家の行状に問題のない、学院生徒の情報である。
ユリエラの構築している派閥は彼女の将来を考えれば当然のことではあるけれども、王家支持貴族を中心に集められている。
その中でも出来る限り教会寄りの家の生徒を選出してくれたらしいことが見て取れた。
これらの人脈はミカエルの将来に大いに役立つだろう。
問題はメルカが書かれてある人名と顔とを一致させられておらず、またほぼ初対面の生徒へ友人を紹介するという難易度の高いミッションをこなせるか怪しいところくらいであろうか。
うん、大問題過ぎる、ユリエラを頼ろう、メルカは即断した。
メルカにはトールに関すること以外でプライドというものが無いため、親友の将来のためなら恥と外聞くらい何ほどのもの……と思ったけれど、それらは既にトールのストーカーを始めた頃から投げ捨てている気もする。
幸いユリエラは前述の通りの善良な女性であるため、該当生徒への紹介も快く引き受けてくれた。
ユリエラに頼めば間違いない、一家に1人ユリえもん。
そのように不届きなことを考えていたメルカは、ユリエラが眉を下げ気まずげに口にした言葉に、前世で一時期流行ったチベットスナギツネのごとき顔をしてしまった。
「差し出口で恐縮ではありますけれど、メルカ様は少々……アルマロスさんとの距離が近すぎるように思われますわ。学院在籍中とはいえ、婚約者の居られる身ですから、慎みも必要かと思いますの」
これ、『聖ヒロ』でヒロインが言われるやつや。
まさか自分が、しかもメルカ・ロマリウスに転生した状態で言われるとは思いもしなかった。
言われてみると本当に正論、誠にその通り、ぐうの音も出ないし申し開きも出来やしないのだが、唯一の女友達と言えるユリエラには誤解されていたくない。
メルカは一応、弁明を試みた。
「ミカ……ミカエル・アルマロスとは、その、噂にあるような仲ではございませんの。少し入り組んだ事情がございまして、わたくしとしてはそのー、同性のお友達と同じくくりにあると申しますか、とにかく、男性として見ているわけでは全く、少しも、あり得ないのですわ」
メルカのしどろもどろの弁明に、ユリエラは優雅な所作で首を傾げた。
わかる~、意味わかんないですよね~、意味わかんないのがわかる~、そうは思うものの、事実なのである。
前世がどうのと言い始めてはもっと理解不能の顔をされるか、100%の善意で頭の方の医者を紹介されかねないので、濁すしかないのだが……濁したら濁したで怪しいのだ。
内心でうーむと悩むメルカへ、ユリエラは気づかわしげに言う。
「その、メルカ様がどうお考えであっても……ケムエルン侯爵令息、それにアルマロスさんがどうお考えかは分かりませんわ。一度、きちんとお三方でお話合いをなさってはいかがでしょうか。場を整えることくらいなら、わたくしにも出来ますから」
「お気遣いには、心より感謝申し上げます。そうですわね……少しその、トール様のお怒りが鎮まった頃に、お願いするかもしれません」
ユリエラは静かに頷く。
今メルカやミカエルと顔を突き合わせて話をしても、トールの怒りが増すだけではないか、その懸念はユリエラにもあったらしい。
「アルマロスさんのご意見も、事前に聞いていらしてくださいね」
そう言ってユリエラは友人らの待つ自席へ戻っていった。
そのアルマロスさん、つまりミカエルの意見であるが……。
昼休み、ミカエルはあっけらかんと言い放った。
「今のままで良くない? 別に」
メルカがトールのストーキングを止めているということはつまり、相対的にミカエルと過ごす時間が増えるということだ。
無駄に早起きの朝はトールと鉢合わせないように早くに学院へ来て、まだ眠たげなミカエルへ体を動かすタイプの作法の勉強を教え込んでいるし、放課後は夏季休暇前の期末試験対策に座学を教えている。
それで昼食まで共にしているのだから、授業で分かれるとき以外ベッタリと言われても全く言い訳の出来ないところだった。
何故そうなるのか?
メルカとミカエルは互いに、他に友人が居ないからである。
今日ユリエラからもらったリストの生徒をユリエラから紹介してもらえればミカエルには友人が出来るけれども、メルカに他の友人が出来ない限り、ミカエルは自由時間においてはメルカを優先するだろう。
ミカエルは前世からそういう行動をとってきたので、その行動には確信が持てる。
つまり、メルカとミカエルベッタリ問題はミカエル側に友人が出来たとて解決されないのである。
この上はメルカがユリエラか、ユリエラ以外の女友達を作って行動を共にする、というくらいしかない。
しかしユリエラは既に自身を頂点とした派閥を形成し終えて2年強、今更上位のメルカなんかが入っては迷惑をかけるだろうし、他の女生徒については派閥や家業にメルカが疎く、下手に声をかけたら父の政敵の家だった、などの問題が起こり得る。
王家支持派であるユリエラの派閥に入っていないということは、その可能性がほどほど高いのだ。
今まで社交をサボりにサボったツケが見事に出ている。
その事実を一旦措いて、メルカは大きく首を横に振った。
「良くありませんわ、まったくもって」
『聖ヒロ』原作ゲームの展開を思えば、このまま学院の最終学年が過ぎていってしまうと、メルカにとって看過出来ない大問題を引き起こす。
ミカエルはバゲットサンドを食べきってしまってから、どことなく面倒くさげな顔で返す。
「メルの心配してることは分かるけど、俺とメルがこういう状態な以上最悪の事態にはならないし、させないし。あんな男のために悩むことないって」
「わたくしとミカでは最悪の事態の定義が違いますの」
「そうは言っても、本人があの調子じゃどうにもならないんじゃない?」
ぐぬぬ、とメルカは頭を抱えた。
本来、ミカエルがこの状態でなければ最終手段から数えて2番目くらいの手が打てたのに、と考えても詮なきことで歯噛みする。
このままでは最終手段、すなわちクリスに全部ぶちまける、をとる他なくなってくる。
否、それは本当に本当の最後の手段である、全部をぶちまけるのではなく、現状の打開策としてトールへの口利きを頼めないか。
その希望も虚しく、週末、珍しく自分から足を運んだ先の王宮で、メルカはクリスに輝かんばかりの笑顔で断られた。
「いやぁ、私が介入すると面白くなくなってしまうじゃないか」
これが王国の太陽と呼ばれる男、王太子殿下の言である、悪魔の間違いじゃあなかろうか。
「お兄様は可愛い従妹の助けを求める声を切り捨てますの……?」
恨みがましく見上げるメルカに対し、それはもう面白くて仕方がないといった風に顔を緩ませて、「うん!」とクリスは大きく頷いた。
これが遠目からは従妹を可愛がって仕方がない、身内に甘い王太子として見えているのだから不条理だ。
メルカは察した、これはおそらく、メルカがクリスへ大きめの隠し事をしていることがバレている。
クリスにすべて打ち明けるのは悪手、というか最終手段だ。
それを使わないで済むよう、メルカはこの12年ストーカー業に勤しんできたというのに。
「トール様が心配ではございませんの? お兄様の数少ない腹心候補ですのに」
メルカとクリスはこれこのように、従兄妹同士かなり親しいが、トールとクリスも親しい……と言えなくもない関係である。
断言を避ける言い方になったのはメルカがその辺りの、こう、男性同士の友情の機微に敏くないためだ。
昔は3人で遊ぶ、もとい王宮へ上がってクリスと国の展望について話し合うトールの横にメルカが張り付いていた時期もあったくらい、3人で顔を合わせる機会もあって、トールとクリスとは接点が多い。
トールは将来宰相職を継ぐと目されており、クリスにとっては必ず取り込んでおくべき人材と言える。
メルカが見ていた限り、トールはどこか壁を作ってはいたもののクリスを尊敬しているようであったし、クリスもトールの優秀さについては気に入っていたはずだ。
メルカとクリス、メルカとミカエルのような分かりやすい親しさとは違う、主従の仲なのかもしれないとはいえ、体調を崩していれば気にかかる程度の繋がりはあるだろう。
その上、数少ない腹心候補……というのは、老いも若きもクリスの頭の回転についていけるほどの人物がほとんど居ないことに由来する。
トールは人心の関わる政治分野についてはクリスから学ぶことが多いと聞いていたが、純粋な知識や閃きを必要とする政治分野については現職の大臣クラス、あるいはそれ以上の才能があって、クリスの治世に欠かせない人材である、と王宮内でも意見が固まっているらしい。
その将来を嘱望されている人材の唯一の欠点、難点、手放しで全肯定出来ない部分というのがメルカとの関係であり、率直に言えばメルカとの婚約さえなければトールは完璧との評価を受けるところにあっただろう。
「今回のことは、トール自身が乗り越えるべき試練だと、私は思っているよ」
そう微笑むクリスの声は、私は楽しんで見物しているよ、という副音声がついて聞こえるようだった。
駄目だ、半ば分かってはいたがクリスは当てに出来ない。
メルカはしおしおと王宮から女子生徒寮へ帰り、しおしおとトールのストーキングが出来ない日々を過ごした。
無論、メルカとて無為に過ごしていたわけではない。
①文庫本くらいの分厚い、謝罪とトールへの好意を叫ぶ手紙を書いてトールの席に入れておいた。
トールはメルカの筆跡を嫌というほど見知っているので、宛名を一瞥ののち即時焼却炉行きにされた。
②ユリエラへ仲裁を頼んで悩んだ後お断りされた。
ユリエラ曰く、メルカとミカエルの状態が是正されていないのにトールへ折れることを要請するのは公平でないとのことだ、まったくもって正しい。
③こっそりトールへのストーキングを再開しようとした。
これはジト目のミカエルに制止され、お説教された。
とにかく色々、やるにはやったのだが。
5月以降そんな日々が続いていて、メルカとトールの接点は減るばかり、距離は開くばかり。
メルカは苦しんだ。
この12年余りで最も深刻なトール不足による禁断症状で肌荒れ、眼精疲労、情緒不安定などを引き起こし、ミカエルに呆れられ、ユリエラには心配され、カナンには頭痛の種扱いされ、クリスには目一杯面白がられた。
何か最後の人だけ感情の種別が違うな。
気づけば2ヶ月も経っていて、メルカが萎れた百合のようだと学院でヒソヒソされている頃、その事件は起こった。
7月初めには、夏季休暇前の期末試験がある。
その成績順が掲示板に貼りだされた時、3年生を中心に大きなざわめきが起こった。
3年生の1位の席次にはミカエル・アルマロスの名前があり、その下に、2位としてトール・ケムエルンの名前があったのだ。
1年生の初めから誰にも首席の座を譲らなかったトールの躓き、しかも婚約者絡みの恋敵と噂されている男からの下剋上に、学院の生徒はこぞって胡乱な邪推ともっともらしい妄言を囁き合う。
これにはメルカも愕然とした。
『聖ヒロ』原作において、ヒロインが成績順で首席を獲ることは可能であった、クリスの攻略ルートにおいて必須だからだ。
しかしそれは2学期末からの話であって、この時期には起こり得ないイベントである。
メルカは驚き、そして何よりもトールの心身が心配であった。
ミカエルの心配を無下にするのは悪い、という感情もそのときにはすっかり消えていて、メルカは決心する。
トール様へ、会いに行かなくては。




