289 イルーシヴ・ハンター ②
リヴグストとカイゼリンが何者かに襲われて、リヴグストは負傷しましたが駆け付けたルーファスの治癒魔法で傷は癒され、意識は戻っていないものの命に別状はありませんでした。しかしカイゼリンの方は攫われたらしく行方不明になり、なにがあったのかリヴグストから事情を聞く前に、ルーファスは情報収集に乗り出しますが…?
【 第二百八十九話 イルーシヴ・ハンター ② 】
――リヴとカイゼリンが『アルソスの森』で何者かに襲われた。
時間はギルドのミーティングルームでカラマーダとの話を終えた後、俺がシルヴァンを伴いもう一度街外れの教会を調べていた頃だった。
これまでにも何度か話したことはあると思うが、俺と守護七聖<セプテム・ガーディアン>の間には『魂の絆』という特別な繋がりがある。
それには様々な効果があるが、万が一なにか不測の事態へ陥った際には互いにその危険を感じ取ったり、生死を知らせるような役目なんかも持っている。
その『魂の絆』が、リヴから俺へ助けを求める心の声を伝えて来た。
同時に七聖であるシルヴァンとイシーへもそれは伝わり、一瞬でリヴの居場所と深刻な怪我の状態を知らせてくる。
そうしてシルヴァンと二人急いで現場へ駆け付けてみると、血塗れで意識を失い倒れていたリヴを見つけたのだ。
俺はすぐさま治癒魔法『エクストラヒール』をかけて全ての傷を癒したが、その時見たリヴの状態はかなり酷く、心臓などの重要な臓器を〝わざと〟避けて、体内から外へ向かう魔法ではないなにかの強い衝撃を受けていた。
それはまるで殺そうと思えば殺せたのに、相手が手加減をして敢えて殺さなかった、という俺へのメッセージに見えた。
だがどういう理由からでも、俺の仲間へ手を出した時点でもう敵だ。その上一緒にいたはずのカイゼリンはどこにも姿が見えなかったことから、彼女はリヴを傷つけた相手に攫われた可能性が高かった。
俺達はすぐにもカイゼリンの捜索へ向かいたいところだったが、一先ず意識のないリヴを安全な宿へ運ぶことにする。
守護七聖であるリヴがこれほどの怪我を負わされたのなら敵は相当な手練れだと思われ、焦って判断を誤るとカイゼリンの身が危なくなるからだ。
そうして宿へ帰り俺は真っ先にサイードへ連絡を取って、明日を待たずにすぐ戻って来て貰うことにした。
これは俺にとって想定外である事に加え、守護七聖との間には魂の絆があるが、彼女達との間には共鳴石以外に窮地を知らせる手段はなく、万が一襲われて同じように倒れていても瞬時に居場所を知ることはできないためだ。
その後大量に出血したことから、傷は治せても暫くの間安静にする必要のあるリヴの容態を見つつ、俺は戻って来たサイード達と全員でカイゼリン捜索と今後の対応を相談することにしたのだった。
借りている宿の寝室を含めた部屋一帯に強力な(神力を用いた)防護・遮音結界を張り、襲撃者対策を施した重苦しい空気の中、リヴとカイゼリンを除いた仲間全員が思い思いの場所で深刻な表情を浮かべる。
「――なぜカイゼリンは攫われたのです?」
リビングに備え付けのテーブルで俺の向かいに座るサイードは、首を捻りながら尋ねた。
「…わからない。リヴの意識が戻ればなにがあったのか話を聞けるだろうけど…少なくとも今の時点で思い当たるような理由はないな。」
両肘を着いた手を組んで、俺は首を振り振り答える。
「襲ったのはなんかリヴに個人的な恨みのある奴だったとか?それなら恋人のカイゼリンを攫う理由にもなるんじゃね?」とウェンリー。
「だとしても、それがリヴを打ち負かすほどの強者となると余程だぞ。確率的には皆無でないが、それでもカイゼリンとて大人しく攫われるような女子ではなかろう。なにか特別な魔道具でも使われたか…或いはケルベロスのような複数犯によるものかもしれぬ。」
シルヴァンは答えながら顎に手を当てて深く考え込んでいる。
「そうだな。でもカイゼリンが激しく抵抗したような痕跡は見られなかった。考えられるのはリヴの命を盾に仕方なく言うことを聞かされたか、あっという間に意識を失わされて連れ去られたか、ぐらいか。」
「カイゼリンお嬢様…」
シラーは両手を胸元へ握り合わせるようにして不安気に俯く。
「シラー、あなたにはなにか思い当たる節はないんですの?」
イスマイルが尋ねる。
シラーは始め二人(主にカイゼリン)の希望で同行しなかったことを悔やみ、俺から報せを聞くや否やすぐさまカイゼリンの捜索へ飛び出して行こうとした。
これが単なる営利目的の誘拐であるなら話は違ってくるが、リヴがあんな大怪我を負わされたとなると犯人は彼女の敵う相手じゃない。
当然俺は二次被害を防ぐために許可を出さなかったが、それでもシラーは太陽の希望の一員である前にカイゼリンの護衛であることを訴えて来た。
そんなことはわかっている。彼女は半年ほど前、暴漢からカイゼリンを守るために盾となって命を落としているのだ、もしまた似たような状況になれば迷わず同じ行動を取ることだろう。だからこそ余計行かせるわけにはいかない。
俺はシラーになにかあればカイゼリンが悲しむだけでなく、リヴとの仲にも深い傷痕を残して二人の幸せに昏い影を落とすことになる、と説得し、なんとか踏みとどまらせたのだった。
「――カイゼリンお嬢様はマクレリアン公爵家の令嬢です。国絡みの陰謀や王族に連なる公爵家への私怨、金銭目的の誘拐などであれば理由として考えられますが…そこへリヴグスト様やお嬢様の敵わない相手である旨の条件を含めると、とても想像できません。」
「…だろうね。カイゼリンはともかく、リヴの方は暗殺者が一団となって襲いかかったとしても、そう簡単に負けるような男じゃない。それなら最初から人外が相手だったと言われる方が、僕としてもまだ納得できるよ。」
ゲデヒトニスの意見にサイードは呟く。
「〝人外〟ですか…ですがそれでも、カイゼリンを攫う理由がわかりません。シラーの言うような目的からでは全く該当しないでしょう。どうにも不可解ですね…」
「ああ。」
人外が相手か…だがあの現場にそんな痕跡は一切なかった。
敵がカオスなら、そもそもリヴは七聖一人で戦うような真似をしない。急襲を受けたとしても即俺に知らせるし、その時間すらなく敗北したのならもう間違いなく殺されている。
並行世界のように『風の神魂の宝珠』が目的である第七柱なら、カイゼリンでなくリヴを攫うだろうし…カオス以外の異種族相手だとすると、倒れて間もなく俺とシルヴァンは駆け付けているんだ、戦闘による力の残滓は残されていただろう。
実際、リヴの氷魔法を使用した痕跡はあり、消費しきれなかった魔力の一部はまだ周囲一帯に漂っていた。
シルヴァンの言うようにケルベロスの可能性はあるか?…だが連中は俺に痛手を負わせた際になにかの目的でア・ドゥラ・ズシュガの休眠卵を持ち去っている。
あの場にいた信者は全員カラミティに殺されているし、休眠卵の行方を吐かされる恐れがあるのに今出てくるとは思えない…
『ねえ、介入者による襲撃の可能性はないの?神が相手ならリヴの敗北も不思議じゃない。』
ゲデヒトニスの声が響く。
『ここまで散々回りくどいことをしておきながら、今になって直接俺の仲間に手を出して来るのか?神力を使った痕跡はなかったぞ。』
『それでも凡ゆる可能性を視野に入れておいた方がいい。どうにも今度の相手は僕らの想定外の行動を取ってくる。まだ居場所どころかその目的すら掴めていないんだ、神という存在は神話にも良くある通り、本当に気まぐれで僕らの常識なんかは通用しないよ。』
確かにな、ゲデヒトニスの言うことは一理あるか…
『…わかった、それを念頭に置いておく。』
『うん、そうして。』
「――とにかくリヴの意識が戻るまで、手分けして少しでも情報収集に当たろう。」
「その前にウルル=カンザスには連絡したのか?」とシルヴァン。
遣い鳥の入れない場所以外の広範囲捜索に関しては、こう言う場合最も黒鳥族は頼りになる。
「ああ、もう頼んだ。モナルカ周辺だけでなく、国内外を一通り捜索して貰っているから、遣い鳥がなにか見つけ次第連絡をくれるだろう。」
「そうか。」
シルヴァンが納得したように頷くと、俺は全員へ向けて続けた。
「みんな良く聞いてくれ、これから俺の方で班分けをする。襲撃対象がリヴやカイゼリンだけとは限らないから、どこにいても必ず割り振った人員で行動を共にし、絶対に単独行動は避けるように。もし身の危険を感じるような相手と出会した場合は、それが何者であれ戦わずに即撤退すること。たとえ退路を塞がれたとしても、サイードとシラー以外には『黒鳥族の戻り羽根』がある。あれはフェリューテラ上であれば、魔法の使えない状態でも有効な緊急避難用魔道具だ。既に話は通してあるから、万が一の際は迷わずノクス=アステールへ逃げ込むように。」
「ノクス…?それはどこのことでしょうか?」
「後でルーファスが教えてくれますよ。」
シラーの問いに一旦サイードはフォローしてくれる。
そうして俺は居残り組と外出組の合わせて四班にメンバーを分けた。
「シルヴァンはイシーとのペア、ゲデヒトニスはデウテロンと組み、ウェンリー、テルツォ、プロートンの三人はリヴの護衛でここに居残りを、残るサイードとシラーは俺と一緒に来てくれ。」
「なに…?我がイスマイルと二人なのか?また珍しい分け方をする。」
シルヴァンは戸惑い気味に尋ねた。
通常俺が班分けを決める際は、戦闘時のバランスを第一に考慮することが多い。その場合は守護七聖と誰か、と言う風に先に分け、その後で前衛後衛などの戦闘スタイルに沿って残りを決めて行く。しかし今回は…
「俺の想定するリヴ襲撃の理由として、考えられる可能性の一つからだ。」
「「!」」
その返答でシルヴァンとイシーは瞬時に顔を引き締めた。
普段は別にすることの多い二人を敢えて組ませるのは、襲撃対象が『守護七聖』であった場合を考慮してのことだ。
それは相手がカオスであることを想定しているわけじゃなく、ゲデヒトニスの言うように『介入者』であった場合を想定している。
可能性は低いとしてももし〝神〟が相手なら、次は俺を直接狙って来るか、そうでなければシルヴァンかイシーを標的にするかもしれない。
それなら初めから最善のパワーバランスで組ませ、予め襲撃に備えておくこともできるだろう。
少なくともシルヴァン達が指示に従って撤退することを優先すれば、リヴのような大怪我を負うことだけは避けられるはずだ。
それに同行者がイシーなら、怒りで敵に突っ込んで行きそうなシルヴァンを止められる。
「念を押して何度も言うが、相手が何者であろうと身の危険を感じた時点で絶対に戦うな。デウテロンにはゲデヒトニスを付けておけば問題ないし、サイードとシラーは俺が守る。ウェンリーとテルツォ、プロートンはここに施してある結界障壁内でリヴを守ってくれれば、そこまでの危険はなくなるだろう。」
「…なるほど、普段とは異なり戦闘を行わない体での班分けなのですね。」
サイードは頷く。
「ああ。」
シルヴァンとゲデヒトニス、ウェンリー達に関してはそうだ。
「なぜ私はリーダーと一緒なのですか?実力不足で逃げる際にも却って足手纏いになりそうですが…」
シラーは意外に思ったのか申し訳なさそうに聞いてくる。
「必要だから同行して貰うんだ。場合によってはマクレリアン公爵家や、ファーディア王国にも連絡を取らなければならなくなるかもしれない。それに俺といればカイゼリンの情報が手に入った時点ですぐ救出に向かえるだろう。サイードが一緒なら転移魔法での移動も容易だからな。」
「ええ、そうですね。」サイードは同調するように頷く。
「!」
本当は他にも理由はあるのだが、今ここでそれを説明しても意味はない。
「よし、それじゃ行動開始だ。ウェンリーはリヴが目を覚ましたら、すぐ俺に共鳴石で連絡をくれ。頼んだぞ。」
「了解、気をつけて行けよ!」
――今回も居残りは嫌だと駄々は捏ねないんだな…聞き分けが良すぎるくらいになった。
ゲデヒトニス…はあり得ないから、もしかして俺の知らない間にサイードからなにか言ってくれたんだろうか?
そう思いちらりと隣を歩く彼女を見ると、サイードは俺の視線に気がついていつものように優しく目を細めていた。
情報収集のやり方や収集場所などについてはそれぞれの班に任せ、互いに細かく連絡を取りながら主にリヴとカイゼリン、流れの冒険者や不審人物などについて聞き込みをする。
その過程で連れ去られたカイゼリンの行方を掴めれば最善だが、そうでなければ先に犯人の手がかりを追った方が良い場合もある。
リヴの髪色は目の覚めるような紺碧でカイゼリンは見事な赤毛であるため、太陽の希望のメンバーでなくても一緒にいるととても目を引く。
その二人が並んで歩き熱々ムードを醸し出していたのなら、討伐へ向かう前にその姿を見かけている住人や同業者は多いはずだ。
知りたいのは彼らがモナルカを出る前に、俺達以外の誰かと話をしていなかったか、また黒ローブの連中や何者かに後を付けられたりしていなかったか、と言うような情報だ。
普段のリヴは注意深く、そんな気配にも気づけないはずはないのだが、今はカイゼリンしか目に入っていない様子が多々見受けられ、かなり浮ついていたと言っても過言ではない。
そこを突かれて事前に目を付けられていたと仮定して、相手が人間であれば誰にも目撃されずに二人を追うことは不可能だろう。
またはなにも見つからなければそれはそれで人外である可能性は高まり、少しずつ犯人特定の手がかりにもなって行く。
「私達は二人が襲撃された現場を調べに行きますか?場合によっては私が魔法を使うことも視野に入れて――」
宿を出て歩き出すとすぐ、サイードは俺に襲撃現場であるアルソスの森へ向かうかどうかの打診をして来る。
カイゼリン達にはまだ教えていない『時魔法の使い手』である彼女がこう言っているのは、仲間が攫われたという緊急事態であるために襲撃現場で過去へ戻り、二人になにがあったのかを直接見に行くかと遠回しに尋ねている。
「いや、あっちにはシルヴァン達が向かっている。」
俺の簡易地図に仲間の信号は黄緑色で表示されるが、ゲデヒトニスとデウテロンの後ろ姿が通りの先に見えるのに対し、シルヴァン達の信号は移動も早く真っ直ぐ街門へ向かっている。
そのことから二人は、真っ先にアルソスの森を調べに行くつもりなのだとわかった。
――連続して当日中に襲撃される怖れはかなり低いと思うが…想定外の出来事が起きていることからも確かに可能性は零じゃない。
そのことを踏まえた上で、わざと人気のない場所を選んだな。
それが上手く行けば囮になり、手っ取り早くカイゼリンの居場所と犯人の正体を掴めるだろう。…シルヴァンならそう考えても不思議はない。
表向き感情的になっているようには見えなくても、リヴが攻撃を受けたことにシルヴァンもイシーも俺同様怒っているのだ。
わざと相手を挑発するような真似はするなと言わなかった。七聖同士で組ませたことをそういう意味に捕らえたのか…
二人の行動に一抹の不安を抱く。
…それでも〝絶対に〟戦うなと言ったんだ、イシーがいるなら大丈夫だろう。
「では私達はどこへ?」
「先ずはギルドへ行きたい。」
「ギルド…ですか?」
足早に歩きながらサイード達の問いに答える。
「俺達がモナルカへ来た前後に、ここで守護者の資格を取得したこの街のハンターを知りたいんだ。」
これは単なる〝勘〟だけど…リヴを襲った理由がもし俺絡みなら、誰が犯人であろうとギルドを調べればなにかしら掴めるような気がする。
「わかりました、行きましょう。」
<シルヴァンティス、イスマイル>
「――そうですの…またなにか思い出されたら太陽の希望までご連絡頂けると嬉しいですわ。」
街門から出る前に、モナルカの守備兵へリヴグストとカイゼリンのことを尋ねたイスマイルは、二人について覚えていたことを教えてくれた兵士に深々と頭を下げてお礼を言う。
そこから少し後ろへ下がった位置でいつものように両腕を組み、シルヴァンティスはデン、と構えて彼女の用が済むのを待っている。
「かしこまりました。あの…失礼ですが、メンバーの方になにかあったのですか?つい一時間ほど前にも、銀髪の守護者殿とそこのレックランド殿が慌てた様子でアルソスの森へ走って行かれるのを見ましたが…」
三十代半ばくらいの軽鎧を身に着けた守備兵は、ルーファスとシルヴァンティスの姿を見ていたらしく心配そうな表情でイスマイルに尋ねる。
「お気遣いありがとう存じますわ、ご心配なく。」
彼女はにっこり微笑んで余計なことを言わずに返す。
「…そうですか、ではなにか助力が必要な際はご遠慮なく我々を頼ってください。あなた方太陽の希望のおかげで、近頃モナルカ周辺の魔物による人的被害は皆無になったと言っても良いほどに減少しました。」
「まあ、そうですか…」
それはそうだろう、とイスマイルは思う。ルーファスは相変わらず毎日のように夜間になると、単独で凶悪な変異体や特殊変異体を狩りに出かけているし、世界最高位守護者となったリーダーに負けじとシルヴァンティスやリヴグスト、デウテロンとウェンリーまでもが精力的に魔物を狩り続けているのだ。
おかげでもう間もなく太陽の希望はSSSに昇格することだろう。
「それがわたくし達守護者の本分ですもの、喜ばしいことですわ。」
本心からそう言って微笑むイスマイルの美しさに、守備兵は思わずドキリと胸をときめかせた。
«さ、さすがは太陽の希望の中でもダントツの女性人気第一位…ガラティア殿だ。この麗しい微笑みに心奪われぬ男など果たしているのだろうか…?»
などと魅了されかけている。
ここで少し話は逸れるが、魔物駆除協会発行の情報紙には、時折守護者ランキングの他にも民間人の希望で、守護者の人気投票やビジュアル重視のパーティー特集などが掲載されることがある。
これはギルドマスター・ウルル=カンザスによる『ハンターの数を減らさないための施策』としての一環であり、実力は低くても資格を維持する目的のために弱い魔物を多く狩らせるのにも一役買っている。
そしてつい最近民間人からの強い要望で、襲撃者が口にしていたように今最も注目されているSSランク級守護者パーティー、『太陽の希望』のメンバー人気投票が密かに行われていたのだった。
もちろん、それどころではないルーファスはそんなことなど微塵も知らない(知っていたとしても興味は持たない)のだが、結果を紹介すると男性陣はリヴグストがその甘いマスクから圧倒的に第一位、続いて男女ともにから男らしさと強さに惚れ込まれるシルヴァンティスが二位。三位には女性にだけ優しい軟派なデウテロンが続く。
対して女性陣は物腰の柔らかく知的な眼鏡美女イスマイルが第一位、続いてあざとい美少女で言葉も仕草もその全てが男心を擽るテルツォが二位、三位には意外なことにサイードが着いている。
因みにリーダーのルーファスは基本的に優しく人当たりは良いが、徹底して副リーダー以下のメンバーが用もなく近付く人間を排除して回るために怖れられており、その上にそもそも企画主催者のウルル=カンザスがルーファスを順位付けすること自体を許さないので初めから除外されている。
残るウェンリーやファロ、ここにはいないアテナと目立たず過ごすことを信条にしているプロートンに少年姿のゲデヒトニスは、〝普通の人〟枠と一部のショ○コンのみに好かれているようだ。
そしてサイードが三位なのは、ルーファスと仲間以外へのその態度の冷たさにある。
普段どこで姿を見かけても、ルーファスには女神のように優しく微笑む〝特別感〟で接している彼女は、その影でフラフラと美貌に引き寄せられてくる男共に一切の容赦がない。
少しでもお近づきになりたいと隙を見て声をかけようとすれば、〝その直前〟に転移魔法で強制的に見知らぬどこかへと飛ばされてしまうし、ルーファスと一緒にいて機嫌が良く飛ばされなかったとしても、下心を見抜かれた途端に魔法でサイードへの好意そのものを〝消されて〟しまう、と言った具合だ。
つまりルーファスには、そう言った存在が彼女に〝寄って来ている〟ことさえ気づかせていないのだ。
これはシェナハーン王国での『サイファー・カレーガ』の件が深く関わっており、魅了を使ったサイードに失礼なことを言って絡んだ彼のことを、未だにルーファスは良く思っていないことから来る彼女なりの気遣いだ。
要するにルーファスの為に、ルーファスの気分を不快にする者は初めから視界に入れない、を徹底している。
そのことからサイードは、遠くから見ていることしかできない『究極の女神』扱いとされ、外見的に年下に見えるルーファスの〝恋人〟説まで流れているのだった。
「――まだか?イスマイル。」
守備兵の顔がだらしなく緩む前に、シルヴァンティスは不機嫌な声を出して急がせる。
「ごめんなさい、今行きます。――では失礼しますわね。」
そう言うとイスマイルは足早にシルヴァンティスの元へ戻って来た。
「守備兵の方々はリヴグストとカイゼリンが仲睦まじく出て行く姿を見たそうですけれど、特に後を付けるような不審人物は見かけなかったそうですわ。」
はあ、と溜息を吐きながら渋面をしてシルヴァンティスは返す。
「…そうであろうな、我らがモナルカへ来てもう二週間になる。おかしな輩が近くを彷徨いていれば気づけぬはずはない。」
「それでも聞き込みは大切ですわ。あなたと来たらいつもそうやって面倒くさがって――」
イスマイルのお小言が始まりそうだと思ったシルヴァンティスは、瞬時に両耳の穴を両手の人差し指で塞ぐ真似をする。
「わかったわかった、良いから行くぞ。我は真っ直ぐアルソスの森へ向かうと言ったであろう。」
リヴグストが傷つけられ、カイゼリンが攫われたことに腹を立てているシルヴァンティスは、少しでも早く犯人を見つけたい思いでイスマイルを責っ付いた。
「まったくあなたは…なにか勘違いをされているようですけれど、ルー様の仰ったのは『情報収集』ですのよ。――わたくしもリヴグストを傷つけられて怒っていますから手っ取り早く囮になることは反対しませんけれど、今日の今日ですぐ襲ってくるとは限らないでしょう。」
街門を潜りアルソスの森へ向かって街道を歩きながら、二人はそんな会話を始める。
周囲を全く気にせず平然とやり取りできるのは、イスマイルの無属性魔法『ノイズ』により他者に内容を聞かれても理解できなくしてあるからだ。
「いいや、我はそう思わぬ。相手が何者であるにせよ、これは我ら太陽の希望に対する挑戦だ。そして主の予想の裏をかくのであれば、警戒していようがいまいが好機と見るなり逃さず襲ってくるであろう。――ならばこちらから誘ってやれば良い。」
「…なにかその根拠はあるんですの?」
自信ありげに断言するシルヴァンティスを見てイスマイルは聞き返す。するとシルヴァンティスは僅かな間を置き一度考えてから答えた。
「皆を動揺させぬようルーファスは詳しく話さなかったがな…犯人はリヴを殺せたのにわざと殺さなかったのだ。」
「え…」
「致命傷になる臓器を傷つけないように避け、ルーファスの治癒魔法が間に合う程度に与える損傷を制御している…怪我の状態を見た主はそう言っていた。」
「まさか…そのようなことは可能なんですの!?」
「普通はあり得ぬな。力の方向性を詳細に制御可能な主であればできるかもしれぬが、少なくとも我には無理だ。リヴの受けた攻撃のように体内で爆発する性質の衝撃を放てば、臓器を避けるどころか内側から吹き飛ばして肉体をバラバラにしてしまうのがオチだろう。あのように形状を保ったまま、力の逃げる方向だけを細かに誘導するなど神業に等しい技だぞ。」
「でしたらやはり相手は人外なのではないかしら…?」
イスマイルは小首を傾げながら考える。
「――そこがわからぬところだ。我らは今、介入者を探すのに一日の大半を費やしている。その状況で正体不明の相手に襲撃を受けた場合、リヴなら必ず我やルーファスに連絡して来るであろう。」
「確かにそうですわね…ああ見えて慎重ですもの、ルー様の警告を忘れて注意を怠ることは先ずありませんわ。」
「同意だ。よってリヴが特に警戒するような存在ではなく、己とカイゼリンの安全を考えて撤退することもない…犯人はそういう相手だったのだ。彼奴のことだ、どうせカイゼリンに良いところを見せたいとでも思い、調子に乗ったのだろう。――だが〝敗北〟した。意識が戻ればすぐわかるであろうが、負けるつもりのない戦いで負けたとなると相当に落ち込むぞ。」
二人は顔を見合わせて大きな溜息を吐く。
「千年前を思い出しますわね…」
「うむ。あの女性…名をなんと言った?カイゼリンを見て思い出したが、赤毛に見事な青い瞳の――」
「〝ポエット〟嬢のことですわね。顔が取り柄の彼をデレデレのメロメロにして顔つきなどの外見から女好きまで変えた、リヴグスト自称『運命の番』女性。…あれほど愛し合っているように見えたのに、海竜であることを明かして結婚を申し込んだ途端に去って行った薄情な元恋人…」
「そう、それだ。今思い出してもあの当時のリヴの落ち込みようは酷かった。」
「…ええ。七聖の誓いがなければ、目を離した隙に命を絶ってしまうのではないかと心配になるほどでしたわ。あの状態から良く立ち直ったものです。」
「そのおかげで女遊びに拍車がかかり、その尻拭いをさせられたユリアンは気の毒だった。」
当時を思い出しながら二人は困ったような笑顔を浮かべる。
「実はね、シルヴァンティス…あの時リヴグストが立ち直れたのは、あなたのおかげもあるの。」
「…なに?」
「あなたは獣人族の長として一族を守るために、マリーウェザーさんとの別れを決めたでしょう?振られた自分も辛いけれど、愛し合っていながら別れなければならないのはもっと辛い。…リヴグストはそう言っていたの。」
「ふむ…そうだったのか。――だが現代で我はマリーと結ばれた。リヴは心から祝福してくれたが、ならば少々複雑であったろうな。」
「そんな心配は無用ですわ、気にもしていませんわよ。エヴァンニュの王都で一目惚れをした女性には振られたそうですけれど、理想の女性を探し続けてカイゼリンと出会えたのですもの。…今度こそ幸せになれるといいですわね。」
「そうだな…そのリヴのために、一刻も早く行方を掴んでカイゼリンを救出せねばならぬ。」
『アルソスの森』入口で一旦立ち止まり、もし襲撃されてもいいように二人は対応を確かめる。
「ルー様の厳命は『身の危険を感じたら、その時点で絶対に戦うな』ですわ。あなたが大丈夫だと仰っても、わたくしの方で強制的に撤退します。その際は黒鳥族の戻り羽根を使用しますから、そのつもりでいてください。」
「わかっている。我もサイードの話を聞いてから、これまでの行いを少しは反省しているのだ。…これ以上ルーファスを心配させる気はない。」
「結構ですわ。――では行きましょうか…」
『シルヴァン、マイル!今どこだ?街中にいるか!?』
「「!」」
互いに頷き合い、いざ森の中へ…と思ったその時、シルヴァンティスの共鳴石から突然ウェンリーの声が聞こえて来る。
「ウェンリー、どうした?我らはアルソスの森の入口にいる。」
出鼻を挫かれたシルヴァンティスは、共鳴石を手に少し慌てた様子のウェンリーへすぐさま返事をした。
『街道まで出ちまってたか…けど悪ィ、二人ともすぐ戻って来てくんねえ?たった今リヴの意識が戻ったんだけど、ルーファスへ知らせる前にシルヴァンとマイルを呼んでくれって言って聞かねえんだよ。どうしたもんかな?』
「なに?リヴがそんなことを?」
驚いたシルヴァンティスがイスマイルの様子を伺うように視線を送ると、彼女はこくり頷いた。
「――わかった、すぐ戻る。なにか理由があってそう言っているのかもしれぬ、我とイスマイルが話を聞くまでリヴの言う通りにルーファスへの連絡は待て。」
『了解、じゃあ待ってるわ。』
ウェンリーとのそんな短い会話を終えた二人は、困惑した表情を浮かべながら踵を返し、今歩いて来たばかりの道を急いで引き返して行くのだった。
<ルーファス、サイード、シラー>
相変わらず多くの人で賑わうギルドのハンターフロアは、本日二回目となるルーファスの来訪と、いつもは全メンバーが一緒の時以外別々に訪れることの多いサイードが同行していると色めき立っていた。
その理由は普段他人に冷ややかな態度で接しているサイードにあり、ルーファスの傍にいる時の彼女は優しく頻繁に笑顔を見せているため、いつからかそれが貴重な光景だと噂されるようになっている所為だった。
世界最高位守護者となり、太陽の希望が有名になるに従って努めて周囲の視線を気にしないようにしているルーファスは、普段通りフロア内に置いてある打ち合わせ用のテーブル席へ腰を下ろした。
その隣にシラーは座り、サイードは窓口で書類を受け取って歩いて来る。
「――モナルカだけでなく、ここ一月で近隣の街でも登録された新人を含める資格取得者名簿です。」
その書類をルーファスの前に置き、サイードはシラーの反対側となるルーファスの隣へわざわざ椅子を近づけてから腰を下ろした。
「ああ、ありがとう。」
ルーファスは早速表紙を捲って目を通し始める。
「…こんな人の多い場所では落ち着かないでしょうに、いつものようにミーティングルームへ行きませんか?」
ちらちらとこちらを見ているハンター達の視線が気になるのか、サイードは眉間に皺を寄せながら言う。
「いや、リヴが目を覚ましたらすぐ宿へ戻るんだ、ここでいい。」
「…そうですか。では私とシラーにも頁を分けて下さい。」
「うん。」
書類は紙に開けた穴に紐を通して留めてあるだけでバラすことができ、ルーファスはそれぞれに何枚かずつ手渡した。
「この名簿からなにを探すんですか?」
「ああ、そうだな…説明は難しいが、〝なにか目につく情報〟がないかを調べて欲しい。」
「えっ?」
シラーの質問に名簿へ視線を落としながら平然とそう答えたルーファスは、既に見る方へ意識が行ってしまい、あまりにも漠然とした内容の返事をする。
普段ルーファスのこう言った言葉に慣れているサイード達は、詳しい説明をされなくても思い思いに考えて独自の思考で動き出す。
だがそんなルーファスにまだ慣れていないシラーは、驚いて目を丸くした。
透かさずサイードのフォローが入る。
「シラー。〝目に付く情報〟と言うのは、例えば出身地がかなりの遠方であるとか、聞き覚えのある名前に変わった名前の人物だとか、カイゼリンやあなたと同じファーディア王国の王都から来ている、もしくは知り合いに多い名字であるなど、あなた独自の視点でふと気になった情報のことだと考えて下さい。」
「あ…そういう意味なのですね、わかりました。」
«さすがは太陽の希望です…リーダーのあんな簡単な説明を聞いただけで、瞬時になにをすればいいのか理解可能なのですね。»
…とシラーは書類に集中するルーファスをチラリと見た。
«それにリーダーも…この環境で雑音などまるで聞こえていないかのような、凄い集中力…カイゼリンお嬢様を心から心配してくださっているのが見てわかります。»
「大丈夫ですか?シラー。」
余裕のないルーファスに代わってシラーを気遣うサイードは、護衛対象でもあるカイゼリンを攫われていることや、シラーの身に起きた半年前の出来事を知っていることなどから心配して声をかける。
「はい、大丈夫です。ご心配ありがとうございます、サイード様。」
サイードはにこっと微笑んで返した。
――それから二十分後。
書類を三人それぞれの視点から調べ、〝気になった〟ハンターについて話し合う。
「なにか気づいたことはあったか?」
ルーファスの問いかけにサイードは首を振る。
「いいえ、特にはなにも。――ルーファスの口にしていたフェイト・シックザールという名に該当するものがないかとも思いましたが、見当たりませんでしたね。」
「俺が介入者を探しているのは確かだが、この件と一緒にはしない方がいい。先入観で動くと肝心な情報を見逃しがちになる。」
「そうですね。」とサイードは頷いた。
「シラーはどうだ?」
「…あまり関係はないと思いますが、私はふと下らないことに目が留まってしまいました。」
「うん?」
「私達の中で今カイゼリンを最も心配しているのはあなたですから、〝直勘〟や〝虫の知らせ〟と言うこともあり得ます。それを下らないと決めつけてしまうのは良くありませんよ。」
「サイードの言う通りだ。…それで?」
ルーファスの真剣な眼差しにシラーは頷きつつ書類を指差した。
「いえ、でも本当に下らないんです…この方々、同じ名前なのでプロートンさん達のように兄弟ハンターなのかしら、と思っただけで――」
「――これか。…『フラックス・イルーシヴ』『アランシス・イルーシヴ』…確かに同じ姓だな。…〝イルーシヴ〟…?」
あまり聞いたことのない、変わった姓だ。そう思い、ルーファスはなにか引っかかるものを感じて気になった。
「――待ってください…ルーファス。それこそ全く関係ないかもしれませんが、私は〝アランシス〟という名を聞いて思い出しました。私の知る御伽噺の一つに白銀の大蜘蛛が主役として登場するものがあるのですが、その大蜘蛛の名前が『アランシス』と言うのです。」
「…?」
「白銀の大蜘蛛…」
«サイードの言う御伽噺とは、要するにインフィニティアの逸話か。白銀の大蜘蛛と言うのはカイゼリンとシラーが教会で目撃した人語を解する蜘蛛と似ている。その名前が『アランシス』…»
ルーファスはそう心の中でブツブツ呟きながら、自己管理システムで〝イルーシヴ〟という言葉に該当する他言語と、なにか特別な意味があるかを検索して調べてみた。
すると――
「!」
いつものように膨大なデータベースから出された結果を頭の中で見たルーファスは、大きく目を見開いた。
「ルーファス?」
「サイード…〝イルーシヴ〟と言う言葉は創世言語で、『捕まえにくい』とか『見つけにくい』と言った意味があるらしい。他にも捉えどころがない、や、記憶に残りにくい、思い出せない、と言った意味もあるようだ。…これは偶然だろうか?」
一人ルーファスがなにを言っているのかわからず会話について行けないでいるシラーを置き去りにして、ルーファスとサイードは互いの目を見ながら一時的に沈黙する。
須臾後、サイードは…
「…それを言うのなら、〝フラックス〟は絶え間ない変化や不安定、流動などを意味します。もしも付けた名前になにか特別な意味があるとしたなら、偶然ではない可能性はあるかもしれませんね。」
「――直訳すると〝見つけにくい変化〟や〝不安定で捕らえにくい〟と言ったところか…現代のフェリューテラで創世言語の意味に詳しい者がいることや、況してそれで名付けること自体あり得ないだろうが…果たしてそんな名前を持つハンターがいるものだろうか。」
「呼びやすい音の響きで意味もなく名前を付ける親もいるでしょうからなんとも言えませんが…調べてみる価値はありそうです。」
「ああ。資格取得日は三週間くらい前か…Cランク級から始まってもう二人ともがAランク級に昇格している。ずば抜けて目立っているわけじゃないが、初期等級の割りに昇格は早いな。」
«その頃というと俺が現実世界へ戻り、マロンプレイスで目を覚ました辺りだな…»
「モナルカを拠点にしているハンターのようですから、風貌を調べてここで待っていれば会えるかもしれませんよ。どうしますか?」
「そうだな…」
ルーファスはその場で考え込む。
モナルカに来て以降、ここのギルドへは毎日必ず足を運んでいる。介入者の件で街中でも索敵はしているから、敵対存在であれば気づけないはずはない。
変化魔法で外見を変えていても見ただけでわかるし、同業者と親しく付き合っているのなら一度くらいは名前を耳にしていてもおかしくない。
それなのに全く名に聞き覚えのない新人ハンターで兄弟、もしくは家族?…違和感が酷いな。
「――いや、今日ここで俺達が手がかりを探しているのは、カイゼリンを攫った犯人についてだ。関係ないと断言はできないが、もう少し他も調べてからにしよう。」
「わかりました。では他になにを――」
ルーファスは見落としがないように慎重になることを決め、もう一度書類を見直そうと手にしたその時、サイードの言葉を遮るようにその悲鳴は響き渡った。
「きゃああああーっ!!!」
「「「!?」」」
驚いたルーファス達が一斉に声の聞こえてきた方向を見ると、このハンターフロアで悲鳴を上げたのは同業者ではなく、意外なことにギルドの協会員で窓口業務を担当している受付嬢だった。
「…なんだ?」
「窓口内でなにかあったようですね。」
ざわつくフロア内に、三人はすぐさま席を立って足早に受付へ駆け寄った。
「なんだなんだ?」
「どうした?なんだ今の悲鳴は…」
「魔物でも出たのか?」
「窓口の中よ、悲鳴を上げたのは受付嬢だわ。」
「どうしたの?」
野次馬ならぬ野次ハンター達がざわざわ集まり始めると、ルーファスはその前に素早く進み出て窓口の中を覗き込んだ。
「――どうしたんだ?なにかあったのか。」
「あ…あなたは太陽の希望の…」
「ああ、ルーファスだ。悲鳴を上げたのはあなただな?いったいなにが…」
その瞬間、ハッとしてルーファスは目を見開く。
«奥に人が倒れている…!あれは――»
青ざめた顔色でなにか恐ろしいものでも見たようにカタカタ震えている受付嬢へ尋ねたルーファスは、細長いカウンター越しに様々な駆動機器と本棚や書類ケースが並べられ、それら事務用ツールが所狭しと置かれている仕切り板の奥に倒れている人の姿を見つけた。
だが受付嬢が悲鳴を上げたのは、ただ単に自分の背後へ突然人が倒れて来た所為だけではなかった。
うつ伏せの状態で意識を失っているのが、黒い鳥の羽のような衣装を身に着けて薄青い肌の色をした、明らかに人族とは異なる人種だったからだ。
けれどもルーファスは悲鳴を上げた受付嬢と違い、彼らをとても良く知っている。それは普段、隠形魔法で完全に姿と気配を消して人知れず行動している影の一族であり、その族長に当たる人物はこの魔物駆除協会の管理・運営を担っている。
まさか、と目を疑うルーファスの前に倒れていたのは、そんな人族には姿を見せることのない異種族…影の一族と呼ばれている『黒鳥族』だった。
次回、仕上がり次第アップします。




